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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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間違った答え

「あれ? みんなどーしたの?」


 少し汗を浮かべつつ、アルトはにこにことした笑顔でこちらを見ている。どこかドヤ顔のように見えるのは気のせいだろう。アルトはそんな表情については知らないはずだしな。


「と、取り敢えず終わりだよな」

「凄まじい魔力だったのじゃ。これが魔王か」

「いまだに肌がピリピリします」

「あると……やっぱり凄い……!!」


 そんなこんなでわいわいしながら彼女達はガールズトークが始まってしまった。ここぞとばかりに八岐大蛇ヤマタノオロチの抜け殻を回収する。抜け殻と言っても肉もあれば、革もあるのだが。抜け殻というより、死体と言った方がいいのだろう。もちろん回収先は召喚用の魔法陣である。ソラとファラのために新たに魔法陣を作っておいてよかったな。ちなみに余談だが、押し込める程の大きさではないので切り刻んでから魔法陣に入れさせてもらった。しかしそのようすにも、話している彼女達が気にすることはなかった。この時にもやはり血は出ない。


「ふぅ、回収終わりだな」

「それにしてもアルト、どこからあれだけの魔力を引き出したのですか?」

「えっとね、ユウがやってたのをちょっとアレンジした感じかな? じっくり見てたからやり方は一回で分かったよー! たぶん回復力は体力1につき10かな?」

「お、お主もなかなかじゃな」

「色んな意味でぶるぶると震えそうです」

「あはは……それにしてもさ、ほんとに二人はユウの聖霊なのかな?」

「私も詳しく説明してもらってませんね。説明を求めます」


 見られていたのは驚きだが、彼女は魔法を使用しつつ、体魔変換を使っていたらしい。俺のオリジナルのスキルを一度見ただけでものにし、尚且つ俺よりコストパフォーマンスの良いスキルを編み出すとは。俺の体魔変換は体力1につき魔力が1回復するので、彼女がどれだけ魔法慣れしているのか未だに予測がつかない。何故か最後の方は声が低かったような気がする。シーナも冷たい目線だったような。


「ゆう……となり……いいですか?」


 少し疲れたのでクレーターの斜面に座っていると、とてとて と歩いてくる人影。レムだ。先程のように尻尾が鋭くなく、とても柔らかそうないつものレムである。そう言えば彼女に関しても色々聞かなきゃいけないことがあったな。


「勿論。お前に話したいことも沢山あるしな」

「ありがと」


 黒く周りが消滅したクレーターの付近でレムは隣に座る。なにやら彼女も言いたげな表情で空を見上げている。空は戦っていたときは夜のような暗さであったはずだが、今はとても明るい。明るさを感じてきたらお腹もすいてきたな。


「とりあえずレム、あんなこと言ってごめんな。お前が来て助かったよ」

「その事なんだけど……ゆうは……ワタシのことが嫌い……ですか?」


 レムは視線を移し俺の目をじっと見ながら問いかける。途切れ途切れではあったものの、必死さ痛いほど似つたわった。彼女がこう考えた理由は、俺が彼女に言った言葉が原因なのだろう。


「嫌いなわけ無いだろ? 俺があんなこと言ったのは、レムのためを思ってだ」

「えっ…….?」

「レム、お前も少しは聞いたんだろ? 昔話。知ってのとおり俺は昔色々あってな。家族の大切さはよく分かってるつもりだ」

「…………」


 レムは黙って俺を見つめる。あの話はやっぱり聞いていたようだ。だけれどもレムの視線はなにやら違う思いがあるような気がした。


「だからな、家族と一緒に居るのが一番だと思ったわけだ」

「……そうだったんですか。昔のワタシならそれで納得したかもしれません……でもっ、今のワタシの意見は違いますっ……」

「えっ」


 思わず聞き返してしまった。レムはこれまでで強い意志を持ち、俺を見つめる。そういえば彼女が食事に関すること以外で本気の意思を伝えてきたのは初めてかもしれない。


「ゆうは……間違ってます。ワタシの幸せを……勘違いしています」

「は……?」


 素っ頓狂な声をあげてしまった。俺が間違ってるのか? 間違っているとしても、どこが間違っているのか分からない。レムは大きく息を吸うと声を大きくして言い放った。


「ワタシの為を思って言ってくれたのは嬉しかったです。だけど……その言葉の意味することは全然嬉しくなかったです!!」

「っ……?!」

「本当にワタシの気持ちを理解してくれていますか?! 本当にワタシの幸せを理解してくれていますか?! そして……本当にワタシの為を思って……あんなことを言ったんですか?!」


 レムは目に涙を貯めながら必死に言葉を紡ぐ。完全に予想だにしていなかった事態だ。俺は良かれと思って言い放った言葉が、彼女を大きく傷つけていたのだろうか?


