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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第100話 大臣との会食

100話目です!

 暗い夜道を高い場所にある松明がある照らしている。人の気配もいくらか少なくなった大通りに、馬車音をたてながら通り抜ける。

 この馬車は、遠征に向かうときの馬車とは全く品質が違うようで、非常に快適であった。揺れはするものの、前回のと比べれば、電車と自動車の揺れの大きさの違いがある。


 では、なぜ俺が馬車に乗っているのかというと――


「知らない人に付いていっちゃダメって教えなきゃいけなかったか……」


 ソラとファラは何の相談もなしに王宮に向かい、その結果、国の偉い人と会食を取るというのだ。一体何をやったらそんな出来事に巻き込まれるのだろうか。

 見ず知らずの人と食事を取るということにも驚きだが、お偉いさん方と会食の約束を取り付けるなんて、国絡みの事件でも解決してきたのではないかと思う。


 馬車から窓を覗きこめば、いつの間にか高そうなレンガ造りの家々が連なっていた。先程の大通りでは小さな木造建築物がまばらに見える程度であったが、こちらでは建物も大きくなっていき、しっかりとした作りが目立つ。

 連れられた理由は嘘ではなく、本当に王のいる城へ近づいているようだ。なんだか緊張してきた。


「ん?」


 獣人界では自然豊かな国ということもあり、窓の外では蛍のような光が周りに広々と溢れている。

 ぼんやりと幻想的な光景を眺めていると、その途中、凄まじく速く動く黒い影を見つけた。気のせいだったのかもしれないが、ギラりと月の光を反射して光るものを持っている気がした。

 まるで忍者のような怪しい雰囲気だったが、王宮とは逆の方向に向かって行ったので気にすることはないだろう。

 余談だが、月の形は至って元いた世界との同じで、変わりはない。二つあったり、赤くなっていたり、欠けていたり、大きくなっていたりはしていない。タイミング的にも満月なのだろうか。この世界は宇宙を歴て、元の世界と繋がっているのだろうか。


 街の光源は松明のみということもあり、非常に少ないため、星空は元の世界では見られなかったほど、凄まじく光っており、細やかに、綺麗に見えた。


 馬の嘶きが聞こえると、馬車は止まり、開けられる。すこし眠くなっていたのは内緒だ。馬車に慣れた証拠だろう。


「ユウナミカゼ様、こちらからはお手数ながら歩きで向かってください。それが決まりのであるが故、ご了承下さい」


 甲冑を着た大きな獣人が俺に語りかける。観察眼サーチアイによるとレベルは50を超えていて、獣人の人々の平均より高い。しかし、相手の同意がなかったのでこれ以上は読み取ることが出来なかった。


 背丈は相手の方が高いので、上から話しかけられたこともあり、ちょっと怖い


 兵士さんに言われた通り素直に従い、馬車から降りて門へと向けて歩き出す。先頭にはこれまた兵士さんがいるので道に迷うということにはならない。


(それにしても……でかいな。まさかここまで大きいとは想像がつかなかった)


 門から入っていきなり現れたのは、長くて高い階段である。少々長そうなので周りを見ておこう。


 この城の特徴といえば、お城のど真ん中に世界樹のような巨大な大木が生えだしていることだ。この樹木の影響からか、この城は大木の枝や葉に傘のように覆われている。


 また、門への階段の途中で周りを見れば、樹海を突っ切って作られていることがわかる。下には花畑、上は虫や木の枝が張り巡らされていた。


 今から向かう場所である、お城を見つめる。建物の天辺は木の枝の傘を突き抜けており、さらに大きなことが予想できた。

 流石は一刻の主が居るといったものだ。植物と獣人が共存している、ということが分かるくらい自然が豊かで、とても静かな雰囲気である。


 お昼にこの場に来たらとても良い観光エリアになるだろう。お城を観光エリアに開放するのも昇々危険だが。


 すこし疲れつつも階段を登りきり、ついにお城の入口へたどり着いた。正面門は大きな扉になっており、ぱっと見て五メートルほどありそうだ。ここまで大きくする璃優はなんなのだろうかと本気で考えてしまった。


「こちらです」


 城の内装は先程の自然を基調としたものとは真逆の光景で、非常にゴージャス感であふれるものであった。赤い絨毯は非常に高いイメージがあるので、土足で踏むのも少しだけ遠慮があった。


