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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第七章 心の距離感
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はっきりしていく思い

 人間とは一瞬でも印象的な出来事があった場合、すぐに忘れられないものだ。自身が激しく恐怖を覚えたホラー映画でも同じことがいえる。

 俺の場合は忘れてもフラッシュバックのように呼び起こされることがたびたびあるので、そう簡単に出来事は忘れられない。

 何故こんなことを生徒会室に向かう際に考えているのかというと、アルトという存在にどこからか惹かれているような気がするのだ。いつもの通りの友愛的ではなく、いつも道りではない恋愛的な意味で。


「はぁぁ、またこの感情か。いい加減懲りたかと思ったんだがな」

「……? 何かおっしゃりましたか?」

「いや、何も言ってない」


 教室から出て、生徒会室へと向かう俺達。歩きながら聞こえないように呟いたつもりだったが、聞こえてしまったようだ。生徒会室は意外と遠いため、考える時間は割と沢山ある。

 また、とはどういう事かというと、俺は恋愛的な感情は抱いたことがある。なのでこの胸の鼓動がいつも通りではないのは、恋愛的な感情のせいであるのは理解できるのだ。


(ははは、相変わらず嫌な思い出だ)


 心の中で呟く俺と共に脳内に浮かび上がるのは、この世界ではなく、転生させられる元の世界でのワンシーン。思い出しただけで死にたくなりそうな、その夕方の学校内での出来事。俺には好きな女の子がいた。名前はAさんとしておこう。俺はAさんが好きだった。初恋である。ここからは俺の過去話だ。


『おっと、そのダンボール持とうか?』

『あっ、ありがとー波風君!』

『どこまで持っていく?』

『えっと、図書室までお願いしていいかな?』

『勿論だ』


 時刻は放課後。半月ぐらい前から好きと認識したのであり、そのことを伝えようと決心したのは、忘れることもない忌々しい夕日が窓を通過して、俺たちを照らしていたあの日。Aさんは一人で大きなダンボールを持ちつつ図書室まで向かっていた。帰ろうとしたその時にAさんが近づいてきたのである。


 そういえば俺はこの日、学校に残っていて課題をこなしていた。この前の頃からずっと児童養護施設で生活させてもらっていからな。ゲームといってもトランプとかそういうのでしか遊んでいなかったのだ。下の子を慰めるのにやたら『撫でる』という行為をしていたため、撫でる癖はここでついたのかもしれない。ちなみにここで居残る理由は、あちらでは宿題をする時間は作れなく、下の子と遊んだり、あやしたりする事で大体一日が終わってしまうためである。


『よいしょっと。これでいいか?』

『ここまでありがとうね!』


 ダンボールを指定された場所に置くと感謝の言葉を述べられる。口調こそ冷静なものの、この頃の俺は告白するとの事で、運んでいる最中からそのことで頭がいっぱいであった。

 誰もいない図書室。夕焼けが眩しいこの空間。ここならシチュエーションはバッチリだと思ったのだろう。俺はもったいぶって告白することに決めた。これが後々黒歴史となるのはこの頃の俺は知らない。


『なぁ……Aさん。授業中のころ、()()()()をたまにじぃっと見てたよな?』

『…………えっ?』


 Aさんは突然の俺の言動に素っ頓狂な声を上げ、俺を見上げる。その表情は不思議な表情で満ちていたのだろうが、俺は窓を見ていたため詳しくは知らない。このムダにかっこつけた窓を見ている姿勢も殺したくなる。


 くそ……って俺はなんでこれを思い出してるんだ……分かっているが、脳内の情景再生は収まらない。


『まぁいいや。俺はその視線でお前が俺の事が好きなんじゃないかって思ってな?』


 俺がAさんを好きになった理由はこの視線にある。どこか熱くて、蕩けるような視線を浴びれば男ならドキッとしてしまうものだろう。Aさんも恐らくだが、美人という分類に入ると思う。


