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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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vs八岐大蛇その2

 炎が俺達の向かう先を遮ろうとしているがシーナや俺の風魔法により、向かった先が炎の壁により行き止まりということはない。

 炎よりも大変なことは、この山のような存在から逃げ続けることだ。


「デカいだけあって一歩がでかいな」

「うーん、逃げるのは限界が来そうだね」

「そうですね。もう攻撃に移ってもいいのでは?」


 俺達は迫り来る巨大な生物から逃げるため、全力で森の中を駆け抜ける。たまに首を振りおろしてくることもあるのでなかなか怖い。隣にいる彼女達も慌てることもなく冷静に話しているので、追いかけられてたとしてもそこまで驚いていないのだろう。いつの間にか彼女達もこのような耐性ができたようだ。


「くっ?! こやつなかなかに硬いの……」

「ぶよぶよですね。我らの想具の連射モードが通じないとは」


 二人は俺達の少し前いる。体の向きは進行方向とは逆の、八岐大蛇ヤマタノオロチに向かいつつ後ろ向きに走りながら、想具であるハントガンを乱射している。しかしながらその効果は薄いようで、敵からはパチュン! と弾くような音が連続する。あの革はゴム質の様なものなのだろうか?

今更ながら、この八岐大蛇ヤマタノオロチはなかなかの大きさであり、おおよそ10m近くある。表皮は黒光りする黒に、足は四本、四足歩行だ。しかし、恐竜のような退化した手、どころか手がなかった。

 色々な攻撃をいなしながら走っていると、遂に前方に木がなくなっているのが見えた。森の出口だ。


「あれが出口か。あそこならおそらく誰もいないし、広さも十分だろう」

「なら、森を抜けたその時が戦闘開始ですね。準備しておきます」

「ふふふ……なんか久しぶりの共闘だなぁ」

「ソラよ、別のモードに切り替えるのじゃ。このままではあやつにダメージは期待できんからの」

「びしっと了解しました」


 ソラとファラはモードを変えたらしく、両手に持っていた銃に光を纏ったかと思えば、その両手に持つの光を一つへと合わせる。あの光に包まれた時がモード変更らしい。光が収まって出てきたのは、幾らか銃身が伸びたものであった。それと今更ながら、彼女たちの銃から薬莢は出ない。実弾を使っていないので当然といえば当然だが。


「出た途端全員が一気に散って、数とスピードで翻弄する流れでいくぞ。攻撃するときは狙えれば首、基本は足か胴体を狙ってくれると嬉しい。足と首は特に警戒してくれ。最後に、絶対に無理はしないでくれ」


 全員が頷いた途端、俺たちは森を抜けた。森を抜けた先は何処かの街道であるものの、周りは農作物や、小麦のようなものを育てているのどかな場所だ。この土地をぐちゃぐちゃにしてしまうのは悪い気がするが、こいつを仕留めるのだからそれで許してもらおう。


「グォオオオオオッ!!」


 八岐大蛇ヤマタノオロチは農作物を踏みつぶしつつ、街道へと突っ込む。その足は広々とした空間へ出たことの喜びか、はたまた俺達の動きが変わった事への警戒のためか、ゆっくりとスピードを下げ、止めようとしていた。もちろんこの間も八本もある相手の首は自由に動いている。


「無理に突撃しても他の首が邪魔してくるだろうから……まずは動きを止める!」


 全員が散ったのを確認してから、走る方向を急転換し、一気に八岐大蛇ヤマタノオロチの足元へと接近する。アルトも同様に刀を取り出して、足一本の太さが、小さい小屋並の太さもあるその足を切り付けようとしていた。


「はぁっ!」

「らぁぁっ!!」


 俺は様子見もかねて武芸は発動していない。いくらレベルが150を超えているとはいえ、伝説級の武器で切りつけるのだ。50センチぐらい切り込みは入って欲しいところ――だったのだが。


「?!」

「斬れない?!」


 刃から伝わるのは、タイヤを木の棒で叩くような感覚。刃は相手の足に入ったといえば入ったのだが、ほんの数センチ程度。アルトも同じような感想を持っただろう。

 敵は俺達の接近には気が付かなかったものの、攻撃には気がついたため、首をもたげるとそのまま首を振り下ろす。


「アルト下がれっ!」

「わかってる!」


 俺達は全力でバックステップ。俺はアルトのように身体能力が化け物ではないので、空中歩行を使いつつ、大きく距離を開ける。

 俺たちが下がった理由は数本の巨大な頭と首が、それぞれ俺達に向かい口を開けつつ、地面ごと飲み込もうとしたのだ。その大きな口は俺達がもともといた場所をバクリと飲み込み、頭から地面にぶつかる。それが何本もだ。人間だったなら頭からのヘッドダイブであるので、鼻が折れていただろう。