 様々な絵画、高そうな装飾品。どこを見ても王宮という名に恥じない造りであった。このお城にどれだけの税金を使ったのであろうか。計算してみたら大変なことになりそうだ。


 長い廊下と再びの螺旋階段を登れば、再び両開きの扉が現れる。そこの奥にはソラとファラの気配も感じられな。


「ここが、会場となります。それでは私はこれにて」


 ガッチリとした体格の兵士さんは凛々しくこの場から去っていく。俺は吹き返してきた緊張感を抑えるため大きく深呼吸をする。


「すー……はぁぁ。さて、さっそく――っ?!」

「なはは! お手洗いに失礼するの……じゃ?」


 俺が片方だけ扉を掴み、引いて開けると、その開いた扉の向こうからファラが突進してきた。彼女は走りつつ奥へと扉を押し開けようとしたので、突然開いた扉を予測できず、俺に突進する形になった。


「っと、よぉ? ファラ。随分楽しそうだな」

「えっ……あっ……あ……主殿……?」


 今の状態はファラが俺に抱きついている形だが、彼女はそんな状態を気にするようすはなく、徐々に顔は青くなっていく。

 どうやら俺の気持ちを汲んでくれたようだな。笑いを通り越して呆れていることを。


「おや? どうやら来ていただけたようだ」

「こんばんわ。この度はソラとファラが世話になりました」

「マ、マスター。調子はぐっと良くなったよう、ですね」

「ああ。お陰様でな」


 奥にいるソラも食事を進めていた手を止めて、硬直している。俺が来たことに対して非常に驚いているようすであった。来ることぐらいを知っていた筈なんだがな。


「あ、主殿? お、お手洗いに行きたいんじゃが……」

「お前ら二人、後でお仕置な」

「?!」

「?!……って早く行かなくては!」

「はっはっは。仲が良いな」


 そう言って俺はファラを離す。彼女は何処かへ駆けていった。

 彼のようすを見るに、彼女らが聖霊という存在であることは分かっておらず、むしろ二人のことは俺の奴隷だと思っているのだろう。


「まぁ座ってくれ、ユウナミカゼ殿。ともに食事を楽しもうではないか」


 名前に関しては恐らく彼女らが喋ったのであろうが……どうにも気に食わない。彼は誘拐まがいな事をしたにも関わらず、全く気にする素振りすら見せない。どこか手慣れている雰囲気は余裕すら感じさせた。


「食事までご馳走になって悪いんですが、二人に誘拐まがいなことをしないでくれませんかね?」

「誘拐とは人聞きの悪い。ワシはただ、彼女たちが困り果てていたから助けの手を差し伸べただけだ」


 ワイングラスを片手に、ブレない雰囲気のまま俺に返答する。

 どうにも……気に入らない。元の世界だったなら彼が咎められる立場であるのに、俺の管理が悪い言われているような気分だった。

 今、俺の中で彼は完全に怪しい人物である。本当に獣人界の大臣なのだろうか。

 ――そう考えてしまうと、この会食の主催者は誰か、という問題になってしまう。王宮の関係者じゃない限り、この城には入ることすら不可能だろう。高い権限を持っている事は確かだ。


「まぁ座りたまえ。ゆるりと楽しもうではないか」

「…………」


 怪しみながらも席に着く。漫画で良く見るような縦に長いテーブルにはたくさんの料理が並べられていた。当然美味しそうである。観察眼サーチアイで調べたところ毒の類は入ってない。ほんとに只の食事会のために俺を招待したのか?


