第67話
「……」
無言で駆け出した五人のフード被りをジェリコとサーシャが迎え撃った。
得物を持っていないように見えるが、油断は禁物だろう。
と、リーダーらしきフードが足を止める。
刹那。
「フッ!」
鋭い呼気と共に、サーシャが一歩前へ。
その盾に、三本のナイフが突き立った。さらにサーシャが蹴り上げる。
弾き飛ぶのは黒塗りのナイフ。ご丁寧につや消しだ。
暗がりでは視認はかなり難しいだろう。
この場にはハーレスらが転がした魔法道具のランタンの光があるが、それでも他のナイフの影を飛翔していたそれに気付ける可能性は低い。
気づかなかったジェリコはわずかに顔をしかめる。
「すまん」
「いいわ、それよりっ!」
サーシャへと四人のフードが殺到する。
二人が跳躍、二人が低空へ。
翻るローブから刃が覗く。
瞬間の判断で、サーシャは低空の刃のひとつを跳躍して避け、もう一方の頭を勢いのままに蹴り付け、空から迫る刃のひとつを盾で弾いた。
残るひとつの鋭い切っ先がサーシャの蒼い瞳へ。
「させん、よっ!」
その刃の主がジェリコの拳を顔面に受けて吹っ飛んでいく。
「痛ぅ……」
「……固いな」
が、顔をしかめたのはサーシャとジェリコだった。
その目の前で吹っ飛んだ二体が起き上がる。
顔を隠していたフードがはだけ、露になった。
「……こいつは」
「マリオネットゴーレム」
驚くジェリコに答えるようにして、サーシャは呟いた。
彼らの見る先にいるのはのっぺりとした白い仮面のような顔だった。
他の二体もフードを外す。そこから覗くのは、やはりのっぺりとしたおうとつの無い仮面のような顔だった。
そして、リーダーらしき人物もフードを外す。
「……なかなかやりますね」
尖った耳に長い銀髪。蒼い肌の女性だ。
「……フォールンエルフね?」
「くすくす♪ ええそうです」
サーシャに答えながら楽しげに笑う。その笑みはどこか歪だ。
「それにしても私のマリオネットゴーレムとまともに戦えるなんて、素晴らしい腕前です」
笑いながら告げる堕ちたる女エルフに、サーシャは警戒を強めた。
確かに攻撃を受けてみた感触は、かなりの強さだった。
その速度といい生半可な戦士では到底太刀打ちできないだろう。
しかし、防御主体とはいえサーシャも33レベルもの高レベル聖騎士だ。
装備も隠密性を視野に入れて、メインの武器防具ではないがそれでも余裕はある。
その力量は、彼女にも見当がついただろう。
にも関わらず、フォールンエルフの女は余裕の笑みを崩さなかった。
「……やりなさい」
主の命に、四体のゴーレムが駆ける。
マリオネットゴーレムの特徴は、ゴーレムとしては破格の運動能力にある。
それでいて金属を使用しているため強度やパワーも高い。
大きさは一般的なゴーレムと異なり人間大だが、単純な戦闘能力はレベル20ほどの戦士に匹敵する。
それらがふたたびサーシャに迫った。
彼女は盾を掲げて人形共を迎え撃った。
「二体任せるわ!」
「よかろう!」
サーシャが言うやいなや、ジェリコは左側の二体へと躍りかかった。
そちらを任せ、聖騎士の乙女は右の二体を受け持った。
マリオネットゴーレムは、両手の甲から鋭い刃を伸ばして襲い来る。
その内の一体の刃を盾で受け止めるサーシャ。その瞬間にサーシャは神速の早さで半歩踏み込んだ。
ただそれだけで、マリオネットゴーレムの腕が弾け飛んだ。
【シールドカウンター】のスキルだ。
攻撃を避けられない代わりに、攻撃してきた相手にダメージを与えるスキルである。
もともと防御重視のサーシャのスキル構成は、防具に依らずとも高い防御能力を発揮する。
【オートディフェンス】や【要塞の構え】、【鋼の意志】、【大地の加護】等といった常時スキルに、受けるダメージを逸らして軽減する【アーマーディフレクト】、それを強化する【鎧護りの極意】といった防御に関するスキルを山ほど取得している。
そして、ダメージを受けたマリオネットゴーレムに、盾で追撃の一打を入れる。
【シールドスマイト】だ。
【シールドカウンター】からの追撃専用だが、さらにダメージを与えられる。
そこへもう一度盾を使った裏拳が入った。
【シールドストライク】。
ダメージを与えた際のダメージロールで使用するスキルで、ダメージを増加させる効果を持つ。
【シールドカウンター】は固定ダメージを与えるスキルな為、ダメージロールのタイミングが発生しない。が、【シールドスマイト】を使用するとダメージロールが発生するため【シールドストライク】が使用できるわけだ。
この三連撃を受けたマリオネットゴーレムはあっさり崩れ落ちた。
それを見たフォールンエルフの女はポカンとなる。
「……な、なにが?」
そう呟くのをしり目に、サーシャはもう一体の繰り出した刃を長剣でいなした。
次いで、【盾撃】のスキルで殴り付ける。
無論、盾で。
その一撃に、またもや【シールドストライク】で追撃する。
それを受けて大ダメージを受けた二体目のマリオネットゴーレムは大きく後退した。
【盾撃】に付随して使用した【プッシュシールド】の効果だ。
体勢を崩したゴーレムに、サーシャは素早く踏み込んで長剣を十字に振るった。刃の軌跡が光を放ち、マリオネットゴーレムを十文字に切り裂いた。
聖騎士の数少ない攻撃スキル【ディヴァインクロス】だ。
攻撃を光の属性攻撃に変換し、十文字に二回斬撃を放つ強力なスキルだ。
おかげで、シーン中一回しか使えないスキルである。
それだけあって効果は確かで、二体目のマリオネットゴーレムめ砕け散った。
その直後に、ジェリコが背中から伸ばした二本の触腕を刃にして一体を切り刻んだ。




