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高円寺の夜に、踊りと共に

作者: 琴羽

8月の下旬。暑さのピークも過ぎて、少しずつ夏の終わりが迫っているころ、東京都の高円寺では年に一度の大きなお祭りが開催される。

東京高円寺阿波踊り――土曜と日曜の二日間を使って行われるそのお祭りは、のべ100万人近くの来場者が訪れ、夏の熱気にも負けないほどに異様なまでの盛り上がりを見せる。

高円寺駅の周りを囲むように無数の屋台が立ち、ほかの店に負けないように少しでも多くの客を獲得するためにしのぎを削っている。だが、お祭りの一番の目玉は駅から垂直に伸びる大通りを練り歩く阿波踊りの行列。それを囲むようにして来場者は、少しでも近くで踊りを見ようとせめぎ合う。

高円寺と言う駅にその二日間だけで、お祭りを目当てにあふれんばかりの来場者が訪れる。

そして、その誰もが心に何かを抱えている。


不安や悲しみ、悩みなどあらゆる感情が一つの場所に集まって、それらはお祭りと言う形のないものの中でどうしようもなく揺さぶられてゆく。



100万の群集の100万の感情が、お祭りの始まりと共に揺れ動きだした。



斎藤孝二

「はあ、まいったな」

ついさっきも確認したばかりのはずなのに、つい腕時計を見て時間を確認してしまう。何度も確認したところで時間は早く過ぎてはくれないはずなのに、どうしても時間を確認しないではいられない。

“遅れておりました三鷹行きの電車は、あと10分ほどでまいります”と、そんなアナウンスを聞いてからようやく5分ほどが経った。

中野の駅はどうしてか、いつも以上に人々でごった返している。8月も後半、日曜の夕方、休日を楽しむ人々でにぎわう駅の中、堅苦しいスーツを着て斉藤孝二は立っていた。

突然の上司からの呼び出しに応じて、せっかくの休日を返上しわざわざ東京までやってきた。その帰り道、なにやらお祭りの混雑に巻き込まれ、電車は遅延し、人混みに流されている。

もう一度確認した腕時計の針によると、時刻はまだ6時近くらしい。少しでも早く帰って妻と子供に会いたいと、そう願いながらようやくやってきた電車に乗り込んだ。

案の定電車の中も混んでいて、自由の利かない体勢に辟易しながら、なんとか身を小さくして次の駅に到着するのを待っている。電車の中を見渡しても、斎藤のほかにスーツを着たサラリーマンなど見当たらなかった。

(夏休みの日曜日だから、それも当たり前か)

自分が働いている間もこうしてほかの人は楽しそうに夏の遊びを満喫している。浴衣を着て手をつないで歩く若いカップルや、小さい子供を連れた親子など、様々な人がいる。

斎藤の子供はもう中学校に進学し、とても幼いとは呼べない年齢にまで来ていた。特に仲が悪いわけでもないが、少しずつ会話をする回数も減っていき、お互いになんとなく距離を感じていた。

それに比例するように、妻との距離も離れていき、いつの間にか必要最低限の会話しかしなくなっていた。

(家に着いたら部屋にこもって仕事の続きを片付けよう)

そんなことを考えながら電車に乗っていると、突然どこかからお囃子が聞こえてきた。にぎやかな太鼓の音と人々の声が電車内にまで響きわたる。提灯の光と人々の波。電車の中から望むその景色に、どうしてか目が離せなかった。

『え~、高円寺~。高円寺~』

車掌の声と共に電車の扉が開くと、車内にいた人々は押しくらまんじゅうを始める。出口を目指して押し合いへし合い、ドア付近にいた人々は道を譲るために一度電車の外に出て待機する。斎藤も流れに身を任せ電車の外に出て、流れが落ち着くのを待った。ここが目的地ではない人は、電車から降りる人がいなくなれば再び同じ電車に乗り込まなければいけない。

そのはずなのに……

360度の人々の熱気と、何の遮蔽物もなしに聞こえる祭囃子と人々の叫び声に、ただ胸がドキドキした。

ブザー音と共に閉まるドア。過ぎ去る電車。もう一度乗り込まなければいけないはずだったのに。

斎藤孝二は静かにそれを見送った。




吉野景子

「はい、いらっしゃー!いらっしゃーい!ビールでもカクテルでも、なんでも一杯300円だよー!!」

高円寺駅から徒歩5分圏内の居酒屋で働いている吉野景子は、この日は特別に店の外に出て、お祭りにやってきた人々に向けて飲み物の販売をしていた。普段はそれほど多くの人が利用するわけではない駅だが、年に一度この時だけは数えきれないほどの人々で埋め尽くされる。だからこそ、この屋外販売も年に一度の特別だった。

