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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第七章 心の距離感
117/300

第117話 学園祭 失敗の代償

「くそっ、俺としたことがっ!」


 王子は地面を叩くと、悪態を吐いて悔しがったようすをみせる。周りからは既にくすくすという笑い声で溢れているが、王子はそのことに全く動じずに演技を続けていた。


「王子! 一体何がありました?!」


 ステージの左から騎士の甲冑を着たハスキーな声の――女の生徒とその女騎士の生徒の部下らしき生徒が現れた。

 手下は四人で、ユウはこの役には当てはまらなさそうだ。


「き、聞いくれ騎士長。俺の大事な人が、魔族に連れ去られてしまったようだ! 今すぐに助けに行かなければ……!」

「落ち着いてください王子! まずはお父上である王に相談をっ!」

「あぁもう! 時間がもったいない! あの魔族が遠くに行く前に俺は行くぞ!」

「お、王子様っ!!」

「お待ちください!」


 そういって王子はステージの左へと消えて行った。背景のハリボテはかなり上手にできているので、なかなか臨場感はある。

 プロの演劇者を雇えば本当にお金を取りそうな舞台セットだ。

 ただ、役者があまりにも大根過ぎるわけで。


 それを追いかけようとする部下は引き止めず、王に連絡せずに女騎士長とその部下たちは王子を追いかけてしまった。さてさて、どう展開するのかね。


「むむぅ、あそこに主殿は居ないようじゃな」

「早々に出てきて楽しみが奪われるのもつまらないものです。わくわくしながら待ちましょう」

「あいつのことだから、こんなのでも目立ちたくないの一心だろうな」


 こそこそと話しながら次の場面を待っていれば再び明るい光が灯り、新たな人物が目の前に出てくる。


「おお、王子よ、こんな森の奥まできて如何なさったかな?」


 今目の前にいる人物は王子と、騎士の面々、そして年老いた男性の格好をしている生徒。声真似はうまい。演技は大根だが。

 背景は森の奥にあるような隠れ家のような場所だ。


『ここは、深い森の奥にある、王子の昔からの知り合いである物知りじいさんの自宅である。王子たちは魔族の行き先を聞くために、この男性に力をもらうことに決めた』


 アナウンスが流れてきて現在の状況を解説すると、ざわざわした声が収まり、視線は役者に集中する。いまのところおかしな格好をしたものはいない。


「うぬぅ、魔族に王子の大切な者が攫われてしまったか。だが儂としては魔族の世界に行くにはそれ相応の実力がなければ、それについて教えることはしたくないのじゃが……」

「なはは!なにやら我に口調が似ておるな!」

「ファラ! しーです!」

「もごもご……!」


 ソラがファラの口を抑えているが、少し遅く、視線はこちらへ向いてしまった。なぜ俺に集中しているんだろうか。 女の子がのじゃ等の口調で話さないからと思っているからなのだろうか?

 俺は男だし、両性声ではないのだが……周りの視線が痛い。なにこれ超不憫。


「だがしかぁぁし!!」

「「?!」」


 ざわついた会場を沈めるかのように、突然大きな声で叫ぶ老人役。ざわついたときの対処法として正しいのかどうだかは分からないが、あたりは静まり視線は役者へと再び向けられた。


