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アムルディアの戦将《ウォーロード》 ~アールシア戦記TRPG異譚~  作者: GAU
第一章 “戦将”メルスノウリーファ
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第49話


「なんと!? ゲハルトを倒しおったか!」

 ファントムアーマーのゲハルトが倒れたことに、ガルボが驚き、声を挙げた。

 そんなオークの王へと、スノウが剣を向ける。

「……つぎはあなただよ」

 エルフ少女の蒼い瞳が、ガルボを射抜いた。

「待たせたな」

「後はあなただけです」

 ガルボの左後方に、聖騎士の少年と女魔導師がそれぞれの得物を構えて立つ。

 さらに巨剣にワイヤーが絡み付いた。

「……」

 それを持つのはガルボの右後方に現れた小柄なケットシーの女の子。

 見れば配下の魔物共は、残らず焼き尽くされ、切り刻まれている。

 三方を囲まれ、豚の王完全に包囲されており、その命運はすでに尽きたかのように思えた。

 だが。

「がはっがはっがはっ! 大したものだぞ? 冒険者共!」

 オークロードは呵々大笑してみせた。

「このわしがっ! 年月を費やして準備した儀式を潰すとは!」

 そして、その眼が見開かれた。

「ゆるさんぞっ! この七狂王がひとり! 強欲のガルボを虚仮にしおって!」

 まさに怒髪天をつくかのように怒りを露にし、その怒気が物理的な圧力を以て嵐のごとく溢れ出た。

 巨剣に巻き付いていたワイヤーが吹き飛ぶほどのそれが、スノウ達冒険者を襲う。

「くっ」

「ぐぐっ」

「くぅ……」

「……むぅ」

 それぞれに圧し退けられそうになりながらも、しっかり踏みとどまる四人。

 スノウの戦将としてのスキル【ライオンハート】により、精神的に作用する圧力に屈することはない。

 代わりに戦意をもってこの狂いし王を名乗るオークロードへ武器を向けた。


 そのとき、スノウの視界に文字が浮かんだ。



   Double Climax Scene!!



