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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第101話 巡り会う人たち

 ここは魔界に近いとされる勇者の住む場所であり、そしてこれから向かう目的のお城である。

 城の中からは重々しい圧力を感じ取り、思わず身震いする。


「さて、ドリュード。しっかりと盾になれよ?」


 副ギルマスと呼ばれた男は紫色の髪をたなびかせなながら元一つ星(シングルスター)のオレ、ドリュードに話しかけてくる。

 この場にいるのはオレの他に副ギルマスの男性、そして白いローブを纏った謎の人物。彼、もしくは彼女は性別すら不明である。その者からは気配すら感じとれない。当然実力も未知数。これが噂に聞く《白神》なんだろうか?

 白神と呼ばれる存在は、冒険者ランクでいう二つ星(ツインスターズ)の位にあり、殆ど最高位な存在だ。果たしてどれだけ恐ろしい力を持っているのか、想像もつかない。噂話かと思っていたが、近くにいるそれは本物であると本能が告げていた。


 これから会いにいくのは、人間界の中の政治上でも大きな権力を持つ黒髪の女性。黒い髪色はかなり珍しいが、オレの経験上その髪色の者は、だいたい何かの大きな事件を引き起こす。もちろん、ユウも例外ではない。


「……すげぇ緊張してきた。はぁ、分かりましたよ」


 彼女と顔を合わせるのは初めてだが、震えが自然に発生してしまうまでの威圧感を感じ取ることが出来るため、凄まじい猛者であるのは間違い無いだろう。

 副ギルマスの問いかけに、嫌な表情を浮かべないように隠しながら無言で頷く。彼を怒らせてしまえば、オレの大事なアイツに危険があるかもしれないからな。


 お城の扉の前に立つと、背筋を凍りつかせるような風が吹く。緊張が満ちている状況でしばらく待っていると、数メートルほど高さのある巨大な扉は重々しい音をたてながら勝手に開いた。


 息を呑みつつも先行して入り、暗い空間を歩く。この場所は城というより、お化け屋敷と伝えた方が似つかわしく思われた。壁に無数に立てかけられている人骨、そして骸骨。血みどろの床。ボロボロの装飾品、そして青い松明の炎。

 この城の主は、かなり悪い趣味をしているといえる。


『ぎゃぁぁぁッ!!』

「ッ!?」

「やってるな」


 突然遠くから聞こえたのはけたたましい叫び声。魂まで身震いしてしまいそうな音波が空間を震わせる。ただでさえ雰囲気がお化け屋敷どころか心霊スポットなのに、こんな叫び声が聞こえてくるのだ。来る者は確実に拒んでいる。


「あの……この声って……なんです?」

「んー説明するの面倒臭いなぁ。じゃ、お願いね。一応伝えといた方がいいし」

【了解しました】


 敬語で話しかけると、副ギルマスは説明を白ローブに押し付けた。初めて声を聞いたが、白ローブの声音は脳内に直接響く、というのが一番良い表現方法で、ロボットのような無機質な声が、それの声帯を震わせずに発せられた。正直不気味さを感じる。


【先程の声は、この城の主が訓練と称して手下を拷問をし、その苦痛を受けている者の叫び声です。あのお方はサディストで、なにより人をいたぶることがお好きなお方です】

「おーこわ……」


 さでぃすと というのはよく分からないが、何とも恐ろしい場所へ来てしまったようだ。なぜ口を滑らせてしまったのだろうかと、不定期に聞こえくる絶叫を聞いて何度も思う。

 歩きながら彼女に関する説明を聞いていると、ボロボロの木の扉の前にたどり着く。手のひらのような血痕があり、殺人事件の匂いがした。


 副ギルマスがその木の扉を開けようとしたそのときに、白ローブが制止の声をかける。


【お待ちください、その扉の取っ手は非常に高温です。幻術魔法で紛らわせているようですが、これは罠です】

「……近くても熱すら感じないんだが。相当凄まじい幻術だな」


 その幻術魔法はオレが掛けられたことにすら気がつかないほどの隠密性をもち、高温すら感じさせない非常に強力なものであった。

 オレも一つ星(シングルスター)と呼ばれていた、冒険者の中では三番目に強い位にいるので、世界で通用する人間であると自負していたが、大きな間違いであったようだ。やはり上には上がいるものである。