「景子ちゃん頑張るねー。どう、ちゃんと売れてる?」

「あ、店長。もう、全然ですよー。どんだけ声をかけても、みんな無視無視!」

決して飲み物も全く売れないわけじゃないが、なんとなくほかの店に比べて売れ行きが悪い気がする。どこの店も取り扱っている飲み物の種類なんてそう変わらないはずなのに、気に食わない。

「まあ、この辺は激戦区だからねー。しょうがないっちゃしょうがないけど。やっぱり売り子さん次第かな?」

にやにやと笑いながら、からかうように景子に発破をかける。ただ、店長はあまり売り上げを気にしているようには見えなくて、ただ景子のことをからかいたかっただけかもしれない。

(あー、なんか腹が立ってきた。なんでせっかくの日曜だっていうのに、こんなビールっ腹のおやじと一緒に過ごさなきゃいけないのよ)

さっきまでは仕事をすることによって忘れていた寂しさといらだちも、店長に声をかけられたことにより一気に思い出してしまった。

本当だったら、今日は仕事なんてせずにもっと楽しい時間を過ごしているはずだったのに。今ごろは、きっとどこかで手をつないで歩いているはずだったのに。

(あー、蒼太のバカ野郎!!!)


「おまえ、マジで面倒くさいわ」

確かにその瞬間までは景子の彼氏だった大野蒼太に、そう告げられたのが今からちょうど一週間前。そんな心ない言葉を突きつけられて、今まで通りでいられるわけがなかった。

うまくいっていれば、今日で付き合い始めてから半年で、一緒にこの高円寺のお祭りを回った後、近くでディナーを食べて記念日を祝うはずだった。

そこれもこれも、二人の関係が崩れてしまえばすべて水の泡だ。ディナーの予約はキャンセルしてもらい、一人でこの高円寺にいる。

もともとデートのために空けておいたバイトのシフトも、予定がなくなれば空けておっく必要もない。なんとか寂しさを埋めたくて、店長に急きょ電話し仕事を入れもらうことにした。お店側としても人手は欲しかったのか、あっさりオーケーされて今日に至る。


「あーもう!!」

一度店の中に戻って、厨房のビールサーバーと向き合う。乾かしてあるきれいなグラスジョッキを取り出して、そこにビールをたんまり注いでいく。当然、客から注文があったわけではない。

そしてそのまま、ビールを口までもっていき喉に注ぎ込む。グビグビと音を立て、喉ぼとけを小さく上下させながら、一気にビールを胃の中に注ぎ込んだ。

中ジョッキいっぱいにあったビールは一瞬にして胃の中に収まり、わずかな泡を残して跡形もない。

「け、景子ちゃん……?」

少し離れたところからおずおずと店長がこちらの様子を覗き込んでいる。初めて見た景子の素顔に驚きを隠せていない様子で。

「店長!もう一回行ってきます!!!」

ダンっとビールジョッキをテーブルの上に勢いよく叩きつけて再び店の外へ向かう。こうなったらビールでもなんでも売りまくってやると意気込んで、雑踏の中に飛び出していった。




川原慎吾

「ねえねえ、私たこ焼き食べたぁい」

アルコールにかき氷、ソーセージにたこ焼き、様々な出店が通りをにぎわせて、通行人の舌を誘惑する。片手にビールを持ちながら堪能する出店の食べ物は、お祭りの醍醐味の一つかもしれない。

「いいぜ。せっかくだしうまいもん食おうぜ」

川原慎吾はお祭りの人混みの中を、左手にビール缶、そして右手には彼女の左手をつなぎながら、人波をかき分けるように乱暴に歩いている。

「そう言えばさ、慎吾の方から誘ってくれるなんて珍しくない?しかも急にお祭りに行きたいだなんて」

「あれ、言わなかったっけ。なんか今日友達が踊るらしくってさ。見に来てって言われたんだよ」

「ひっどーい!じゃあ、私を誘ったのはついでだったわけ?」

たった今出店で買ったばかりのたこ焼きをほおばりながら、川原の彼女――永川理科は頬膨らまして怒っている。

「なんだよ、じゃあ誘ってほしくなかったか?俺はただお前と一緒に祭りに行きたかっただけなんだけどな」

「ちょっとぉ、あんまりいじわる言わないでよ。私も慎吾と一緒にいられて嬉しいにきまってんじゃん」

さっきまでのふくれっ面はすぐに隠して、理科はべったりと川原の身体に寄り添った。それに応えるように、夏の暑さも気にせずに身体を寄せあった。

「理科、愛してるぜ」

耳元でそっと愛をささやくと、くすぐったそうに目を細めている。

(正直、別にそんなに好きでもねえけどさ)

