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アムルディアの戦将《ウォーロード》 ~アールシア戦記TRPG異譚~  作者: GAU
第二章 “聖騎士”サーシャ・レクツァーノ
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第81話


「……う?」

「リン! 気がつきましたか!」

 うっすらと目を開けた盗賊の少女に、ケインは声をあげた。

 まだぼうっとしているようなリンは辺りをうかがう。

 そして。

「……サーシャさん?」

「ええ。なんとか間に合ってくれたようです」

 ぼんやりとしたリンの疑問に、ケインが答えた。

 それが聞こえたのか、サーシャは右手をあげて紙片をひらひらさせる。

「ケインくんのインスタントファミリアが手紙をくれたからね。あわててこっちに向かったのよ」

 それでもかなりの早さであろう。

 この移動の早さはサーシャの信仰する大地の女神ギアの固有魔法のおかげだ。

 そんなやり取りを見てミルカナは嘆息した。

「……その用心深さ。ケインさんは良い冒険者になれそうですね。やはりここで始末しましょう」

 言うが早いか、ミルカナの右手がぶれた。

 それとほぼ同時にサーシャの左手が跳ね上がる。

 彼女の手にした楯の表面で、光の矢が弾けた。

 またしても早撃ち《クイックドロウ》を防がれたミルカナは、しかし表情を変えること無く銃杖を連射する。

 だが、そのことごとくをサーシャの楯が弾き散らした。

 のみならず、サーシャはゆっくりと歩き始めた。

 [ファランクスヴァン]。

 回避を放棄することで、敵の攻撃を受けながら前進するという捨て身に等しい移動スキルだ。

 本来ならダメージを受けながら進むという使用に注意が必要な危険スキルなのだが、すべての攻撃を楯で弾くように防御できるサーシャならばさほど問題にならない。

 連射を止めないミルカナと、淡々と攻撃を弾きながら前進するサーシャの攻防に、ケインは息をするのも忘れた。

 そして二人の距離が手を伸ばせば届くほどまで近づく。

 ミルカナは、顔を引きつらせつつ銃杖から光弾を放った。

 ほぼゼロ距離。

 だが、サーシャは苦も無く楯で光弾をはじいた。


 刹那。


「フッ!」

「クッ?!」

 サーシャ得意のシールドカウンターがミルカナを襲う。

 対してミルカナも楯を振るった。

 ふたりの聖騎士の楯が正面から激突した。

 瞬間。

 金属塊に思いきりハンマーを叩きつけたかのような音が響き渡り、衝撃波が広がって植樹の葉がざわめき、建物の窓がひび割れた。

『むうっ?!』

「きゃっ!?」

「くうっ!?」

 衝撃に煽られラファールがバランスを立て直し、悲鳴をあげたリンを抱え込むようにケインが彼女をかばう。

 その暴風の中、正と邪の聖騎士たちの姿から目を放さずに。

 衝撃波の中心となったふたりは、微動だにしていなかった。

 が、ワンテンポ遅れてミルカナが一歩二歩と後ずさった。

 サーシャは楯を叩きつけた姿勢のままミルカナをにらんでいた。

「…………さすがは英雄《化け物》ですねえ」

 ミルカナの頬を汗が伝う。

「あまり私を見くびらないことね」

 ミルカナの呟きにサーシャが返すと、彼女は苦笑した。

「見くびったつもりはなかったんですが、見立てが甘かったことは認めましょう」

 言いながらミルカナがサーシャから距離をとる。

「逃がすと……!」

 言いながらサーシャは駆け出した。

 その目の前に、二体のコピーゴーレムが飛び込んできた。

 しかし、サーシャは速度を緩めない。

「邪魔っ!」

 気合いと共に叩きつけられた楯によってゴーレムたちがまとめて撥ね飛ばされる。

 子供のかんしゃくによって叩きつけられた人形のごとく、ゴーレムは手足や頭がちぎれて動かなくなった。

 その様子に、ミルカナは初めて焦りを露にする。

「ロンド!」

 叫びに応えるように、青年冒険者が頭を押さえながらサーシャの進む先に飛び出してきた。

「くっ?!」

 さすがに彼を吹き飛ばすわけにはいかず、サーシャはブレーキを掛けて彼を抱き止めた。

 その隙をミルカナは見逃さなかった。

「それでは退かせてもらいますよ? 楯の聖女。“我が身そこに有、彼の身ここに或。我は彼、彼は我。なれば我が存在は彼の地に在”」

 素早く唱えられた呪文に従い、魔法陣が広がり、ミルカナの姿が霞のように薄れていった。

「ではごきげんよう……』

 言葉を残し邪神の神官はその姿を消した。

 サーシャはミルカナの声に応えるようにして虚空をにらんだ。

「……転移テレポートね。逃げられたか」

 上位職の魔術師ならば魔法にカウンターを仕掛ける事も出来るが、いかんせん聖騎士であるサーシャには不可能だし、下位職のケインは言うまでもない。

 マウレアの神官は不和や裏切りを誘発する固有魔法を使う。敵として相対するにはもっとも厄介な相手と言えるだろう。

 それを逃してしまったことは、サーシャとしては痛恨時と言わざる終えなかった。

 だが。

「……まあ、三人を助けられて良しとしますか」

 サーシャは腕の中で気絶しているロンドを見下ろして笑みを浮かべた。

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