「この、魔物を倒したなら認めてやらんこともない」

「こ、これは!土竜(アースドラゴン)!」


 たしか土竜というとランクS辺で子供の土竜とぐらいなら渡り合える強さの魔物だったような気がする。それほど危険な魔物なのだ。


「ご老人! これはいくら貴方とはいえこんな無理難題を出さないでください! 王子、やはりお父上に伝えて……!」

「……やらせてもらう! いや、やらせてくれ!」

「王子?!」


 騎士達ははそのことを不可能と判断し、必死で止めるが、王子は全く気にした様子はなくそのお題に立ち向かうことを決める。


「しかし王子! 貴方は立場を理解して……!」

「ああ、分かっている。だか、あの子を放っておいて俺はこれから王子を名乗れるとは思えない。ひと一人守れない王子なんて……かっこ悪いだろ?」

「お、王子……」

「ほっほっほ、若いの。力になるかどうかは分からんが、土竜を討伐する前にここに行ってみると良い。きっと力になるじゃろう」


 更にもう一枚の紙を渡す老人。それを貰うと王子は目を輝かせながら、感謝の言葉を言い放ち、ステージの端へと消えて行った。


「俺は、王子について行く。王子はなんとしても俺が守る!」

「俺達もついていきます!」

「……助かる」


 そのような会話をした後、騎士たちもステージから走って消えて行った。結局上には報告しない流れのようだ。


「ぬ? 次の配役は……あやつか」

「マスターの記憶では一人称が かみかみ だったようですが……大丈夫でしょうか」

「ん? 誰が出るんだ?」

「まぁ見ておれ」


『王子たちはおじいさんに言われたとおり、強さの湖へと赴きました。この湖は正直者だけが強さを得られるという伝説がありました』


「ここか? たしかに綺麗な湖だが……ってうわぁっ!」


 王子は疑問に思った瞬間、不意に転んでしまい、湖――のように見える小さなプールの中へ剣を落としてしまう。

 騎士たちが王子の身を心配していると、上から二つの影が飛び降りてくる。安全上心配なのだが、これはこれで迫力はあるな。

 風魔法により安全にふわりと着地した二人は藍色の髪の生徒とレムであった。たしかに彼女は心配である。


「ようこそ王子様、強さの泉へ」

「あな……たが……落とした……あ、あ、あ……」

「?! 精霊様?! どうしました!?」


 王子と隣の精霊がレムを心配をするというまさかの事態に、裏にスタンバイしていたこの先に携わるものは慌て始める。

 会場はシナリオ通りだと思っているが、隠し通せるのも時間の問題である。


「まずいのじゃ、あやつは極度の緊張と人間への恐怖で演劇どころではないぞ」

「ピンチですね、マスターも念話で落ち着くように言っているようですが、まったく効果がありません」

「なんで人見知りの女の子を出したんだよ……」


 王子も冷や汗をかき始め、会場もあまりの展開の遅さに疑問を感じ始めたその時に、思わぬアドリブを作り出すものがいた。


「この近くに邪な心を持つ者がいるようです」

「えっ?」

「ですから、魔族が近くにいるようです。それもこの近くの村に。話が通じませんかバカ王子」

「……そうか、ここは神聖な場所だから魔族に狙われるのも当然だろう。それとなんで俺が罵られた」


 アドリブを始めたのは藍色の髪の生徒である。もしかしたらこれはアドリブではないかもしれないが、王子の慌てる様が目に付く。恐らくアドリブであろう。


「あの……あ……」

「さぁ! 早くおゆきなさい!今力を与えました!」

「うそだろ?!」


 王子が素で驚いてしまったその瞬間、激しい風が吹き荒れる。客席にいるこちら髪がなびくほどに強い風であった。

 完全に傍観を騎士たちの表情は困惑でしかなくて、会場もすこしざわついたが今のところ違和感は感じ取られていないらしい。運が良いな。


「いきなさい」

「えっと、精霊さん? あの、剣は……」

「い、き、な、さ、い」

「行くぞみんな!」

「いや諦めちゃダメでしょ王子ぃぃ!!」


 そういっていつもより早い速度でステージの端に消えて行った王子と共に精霊もジャンプして消えて行った。ジャンプして消えたのは風魔法によるものだろう。

 騎士たちは慌てた様子で湖プールからレプリカの剣をとりだして、わちゃわちゃしながらステージからきえてきった。

 すぐに会場は暗くなり、見えなくなったが、これは難を乗り越えたというのだろうか?