そろそろ3か月くらい経つ頃だろうか。理科の方からの告白をオーケーして、なんとなく惰性で付き合っているだけなような気がする。理科はそれなりにスタイルも良いいし、付き合っていて損する相手ではない。

「理科……」

だから、愛をささやく。

理科のために。自分のために。

二人はお互いの熱を肌で感じながら、祭りの中を歩き続けた。



改札の外に出て、実際に祭りの会場に入ってみると電車の窓から見た以上に人の多さを実感する。誰もかれも友人や恋人、そして家族と楽しそうに歩いていてる。こんな堅苦しいスーツを着て一人で歩いているサラリーマンなどどこにもいなくて、完全に一人だけ目立っていた。けれど、そんなことを気にしたところで始まらない。周りの目は気にせずに、どんどんと人のごみの中に入っていく。

高円寺の駅には二つの出口があり、すでに駅の出口から外に続く通路にかけて祭りの参加者で混雑していた。駅の周りにはいくつか大きな通りがあるが、その中でも特に大きい通りは、今回の祭りのメイン通路となり阿波踊りの行進が行われているため、そこは特に混雑している。

何の予備知識もなしに急きょこの祭りの参加した斎藤にとって、目に入ってくるものすべてが驚きだった。

(阿波踊りを見るために、こんなに大勢の人が来るなんて……)

いったい何人の人がこの高円寺駅に阿波踊りを見に来たのか、なんの知識もない斎藤には見当もつかない。

ただ肝心の阿波踊りの様子は人混みの壁に阻まれて全く見えない。時々見えるのは、提灯ののぼりだけだった。

それでも、踊っている人たちの熱気だけは伝わってくる。何メートルも離れているはずなのに、少しも熱は冷めていない。

「すごいな……」

思わず感嘆の声を漏らす。ほとんど地元の小さなお祭りしか経験してこなかったせいか、東京の大きなお祭りにいちいち驚きが止まらない。

「ねーえー、おじさん。一杯どう?どれでも一杯300円だよ?」

道の脇から踊りの会場の方角を見つめていると、突然若い女の子が声をかけてきた。姿を見た限り目の前の居酒屋の従業員のようで、店の外で飲み物を販売しているように見える。ただ、どうにも様子がおかしくて、どこからどう見ても酔っている。

「え、えっと……」

「見た感じ素面そうですけど、ダメですよ?せっかくのお祭りなんだから飲まないと」

まさかいきなり酔っ払いの女の子にからまれるとは思っていなかったので、少し面食らう。ただ、言われてみればなんにも飲んでいないのはそうだった。

「じゃあ、ビールを一杯だけもらおうかな」

酔っ払いの売り子の子から強い哀愁を感じて、結局一杯買ってしまった。何があったのかは知らないが、必死な形相で飲み物を売っている。

「あ、ありがとうございます!!本当に、本当にありがとうございます……」

今にも泣き出しそうな表情で彼女は、氷水の中で冷やされたビール缶を取り出して拭いている。

(ノルマか何かでもあるのかな?)

ただ、あまりにも必死なその姿を見ていると、そんな単純な理由だけじゃないような気もする。

彼女が何を思い、なにを考えながらこの場で働いているのか、知るはずもない。彼女だけじゃない。この祭りに来ている人たち全員、なにかを思いこの場にいる。

(でも、さすがに俺と同じ仕事帰りのサラリーマンはいないか)

大げさなくらい感謝を告げる女の子のもとを振りぬいて、駅から離れるように歩きは始める。もっと近くから踊りを眺めようと大通りを外れ裏路地に出ると、一気に雰囲気が変わる。

子供たちの姿はなくなり、大人たちがビールを片手に語り合っている。さっきの女の子ように店の外に出て物を売っているものや、それを買って店の前でたむろしているもの。ほんの少し通りを外れただけで、そこは完全に大人の空間になっていた。

「ぶはー!!なんだよ兄ちゃん、仕事帰りか?精が出るねえ!!」

少しの間、立ち止まっていると突然店の前の椅子に座っている初老のおじさんが声をかけてきた。その男は顎に無精ひげを蓄えて、その立派なひげをビールの泡で汚している。もともと赤黒い肌を酒でさらに赤くして、一目で酔っぱらっているのだと分かる。