『えっと……あのぅ……波風……君さ』

『無理に弁明しなくていい。俺も、お前のことが好きだから……さ』

『?!』


 ここで彼女の初めて顔を見た。それと同時に非常に困惑した表情でいるのが良く分かる。恥ずかしがっているのかと思ったが、次の瞬間にそれは終わる。


『あの、あのね、こんな事言うのもなんだけど私は波風君のことは全く見てないよ?』

『…………え?』

『私が見てたのは……その隣にいるB君の事なんだけど……私は、B君が、好きなんだ。なんかごめんね?』


 俺を取り巻いていたほんわかした熱が一気に覚めていく感覚と同時に目の前が真っ暗になる気分。格好つけて告白したのにもかかわらずこれである。この先の記憶は飛んでいるのだが、彼女に謝ったあとに全力で帰路へついたと思う。中学三年で告白したのだが、それより前であったなかったら恐らく不登校になっていたと思う。この失敗から俺は二度と恋愛的な感情は抱かないとは思っていたのだが……な。


「はぁ…… なんでこんなこと俺は思いだしてるんだろうなぁ……!!」

「な、ナミカゼさん? 突然如何なさいましたか?」


 意識は異世界に戻り、気がつけば魔力を全力で循環させている俺。若干漏れ出ているが、これは制御に集中していないからである。漏れ出た量は大したことないが、魔力反応に敏感な人間は気がつくだろう。全力で叫びたかった気分だが、ゆっくりと魔力と怒気を沈めてむすっとした表情でこう言い放った。


「なんでも、ありません……」

「えっと、その……魔力は……」

「ちょっと邪魔な虫がいたので、魔力を使って追い払いました」

「そ、そうですか。えっと……と、とりあえず着いたので中へどうぞ」


 怒りが収まるとともに恋愛的な胸の鼓動も収まった。増したのは血が上って血流が良くなったため、早くなった、なんの感情もない鼓動の回数である。


「はぁぁ、失礼しま――」

「うにゅぅ……うぃん……かっこいいよぉ」

「おいおい、そんなに甘えるなって。可愛いヤツめ」

「うにゅ……」

「失礼しましたよ! 本当によ!」


 久しぶりにぷっつんときた。先程まで黒歴史を思い返し、勝手に傷心していた俺にこの二人は眼前でイチャイチャするという図ったかのような嫌がらせ(俺から見て)は流石に耐えかねない。思いっきり扉を閉めて、破壊しようかと思ったが、流石にあとのことを考えたら出来なかった。無駄なところだけ冷静である。勿論強く閉めたのには代わりはなく、音はとても大きかった。


 少し離れた場所で、頭を冷やそうと思い、知っている限りで一番寒いところへ転移することを一瞬で決めた。


「あいつら……許さねぇ……《転――」

「ちょっと待ってくれ?!」


 転移しようとした瞬間に肩に手をかけられる。激しく憤っていた俺は頬をピクつかせながら振り向いた。

「なんだよ? お前らのいちゃいちゃが終わるまでまてっていうのか? あぁ?」

「悪かった! 悪かったって! お前のことだからどうせゆっくり歩いてくるだろうと――」

「ゆっくり歩いてきたんだが?」

「と……とりあえず、部屋に戻ってくれ」


 会長の必死で俺をなだめるようすを見て、ここで逃げれば再び呼ばれなくてはいけないと思い、素直に諦める。


「はぁぁ……さっさと用事を済ませてくれ。あと俺の前でイチャつきやがったならすぐさま立ち去らせてもらおう」

「なんだよ、お前だってあの灰色の髪の女がいるだ――」

「俺とアルトはそんな関係じゃねぇんだよ。 あいつだって俺の知らないことが沢山あるんだぞ? 彼氏だっているに決まってんだろ? 無駄な会話はいいからさっさと部屋に行くぞリア充」

「お、おう。お前にもあいつにも色々あるんだな。てかあそこはオレ達の部屋なんだが……それとリア充ってなんだ?」

「ぐぐれカス」


 すこし落ち着かなくてはいけないときがついたのは扉に手をかけてからだった。ここまで怒ったのはアルトが攫われて以来かもしれない。


 ちなみにリア充とはリアルに充実している奴(元いた世界では主に仲の良いカップルに使われる)ということで、ググれカスとは簡単にいえばインターネットで調べろということである。それとこの世界にインターネットが有るのか無いのかは知らない。