「な、なかなかあの藍色の髪の生徒は肝が据わっておるな」

「ぱちぱち、あのアドリブは見事でした」

「劇でアドリブはやっちゃいけないと思う俺は異端なのかよ……」


 いつもより長い時間の暗闇の場面が過ぎると、再び明るくなり、次の舞台の背景は燃えた農村であった。


「?! あれが主殿か?!」

「凄く……地味ですね」

「おいおい、本当にあれがユウなのか?」


 思わず彼を知っているものは全員そう思うだろう。

 彼の役割は、背景と同化しているような村人であった。


 四人のうち左から三人目にいるのが彼である。そして、その場面では女神の石像のようなものを守ろうと必死になっていた。


「魔族!この教会が燃えようともこの石像だけは守ってみせる。絶対に触れさせはしない!」

「ぎっひっひ! 俺たちが人間なんかに止められると思うか?」


 魔族は相変わらず黒タイツであり、異様な存在感を放っている。対してユウは、気配遮断まで使っていてほぼ背景である。


「絶対に渡すもんかよ! 魔族なんて女神様の手にかかれば……っ!」

「女神様の力を甘く見るなよ!」

「そーだそーだ」

「はっ!猪口才な人間の力でなにができるぅ!」


 そーだそーだと同調したのがユウである。そしてして完全にセリフを棒読みである。視線がすごく冷たくて、こっちの方が魔族と言った方がしっくり来るだろう。


 タイツの魔族は一気に飛びかかり女神像に急接近する。村人役の人々は魔族が接近した後、魔族が手を振り下ろし――


「「うわぁぁぁっ!!」」


 激しく吹っ飛んでいく。プロのスタントマンを雇っているかのような吹っ飛びっぷりだ。

 ユウも吹っ飛ぶようすに違和感はない。ごくごく自然である。


「つまらないのじゃ、こんなもんじゃないだろう主殿っ!」

「ぷんぷんです。ちょっと我らも煽りに行ってきましょう」

「なっ?! お前らやめろっ」


 そう言って彼女達止めるために掴もうとしたが、彼女達は光となって消えて行った。するとその途端。


「俺達の、め、神様に……触るん「おい、魔族」……えっ」


 場が一気に静まり帰り俺はなんだか見ていられない気分になり、目頭を抑える。

 瀕死の生徒も思いっきり驚いてしまって、そして事の本人であるユウは、吹っ飛んだのに何事もなかったかのようにその場に立ちすくんでいる。


 その途端、彼は発光し、その光すぐ消えた。

 その後ソラとファラはこの場所へ戻ってくると、悔しそうな声を上げた。


「ぐぬぅ、主殿め半端なく精神力が高いのぉ……」

「加護を受け入れている状態でこれだけしか扱えないとは……」

「……お前ら何やったの?」

「簡単に言えば精神を乗っ取りました」

「我らは一心同体であるからこれに関しても聖霊の中で上位であるのだが……主殿には数秒と持たずに我らが追い出されてしまったのじゃ。一言が限界とは……恐れ入った」


 会場中の視線はユウに集中している。しかし彼はその事態に慌てたようすもなくアドリブを始めた。


「女神像にごふっ」


 彼は心臓を抑えるような動作をした後、自然に倒れた。物凄い殺気をこちらに向けられたような気がするが、気のせいであることを祈ろう。


「「………」」


 ソラとファラは青い顔をしてゆっくりと顔を見合わせている。ユウの逆鱗に触れてしまったことを察したようだ。


「お、俺達の女神に……触るんじゃねぇ!!」

「やめ……ろぉぉっ!」

「くひひっ!そんなことしるかぁ!」


 気を取り直して生徒たちは役に没頭する。それにしても切り替えが上手だな。

 黒タイツはそこらじゅうに倒れ付している人を吹き飛ばし、目の前にある女神の石像を壊そうとしようとしたが


「まてぇぇっ!」

「ぐぁぁぁ!」


 王子は走りつつ、持っていた剣で黒タイツを切りつける。それにしても王子の衣装は煌びやかで、沢山の装飾があるが、対して魔族は黒タイツと僅かながらのアクセサリーしかない。衣装の差がありすぎてどこかシュールだ。


「くっ、ここまでこの村がやられるとは……!」


 王子はこれまでの出来事に予定とは違ったことがないような口調で悔しがる。先程の精霊に脅迫された情けない姿は今の彼からは想像出来なかった。


「王子……さま……女神に……祈るのです……そして……魔族を倒すための力を……」

「無理して話すな! お前は瀕死なんだぞ!」

「王子しか……魔王は倒せません……!」

「王子!ここの魔族は我らにおまかせください。彼が言ったように王子は女神に力を頂くように願ってください!」

「……わかった。ここは任せるぞ……てっ、俺って彼女を助けるために魔界に向かってたんじゃ……」

「いろいろ混乱しているのでしょう。お早く」


 倒れていた女の騎士に背中を押されて、王子は教会の中へ入っていく。

 そうして場面は暗転し、背景とともにシーンは変わり、教会の中のような背景の場所で王子は女神に祈りを捧げているようなシーンが見せられた。


「女神様……力をお貸しください……」


 その瞬間、石像を中心にして風が吹きあれた後、ふわふわと降臨するかのように女神が出てくる。アルトだ。


 彼女の顔はめちゃくちゃこわばっていた。魔族なのに女神の役をやるから緊張しているのだろうか?