「!」

 それを見て、スノウ……由紀恵は驚いた。

 アールシア戦記TRPGでは、シーン制と呼ばれるルールが用いられていた。

 これは、演劇のひと幕に似たもので、場面シーンごとに区切ってゲームを進めていくやり方である。

 例えば、街から街への移動の際に、何事イベントも無ければ、その移動中の描写を飛ばして良いのだ。

 しかし、現実にその世界に居るスノウと共にある由紀恵は、そんな場面が飛ぶような状況には遭遇していない。

 移動中の記憶もしっかりある。

 そもそも、それがゲームでは無く現実である認識理由のひとつでもある。

 そのシーン制の中で、クライマックスシーンと呼ばれるシーンがある。

 これは、そのシナリオのボスと戦う場面シーンであることを示すものだ。

 となれば、あらゆる切り札を投入すべき場面でもある。

 しかし。

「……ダブルクライマックス……」

 スノウは顔をしかめて呟いた。

 ダブルクライマックスというのは、クライマックスシーンが二つある場合に使われる。

 それは、ボスとの戦いが二連戦であることを示している。

 二体出るのではなく、連戦であるのがポイントだ。

 おそらく回復を挟むことは出来ない。

 しかも先に出てくるボスより、後に出てくる方が強いのが定番。

 だからといって、先に出てくるボスに対して切り札を温存しながら勝つのは難しいだろう。

 とはいえ、こうして示された事は由紀恵にとって幸運だったかもしれない。

 何も知らずに戦っていたら、すべての切り札を使いきってから、二戦目に挑まされていたかもしれない。

 と、スノウ《由紀恵》は、奇妙な違和感を感じた。

 喉の奥になにかが引っ掛かっているような、正体不明の感覚。

 しかし、それがなんなのかを考えている余裕はなかった。

 オークロードのガルボが巨剣を振りかざして突撃してきたからだ。

「ぐるぅうおおぉぉおうぅぅっ!!」

 上がった雄叫びは、周囲に精神的なバッドステータスを与えるものだったが、それはスノウのスキルで無効化されていた。

 そのまま振り降ろされた巨剣を、エルフ少女が素早いサイドステップで躱した。

 巨大な剣は、石畳を直撃し、これを砕いてしまう。

 反射的に切り込もうとしたスノウだったが、爆ぜるように吹き上がった無数の石つぶてに、さらなる後退を余儀なくされた。

 そこへカレンの火炎弾が撃ち込まれる。

 が、ガルボは石畳に食い込んだ巨剣を無理矢理振るい、その火炎弾を弾いた。

 さらに石弾がカウンター攻撃のごとくカレンを襲う。

「チィッ!」

 そこへガラムが割り込みながら【聖盾プロテクション】の魔法を使う。

 瞬時に展開された魔力の盾が、石弾を阻む。が、その勢いをすべて消し去ることが出来ずに、砕けて消えた。

 勢いを減じながらも、石の散弾が、ガラムに直撃をした。

 だが、もともと頑健なドワーフ族にして、防御のエキスパートである聖騎士である彼が、この程度でどうにかなるわけがなかった。

 それを見たガルボがさらに追撃せんとするが、その身体が一瞬止まる。

 見れば、五体に絡み付くワイヤーの輝きがある。

 ミルが影からワイヤーを投じたのだ。

「ふん! 小賢しいわっ!」

 気合いを込めただけで、絡み付いていたはずのワイヤーが吹き飛ぶ。

 さらにガルボが巨剣を叩きつけるように振るった。

 石畳が砕け、衝撃波が放たれる。ミルはこれをなんなく避けながらナイフを投じるが、ガルボは分厚い脂肪に覆われた腕でこれを弾いた。

 そこへスノウが疾風のごとく切り込んだ。

「ぬるいわっ!」

 しかし、ガルボは巨剣で横薙ぎに薙ぎ払って迎撃した。

 その分厚い刃が、スノウの細い胴を薙ぐ。

 が、それは霧散して消えてしまう。

「ぬう?!」

 驚愕するガルボ。

 見れば、彼に切りかかるエルフの剣士は七人居た。

 ガルボを取り囲むように切りつけるそれは、すべてが虚であり実でもある、幻実のスノウ達だ。

 たちまち一刃七斬の斬撃に切り刻まれ、オークロードは傷だらけになる。が、それに構わずガルボがその巨体を大きく振り回した。

 幻実のスノウが次々に消えていき、最後に本物が巨剣の一撃を受ける。

 が。

 ガラスが割れる音と共にスノウの姿が砕け散り、その姿が向こうに現れた。

「なんとっ?!」

 これには手応えを得ていたガルボも驚きを隠せない。

 その側頭部へ、炎の槍が着弾し、爆裂した。

「ぐがあっ?!」

 螺旋状に回転する炎の槍は、防御を貫通しつつダメージを与える。さらに爆炎がガルボの頭を完全に飲み込んだ。

 ガルボの巨体が膝を着く。

「やったか?」

「ちょっ?! それフラグっ!?」

 ガラムの挙げた声に、思わずスノウ《由紀恵》が突っ込んだ。

 ガルボが腕を振って爆炎を掻き消すと、醜かった豚面が、さらに無惨に焼け爛れていた。

「お゛のれ゛ゆ゛るざん゛ぞおっ!」

 怒りを露にして立ち上がるガルボだが、その身体がピタリと止まった。

 ミルのワイヤーが、ふたたび彼の動きを止めたのだ。

 そこへ向けて、スノウが大きく跳躍した。

 手にした翠の魔剣と黄の魔剣を合わせ、砂の刃を為す。

「たああぁぁあっ!!」

「ぬおおぉぉおっ!!」

 気合いと共に振り下ろしたそれを、傷つくのも構わずにワイヤーを引きちぎって巨剣で受け止めるガルボ。

 瞬間。

 堅いものが削られるような甲高い音が響き、巨剣が断ち切られた。砂の刃は、その砂が常に高速で動いており、まるでノコギリのように対象を切断する。

「なっ?!」

 無惨にただれた顔にひきつるような驚愕の表情を浮かべる豚の王。

 そこへ砂の刃が襲いかかった。

 彼が出来たのはとっさに頭を横に振ることだけ。

 肩口に叩き込まれた砂嵐の魔剣は、その巨体を抉り斬って両断した。

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