 白ローブは扉に向け、手を出さずに袖を振り上げると何かを呟きながら魔法を唱えた。


「《解除アンロック》」


 ぽぅっと光が灯り、すぐに消失する。

 すると、ぎぃぃぃっと、これまたお化け屋敷でありそうな不気味な音を立てながら扉は勝手に開いた。

 開いた先には、ゴシック調の玉座があり、その部屋の壁に沿うように兵士が配備させられていた。

 直感ではあるが、一人一人の黒い甲冑の兵士たちもなかなか猛者の雰囲気であり、ギルドランクでいうならSランク以上。

 全員が全員微動だにしないので、置物といわれても違和感はない。


 その玉座に佇むのは、凄まじく長い黒髪の――!?


「――ああ、白神が居たから苦痛に呻く声が聞こえなかったのか。つまらんな」

「そ、そうだ。さて、今日は報告があって来たのですが……ドリュードっ、さぁ!」

「あの――っ」


 副ギルマスは慌てながらオレを前に押し出した。

 オレとしてもこんな所はすぐに立ち去りたいので、伝えたかった内容をすぐに発言しようと――喉が詰まってしまった。圧力に、押しつぶされてしまって。


 この息苦しさはかの者の凄まじい覇気によるものだろうか。黒髪の()()の視線はオレに対して興味を持つような視線ではあるものの、それは非常に鋭く、人を射殺せそうな、畏で震えが止まらなくなる視線である。


「それで? 報告とはなんだ?」

「え、えっとですね……凄まじく強い魔物がこの人間界にいまして、一応報告にと――」

「そんな事のために面会を許可したとでも? 余が聞きたいのはそんな事じゃない。召喚士サマナーは生きているのか、どうかだ」

「……えっ?」


 玉座に肘を突きつつ、にやにやとしながら黒髪の女はオレへ語りかける。ちょっと待ってくれ、オレは召喚士サマナーに関しての話題は一つたりとも――


「シラを切ろうなんて真似はやめておいた方がいい――レオ、こっちへ来い」

「ど、どうされましたか? 姫?」


 副ギルマスは先程とは違い、姫と呼びかけて怯みつつ語りかけるが、黒髪の彼女は完全に聞く耳を持たず、両手を合わせ、音を鳴らす。


 パンっという乾いた音が響くと、突如彼女の足元から黄金の魔法陣が展開される。

 ――そして、気がついた。召喚された者の姿、そしてそれに呼ばれた名前を理解して、全身の血が引いていくような感覚を覚えた。

 出てきた者、間違えようもない。オレがこんな怪我をした原因で、オレを殺しかけた張本人なのだから。


「クフフ、聖霊レオです。どうぞお見知りおきを。ね? ドリュードさん?」


 いまオレはどんな表情をしているのだろうか。分かっているのは目の前に見える死の恐怖、あの魔界に飛ばされたときに出会った、化け物と対峙するようなそれとほぼ同じである。


「……よろしく」


 絞り出したような細い声は出せた。

 恐怖への耐性があがったのか、それとも慣れたのかそれは分からない。

 しかし、そのおかげで副ギルマスには怪しまれることはなかった。


「それでですね、それとは別に相談があるんですが……アルトのいう女についてです」


 ここで副ギルマスは決心がついたようで、ついに口を割り、話し出す。今のアルトと言う言葉で二人の目が僅かに見開いたのは気のせいではないだろう。

 副ギルマスは一人での面会は断られると思い、オレを連れてきたらしいが、なぜオレなのかは未だに不明だ。


「ほう、あの闘技で活躍した女のことか。やたらサンガが気になっていたな。――下僕に偵察を任せたところ、急に連絡が途絶えたままで気になっていたが、お前らもあいつを気になっているのか」