「こんばんは。たまたま帰り道に気が向いて、ふらっと寄ってみました」

「そぉかそぉか。仕事の疲れは祭りに来て忘れるのが一番よ!」

おじさんは豪快に笑い飛ばす。適当に会釈をして立ち去ろうとした瞬間、隣の空いている椅子をこれまた豪快に叩き出した。

「なあに、せっかくだ。仕事の愚痴の一つでもこぼしていけよ。酔っ払いのおやじで良ければ相手するぞ?」

思いもよらない提案に一瞬思考が停止し、答えるまでに間が出来てしまった。それが嫌がっていると判断されたのか、おじさんは寂しそうに眉を下げた。

「やっぱりこんなオヤジじゃだめか……」

「いえ、せっかくなので、お願いします」

その返事と共に、どっかと椅子に座り込んだ。その様子を見て、おじさんはニヤリと笑う。

「よしきた!やっぱり祭りってのはこうじゃねーとな!」

小さな通りの、小さな店の前で、男二人の会談が始まった。



「あれから30分、売れたのはビール3缶にチューハイ2缶、ジュースが2缶……私の何がいけないって言うのよー!!」

初めはやる気に満ち満ちていたのだが、あまりのハケの悪さにやる気が徐々にそがれて行く。

途中、優しいおじさんが買ってくれたおかげで何とか気持ちをつないでいたが、それでもいい加減しんどくなってきた。今すぐこんな仕事を投げ出して、祭りの人混みの中に消えていけたらどれほど爽快だろうか。

「誰か、私のこと連れ出してくれないかな……」

そんな淡い期待を言葉にしても、すぐに雑踏の中に掻き消えていく。

「ねえ、慎吾。私あのアイス食べたいー」

「はあ?おまえさっきから食ってばっか」

目の前を少しチャラついた若い男女が通り過ぎていく。濃密に腕をからませて、並んで歩く。指と指をからませて、腕と腕をからませて。男は少し冷めた顔で、女はとろけたように甘い顔でお互いの熱を求めている。

(私も、ほんの一週間前まではあんな風だったのかな)

そんなことを考えた瞬間、無償に腹が立ってきた。目の前の女はあんな風に楽しく笑っているのに、私はこうして一人でいる。

(私に、魅力がないから……)

いつの間にか目の前から例のカップルはいなくなっている。その代わりに駅の方角から若い男の集団がやって来ているのが目に入った。商売をするには格好の相手だ。覚悟を決めて、狙いを定める。

「いらっしゃーい!飲み物なんでも一杯300円だよー!お兄さんたち、おひとつどうー?」

目の前までやってきた男たちに呼びかけてみるが、いまいち反応が芳しくない。今まで通りのやり方で売っていたら、おそらく売れるものも売れない。何かが頭の中で吹っ切れた。

「ねえ、お兄さんたち、買ってくれたら特別サービスするよ?特別に……お兄さんたち良い男だから、一杯買ってくれるごとに一回キスしてあげる!!」

完全に勢いに任せてしまった感はあるが、後悔はしていない。こんな格好の客を易々と身を来るわけにはいかなかった。

「おい、キスのサービスだってよ。おまえ買って来いよ」

「ええ~、いいよ別に。そう言うお前が行けよ」

「なんで俺だよ。俺、彼女いるし」

男たちはけらけらと笑いながら去っていく。振り向きはしたが、立ち止まることすらせず、興味もなさそうに笑っている。

なにかが、音を立てて崩れ落ちていく。

両手に作られた握り拳を震わせて、ただ心が落ち着くのを待つ。男たちはすぐに別の話題に花を咲かせ、どこか人混みの中に消えていった。

「ちくしょう、ちくしょう……」

感情が高ぶるのが抑えきれない。抑えきれない感情が、言葉となって飛び出していく。

「ちくしょうー!!蒼太のバカ、バカやろう!馬鹿野郎―!!!!!」

店の目の前を通る通行人がみな一様に、おかしなものを見るような目で見つめている。そんなことを気にする余裕なんてなかったが、その冷ややかな目が余計にみじめさを浮き彫りにさせた。

もう、これ以上こんな場所にいられない。

誰でもいいから、早くこんな場所から連れ出して欲しいと、もう一度強く願う。

(お願い……蒼太!!)

景子は決まった宗教などない典型的な日本人の思想で、祈るべき神様など存在していない。ただ、困った時の神頼み。名もないどこかの神様に祈るしかない。

もしどこかの神様がたまたま景子の願いを聞いていたのだとしたら、あまりにもその神様は非情でいじわるが過ぎる。

景子の目の前を再び一組のカップルが通り過ぎていく。腰の近くまで伸ばした明るくパーマかかった髪と、華美な化粧の浴衣の女性。その女と手をつないで歩く男の姿を見て驚愕する。