「俺は……間違ってるのか?」

「ゆうは勘違いしてる! ワタシの事も! 家族の事も! そしてみんなの事もきっと勘違いしてる!」

「っ?!」


 大きく息を呑む。俺は、俺の主観により導き出した答えを押し付けていたのだろうか? このことに関して全く気にしていなかったがそういうことではないのだろうか。


「ワタシにだって考える事はできるし、あるとだって優しい心がある! ゆうの気持ちが全てじゃないの!ワタシだってゆうや皆の力になりたいし、放っておかれるのは絶対嫌なの!」

「……そう言われれば……そう……だよな」


 大きく心臓が跳ねた。何とか言葉を絞り出せたのは本当にギリギリである。

 俺は異世界ということで、元の世界との人間に対する差ができていたのかも知れない。なにより問題なのは自分の気持ちを押し付けてしまったことだ。レムの言うとおり、彼女たちだって元の世界の人々と何ら変わらず一人一つ心をもっている。にも関わらず俺は自身の気持ちを、相手の気持ちと考えてしまい、勘違いしていた。これがレムの言う 勘違い という物だろう。


「だから……ゆうは……もっと人の気持ちを考えてください。もっとワタシ達を……理解してください」

「……ごめんな」


 年下のレムに指摘されるなんて俺もやはりまだまだ子供だ。これだけ生きていてこんなミスをするなんてな。もう直ぐ元の世界では成人になる年だが、精神はまだまだ未熟であったな。レムの言うとおり、俺の精神論が全てではないのだ。


「分かったなら……ワタシを……認めてください。ワタシを……仲間として――」


 レムはゆっくりと動き、横から座っている俺を抱きしめた。遠くから「あーっ!?」という声が聞こえたが今はそれどころではなかった。


 レムの言葉を聞いた途端本当に家族と一緒じゃなくていいのだろうか、という考えが巡るが、彼女の言葉をしっかりと思い出して考えを打ち切る。何度も言うが、この世界は俺の考えで巡っているわけではないのだ。レムはレムなりの考えがある。幸せがある。言われるまで気がつかなった俺が情けない。


「ごめん、そしてありがとな、レム」


 謝罪と感謝を同時に言うと抱きしめられている側ではない片腕でレムを優しく撫でる。これぐらいしか出来ないのが情けないが、レムも気持ちが良さそうだ。彼女の目尻に映る涙も麗しさを上げているように見えた。


「さて、急に切り替えるのも何だが、いくつか質問が――」


 レムを撫でながら質問をしようとしていたが、ガサガサと 焼けた森の方向から草が擦れる物音がする。気配探知には映っていない。新手の敵だろうか。


「っと、質問は後だ。誰かこの森の先にいるようだな」

「だれ……でしょう」

「それにしてもレムもだいぶやるようになったね……僕だって数回しかゴニョゴニョ……あっ、ほんとに誰かいるね」

「あると?! いつのまに……」


 正直俺も気がつかなかった。瞬間移動でもしてきたのではないかと思ってしまった。後ろを見ると、聖霊二人とシーナが走って近づいているのが確認できた。


「ねぇ? そこにいるのは分かってるよ? 出てこないならこっちから……やるよ?」


 アルトは本気で殺意を込めた言葉を言い放った。先程のゴニョゴニョしていた頃との豹変ぶりは目を見張るものである。


「おい!ばれてるじゃないか!」

「す、すみません。私の結界ならバレないかと思っていましたのでついつい油断を……」

「ふう、お早く出てくることをお薦めしますよ」

「もう射っていいんじゃないかの?」

「やめなさいファラ、もしかしたらぺらぺらしゃべる魔物かもしれません」

「おお! それは期待できるのじゃな!」


 シーナも聖霊二人も俺達の元へ到着し、武器を構える。ソラとファラは全く緊張感のない会話をしていてこのピリピリとした雰囲気を和ませてくれた。


「待て待て待て! 私だ!」

「落ち着いてください、八岐大蛇ヤマタノオロチを倒した皆さま!」


 草むらから慌てた様子で出来たのは、会食の時にで出会ったに獣人の国の大臣と、巨乳のメイドさんであった。


「お前ら生きてたんだな」

「おおう、手錠も無理やり破ったようじゃな。国で二番目の名は伊達ではないらしいの」

「そこのメイドさんもなかなかの結界魔法を使えるようですね」


 今更ながら結界魔法とは無属性魔法の仲間と考えてもらって良い。ちなみにだが、無属性魔法は生活で役立つ属性の第三位という栄光があるのだか無いのだか分からない順位をとっているのを本で見かけたことがある。一位は水属性であり、二位は火属性であった。