 部屋に入れば、そこには誰もいなかった。先程まではピンク髪と会長は一緒にいたはずなんだが、どういう事なのだろうか。まぁどうでもいいか。

 会長も遅れて入ってきて、向かい側に座ると申し訳なさそうな表情で話し出した。


「え、えーっとな。とりあえず今回呼び出した理由なんだが、お前には今回の学園祭で――」

「うぃぃん! みーを無理やり戻すなんてひどいぞーっ!」

「?!」

「ちょっ……おいバカ!」


 謎の声は、生徒会長であるウィンが座っている高そうなソファーの隣の魔法陣からから()()()()きた。今の感情はイチャつき等に対する怒りでは無く、純粋な驚嘆であった。


「むうう、酷いぞうぃん! みーを無理やり戻すなんて……」

「おい! オレが召喚士サマナーだってバレ……オレも言っちゃったじゃんか!」

「がぁん! うぃんがこの学校にいられない?!」

「…………」


 驚きを通り越して呆れである。全く俺の知り合いのクラスとして、あまり見ない召喚士は近くにいたようだ。恐らくクラスをかくしてこいつは生きてきたのだろう。


「ちょっと待ってくれ。ユウ ナミカゼ。これには深いわけがあってだな」

「どうでもいいからさっさと説明しろ。さもなくば帰るぞ」

「黒髪のこの人冷たいー!」

「…………」


 なぜ俺が冷たいという扱いを受けなきゃいけないのか。と心でさんざん叫んだ後、俺は冷静を装い、表情を無表情に戻す。冷静に、冷静に。


「驚かないのか?」

「これ以上無駄な会話をするなら出ていく」

「……恩に切る。それでだな、学園祭の件についてなんだが、お前には一生徒として、来客の接待の手伝ってもらいたい。お前を名指ししていてな……」

「はぁ、結局こういうことか。んで?その来客の相手は?」

「受けてくれるのか?!」

「どうでもいいヤツなら断る」


 俺の考えでは政治の重要な人物、もしくは学園にお金を寄付している人物等、何らかの重要な人物が俺をなにかに利用するために使おうとしているのだろう。一応闘技大会では戦績を収めたので印象には残っているはずだ。ただ、この考えではアルトでも良いという事になるのだが。


「お前なら断れそうだが、断るなよ? 名指ししている相手はこの国の王女、テュエル殿下だ」

「……ここに来てじゃじゃ馬かよ」


 まさかの展開である。重要な人物とは分かっていたが、まさかの姫君だったとは。ラクナが王族も来るとはいっていたが、こんなにも早く知り合いに名指しされるなんて予想外である。


「んー? うぃん?テュエルってだれ?」

「この国のお姫様だよ。ソーミャ」


 膝枕しながら話しているふたり。俺からしたらこれはいちゃいちゃなのだが、ここはぐっとこらえよう。

 今更ながら、生徒会長の名前はウィンであり、このピンク髪はソーミャというらしい。


「なんで、俺なんだ?」

「それが、不明なままだ。因みにだが、他の王族も貴族もたくさん来るから、護衛、案内等の生徒会では手が回らない状況だ。だから、これはお願いじゃなくて、依頼だ。こういうことは普通しないんだが、名指しなんて初めての機会でな。できる限り人を効率的に使いたい。そこでお前の出番だ」

「お前の駒になれと?」

「言い方は悪いが確かにそうだな」

「黒髪ー! 冷たいぞー!」


 ピンク髪が喋っているがイライラするので無視だ。とりあえずこいつからしたら、人を開ける絶好のチャンスという事だろう。

 ここで思い出したが、彼女にはまた合う時にお金を用意しておけと言った覚えがある。王族なのでそのくらいの用意はたやすいはずだろう。もしかしたらそのために呼ぶのかもしれないな。その行為じたいがいけない匂いがするが、これは遅れて大会の賞金を渡すという考えをすればいい。