少し大柄な身長と通った鼻筋、短く切りそろえられた茶髪と少し鋭い瞳。見間違えるわけもない。

ほんの一週間前まで隣を歩いていたはずの彼が、今は見知らぬ女と手をつないで歩いている。それも、今まで景子には見せたことのないような笑顔を浮かべながら……


大野蒼太は新しい彼女と共に祭りの喧騒の中に消えていく。




「ねえ、慎吾。見た見た?今のビール売りの女、すごい顔して私たちのこと睨んでたよ?」

相も変わらず理科は慎吾にべったりと寄り添い、名前も知らない女のことを小ばかにする。彼女がそういう性格だということは十分分かっっていたから、今さら特になにも思うことはない。

「どうせ彼氏の一人もいないから、俺たちのことひがんでるんだろうよ」

だから、一緒になって笑う。いつの間にか、理科の前では自分を作っていないことに気が付く。理科の人を小ばかにした態度も、慎吾の物事をよく考えない適当な生き方も、お互いに心地が良かった。

(案外、そんなに悪くない女かもな)

つなぎ合わせた手に、ほんの少し力を入れる。すると、それに気づいたのか、理科は顔を上げ、鼻と鼻がぶつかりそうなくらいの距離で見つめ合う。

――そして、一度口づけ。

「ねえ、そろそろ踊り見に行こっ」

突然、理科は大きな声を上げてそんなことを言う。阿波踊りなんて、さっきまでみじんも興味なさそうな仕草をしていたはずなのに、どうしてか急に乗り気になっている。

「まあ確かに、せっかくここまで来て、肝心の阿波踊りを見ないっていうのも馬鹿らしいからな」

そもそもこの高円寺に来たのは、友人からの誘いだったことを思い出す。後になって見に来なかったことを責められても面倒だと思い、踊りが行われているメイン通りに向かって歩きだす。

(けど、それにしても見物人も多すぎるし、参加団体も多すぎるし、本当に見つけられんのかよ)

この広い高円寺のどこかで踊っているのだと考えると、とても見つけられる気がしない。事前に友人が参加している団体の名前は確認していたが、それだけではとても見つけられそうにもない。

「ねえねえ、今日ここで踊ってるっていう慎吾の友達はどんな人なの?」

何気ない理科の質問にハッとする。今日、ここにいる友人のことだけは知られるわけにはいかなかった。

「こ、高校の友達だよ」

別に嘘をついているわけではないはずなのに、嫌な汗が噴き出してくる。高校の時からの付き合いということも、友達と言う関係も、“今のところはまだ“間違いではない。つまり簡単に言いなおすと、いわゆるキープだ。

「ふうん、会ってみたいなあ。慎吾の高校時代のこととかいろいろ聞いてみたい!」

そんな会話を続けながら、人波をかき分けて踊りが行われている大通りへ向かう。大通りの近くの人々は、みんな立ち止まって踊りを眺めていてほとんど人の流れが動かない。しばらくして大通りの近くまでたどり着いたが、なんとか人の隙間から踊りを見るのが精いっぱいだった。

「ダメだこりゃ、ちっとも見えやしない」

慎吾の方はまだよかったが、身長の低い理科は何度も小さく飛び跳ねて必死に見ようとしている。さらには周りの見物人に押しつぶされて辛そうだ。

「諦めて帰ろうぜ。どうせそんな大したもんじゃないだろうし」

「そうだね。私は慎吾と一緒ならなんでもいいよ」

今もこの高円寺のどこかで踊っている友人には、頑張って探したけど見つからなかったと適当に嘘をつけばいい。

一刻も早くこの混雑を抜け出そうと大通りに背中を向けた。

その瞬間、誰かが慎吾の名前を呼ぶ。

「慎吾―!!」

その声は明るく、そしてすっきりと透き通った女性の声で、この群衆の中で自分の知り合いを見つけられた喜びに満ちていた。

「ゆかり……」

彼女は今、この高円寺のどこかで阿波踊りを踊っていなければならないはずで、こんな風に誰かに話しかける余裕なんてないはずだ。

――そのはずなのに。

「ど、どうしたんだよ。踊りはいいのかよ」

「うん!今は待機時間だから、ちょっとくらいは抜け出せるんだよ?」

完全に予想外だった。まさかこんな風に話をすることが出来るなんて、まるで考えてもみなかった。もし慎吾が一人でこのお祭りに来ていたのだったら、きっとこの想定外の出来事に感激しただろう。

だが、今はそういうわけにもいかない。

「よかった、本当に来てくれて。慎吾のことだから、直前になってやっぱり行かないだなんて言うんじゃないかって心配してたんだよ?」

ゆかりはまだ理科に気づいていないが、当然理科はゆかりに気付いている。高校時代の友人だというのは嘘じゃないと説明しても、どう見てもゆかりの慎吾に対する態度は友人に対するそれじゃない。