「酒でもどうだ?」

「未成年に酒をすすめるなよ……」

「ふっ、ナミカゼ殿、十分に大人だろう?」


 グラスを揺すりながら初老の獣人は俺を見透かすように語りかけた。この世界で俺の歳は大人扱いされる年齢なのだろうか。

 ――っていやいや、こんなことをしている場合ではない。俺は俺で聞きたいことを聞かなくては。ご飯を食べに来たのではないのだ。


「あー、俺をこんなところに呼んだ理由を聞いてもいいですかね?」

「こんなところとは。夕食を共にしたいと思い、まねき入れただけだが」

「どの口がいうか。なんで見ず知らずの人間を招く必要があるんだか」

「むっ……」


 思わず視線が胸部にいってしまいそうな大きな胸を持ち合わせているメイドさんと、手に持つワインを拒否しつつ、俺をここまで呼び出した本意を聞き出すことにする。

 ソラが少しだけジト目になっていたが気にすることではない。


「――流石は愚弄の召喚士。では、ここに来た本当の理由を話そうか」


 その言葉を放つと、今までの不審者のような危ない視線がより一層鋭くなる。大臣の背後にいるメイドさんも何やらいつでも動けるように戦闘態勢に入った。危険な匂いがする。


「さて、防音結界は貼ってあるな?」

「はい、大臣様」

「なら話すとしようか。くっくっくっ、召喚士、お前に――」

「ただいまなのじゃ!」


 彼が何かを言い出そうとした瞬間、バターン! と大きく音を立てながらファラが戻ってくる。重々しい雰囲気も扉を開ける音と共に一気に開放された。

 防音結界を貼っていたため、外からは中からの声が一切聞こえず、雰囲気が悪いと思い、彼女は明るく振舞ったようだが、逆効果である。


「むむ……ファラ、空気を読んでください」

「どうやらやっちゃったみたいじゃな」


 少し恥ずかしながりながらファラは元いた椅子に座り込む。視線を戻せば初老の獣人がジト目で俺を見つめている。


「……さて、続きを頼む」

「この状況でいうのもなんだが、はっきり言おう。()()()()()()()()()()()()()をして欲しい」

「「…………」」

「くっくっく………どうだ? お前たちは実力もあるし、それ相応の器もある。ワシに協力し、みごと成功した暁にはお前たちにもそれ相応の位を用意しよう!」


 俺たち三人は全員が全員「何を言っているんだコイツ」という視線で、発言の主を冷たく見てしまった。メイドさんも頭を抑えて困ったような表情をしている。


「……いろいろ突っ込みたいのだが、まずなんでアンタは王を蹴落としたい?」

「あの王の政治は正直言ってつまらぬ! 弱者は蹴落とし、強者だけが生き残れる社会を作るのだ!」

「なら次。俺たちが協力をしなかったらどうする?」

「拒否はさせぬぞ? 大臣命令である」

「俺たちは観光のためにきたんだが?」

「関係ないな」

「「おう…………」」


 敬語を忘れ、再び絶句してしまう。コイツの脳内はどうなってやがる。脳みそまで筋肉かよ……脳みそは筋肉なのだが。

 そもそも、そんな国の形態なら一か月も持たずにこの国は世紀末となるだろう。なんで彼が大臣に成れたのかすら甚だ不思議である。


「忠告しておきますが、こう見えてこのお方は国の中でも二番目に強いお方です。この国のルールを覚えているならこの立場に居られる納得がいく筈です。最も、政治の方針は王が決めるのですが、それを維持していくためには賢い者を起用しています」

「くっくっく、そう褒めるな」


 彼らは俺たちが断らないとでも思っているのだろうか。ただでさえ面倒くさい上に俺は今遠征の真っ最中である。


「よし、分かった。とりあえず」

「おおお! 受けてくれるか!」

「では、この誓約書に手続き――」

「だれが受けるって言ったんだよ。そんなもんお断りだ」

「ご遠慮します」

「我もじゃ」

「「?!」」


 なぜこの王族二人が驚いているのか疑問である。そこまで自身の強制力に自信があったのだろうか。どちらにせよドン引きである。今すぐ体魔変換を使って転移魔法を発動したいところだ。


「ほ、ほう。お前らはこの大臣に逆らうと――むっ?!」

「っ! 大臣様! 来ましたッ!!」


 二人が何かに気がついた途端、部屋に取り付けてある窓から、ガラスを割る派手な音を立てて何者かが侵入してくる。アルトかと思えば、全く気配がない。獣人は気配探知がなくてもおおよその位置は測れるのか?


 大きくは窓は破壊されたが、防音結界が貼ってあるので周りへの音漏れは無かった。割れた硝子が地面に落ちようとする瞬間、凄まじい速さで侵入者は大臣の下へ移動するとそのまま――


「おっとぉ? 危ないな!」


 手に持っているナイフで大臣を切り付けようとしたか――が失敗に終わる。大臣も獣人界で二番目に強いだけあってすぐに動けるようになっていたので、バックステップを使い距離を開ける。


「銀髪に九つの尻尾……まだ生きていましたか。既に全滅させられたかと思いましたが、無事のようですね」

「…………」

「主殿、ここの空間に我らは必要ないのじゃないか?」

「そうだな、じゃさっそく体魔変換を使って……」


 ここから立ち去ろうとしたその瞬間、銀髪で口元を隠したニンジャのような者は、肩を大きく振りかぶり思いっきり投擲物を投げる。俺はナイフであったと予測したが、その予想は外れる。


 プスッ!と空気の抜ける音がした瞬間、投擲物の中から煙がもくもくと充満する。あの銀髪なにしやがった?


「ぐっ……催眠ガスか……」

「私がいるのにふか……く……」


 ばたり、ばたりと倒れて行く二人。人間の俺は俺若干の耐性がある為直ぐには影響は出なかったが、かなりくらくらし始めた。


「くそ……俺は完全無関係だろうが……《戻れ》!」

「なっ……主殿?!」

「マスター!? 我らは戦えま――」


 そういって彼女たちは魔法陣の中へ消えていく。今すぐにでも風魔法によりこの煙をふきとばしたかったが、先に限界が訪れた。


「く……そ……今日だけで……三回も気絶なんて……ありえ……ねぇ……」


 徐々に重くなってくる瞼、近づいてくる銀髪。こいつは……ギルドにもいた気がする。

 俺はそのまま瞼を落とし、完全に意識を手放した。


ご高覧感謝です♪

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