「ええ……なんていったって折りがいが有りそうな女ですからね……」


 彼らは下衆な笑みを浮かべながら話をすすめる。オレはこの状況からどう脱出すればいいのだろうか。なんとかここから逃げ出す手段は無いものか……



 ~~~~~~



 混濁とした意識。もうこの時点で俺は気絶をしていると気がついた。だからどうしたといえばそれまでだが、今日だけで俺は三回も気絶をしている。流石に体に悪影響がありそうで不安である。そういう時にはやはり自らの黒歴史を掘り返して、辱めにより意識を取り戻すという自傷行為をすれば自然と意識は「おい、起きろ!」

「ぐっ……はっぅ!?」

(主殿!?)

(マスター! ぱっちり目が覚めましたか?!)


 冷静に持論を述べていたが、突然腹部への衝撃が来て、痛みと吐き気が俺の意識をよりいっそう覚醒させてくれた。

 目覚めたてなので俺の体はどうだか分からないが、ソラとファラは取り敢えず無事だったみたいだ。なんとか彼女たちを謎の煙から守れたようだ。


「おい、人間、立て」

「げほっ……げほっ……寝覚めの一撃にしては……随分重めな、ようで……」

(マスター、今の現状をずばずばと報告します)

(ここはよく分からんが、主殿は贄として何かの貢物として捧げられるようじゃ。無論あの二人、大臣と呼ばれた者も、侍女の者もじゃが、見当たらん)


 目がやっと開く。今現在、俺の状態は両手に手錠のような鎖が巻かれており、これのせいで魔法は使用不可能であった。また、足元は自由。


 そして背後にはとても頑丈そうな金属の檻。この空間は恐らく地下空洞を利用した牢獄のような場所であろう。


 正面を見る。俺を蹴り飛ばした白い狐のような獣人以外には誰一人としていなかった。


「立てっていってんだろ!」


 白い狐のような獣人は指示を無視したことに腹を立てたのか、俺の髪を思いっきり引っ張る。喧嘩には慣れていないので、当然このような痛みも慣れていない。なので驚いてしまい――


「っあ!? 髪は引っ張るんじゃねぇッ! 禿げるだろうがッ!!」


 自由な足を最大限有効活用し、片足でジャンプした勢いで、逆の足で獣人の喉元へと向けて膝蹴りを叩き込む。


「かっ――!?」


 その一撃は見事に目標の地点へ到達してめり込み、攻撃を与えた俺でさえ、これは痛そうだな、と思ってしまうほどクリティカルヒットへ。

 普通の状態だったなら慌ててこのような対処はできないはずだが、今は違うし、俺は慌てないことに意識を置いている。


 後ろへと重心が傾いた獣人だって、俺の拘束を解く鍵を持ってるかもしれないし、どっちにしろ気絶してもらうのが良い。


 ――と思っていたのだが。


「く、おおおおッ!!」


 彼はすぐさま意識を取り戻し、後ろ足をついて耐え、体制を整えた後、手に持っていた長い棒を振り下ろしてくる。

 それを見て、ふと思いついた。その攻撃を利用させてもらい、手錠のような鎖を叩き切ってもらえば良いと考えたのだ。早速考えを行動に移すしてみよう。

 

「さあこいっ――てぇぇッ!?」


 俺よりも圧倒的に背の高い獣人が全力で棒を降り下ろしたことにより、なかなか大きいの衝撃が俺を襲う。当然受け止め手になった手首とその手錠にも凄まじい衝撃が伝わり、ビリビリと痺れるような痛みが感じられた。

 がしかし、俺も振り落とされるわけにはいかないので、踏ん張って耐える。


 ――ギリリリッ!! と振り下ろされた棍棒と手錠の鎖がぶつかりあい、火花が散るほどにまで強烈な力が霧散する。しかし、火花は散ってもこの手錠の鎖は千切れなかった。どんな固さをしてるんだよ……っ!?


「むんっ!!」


 しばらくの硬直が続いた後、キリがないと思ったのか、棍棒を戻し、狐の獣人はとてつもなく太い足を振り上げ、蹴りの姿勢をとる。ちょっと両手が使えないのはきついかもしれない――


「どうせならこっちに攻撃してくれッ!」

「うぉぉぉッ!!」


 両手をできる限り広げ、蹴りが来るであろう位置に手錠の鎖を拡げて先に置いておく。格闘ゲームでよくある「置き」というテクニックだ。