「聞いて、ないよ……」

悲痛に満ちた声がようやく理科の喉から絞り出された。その声を聞いたゆかりがようやく理科の存在に気づく。お互いに目を合わせ何かを伝え合うかのように見つめ合っている。やがて、二つの方向から向けられる軽蔑の目。

すべてが音を立てて崩れていくのが分かった。




少なくとも一時間は経っただろうか。名前も知らない初老の男と語り続けているうちに、お祭りはだんだんと佳境にさしかかってきている。結局まだ肝心の阿波踊りを見られていないというのに、こんな酒場で時間をつぶしている。

「兄ちゃん、少しは元気になれたかい?」

家庭のこと、仕事のこと、人間関係、ありとあらゆる愚痴をただひたすら零し続けた。お互い名前も知らない関係というものがこんなに心地のいいものだとは思わなかった。なんの遠慮もすることなく、すべてを包み隠さず話すことが出来る。

「ありがとうございます。おかげでだいぶ楽になれましたよ」

まさか仕事の終わりに高円寺のお祭りに一人で行くことになるなんて、そしてそこで見ず知らずの男に愚痴をこぼすことになるなんて、今朝の斎藤に話したとしてもきっと信じることはなかっただろう。

「そろそろ座ってるのも飽きただろ?せっかくだ、踊りでも見に行こうぜ」

ジョッキの半分ほど残っていたビールを一気に飲み干すと、初老の男は立ち上がった。すぐ目の前の大通りに向かって歩いていくのかと思いきや、男はどこかあらぬ場所へ向かって歩き続ける。

「そこの通りに行くんじゃないんですか?」

「なに言ってんだ。んなところ、人が多すぎて見えやしない。俺はかれこれ30年くらい毎年欠かさずこの祭りには来てるんだ。穴場の一つや二つ知ってるのさ」

小さな通りも迷わず進んでいく、自分よりも20も30も上の男の背中がずいぶんと頼もしく見えた。

(なんだかいいな。こういうの)

お祭りなんて地元の小さなもの以外、ほとんど行ったことはなかったがはずなのに、なぜだかすごく懐かしい気分になれる。

(ああ、そうか。まるで……)

まるで父親のようだと、そう思った。いつか昔、父親に手を引かれ歩いた地元の祭りの景色が一瞬フラッシュバックする。体格も性格もまるで違うはずなのに、いつの間にか目の前の初老の男に父親のことを重ね合わせていた。

地元の人しか知らないような裏路地を超えて、さらには小さなお店の中を通っていき、やがて通りに面した小さな建物に入った。さらにその建物の中の小さな道を進み、その先にある扉を開いた瞬間、一気に視界が開いた。



(蒼太のバカ!馬鹿!)

あんなものを見せつけられて、今まで通り平静でいられるわけがなかった。気付けば身体が自然に動き出して、大野蒼太の背中を追っていた。追いかけたところで、今更会って話をする内容もない。ただ、昔の彼女とデートするはずだった場所に、新しい彼女を連れてくるのはあまりにもひどすぎる。

どうせディナーの予約を取り消すのが面倒だったから、違う女を連れてきたとか、そんなくだらない理由だろう。高円寺の酒屋でバイトしているとは伝えていなかったが、あまりにもタイミングが悪すぎた。

「とりあえず、一発殴ってやる!!」

あのふざけた顔に一発入れてやれば少しは気が収まるかもしれない。ただそれだけの執念を胸に、蒼太のことを追いかける。人にぶつかるのも気にせずに狭い道を強引に駆け抜け、ひたすら遠くへと向かう。その先に、目指す人がいると信じて。


「はあっ、はあっ……」

しばらくの間走ったが、目的の人物は見当たらない。長い間走った反動で息が上がってしまい、膝に手をついて呼吸を落ち着ける。だが、一度上がった呼吸は、そう簡単には元に戻ってはくれない。そうやってしばらくの間肩を大きく上下させ続ける。

気づけば辺りからは人の量が少なくなっていて、走っているうちにずいぶんと駅から離れてしまっていたようだ。こんなところに蒼太がいるわけなんてない。そう思った瞬間、全身から力が抜けていく。

景子のことを突き動かしていた原動力はなくなり、一気にすべてがどうでもよくさえ思えてくる。蒼太のこと、バイトを抜け出してきてしまったこと、何もかも忘れてこのままここでずっと立ち尽くしていたいとさえ思う。

(バイト先、戻りたくないな。このままバックレようか……)

