第44話
洞窟内に足を踏み入れたスノウ達。
洞窟はそれほど奥は無く、石畳に石壁の通路になっていた。
また、しっかり空気の流れがあり、入り口以外にも開口部があって換気は出来ているようだ。
それでも、内部はケダモノ臭や腐臭が充満していた。
スノウ達の姿が見えていれば顔をしかめているのが確認できただろうか?
さらに進むと、壁や床に罠に掛かって死んでいるゴブリンやコボルトの姿が見えてきた。
恐らく連中がこの遺跡を本拠地にすべく探索した際に、罠を発見するための犠牲となった者達だろう。
不意に小さく聖句が唱えられた。聖騎士であるガラムが彼らのために祈ったのかもしれない。
「……ガラム、祈ってあげたの?」
少し不思議そうなスノウの声が、ガラムへ向かう。
「ん? ああ、まあな。嫌だったか?」
ガラムは答えながら確認した。魔物などに祈ってやる必要はないというヒト族も少なくない。
過激な宗教家などなら、神への背信だ! などと騒ぎ立てるような行為だ。
だが、スノウからは嫌悪の気配はない。
「ううん。あたしは気にしないし、良いんじゃないかな? カレンは?」
「わたくしも別に構わないと思いますよ?」
「……さんきゅーな」
ふたりの肯定的な答えに、ガラムは照れたような声音で礼を言った。
もっとも、三人とも透明化していてその姿は見えないのだが。
探索に関してはエキスパートのミルに任せ、スノウ達は時おり姿を見せる魔物達の後に着いていったり、会話に聞き耳をたてたりしながら奥へ奥へと向かった。
幸いなことに、ゴブリンの言葉ならスノウにも理解可能だ。
カレンなどは様々な言葉を解すことも可能で、彼らの会話は有力な情報源であった。
聞けば広間にて宴会をしているらしい。儀式の前祝いだとか。
「ボスは奥の広間か……」
「そうなんか? んじゃ、サクッと行こうぜ」
「……」
呟いたスノウの声に、ガラムが答えた。が、カレンからは返事がない。
「……カレン?」
少し待ってからスノウはカレンに声を掛けた。
互いに透明なので、声を掛けて大体の位置を把握するようにしている。
術者であるスノウには他の二人は見えているのだが、二人はそうではない。
一応ふたりは近くに居るようにしているのだが、事前にバレない程度に声を掛け合うように打ち合わせをしている。
「……スノウ。本当にわたくし達は探索しなくて良いのでしょうか?」
「どうしたの?」
不意にカレンが訊ねてきて、スノウは少し驚いたようだ。
少数である自分達は先にボスを撃破することで、多勢である敵を混乱させて追い払うと決めたはずだ。
「人質も考慮に入れて、すばやくボスを倒すってカレンも賛成したじゃない」
「それはそうですが……この遺跡に入ってから、何か引っ掛かっているんです。致命的な何かを見落としてしまうんじゃないかと……」
「……」
カレンの言葉に、スノウは黙ってしまう。
確かにカレンの言うことも一理有る。
しかし。
「……けど、ミルが先行しているし、拐われた人たちがどんな目に遭っているかも分からないんだよ? 時間は、掛けてられないよ」
スノウは少し考えてから、やはり拙速を採りたいと告げる。
それを聞いてカレンは「……わかりました」と答えた。
スノウの言うことにも一理があるのだ。
どちらを採択するにしても、敵の儀式進行の内容が不明では、のんびりはしていられない。
三人は再び奥の広間を目指して移動し始めた。
一方でミルは、遺跡の内部をするすると移動していた。
途中、ゴブリンやコボルトに遭遇することもあったが、隠密行動に特化しているミルに気付くものは居ない。
彼らをスルーして、ミルは先へと進んだ。
「……しかし、とんでもない事件に関わることになりましたね」
ヒゲをひこひこ動かしながら呟く。
「ちゅ?」
「後悔しているのか? ですか? いいえ、楽しいですよ」
相棒のネズミと話ながらも、その眼と耳とヒゲが遺跡の未発動の罠を見つけていき、その指がいとも簡単に解除していく。
高レベルの探索者ともなれば、様々な罠や仕掛けを、全く発動させることなく無力化するなど造作もないことだ。
しかし。とミルは首をかしげた。
まるで無意味な場所に罠が設置されていたりする為だ。
隠された部屋や通路などが無いかと調べてみてもなにもなかった。
そのことに疑問を持ちつつも、先を急ぐミル。
彼女をして、この遺跡の構造の意味までは気付けない。
こういったことは賢者の分野であり、蒼穹の道程においては、カレンの役割である。探索者であるミルの領分ではない。
ミルとカレンのふたりが別行動しているがゆえに、一行は重要なものを見落としていた。
さらに奥へと進んだスノウ達は、やがて騒がしいほどのざわめきを耳にし始めた。
その音の方へ向かうと、広間に出た。
かなり広い。
縦二十メルク(約四十メートル)、横十五メルク(約三十メートル)。
天井も高い。六、七メルク(約十二~十四メートル)はある。
四階建ての建物がすっぽり収まりそうな空間。
一段低い広間には篝火がいくつも焚かれ、様々な魔物が飲み、喰らっていた。
そして、スノウ達が入ってきた入り口の対面に、玉座があった。
それに座るのは、大きな体を持つオークだ。
「……オークロードですね。隣のフォールンエルフは先ほどの射手です。それから、オークロードの脇の鎧は、ファントムアーマーのようです」
距離があるにも関わらず、カレンが豊富な知識から相手の種を特定して見せる。
その名前を聞きながら、スノウはルールブックに掲載されていたデータを思い起こしていた。
オークロードは、オークの上位種だ。強欲で個人主義のオークにあって、他のオークを従える強さと知恵を持つ難敵である。
レベルは二十三とスノウと比べて振るわないが、自らの配下を指揮することに掛けてはオークではトップクラスの魔物だ。
ひしめき合っている魔物すべてを支配しているとすればかなり強力だ。
フォールンエルフは、太古の昔邪神の力に魅せられて神々を裏切ったエルフの一族の末裔だ。
基本的にはエルフと大差ないが、邪神の祝福により、その蒼い肌には高い魔法耐性能力が宿っている。
そのため、魔法使いの天敵のようになっている。
そしてファントムアーマー。
これは強力なアンデッドモンスターだ。
生前、力有る戦士だった者が死してなお、戦いを求めてアンデッドに成り果て、鎧に憑いてこれを操り戦う。
その強さは生前の強さに比例するため、強さを測るのが難しい敵だ。
強敵三人がならんで居る姿に、スノウ達から緊張の気配が溢れた。