 ドドドドドォン!! と連続した爆砕音が二箇所で起こる。首はまだ数本残っているので、ここで近距離攻撃のため距離を詰めるということはしない。それに今の俺には遠隔攻撃の手段はあるのだ。


「「《溜魔弾チャージショット》!!」」

「《鎌鼬カマイタチ》」


 三人は両手に持った想具を俺達の元々いた場所を打ち抜く。ソラとファラは俺がいた場所を、シーナはアルトがいた場所を魔法により猛襲する。しかしあの蛇軍団も完全に追うものから狩るものへと意識を変更したらしく、その魔法を防ぐため、別の首から火炎を吐こうと、口から炎が漏れているのを確認できた。それを未然に防ぐために俺は無属性魔法を使用した。


「《反射リフレクション》!」


 この魔法は使用している間ずっと魔力を使用するものの、その恩恵は大きい。なにせ魔法に限らずすべての攻撃を反射してくれるからだ。ただ、味方の補助魔法でさえ弾いてしまうのが欠点といったところだな。魔法は魔力が少ないためできる限り節約して使いたいところ。


「グォオオオァァァァ?!」


 ボォォン!と火炎を放とうとしていた二つの首は口の中で爆発が起こり、口から黒い煙をあげながら二つの首は地面に力なくしおれる。爆発が起こったのはおそらく火炎が、口内の火炎を作る何らかのガスに起爆したせいだろう。あと六本。意外と楽そうだ。

 シーナと聖霊二人が放った魔法と魔弾は真っ直ぐに飛んでいき、爆発音が鳴り響く。どちらも威力は凄まじいもので、シーナの放った風の刃はスパっと首を切り裂いたものの、一刀両断とは行かなかった。だが確実にあの首はもう使い物にならないだろう。聖霊二人の魔弾も辺りを吹き飛ばすほどの威力があるため、凄まじくダメージを与えたようで吹き飛ばされた首は全く動かない。魔法に弱いらしいなこいつら。これであいつは残り四本、四又の大蛇となったわけだな。


「僕も負けてられないっ!」


 アルトが凄まじいスピードで四又の大蛇に近づくと直接首を斬りに向かったが、誰しも想定していない事態が起こる。


「グォァァァァァァッ!」


 四又の大蛇は、負傷した四本を無理やり胴体に戻したと思えば謎の体液をまき散らしながら再び()()()()を胴体から()()()()。まさかそんなことになろうとは誰しも予測をしてなかったので、俺以外の皆は焦燥の視線を送る。俺はそんなことは無駄だと切り捨て、 魔法纏の雷を使いつつ既に走り出している。もちろん使った後は反動があるが、ここで使わなかったら彼女が怪我をすることにより大幅な戦力ダウンに繋がりかねない。なにより一番に彼女には傷ついて欲しくないというのが走り出した時の気持ちだが。


「やばいっ?!」

「間に合ぇぇぇっ!!」


 雷速で駆け抜けた俺は既に空中歩行を使いつつ、アルトを必死で抱いたあと、全力で空へと逃げる。その時にローブがブチりと嫌な音をたてる。確実にちぎれたであろう。俺の一張羅が。


「ぁ……ユウ……っ」


 取り敢えずアルトは無事。だが、この程度で攻撃を中断するほど魔物は甘くない。雷速で逃げているのにも関わらず、大きな口が俺が地面に向かおうと決めた移動先に大きな口をあけて待っていた。


「くそっ……舌噛むなよ!」

「うっ?!」


 このまま地面に向かおうとすれば俺は相手のお腹の中へ突撃ということになる。食べ終えた晩御飯の中身を見るなんてゴメンだ。高速で移動しながら俺は上へと方向転換する。そのおかげで体にかかるGも凄まじいものであった。アルトには悪いが上へと逃げさせてもらった。


「ソラ! 援護するのじゃ!」

「分かってます!」

「《双風槌ツインエアハンマー》っ!!」


 シーナのくり返し放つ二つの風の魔法により、幾らか避けるのには楽になったが、この魔物はかなり頭が回る分類のようで、俺の向かう先に口を大きくあけて待っていてなかなか思うように動けない。