 それにしてもこの風はどこから来ているのだろう。感じたことのある魔力だが、誰かの魔法なのだろうか? そうだとしたら余程魔力があるのだろうな。


「女神……様?」

「ようこそ王子様。私が女神です「女神様いきなりでわるいんだが――」なのですが、よろしいですね?」

「「……えっ?」」


 会場が僅かな笑いに包まれるが、二人はとてつもなく焦った表情をしている。元々の台本ではこの王子は最初から最後まで恰好いい役であったようだが、ここ最近は笑いを取る役目を担っているような気がした。

 本来の目的とは違っていて。


「あとと……ごほん。お、王子よ。王家の証となるものを差し出しなさい」

「お、おう」


 そういって王子はレプリカの剣を差し出す。ってあれって湖に捨てたやつじゃないか。騎士たちが拾わなかったら今頃どうしてたことやら……


「もう、見せ場はおわりかの」

「むにゃむにゃです。眠くてなってきました」

「お前らははなっから劇を観るつもりはないんだな」

「王子、あなたに幸があるようにこの歌を贈ります」


 そして、アルトは祝福の歌を歌い始めた。今までで突っ込みどころしかなかったこの劇が、なにやらいい方向に進みそうな気がするような、とても綺麗な歌声であった。

 会場もこれを聞いて満足げで、感嘆の声を上げている者もいたほどだ。しかし、王子の顔はまだ安らがない。むしろ両手を大きく広げて前に出し、止めにかかってる。


「アル! まだ歌うのは先だぞっ」


 王子がこそこそと周りに聞こえない声で彼女に伝えた途端、アルトの顔が一気に羞恥により赤くなっていく。


 そこで王子が出したアイディアは、予定より早く別の人を出してしまうということだ。ステージの端に向かってお客さんに気が付かれないように合図を出した。 俺は気がついたが特にそれらしい違和感はなかった。

 それを見て、慌てた様子で盗賊団らしき者達がステージの左端から出てくる。これもアドリブだろう。この演劇は本当に練習したのか……?


「ぐっへっへ、貴様が女神か」

「っ?! な、何者?」


 目の前にいる王子を完全に無視して女神を取りかこむそれっぽい生徒たち。こいつらはこの演劇の中で一番役になりきっていると思うほど、迫真の演技であった。


「ボス! 捕まえました!」

「ぐへへ、ご苦労」

「やめ……て!」

「まてっ!この俺を無視するなっ!」

「へへっ、お前の相手はこの俺だ!」


 王子は数人の盗賊団員と乱戦を繰り広げる。攻撃は回避、受け流したりして適当な位置で返していく。これはほかのお客さんもいままでのグタグタを置いておけばなかなか目を引くだろう。


