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アムルディアの戦将《ウォーロード》 ~アールシア戦記TRPG異譚~  作者: GAU
第二章 “聖騎士”サーシャ・レクツァーノ
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第64話


「ふたりとも何の話?」

 不意に横合いから声が聞こえてきた。

 アルエットだ。

「大人の内緒話よ?」

「そういうことだ」

 楽しげにウインクするサーシャにジェリコが頷いた。

 アルエットはそんなふたりの様子に首をかしげる。

「大人の? なんだか怪しいなあ」

 訝しげに二人を見る。

 サーシャとジェリコは苦笑する。

「……ただのお酒談義よ」

「お前はまだ飲み慣れてないだろう?」

「むう。お酒って好きになれないんだよね。苦いし」

 ふたりの言葉にアルエットは顔をしかめた。

 ドワーフは種族的に酒を好み、子供の頃から飲んでいることが多いが、アルエットは違うようだ。つくづくドワーフらしくない娘である。

「……珍しいわね? お酒を好まないドワーフなんて」

 サーシャもそう思ったらしく、意外そうにしていた。

 アルエットは少し頬を膨らませる。

「ドワーフだからって必ずしも飲んべえじゃないんですよーだ」

 拗ねたように言うとそっぽを向いてしまった。

「三人で何の話~?」

 するとリンも顔を突っ込んできた。

 サーシャはやれやれとばかりに小さく息を吐いた。

「お酒の話よ。……そういえばロンド君達は?」

 ロンドとケインの姿が見えないことに今更ながらに気付いたサーシャが訊ねると、リンは「さあ?」と肩をすくめた。

「あの二人も風呂だ。君たちが連れだって行った後にな」

 どうやら男湯に行っているらしい。

 男性であっても汚れたままでは気持ちが良くないのだろう。

「……ケイン大丈夫かな? あんな大ケガだったのに」

 ふと、リンが心配そうに呟いた。

「傷口は完全に塞がってるから大丈夫よ?」

 そんな彼女にリンが太鼓判を押す。ゲーム上のHPは体力と耐久力、頑健さなどを総合したような数値だ。

 これを【ヒール】の魔法は一括で回復している。毒などの身体異常系バッドステータスには別の回復魔法が必要となるが、単純な負傷なら【ヒール】だけで十分である。

 刀傷や肉をずたずたにされるような傷も骨折すらも一括で治せる辺りはやはりファンタジーである。

「心配?」

 サーシャが優しく訊ねると、リンは小さく頷いた。

「……うん。あんなに一杯血が出て……死んじゃうって本当に思ったもの」

 少し泣きそうな顔になったリンを、サーシャは抱き寄せる。

「……でも死ななかったわ。そうでしょ?」

「う……ん。けど、あのときサーシャさんが来てくれなかったらって思うと……」

 リンの体が震えた。

 ケインの死を想像してしまったのだろう。

 道中サーシャが聞いた話では、ロンド達三人は同じ村の出身で、幼なじみらしい。

 そのなかでも年長で賢かったケインは、ふたりの兄のような存在だったとか。

 身近な人物の死というものは、精神的にキツいものだ。

 静香も幼い頃に大好きだった祖父母を相次いで亡くしている。

 病死だったそれと、ケインが死にそうだったそれでは、正確に一致はしないだろうが、そのツラさをおもんばかる事はできた。

「ねえ? リン。ケインが死ななかったのは、神様のお導きかもしれないわね」

「え?」

 サーシャがリンの背中を軽く叩きながら告げた。

 リンは何を言われているのか図りかねたのか訳が分からないといった風だ。

 しかし、サーシャは気にした様子もなく続けた。

「……あの場に私が間に合ったのは、きっと大地の女神ギアのお導きよ。そうでなければ、あんなにタイミング良く間に合わないわ」

 ゲームの時であれば、シナリオの都合であることが少なくないだろう。

 しかし今、静香がいるのは紛れもない現実の中だ。

 そんな偶然が都合良く起きるとは思えない。

 いや、思いたくない。

 ゲームマスターの経験があるが故に、静香はゲーム的な都合も考えてしまう。

 何もない平原に放り出されて、さんざん苦労した経験がなければ、心のどこかにゲームだと俯瞰し、油断が生まれたかもしれない。

 だが、静香はその可能性を忘れることは無く、すべて現実だと割りきった。

 ゲームの仕様が残っているが、現実として対処しなければ、きっと生き残れないだろう。

「……みんなも無事なら良いけど」

 ぽつりと口を衝いてしまった言葉に、リンが顔をあげた。

 サーシャは彼女に笑いかけた。

「何でもないわ。それでね? ケインならきっと大丈夫。神様が守ってくださったんだもの」

 サーシャの言葉に、リンは小さく頷いた。

 するとタイミングを計ったようにロンドとケインが奥の扉を開けて出てきた。

「……男の風呂は短いのかもしれないけど」

 こうタイミングが良いと踊らされている気分になる。

「やあ」

「上がりましたよ」

 そんなサーシャの思いが分かるわけもなく、男二人はさっぱりした様子でこちらへやって来た。リンはサーシャから離れて小走りに駆け寄っていく。

「ケイン! 怪我の具合は大丈夫なの?」

「大丈夫ですよリン」

「ああ、俺も傷跡を見せてもらったけど、どこに跡があるのかわからないくらいだったぞ?」

 心配そうなリンに、ケインとロンドは明るい調子で返した。

 跡が全く無いというのが嘘だというのはサーシャにはすぐに分かった。

 いかに【ヒール】の回復力が高いとは言っても完全に跡が消えるほどではないはずだ。

 ゲームの設定上、手足などを切り落とされたら新たに生えてきたりするような回復はしないはずである。

 そういった怪我には【リジェネレーション】と呼ばれるスキルが必要だ。

 いくつかの神官魔法を高いスキルレベルに育てた上で、上位クラスの司祭プリーストにクラスチェンジしなければ習得出来ない魔法スキルだ。

 当然サーシャには使えない。

 蒼穹の探索者でも、司祭のレーズンしか使えない魔法である。

 そういった思いを持ちながらサーシャが三人を見ていると、ケインがそれに気づいて苦笑いしながら軽く会釈してきた。

「……」

 サーシャは小さく笑ってそれに応えた。

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