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アムルディアの戦将《ウォーロード》 ~アールシア戦記TRPG異譚~  作者: GAU
第二章 “聖騎士”サーシャ・レクツァーノ
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第65話


 その後、サーシャはロンドらと食事をしながら歓談し、楽しい時間を過ごした。

 そして歓談後にロンドのカンパニーに誘われた。

 やはり仲間に神官が欲しいというのもあるだろうが、それ以上にリンやケインもサーシャという人物を気に入ったらしくかなり乗り気であった。

 が、サーシャはやんわりと断り、そのまま真鍮の歯車亭にとった部屋に引き上げてしまった。

 それを見たロンドが肩を落としたところに、リンが彼女には想い人がいるらしい事をポロッと漏らしてしまい、トドメを刺されるのはまた別の話となるが。




 地影のギ・ダルク(だいたい夜中の一時から三時頃)。

 寝静まった真鍮の歯車亭の食堂に、人影が現れた。

 ふんわりとしたボリュームのある薄茶色の髪の女性、サーシャだ。

 飲みに降りて来た訳ではなさそうなのは、身に纏うのが夜着ではなく、軽装の皮鎧であることから明白だ。

 カウンターまでやって来た彼女は、椅子に腰かける。

 と、天井からドロリとした黒い液体がカウンターの向こう側に落ちてきた。

「魔物っ?」

 思わず剣と盾を構えて跳び退いた。液体はすぐさま四足獣の姿になり、二本の触腕を伸ばすと静止するように振った。

「待て! 騒ぐな私だ」

「その声……ジェリコ?」


 聞き覚えのある渋い声にサーシャは目を丸くした。触腕を生やした獣は、その輪郭をぬるりと溶かし、人の姿をとった。

 それは確かにジェリコの姿だった。

「……すまん。驚かすつもりはなかったんだが、調査に手間取って遅れてしまった」

「……いいわ。それよりあなた、リキッドクーガーだったの?」

 リキッドクーガー。

 スライムのような液状に変化することの出来る黒豹の魔物で、錬金学士アルケミックエンジニアによって造り出される彼らの切り札ともいうべき錬金従者アルケミカルサーヴァントのひとつだ。


 戦闘能力は他の錬金従者に若干劣るものの、隠密行動能力に長け、二本の触腕により細かな作業も出来るという便利な従者で、擬態能力により人間に化けることも出来るなど至れり尽くせりな従者だ。

 しかし、錬金学士のキャラクターレベルが低いと知能が野犬レベルに低くなる上に様々な特殊能力も有効に機能せず、高レベルで作成しないと役に立つとは言いがたい従者だ。

 サーシャの仲間であるシグナは、自ら作成したゴーレムと錬金従者を使用していた。

 シグナのプレイヤーである真司は、これらを使い分け、様々な局面で活用できるプレイヤーだった。


 それを見てきたサーシャ《静香》ですら、これほど見事に人間に化けられるリキッドクーガーはちょっとお目にかかれなかった。

 サーシャの言葉に、今度はジェリコが驚きを露にした。

「ほう、知っていたか。そうだ、俺は錬金従者だ」

「……まさか、あなたもアルエットの?」

 探るように訊ねると、彼は頭を振った。

「違うな。アレの錬金従者は別に居るよ。ゴーレムもな。俺はアルエットの祖父、ファルケ・シエラの錬金従者だ。主の命により孫娘の護衛兼お目付け役をやっている」

 ジェリコの答えにサーシャは驚きを隠せなかった。

 ファルケ・シエラは、アールシア戦記TRPGのルールブックで重要NPCとして紹介されているキャラクターだ。

 魔法道具と錬金学の大家で、彼無くして現在の錬金学士は無いとまで言われる人物である。

「……驚いた。あなたの存在もだけどアルエットも充分VIPじゃない」

「……そうなるな。まことに遺憾ながら」

 サーシャが漏らした言葉に、ジェリコは頭を振って嘆息した。

 普段の苦労が偲ばれる息の吐き方であった。

「……まあ、俺だけではなく裏方で護衛についていてくれている凄腕も居てな。街のトップも承知しているから直接どうこうされるようなケースはほとんど起きんよ」

「……なるほど、その時はあなたの出番という訳ね?」

「主に創造されて六十年あまり経つ老いぼれだがね?」

「あら? 渋くて素敵よ? おじさま♪」

 肩をすくめたジェリコに、サーシャは魅力的な笑みを見せた。

 ジェリコは一瞬あっけにとられたが、すぐに苦笑した。

「まあ、あちこちガタが来てるからな。あまり出張りたくはないが」

 そういう訳にもいかんと漏らすジェリコの微笑みは、我が子を見守るような優しいものであった。

「……そう。なら、頑張って掃除しないとね?」

「……くく、確かに」

 サーシャがおどけるように言うと、ジェリコは含み笑いしながら頷いた。

「それで? 今分かっていることは?」

「ああ、行商の元締めや各ギルドマスター。領主まわりなど調べたんだがどうにもな」

 ジェリコは顔をしかめた。

「市場に出る魔法道具は、すべて小売店に卸される前に行政のチェックが入る。どうもそこでちょろまかしているみたいだ」

「……行政内に流しているヤツがいるの?」

 サーシャは呆れ顔になった。だが、ジェリコは考え込むように黙り込んでしまう。


「……どうしたの?」

 それに気付いて、サーシャは彼を見た。ジェリコはひとつうなずいて口を開いた。

「領主の下で魔法道具の管理をしているのはゴードンという男でな。その性格は勤勉実直で好感が持てる人物だ」

「知ってる人?」

 その口ぶりにサーシャが訊ねた。

 ジェリコはうなずき、続ける。

「アルエットの造る魔法道具を検査してもらう関係でな。ずいぶんと良くしてもらっている」

 感慨深げに言うジェリコに、サーシャはなんとはなしに納得してしまった。

 恐らく似たような労苦を担った者同士、通じるものがあったのだろう。

「……なんというか……ご愁傷さま?」

 苦笑しながら言うサーシャに、ジェリコは肩を落としながら盛大にため息を吐いた。

 が、すぐに表情を引き締めた。

「……まあそれだけではないのだがな。だが、俺の感情的な部分を抜きにしても横流しのような事に関わるタイプではないな」

「……う~ん。どうなのかしらね? 私はその人を知らないから検証のしようがないわね」

 自身ありげなジェリコに、サーシャは表情を苦くする。

「それはそうだな。だから明日には会ってもらうとしよう」

「ん。仕方ないわね」

 ジェリコの言に、サーシャは即決で承諾した。その即断ぶりに錬金生物の男は目を丸くした。

「……俺が提案しておいてなんだが、良いのか? お前にもやることがあるんじゃないのか?」

「それは今すぐどうこうって訳じゃあないわ。手掛かりもないしね。それより先に解決すべきと私が判断したの」

 そう言ってサーシャは笑った。

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