「僕も戦うから降ろしてっ」

「ちょっと待ってくれよっ!!」


 体勢も徐々に厳しくなってきている。ここで急にバランスを崩したら飲み込まれかねない。なのでいま、この姿勢で逃げ回るのが最善の策なのだ。聖霊二人とシーナも必死で俺たちのアシストをしてくれているが、生えてきた四本の首は相当固くなっているらしく、魔法が効かない。こんな時に相手は、余裕が出てきたのかさらにもう一本首を追加してきた。正直現状維持でも厳しいのにもう一本は相当きつい。助けてなんだが、アルトに魔法による助けを求めたかったが、彼女は既に魔法を唱えて行動スピードを下げようとしてくれていた。


 そんな中特別目立つような動きをしつつ、首を大きく震わせながら俺達に向かってくる蛇頭が口を大きく開く。火炎だろうか? とりあえず先決は彼女を逃がすこと。


「アルト悪いっ!!」

「ユウ?!」


 俺がとった手段、彼女を思いっきり空へと放り投げること。空なら彼女も飛べるし、なにより反撃の手立てになる筈だ。しかし投げた俺には当然大きな好隙がある。


「《魔法纏 》《水》っ!!」


 魔法纏を一旦解除してすぐさま別の属性に切り替える。火炎が来るならこっちは燃えないように水で耐えるつもりだ。しかしこの行為は思いも寄らない形で裏切られる。


「ゴァァァッ」


 出てきたのは毒々しい色をした深い霧。俺の経験から察するに毒ブレスと言ったところか。今纏っているのは水であるので風属性魔法も無属性魔法も発動することはできない。


「ちくしょっ《水膜アクアフィルム》!!」


 霧に効果があるのかどうだかわからないが、とりあえず防御しなくてはいけない。今回行った魔法は文字のどおり身体の周りに水の膜を発生させる魔法だ。そしてその魔法を発動した途端、毒々しい色をした霧が俺を包む。相手の攻撃の手が止まっている。チャンスだ。


 空中歩行を使いながら俺はいかにも毒霧と思われる空間から逃げ出し、地面に向かって走る。息は止めていたので多分吸わなければ大丈夫なはずだ。


「はぁぁぁっ!」


 天高くからアルトは刀を両手で構え一刀両断を狙うつもりだ。彼女は何らかの強化魔法がかかっており、落ちてくるスピードと相乗効果で当たればかなりのダメージが期待できそうだ。勿論この八岐大蛇ヤマタノオロチもそれはさせまいと彼女をを飲み込まんと大きな口をいくつも開きながら迎うつ。


「二度もおんなじ手は喰らわないよ!」


 彼女から羽は見えないが、使用しているのだろう。スピードを保ったまま、幾条ものの攻撃を回避し、数個の頭を一気に刈り取る。刈り取った首からは血は出なかった。再びもぞもぞと頭のない首が胴体に引き込まれ、再生の準備にかかる。やはり首にはダメージがないのか?


「アルト! やはり生えてくるようです! とりあえずこちらへ!」

「「《電磁撃マグネティックボルト》!」」


 シーナは様子を観察し、切った頭が復活することを伝える。アルトの帰還をアシストするため、聖霊二人は電撃を放つ。しかしながら、ゴムの様な表皮に阻まれ効果はなさそうであった。


「ふぅ、キリが無いね……」

「一体あいつの回復力はどうな――ごふっ?!」


 どうなっている、と言いかけたところで俺は思いっきり吐血する。その瞬間は何がなんだか分からなかった。言いかけた俺を見て彼女達は凄まじく驚いた様子であったが、ファラが真っ先に口を開いた。


「馬鹿者! 早く状態解除ディスペルを使わんか!!」

「使いたいのは……やま……やまだがどうにも……発動ごふっ?!」


 再び吐血。遅れて全身が痺れるような痛み。電気のような痛みではなく、細胞が破壊されている痛みだ。ゴロゴロと転がってしまいそうなぐらい痛い。


「ユウ?! 早く!」

「っ!! 八岐大蛇ヤマタノオロチが復活しました!」

「マスター、集中してください!!」

「やってる……よっ!!」


 今現在の状態異常バッドステータスは 魔力超低速回復、猛毒、そして魔法妨害だ。先程から魔法を使えない原因はこれにあるのだろう。魔法妨害の体感としては、何かを考えようとするとノイズのようなものと頭痛が走り、魔法の発動までたどり着けないのだ。だが、この妨害にへこたれていたら本当に毒で死んでしまうので必死である。


