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変態は死すとも尽きず

作者: 紅・T・暑寒

変態は死すとも尽きず。


今を遡るほど10年余り、鯵州の街は恐怖に包まれていた。恐るべき犯罪が頻発していたのである。と言っても、テロだとか通り魔だとか、そんな派手な事件ではない、ひったくりの類の事である。

 夜、女性のバッグがひったくられ、けれども翌日同じ道を通ると道端に盗られたバッグが置かれている。そんな事件が多発していた。何より不気味なことには、ハンドバックに入っていた化粧品の類がみな、決まってベットリと涎まみれになっていたのであった。そして、しばしばメイクの改善案を記した手紙が添えられており、更に恐ろしいことにはその内容は概ね的確であった。


 さて、どんな事件にも犯人がいる。具体的には、一人の男であった。彼は決して女性に相手にされないわけではなかった。むしろその逆だったのだが、抱く女、抱く女、すっぴんが酷いのに絶望して以来、真の美しさはメイクにあると悟り、凶行に及んでいたのである。

 100人の化粧品を味わえばこの世の美の全てを悟れよう、そう信じて狩りを始めた彼は、既に99人を達成していた。今のようにそこかしこに監視カメラのある時代ではない、慎重な犯人を捉えるのは難しかったのである。


 ある夜、彼はついに100人目の獲物を捉えようとしていた。後ろから原チャで追い抜き、抜く瞬間、バッグを奪い取る。手近な路地に飛び込むと、盗ったばかりの獲物を開いて、顔を突っ込んで深く息を吸い込み、そして、激しく嘔吐した。

 こんなことが許されるのか、バッグの中からは、女物の匂いで隠し切れない、かすかな野郎の匂いが漂っている。想像だにしない異臭を胸いっぱいに吸ってしまった男は、反射的に胃の中身を皆バッグにぶちまけた。


 男が路地裏で脱力放心しきっていると、やがて懐中電灯の光が彼の周りに迫ってきた。被害者が警官を連れて自分を探している。逃げる気力もない彼の前に、警官が2人とその後ろにバッグ持ち主が一人、現れた。


「犯人はこいつでしたか?」

「ああ、そいつだった。」


 顔を電灯で照らされ、眩しくて相手の姿は見えないが、この声を聞いて、男には合点がいった。女装子であった。彼はがっくりと肩を落とし、従容として縄についた。


 それから10年、某刑務所で罪を償った彼は出所すると仏門に入った。今では同房の僧のカミソリを舐めては満足しているという。

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