「おい、ソラ、ファラ……見てみろ……って寝てるよこいつら。本当にあいつらを煽りに来ただけかよ」


 彼女たちはすでに夢の世界へと旅立って行った。やっと舞台としてまともになってきたというのにだ。


「80Gはあの王子を見るため、残りの20Gはアルトの歌声聞くためってところだったな」


 それからというもの、特に目立つような失敗はせず、土竜を倒し、魔王を倒した。魔王がカミカミでろくに喋れなかったことをここに追記しておく。


 元一つ星冒険者の俺から一言を言わせてもらえば


「練習不足。だな」


 何故か観客は満足していたようだが、俺が満足したのはユウのあの状況からの体制の立て直しの速さでしかなかった。

 俺の100G返せ。



 ~~~~~~


「「どうしてこうなった……」」

「恥ずかしい……」

「ごめんなさい……」


 演劇を笑顔で終わらせた俺たちだったが、控え室ではものすごく重い雰囲気が漂っている。


「ソラとファラは確実にあの魔法を使ってやるとして……まぁ、緊張は誰だってするんだ。仕方ない」

「まだまだ、精神が弱いですね」

「いやいや!ラスフィ! お前は台本通りにやってくれよ!?」

「ワタシが悪いです……ごめんな……さい」

「き、気にすることないよ! レムだって頑張ったし!!」


 ラスフィが開き直るとリンクスが突っ込む。王子の彼もなかなか恥ずかしいことがあったので怒っているのかと思ったが、彼はあまり気にしていないようだ。


 レムは今にも泣きだしそうな表情であったのでハーミルが必死になだめているのが見えた。前回から思っていたが、彼はレムに好意を寄せているようだ。恋愛的な意味で。


「ユウ……」

「アルト。そういうときもあるさ。気にするな」

「あぁ……恥ずかしい……」


 今回の舞台は大失敗に終わってしまった。Sクラスは悪い意味で面白いクラスだと思われていないといいが。


「ドリュードもいたな。あいつになんかいわれそうだが……」

「ユウナミ、本当にドリュードがいたんですか?」


 気がついたら制服姿のシーナがいた。彼女のこの姿を見るのも久しぶりかもしれない。ドリュードに対して反応したのか、それとも今来たのかは分からないが若干驚いてしまった。


「シーナか、風魔法ありがとな」

「いえ、頼まれたからやっただけです。お礼を言われるほどではありません。それよりドリュードがいたって本当でしょうか?」

「んー? シーナはドリュードのこと好きなの? 」


 アルトが疑問の表情を浮かべながら思い切ったことを聞く。そう言われるとシーナはとくになんの動揺も表さずに冷静に答えを返した。


「アルト、そういう事じゃない。一つ星(シングルスター)に一刻でも早く戻りたい彼が用もなくこちらに来たとは思えません。来たということは何らかのの企みを抱いているはず」

「へ、へぇ。よほど信頼してないんだね……」

「当然です。ギルド本部に席を置いている以上は信用できません」


 シーナは少しだけ表情を暗くすると窓から見える景色を眺め始めた。外ではわいわいとした楽しげな声が聞こえる。そういえば、ギルド本部ってどうしてそんなに悪く言われているのだろうか? 詳しくは聞いたことがなかったな。


「シーナ。ギルド本部っていったい何が悪いんだ?」

「今のすべてです」

「………」

「上がしっかりしてない、とかかな?」


 即答ですべてが悪いと言われて対応に困ったが、アルトがなんとか繋げてくれた。こんなこというアルトも魔族の仕事をしっかりしていないのだから人のことは言えない。とは言えないのでここは黙っておく。


「昔ギルドというのは、地域を守る警備隊のような役割も持ち合わせていました。しかし、いまはありません。むしろ逆に、邪な者が蔓延る場所となっています。」

「昔っていうと……ギルド中でなんかあったのか?」


 この街に来始めたころのギルドを思い出せば、全く持っていい思い出がない。召喚士と分かっていきなり殴りかかってくるような奴らもいたからな。今のギルドは警備という面影すらない。


「すべてのギルドを治めるマスターがかなり長いあいだ消息不明です。代表のいない今は、ギルド本部の副ギルドマスターが治めていますが、こいつと、二つ星(ツインスターズ)のおかげでいまのギルドが出来上がりました」

「二つ星ってこりゃまた物騒な」


 副ギルマスと二つ星が登場したおかげで風紀を乱しまくるいまのギルド形態になったそうだ。


 シーナが言うに、昔のギルドの格言として【弱きものを守り、強きものを超えよ】というものがあったらしいが、いまはそれを一蹴し無理やり変更したらしく【弱気ものは徹底的に潰し、強きものも徹底的に崇めよ】という弱肉強食制をとったようだ。なので今現在ランクとは、《冒険者の強さの値》という参考とするものではなく、《格差》という区切りを示すものとなったようだ。