 こいつからの報酬も気になるところだし、もう少し聞いておこう。


「んで、依頼するということは報酬もあるだろ?」

「そうだ。じき生徒会長にお前を――」

「交渉決裂だ。じゃあな」


 だれが生徒会なんて時間のかかることをするか。もっとマシなのを選んで欲しかったところだな。

 咳を蹴ってソファーから立ち上がろうとすると、再び慌てたような表情でウィンが俺のことを引き止める。


「!? わかったからちょっと待て!これならどうだ?」

「これはなんだ?」


 魔法陣から出したのは一枚のチケットのような印刷が施された紙。魔法陣から出すことから本当に召喚士ということが分かるな。


「この学園の子会社である高級リゾートホテルの限定チケットだ。最高で七枚用意できる」

「……乗った」

「本当か?!」

「ああ」


 ついつい流れで了承してしまったが、今のところ後悔はしていない。だいぶメリットがこちらにもあるので、受けて損はないだろう。なにせ姫君と会えばお金をもらえる可能性もあるし、それをこなせばリゾートのチケットが貰えるのだ。これなら受けても損は無いだろう。


「ほんとに助かる! ありがとう!」

「そのチケットを渡さなかったらどうなることか分かってるよな?」

「生徒会長の名にかけてしっかりと渡すことを誓おう」

「むー……黒髪けちんぼ」


 ピンク髪は相変わらず失礼だが、とりあえずイライラしながらもここに来て良かったようだ。何よりリゾートが気になるな。水着とかを用意した方が良いのだろうか?


  今は気温が体感で27度という、夏に向かって一直線な季節だ。今来ている制服も夏仕様である。着替えたのはラクナと食事を終えた後すぐだ。チケット持っておけば行きたい時に行けるだろう。俺のこの世界での目的は、元の世界で出来なかったことをめいいっぱい楽しむこと。最近はこれに限るな。


「話はこれで終わりだが、受けてくれるか?」

「ああ。その依頼を受けようか。報酬はリゾートチケットの指定数な」

「お、おう。任せとけ」

「うぃんかっこいいー!」


 このピンク髪は俺がいることを全く気にしていないようで、さっきから相変わらずである。だが、こいつから発せられる気配は、どこかソラとファラに似ているような気がしたので、ついついこんなことを聞いた。


「そいつは、聖霊か?」


 その瞬間、二人の表情が一気に固くなりこの空間が暖かい雰囲気で包まれていたのにもかかわらず、急に気温が下がるような気もした。だが、それも一瞬であり、すぐに元に戻った。


「……やっぱりバレたか? てかどこからそんなことを聞いた? 」

「みーも気になるなぁ」

「遠征でちょっとだけ……な?」

「ちょっと詳しく話してくれないか?」

「依頼内容にはいっていない。断らせてもらおう。気が向いたら話す」


 ニヤニヤと笑いながら席を立つ。ちょっとだけ勝った気分でいるのは内緒だ。


「全くこいつは……お前はそのうち本当に聖霊を手に入れるんじゃないかとひやひやするぜ」

「だったら、みーは全力でうぃんを守るよ!」

「何があるのかは知らんが、とりあえず帰らせて貰おうか。失礼したな」


 俺は扉までどこか勝ち誇ったような気分で歩いていたら、再び声をかけられた。


「言い忘れてたが、お前たちの発表は学園祭の一日目。お前の依頼の日は学園祭の最終日だからな。忘れるなよ」

「……ああ」


 忘れていたとか言えないのがなんともくちおしい。こいつには負けたくない気持ちでいっぱいだ。それとだが、学園祭は二日間に渡り開かれる。あまもといた世界とは変わらない。


 そそくさと部屋から出て転移をし、教室の近くのお手洗いまで移動する。この場所の理由は転移魔法を見られたくないといういつもの理由だ。


 さて、だいぶ日が暮れてきたし配役のセリフや、行動を覚えなくてはな。アルトにも変更点を教えて貰っておこう。学園祭まであと少しである。


高覧感謝です♪

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