「それにしても本当に八岐大蛇ヤマタノオロチを倒してくれるとは……」

「うぬ!私もびっくりである! お前らどうだ?是非とも私の手下に加わらんか?! それ相応の報酬を用意しよう!」


 こいつは生け贄とされるためにここら辺にいたようだが何とか脱出し、ここまで逃げてきたらしい。性格は相変わらず偉そうである。もっともこいつは偉い立場に居るのだが。


「そうはさせんぞっ! 再び我らの子を国には渡さぬわっ!」


 空から降ってきたのは大量の獣人。一人一人俺より背が高いであろう獣人が降ってきたので俺達はそれを見た瞬間、ここから離れた。獣人が空から降ってくるなんて聞いてない。


「ぐぉっ?!」

「くっ!」


 大臣は驚いているが、メイドさんの対処は適切であり、すぐさま二人の周りに結界が貼られる。ただ、結界を貼ったということは自ら逃げ道を絶ったということだ。


「さて、予想外のことがあって驚いたが大臣。お前の処分は済んでいないようだな」


 結界に弾かれ触れることの出来なかった獣人は、直ぐさま離れて結界の出待ちしている。転移石を持っていない限りここから逃げ出すのは不可能であろう。


「くっ、なぜ貴様らが生きているのだ! 白狐族!我等の暗殺隊がしっかりと根絶やしにしたはずじゃ……」

「やはり、貴様らの仕業だったか。大臣」

「大臣様!お逃げください! ここ私にお任せを!」


 レムのお母さんがゴミを見るような目で結界の中にいる大臣を見つめる。俺達には全く持って興味はなさそうだ。しかし、その周りにいる獣人は違うようで俺たちを見ると、敵意の視線ではなく、感謝の視線を送ってきた。しばらく見渡していると弓を構えている獣人が俺たちに話しかけてきた。


「本当に八岐大蛇ヤマタノオロチを倒しちまうなんて……お前ら何もんなんだ?」

「……は?」

「いや、まずは謝っておくべきだな。勘違いして申し訳なかった」


 獣人が勝手に話を進めているが、俺がついていけていない。なぜ先程まで人間を忌み嫌っていたのに、ここまで有効的に接しているのか。レムに説明を求めようとしたら、先に話してくれた。


「ワタシが……みんなにどれだけ皆がつよいか……教えました。そして、ゆうと一緒にいる許可も、もぎとりました……!!」

「も、もぎとったってどうゆうことです? レム」


 シーナが俺の気持ちを代弁した質問をする。確かに教えたのは分かるがもぎ取るというのは良く分からない。ソラとファラも興味ありげな視線を送っている。


「ワタシは……白狐族長であるおかーさんに 絶対勝者の決闘 というものを挑み、勝ちました。絶対勝者の決闘というのは、獣人の国で有名な決闘の方法で、これを一度はこなさなければ……いつまで経っても半人前とされています」

「それと今回の件はどんな関係があるのじゃ?」

「絶対勝者の決闘とはその決闘で戦い、決闘で負かした相手を一度だけどんな理不尽な命令でも……いうことを聞かせることが出来るようになる決闘です。おかーさんからには……ここに再び戻ることを許可する命令させました」


 無理やり命令を聞かせることができる決闘とは……しかも実の親にそれを挑むとはな。レムもかなりの覚悟があってそれを挑んだに違いないだろう。


「そこで、ワタシの九尾解放が目覚めました。これのおかげで……おかーさんにも勝つことが出来ました。戦闘時のワタシの状態は……九尾解放を行った時によるものです」


 レムのあの光を纏っていた状態は九尾解放によるものであったようだ。獣人の固有スキルだとは思うが、○○解放というものは何もかもが強力なのだろう。国王の時もよく分かった。それをレムが習得したのだ。かなりの苦労をしたに違いない


「なら、あのどろどろとした液体の小瓶は何だったのですか?」

「あれは……おかーさんがもしものために、と渡してくれたもの……です。匂いから解毒薬って分りましたが……おかーさんも心のどこかで、ゆうが倒すのを期待していていた、のかもしれません」


「なんだかんだ言って……みんな八岐大蛇ヤマタノオロチに苦しまされていたようだな」

「獣人達も八岐大蛇ヤマタノオロチが居なくなって嬉しそうに見えるなぁ」


 アルトも俺もこんな呑気にしているが、目の前ではレムの母上とその幹部たちが結界を破り、再び大臣達を拘束している場面が目に飛び込んできた。殺せば国として問題に……って誘拐だからもう既にか。こいつらはどうなってしまうのだろうか。


高覧感謝です♪

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