(慌てるな俺……たかたがこの程度で集中を乱してどうするんだよっ! )


 アルトは再び頭を刈り取ろうと走り出し、空を飛びつつ斬りつけるが余計固くなっているらしく一撃で仕留めきれない。ソラもファラもシーナも必死でアシストしているが、どうやら相手も学習したようで魔法の対策とも言える遠距離攻撃を多用してきた。そんな中俺は流れ弾が当たらないように回避するのに必死だ。


「くそ……っ!」


 魔法の構築を急いでいるものの、70%程度で集中力が途切れやり直しになる。俺は至った冷静に一つずつ魔法の構築を急いでいるが、いつも同じところで中断させられる。


「何がダメ……なんだぁっ?」


 必死で考えつつ構築してるも解決策が思い浮かばない。魔法纏により毒そのものを飲み込もうとしたが、魔力が使えないため、その行動は不可能であった。


「くそ……っ」

「シーナ! 交代!」

「任せてください」


 アルトはシーナに魔法を任せた後、俺の元へ飛んでくる。そして苦手と言っていた回復魔法を必死な形相でかけてくれている。すごく申し訳ない気分だ。因みに俺は木に寄りかかっている形だ。


「悪い……なアルト」

「ユウは早く魔法の構築を急いで!僕のせいでこんなことになったのに……ごめんね……ユウっ……」

「お前のせいじゃ……ない。気にするなよ……俺の不注意で……こうなったんだからな」

「グォォァォォァァ!!」


 だいぶ攻撃に慣れたのか、俺達の攻撃を首を引っ込めたり、移動したりしてよける事が多くなった。だいぶ状況が不利になってきたが、弱点を見つけることさえできれば一気にこちらへ傾くはず。


「でも……!僕があそこで突撃しなければ……ユウさ」

「失敗したなら……仕方ないんだよ。それを次に……生かせればそれで……いいんだ」

「マスター!火炎がそちらに!」

「主殿! 逃げるのじゃ!」


 気がつけば大きな口から炎が漏れているの確認できた。間違えなく火炎放射の予備動作。俺は毒でやられるかもしれないが、アルトが危険だ。


「おい……逃げろよ」

「やだ。ユウは……置いていかない!!」

「お前の魔力が少ないのは分かってる……だから……行け」


 アルトが指揮者コンダクターを使用しないのはこのためだろう。幾つもの首を切った時から強化魔法が解けているのはこれで説明がつく。


「それでも……! 僕は……もう二度と大事な人を置いてったりなんかしない!」

「いいから早くいけっ……!」


 その瞬間、遂に八岐大蛇ヤマタノオロチの口に溜まった炎のブレスが放たれる。その数は八本。確実に仕留めに来ている。そんな中、アルトは今の姿勢のまま、動かずじっと俺を見据えて話し出した。


「アルトっ!?」「主殿!?」 「マスター!?」


「ユウ、僕は、ユウの事が」


 アルトが何か言おうとした瞬間、凄まじい光力を持った光のレーザーが炎がとぶつかる。光が炎とぶつかるというのも理解できないが、実際にぶつかっているのだ。キュウウン!! という聖霊レオが纏っていた光のような音で、アルトの声は聞こえなかった。ただ、アルトの笑顔だけが目に焼き付いた。


「えっ……なに……これ」


 アルトは笑顔から一変、驚愕の表情を浮かべる。それはみんな同じである。魔法のレーザーの元をたどれば、人影が見える。


「あると、抜けがけは許さないよ?」

「……タイミング良いのか悪いのか分かんないよ」


 そこには、普段の彼女からは想像も出来ないほど恐ろしい闘気と、獣人とは思えないほど、洗練された魔力。そしてその量。顔と尻尾を見なければ確実に人間の別人と思うだろう。


「ワタシは……レム=シルヴァルナ。みんなを……助けに来ました!!」


 そこにいたのは間違いなく、光を纏っているレムであった。レーザーが打ち勝ち、そのまま八岐大蛇へと魔法が直撃する……そういえば獣人って魔法使えないから身体能力が凄まじいことになったのでなかったのか? なのに彼女からは強く、暖かい魔力を感じる。


「ほんとにレムなんだよな?」


 俺は毒の苦しみすら忘れて、素っ頓狂な声で彼女に話しかけた。



変更点

44話まで三点リーダーの誤用修整、セリフの若干の改訂をしました。本当に若干です


高覧感謝です♪

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