こうなってしまってはもう、いつまでもこんなお祭りにいる意味はない。ようやく呼吸が落ち着いてきたのを確認して、屈めていた腰を元に戻す。

すると、急に視野が広がった。目線が高くなったことによって、ガードレールや通行人の背中、邪魔なものが全部なくなって見違えるように世界が広くなった。

「やっとさー!!」

大きな声でなにか掛け声のようなものが聞こえてくる。反射的に声の方向を振り向くと、そこには列をなして同じを踊りを踊る無数の人。

意味なんて分からない、何のために叫んでいるのかも分からない、それでも阿波踊りの踊り手たちから放たれるその言葉は、どうしてかとても力強い。




できることといえば、ただひたすら呆然と立ちつくすことだけだった。もはや言い訳することすらできず、泣きながら走り去る理科を止める手立てなどなかった。

「本当に、最低だね」

何の慈悲もない、冷徹な言葉が胸を貫く。それでも言い返す言葉も見当たらずに、ただその痛みに耐える。

「まあ私は、あんたがどんな人かも良く知ってるつもりだし、あんたの彼女でも何でもないし、そんなにショックじゃないけどさ。でもやっぱり、ちょっと見損なったかな」

「ごめん……」

「どうせやるなら、もっとうまくやればいいのに」

どれほど悔やんでも、どうにもならないことくらい容易に分かる。今から泣いて謝れば少しは可能性があるかもしれないが、そんな気力は残されていない。

「ゆかりー!列動くよー!」

「ごめん、今行く―!」

仲間から呼ばれたゆかりは、あっさりと列の方に戻っていこうとする。こんなことがあった後だというのに、やけに冷静な足取りで。

「ま、待ってくれよ!俺は!」

次第に遠くなっていくゆかりの背中に、思わず手を伸ばす。未練がましいとは分かっていても、どうしても引き留めずにはいられない。けれどその手は届かずに、ゆかりは振り向くこともせずに列の方に向かって進んでいく。

だが、列の直前になってようやく歩くことをやめて、慎吾の方を振り向いた。その瞬間、列は祭囃子と共に動き出す。

「せっかくこんなところまで来たんだからさ。私の踊り、見ていってよ」

それだけ言うと、再び前を向き直し列に合流した。おかしな掛け声と金を打つような音の楽器の音ともに、優美な踊りを踊りだす。

列は動いているため、ゆかりの姿はやがて見えなくなりどこかに消えていった。

(見えなく、なっちまった)

今日限りでゆかりと慎吾の関係も終わる。最後に彼女は踊りを見ろと言ったが、別に今更踊りなんかに興味はない。

(もう、帰ろうかな……)

一人でこんなお祭りの中にいたって、むなしいだけだ。女に逃げられた情けない男だと、周りにアピールしているだけのむなしい男でしかない。

だったらもう、いつまでもこんなところにいる理由はない。

――そのはずなのに。

気づけば、ゆかりが踊っている場所の方へ走り出していた。

未練が残っていたわけでもない。

言い訳をしに行くわけでもない。

謝りに行くわけでもない。

怒りに行くわけでもない。

ただ、ゆかりが最後に言っていた言葉が頭から離れなかった。

“せっかく来たんだから、私の踊りを見ていってよ”

踊りなんてまるで興味もなかったはずなのに、走り出す足は止まらない。人波をかき分けて、少しでもよく踊りの見える場所を目指した。






野上誠二

うるさいほどの喧騒と、胸を震わす太鼓の音が心地いい。この高円寺の祭りは、何年来ても変わることはない。毎年変わらずに心を高ぶらせてくれる。

野上誠二がこの高円寺のお祭りに来るようになってから、早くも40年余りが過ぎた。妻である野上治子は徳島の出身で、上京してから毎年ずっとこのお祭りに欠かさず参加していた。それを見るのが誠二の楽しみであったが、4年前に治子が亡くなってしまい、楽しそうに踊っている妻の姿を追いかける楽しみはなくなってしまった。だが、目当ての踊り手はいなくなってしまった今でも、こうして毎年足を運んでいる。

「おっと」

後ろから若い女性が勢いよく走って来て、誠二の肩にぶつかった。その女性の姿はすぐに見えなくなったが、一目見ただけで今にも泣きそうな顔をしているのが分かった。

(可哀想に。なにか悲しいことでもあったんだろう……)

お祭りは何も楽しいだけの場所じゃない。その場に居る者の、ありとあらゆる感情を高ぶらせる。誠二も若いころはこのお祭りの場で、何度か治子とケンカしたこともあった。そして、そのたびに生きていくのが辛くなるほどの苦痛を覚えた。

「なあ、治子。おまえは今でもこの場所で踊っているのか?」

お祭りと言うものは本当に、必要以上に感情を揺さぶってくる。楽しいことも、辛いことも、悲しいことも……



「どうだ、どんなに壮大な自然の景色よりも絶景だろう?」

初老の男のそんな問いかけに返事をすることもできずに、ただ呆然と立ちつくす。たどり着いたのは小さな建物の、さらに小さなバルコニー。斎藤と案内してくれた男のほかに、観客はわずか数人。