「ぐっ……ってぇなぁぁ……ッ!」


 横に広げていた手錠の鎖の中心に、まるでプロのキックボクサーが放ったような蹴りが襲いかかる。


 先程より大きい横の衝撃波が俺を襲うが、未だに鎖は壊れない。痺れた腕をできる限り無視していると、ここで、再び思いついたことがあった。


「これを使って――っ!!」


 獣人の蹴りを止めた鎖で足を絡めとり、そのまま自分の体へと引っ張る。


「っ?!」


 予測不能な事態に獣人はバランスを崩し、こちらへ倒れ込んでくる。俺はその隙を逃さず次はみぞおちに向かって前蹴り。


「ごぁっ!?」


 気功術を纏っている暇がなかったので威力はあまり期待できないが、気絶させるのが目的なのだ。

 こちらが足を抑えているので吹っ飛ばないことを利用し、もう一度みぞおちを狙って再び前蹴り。今度は気功術を右足に纏ったので威力は十分だ。


「ぐ……あっ……がっ……」


 バタンと力なく獣人は倒れ、手に持っていた足に引っぱられて俺もつられて倒れる。なんとか仕留められたな。

 両手がなくても戦えるようにしっかりと練習した方がいいなこれは……

 鎖で捕縛していた獣人の足を開放し、やっと一息ついた。どうやら獣人相手であると、体術だけで一撃で気絶まで追い込めないようだ。


「ふぅ……さて、両手が使えないんだが……どうやってコイツの腰にあるカギを頂けばいいかな」

(主殿、我らを忘れてはいないかの?)

(しょぼーん、マスター、もっと頼ってください)

「あっ……忘れてたわ」


 完全に聖霊を召喚できることを忘れていた。なにせまだ契約してからおおよそ一日目なのだ。仕方が無いだろう。何故か落ち込んでいる彼女らを召喚するため俺は鎖でつながれている両手をかざし、召喚する。召喚は魔法ではなくスキルなので、使えたのだ。


 地面に描かれた黄金の魔法陣から、黒髪サイドテールの女の子二人が出現する。魔法学園の制服を着ていたが、顔を見ればやはりむすっとしていた。


「なぜそんな表情をしているのかは知らんが、こうなったのはお前らのせいだからな?」

「ちょ、待つのじゃ。 まさかこんなことになるなんて普通思わないじゃろ?」

「びくーん、私たちは迷惑だったのでしょうか……」


 二人はここに来てまさかの反撃に出る。それはうるうると目に涙を貯めることだ。こいつら……俺の記憶からソレに弱い事を知ったのか?


「……次からはこういう大事になる前に相談してくれ」

「! さすが主殿じゃ!」

「ふふん、わたしたちの勝利……」

「あと、それとこれとは別にお前らのための魔法も用意してるんだ、楽しみにしてろよ?」

「「…………」」


 ソラとファラの表情が固まる。そもそも彼女らと契約するのが遠征の目的ではなかったのだ。そのころは聖霊なんて言葉も知らなかったしな。何を契約したのやら。


「まぁとりあえず、コイツの鍵を奪って手錠の鍵を見つけてくれ。先に見つけた方は魔法をかける時間二分の一に減らしてやるぞ?」


 とっておきの魔法とは、ひたすら弱いところを魔法によって自動で擽る魔法である。なお、対象の弱い場所を全て自動で探し当て、魔法が擽ってくれるというなかなかに戦闘にも使えそうな魔法だ。消費魔力は10秒につき1というなかなか低燃費。


 その言葉を聞いた途端二人の目の色が変わる。


「我が先に見つけるのじゃ!」

「きりっ、我こそがファラより速く見つけます」


 二人は獣人から無理やりキーチェーンを抜き取ると、一つづつ俺に付けられているて上の穴へはめていくが、合わない。しかしかなり量があるのでしばらく時間が掛かりそうだ。


「白い狐の獣人が起きる前になんとか合う鍵が欲しいところだな」


 二人が一生懸命鍵を探すようすを横目に、いつ起きるから分からない獣人をじっくりと眺めていた。やはり男でも獣耳があってちょっと可愛い。


ご高覧感謝です♪


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