表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アムルディアの戦将《ウォーロード》 ~アールシア戦記TRPG異譚~  作者: GAU
第二章 “聖騎士”サーシャ・レクツァーノ
62/81

第62話


「……なるほど、それが本当の理由ね?」

「……」

「え? え?」

 サーシャが声のトーンを落としながら言うと、アルエットは青くなってうつむいた。

 リンは話についていけずに二人の顔を交互に見ながら?を飛ばしていた。

「……な、なんでわかったの?」

 そんなリンをよそに、アルエットは怖々とサーシャに訊ねた。

 気難しく頑固で豪快なドワーフでも、やはり陰口や嫌味などが無いわけではない。

 現にスノウと共に旅するガラムは同じドワーフから“髭無し”と揶揄されている。

 だからアルエットはその話をすれば大抵の人は納得する事を経験上知っており、誤魔化すのに用いたのだ。

 無論、もやしっ子な彼女の陰口や嫌みは多い。

 そんな彼女の造る武具や魔法道具はどれも一級品だ。ドワーフとはいえそこまでの腕を持つ者は少ない。

 となれば当然やっかみも増える。

 ドワーフのみならず、他種族の鍛冶屋や生産者からもだ。

 だが、小さい頃は傷ついたそんな嫌みややっかみなどは、最近はあまり気にならなくなっている。

 やはり武具を造るのも魔法道具を造るのも楽しく、それらがいろんな人の役に立つのは嬉しいことだと、彼女は気付いたのだ。

 だから、彼女は造り続けた。

 寝食を忘れ、風呂に入る時間も惜しいくらいに。

 しかし本人的には平気なそれらは、他人から見れば心配の種に見える。それを誤魔化すために、陰口の話をするのだ。

 だが、このサーシャという聖騎士パラディンはあっさり見抜いてしまった。

 それがアルエットには不思議でならなかった。

 一方でサーシャ《静香》は、そんなアルエットの様子にひとりの青年の事を思い浮かべていた。

 幼なじみの小野哲也のことだ。




 由紀恵の兄である哲也は、有り体に言えばオタク気質な少年だ。

 そんな彼と静香は保育園の頃からの幼なじみだ。

 当時の静香は、今の彼女からは想像もつかないほどやんちゃな女の子だった。

 大人しい哲也を引きずり回し、あちこちで泥だらけになりながら遊んだものだ。

 幼稚園、小学校も同じで、クラスも一緒。

 少し田舎よりだった学校は、子供の数も少なく一学年一クラスしかなかったからだ。

 そんな中で哲也は外に出るより、家でゲームをするようになっていった。

 静香はそんな哲也を外へ引っ張り出したり、時には一緒に対戦ゲームに興じたりしながら彼の世話を焼いた。

 その頃には由紀恵も二人に混じるようになり、三人で過ごすことが多くなっていた。

 だが、静香は元気が良くて可愛らしい女の子だった。誰にでも平気で話しかけて仲良くなっていける。

 彼女には友達が多かった。

 だから、そんな彼女が、クラスでも暗めの哲也に構い、世話を焼く姿に、やっかみはいくらでも出てきたものだ。

 しかし、それらを一蹴し、哲也は静香と共に居てくれた。

 それが静香にはとても嬉しかったのだ。

 中学生になっても学校は同じだった。

 ただしクラスは別。

 それが少し残念で寂しくもあったが、静香は持ち前の明るさとコミュ力でうまくやっていた。

 哲也がTRPGにハマり始めたのはその頃からだ。

 人数を集めないと遊べないソレに誘われ、何が何やら分からないまま参加した静香だったが、ひとゲーム終わる頃には興奮を隠せなかった。

 複数のプレイヤーが想像の羽を広げ、共同で物語を組み上げていく楽しさが静香にはストライクだったのだ。

 それだけではない。

 GMをしたのは哲也だったのだが、彼が組み上げていくストーリーにも引き込まれていった。

 そんな楽しい空間をくれた哲也に、静香は感謝すらしていた。

 哲也と静香は、学校でもTRPGの話をするようになった。

 そんなふたりの姿に、様々な憶測が飛び交い、終いにはカップルのような扱いになっていた。

 当時のふたりにはそんな意識は更々無かったのだが、否定すればするほど泥沼にはまっていくようだった。

 哲也は若干だらしない部分があり、学校でも静香が世話を焼いていることが多いからだ。

 ふたりには当たり前のそれは、見ようによってはいちゃつくカップルのようにも見え、中学を卒業する頃にはもう夫婦扱いだった。

 高校も同じ学校を受験し一緒に合格した。そのころには静香も手足も伸びて長く艶やかな黒髪が似合う清楚な雰囲気の美少女となっていたが、哲也はやはりオタク少年であった。

 特にずぼらさに拍車がかかり始めたのはいただけなかった。

 そんな彼を蹴飛ばすようにして更正しながらも、彼の紡ぎ出す冒険の世界を駆けていった。

 この頃の哲也は、様々な情報を集めてTRPGのシナリオを作るようになっており、自作ルールにも手を出し始めていた。

 そうしてTRPGに関係するものを作っている時の彼は生き生きしていて輝かしく見えた。

 だが、同時にそれ以外のことはてんでだらしなかった。

 静香が少し目を放すと、寝食を忘れ、風呂に入るのも惜しんで創り続ける。

 そんな彼が心配で、静香は風呂場に彼を蹴り込むのが日課になっていた。

『いや待て静香。今大事な部分のバランスを考えながらシナリオデータを組んで……』

『……言いたいことはそれだけかしら?』

『……ハイスイマセン』

 そんなやりとりが毎日のように繰り返される。

 だが、静香はそれが好きだった。

 そして、大学生になって独り暮らしするようになった今でもふたりの関係は変わらなかった。

 まあ、静香は哲也の部屋に通い妻のごとく毎日訪れているが。

 それでも色っぽいことにならないのが彼ららしくはあった。




「……そんなわけで、あなたに似たような人をずっと世話してきたのよ? わからない筈がないでしょう?」

「……お見逸れしました」

 湯船の中にまっぱで仁王立ちするサーシャ《静香》にアルエットは全身を湯船に沈めるようにして平伏した。

「……まったく」

 それを見て嘆息するサーシャ。

 ふと、見るとリンが両拳を胸にあてながら目を輝かせて見上げてきていた。

「……ど、どうしたの? リン」

 少し気圧されるように訊ねる。

 するとリンはずいっとサーシャへにじり寄った。

「……その男の人は恋人ですかっ?! 恋人ですよねっ?!」

「い、いやその……」

 直球ストレートなリンにサーシャは後ずさった。

「むしろ夫婦ですかっ?!」

「ち、違います!」

 リンが勢い込んで聞くと、サーシャは反射的に否定していた。

「でもでも! 一緒の部屋に寝泊まりしてるんですよねっ?!」

「そ、それは……まあ……」

 興奮したリンの攻勢に、守勢巧者のはずのサーシャは追い込まれてしまう。

「い、いやでもね? だからってあいつとはそういう関係じゃ無くって……ただの腐れ縁……幼なじみってヤツだから……」

「いーえそうは聞こえませんでした!」

 なんとか反論するサーシャを押しきるリン。

 その猛攻に、サーシャは目を白黒させるしかない。

「あーもう、アルエット助け……」

「じゃ、お先に~」

 思わずアルエットに助けを求めるが、ドワーフ少女はいつの間に逃げ出したのか、脱衣所へのドアを潜っていってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