そこから見える景色に、思わず息をすることも忘れて見惚れてしまった。力強い男踊りに、華麗な女踊り。大通りを占領して無数の人々が同じ踊りを踊っている景色は、まさに絶景だった。

「すごい、ですね……」

結局、口から出たのはそんな拙い感想。ただ、あまりにも壮大なその景色を前にして、それ以上の言葉は出てこなかった。

この場所にいるときだけは、仕事のことも、家庭のことも、人間関係も、老いも、疲れも、そして今、隣に誰がいて、自分がどこにいるのかすら忘れていられた。

――だから。




景子はしばらくの間、その場から動けずにいた。きっと今この場で踊っている人たちは、ひたすら無心で、ありとあらゆる現実のしがらみから解放されているのだろう。

そう考えたら、蒼太のことやバイトのこと、そして景子自身のこと、すべてがどうでもよくさえ思えてくる。

(そうだ、もう全部どうでもいいんだ)

だが決してそれはネガティブな意味ではなく、むしろしがらみを断ち切るために必要な思考で……。

――だから。



「これが、ゆかりが見せたかったものなのか……?」

一糸乱れぬ動き彼らは踊っている。何の意味があって、なんのために踊るのか、慎吾にはまるで理解ができていない。それでも彼らの真に迫る踊りを目の前にして、まるで冷水を頭から浴びたような気分になった。

(なんだよこれ、わけわかんねえ。なんでこいつら、こんなに必死に踊ってるんだ……)

感動したわけじゃない。感心したわけじゃない。ただただ、理解できなかった。スポーツと違って勝敗があるわけじゃないし、なにか目に見える結果が得らるわけでもない。そのはずなのに、どうしてここまで必死になれるのか。

(わかんねえ……)

何一つ分からないはずなのに、どうしてか今まで自分のしてきたことが急に全部バカらしくなってきた。

ほんの一瞬で大事な人を二人も失って、逃げ出す気力すらなくて。そのはずなのに、この踊りを見ていると、不思議と力がわいてきた。

――だから。



阿波踊りの様子がよく見える、大通りに面したお店のテーブル席に座り一息つく。治子が亡くなってからは、この店の二人かけのテーブルに座りながら踊りを眺めるのが毎年の習慣になっている。もちろん、向かい側の席には治子の写真を置いておくのを忘れない。

窓から外の様子を眺めると、若い参加者たちがみな一様に楽しそうに踊っているのが見えた。その姿に、遠い昔の治子の姿を重ねる。

治子が亡くってすぐのころは、もう阿波踊りなんて見たくないとさえ思った時期もあった。

「それに、何度もおまえの後を追っていこうかと思ったこともあったんだよ?」

もう二度とこの高円寺のお祭りには行かないと、そう心に誓っていた。だが、治子が亡くなってから初めてのお祭りの時、誠二の二人の息子が絶対に行った方がいいと強く言うのだった。

「このお祭りにも絶対に来ないつもりだったんだけどね。やっぱり息子たちには勝てやしない。結局行くことになったよ」

あの時は本当に憂鬱でしかなかった。足取りは重く、一歩歩くたびに胸がズキズキと痛んだ。途中で引き返そうと何度も思ったが、息子たちと約束した手前帰るわけにはいかない。

高円寺の駅を降りて人混みの中を歩いていると、胃がキリキリと痛んで吐き出しそうになった。なんとか吐き気を抑えて必死に歩いて、踊りを目指した。

「それでね、とても不思議なことが起こったんだ。行く前はあんなに憂鬱だったのに、踊りなんてあんなに見たくなかったのに……

一直線に伸びる巨大な阿波踊りの列を見た瞬間に、悲しみがどこかに吹っ飛んでいったみたいに、心が軽くなったんだ」

治子にこの話をするのは、もう何度目だろうか。何度話しても飽きないほどに、あの時の感覚は奇跡のようだった。今ではもう阿波踊りに対する恐怖感は消えて、むしろ治子の生前よりも虜になっているかもしれない。

悲しみが完全に消えたわけじゃないし、おそらくそんな日は一生来ないだろう。

それでも……

「治子。おまえはもういないけどね、私はこの踊りを見ているだけで強くなれる」

――だから。



「また明日からも生きていこう」


この高円寺の空の下で、たった一つの踊りに励まされた人々が自分自身に誓いを立てる。

悲しいことも、辛いことも、楽しいことも、すべてを受け止めて明日から生きていく希望をくれる。


これは、そういうお祭り。


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