 それによりドリュードはひたすらランクをあげて高い地位を得ようとしたのだろうか? 彼はシーナより冒険者歴は長そうだが。


「私は腐り始めの頃にギルドに入り、徹底的に強さを求めるようになりました。他の人達に馬鹿にされることがないように」

「なるほどな。だからあの時は殺しても奪い取るなんて物騒なことを……」

 

 恐らくだが、彼女のあの時には人を殺すのも特に何も思わなかっただろう。それほど強さを真っ直ぐに求めていたということだろうか。


「うーん、僕が考えるにその二つ星と副ギルマスが繋がってて、ギルド中を好き放題暴れてるってことかな。それでその影響をうけた子ギルドのギルマスは色んなことを悪い方向に進めやすくなってるってことかな?」

「その通りです。その影響で副ギルマスは禁止であったギルド同士の抗争も認められてしまい、武力で名をあげようとするギルドも増えてきました。このままでは支部ギルドという存在なくなってしまいそうです」


 どうやら上にいる副ギルマスのおかげで酷い状況になっているようだ。

 ギルドメンバーを総動員すれば、人間の一人二人ぐらい勝てそうなものだが……そうはいかないのだろうか?


「そんならギルドメンバー全員で二つ星(ツインスターズ)と副ギルマスを止めにかかればいいんじゃないか?」

「それができれば苦労はしませんよ。二つツインスターズ一つ星(シングルスター)の十倍の戦力を持つともいわれていますが、実際にはもっとあるかもしれません。あれからは本気のアルトと同じぐらい強大な魔力を感じました」

「そんなに?!」


 アルトは最近全力で戦うことが多かったが、魔力が少ない状態、怪我をした状態など、あまりコンディションが良いとはいえない状態の時であった。

 しかしそれでもなお、俺より魔力密度という魔力を無駄にしない力は俺より圧倒的に上であり、十分人間を超えた存在であるアルトと同程度の力をもつ二つ星(ツインスターズ)とはどういうことなのか。人間じゃないのか?


 タイミングを図ったように後方から、無理やり蹴り開けられるような暴力的な音が響鬼、扉が開く音がする。その事態にざわざわしていた生徒たちは一気に静まりかえる。


「お前ら、すこし話をしようか」

「が、学園長……ぅ?!」

「私……逃げてもいいかな?」

「おおおおおお、俺は知らんぞ!」


 リンクス、ミリュ、レイダーが絶望的な表情と言葉を絞り出すと、学園長は堂々とした歩き方で部屋に入り込み、こういった。


「朝に私は学園の顔に泥を塗るなといったはずだがな? これはどういうことだろうな。リンクス=バトラー。そしてSクラスの面々よ」

「ええっと、ですね。それは……その……」


 激怒の表情がちらつく学園長にそれに怯えるリンクス。クラス代表でどんまい。

 そういえばなぜみんな学園長を恐れていたのだろうか。俺には怖いだけの先生にしか見えないのだが……課題を出されるということだろうか?


「まぁいい、とりあえず全員。学園祭が終わったら……あれを覚悟しておけ」

「嘘だろ?!」「私しっかりやったのに?!」「連帯責任反対!」「もうだめだー!俺は嫁に行けねぇぇ!」


 あれ、とはなんなのか分からないがあれを知っている生徒全員は絶望を口にする。ちなみに最後のヤツはオカマではなくしっかりとした男である。


「これ以上辱めるようなことがあれば……わかったな?」

「「「…………」」」

「返事ぃっ!!」

「「「はいぃっ!」」」


 生徒が返事をしたあと、学園長は扉の向こうへ消えていく。いったいなにをやるんだろうか?


「ね、ねぇミリュリュ、リン、何やるの?」

「シーナ、なにやるんだ?」

「アル、聞かないで」

「お前はまだ知らない方がいい。後でいやにでも思い知るから」

「私は受けたことがないのでなんとも言えませんね」


 重々しかった雰囲気はさらに悪くなり、この部屋は阿鼻叫喚でいっぱいになる。なにをやるのか分からないが課題のようなものだろう。今気にすることではない。


「さてと、D組に行くか」

「僕もいく!」

「ワタシも……いきます!」

「私は学園長に用事があるのでこれにて」


 アルトとレムはついてきてくれるようだが、シーナは用事があるらしい。なにやら彼女はいつも学園長に用事があるような気がするのだが、気のせいか?


「じゃ、いこうか。アルト、レム」


 そういって俺達は逃げるように部屋から出て行った。部屋を抜け途端、まるで別次元にいるかのように空気が軽くなったのは俺は忘れないだろう。



ご高覧感謝です♪


2015/07/10追記


学園祭を七日→二日にしました。

だらだらと続いてしまうのはなんとも面白くないのでこのようにさせてもらいます。

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