第31話
「オホン! では、その五人を探せば良いのですね?」
「ハッ?!」
咳払いをしたカレンに、トリップ中だったスノウが我に返った。
ガラムも呆れたように見ている。
「あ、うん。はい、そうです……」
自身の恥態を思い出しながら小さくなるスノウは、なんとかカレンの言葉を肯定した。
が、そこで気付いたように顔を上げた。
「……あ、待って。もう一人いる……かも……?」
曖昧なスノウの言に、カレンとガラムは首をかしげて顔を見合わせた。
「んで、そのもう一人って?」
「…………わかんない」
ガラムに訊ねられたスノウは困ったように答えた。
これにガラムもカレンも困惑した。
「わからないって……」
「……ごめん。けど、ほんとにもう一人探さなきゃいけないんだ」
あきれたようなガラムに、スノウは謝罪しながらもきっぱりと言った。
ふたたびガラムとカレンは顔を見合わせた。
探さねばならない相手は、言わずもがな兄、哲也のキャラクターだ。
だが、そのデータはおろか簡単な設定すらわからない。
「……蒼穹の探索者入りする予定の人が居るんだよ。けど、あたしはどんな人が仲間入りするのかまだ聞いてなかったから……」
なんとか誤魔化しながら説明するが、うまい理由は思い付かなかった。
ガラムは渋い表情で頭を掻き、カレンは小さく嘆息した。
「……今はその方の事は置いておきましょう。手がかりがないのでは探しようもありませんし」
「……ごめん」
カレンが告げると、スノウはいたたまれない感じで謝った。
それを聞いてカレンが苦笑いする。
「謝る必要はありませんよ? ともあれ、わかっているメンバーの情報を集めるしかないですわね」
「んだな」
カレンの言葉にガラムが頷いた。
詳細不明の人物については、とりあえず置いておく事で納得したようだった。
そんな二人の様子に、スノウは小さく安堵の息を吐く。
「ありがとう二人とも。じゃ、情報収集の方法だけど……」
お礼を言ってスノウが話を詰めようとしたところで、店に一人の男が姿を表した。
スノウは一瞬そちらへ視線を走らせたが、見知った顔ではないと分かると話に戻った。
男は店内を見回す。
給仕のニクシー少女がパタパタと駆けていって迎えた。
「いらっしゃいませ! おひとりですか?」
男は少女の方を見ること無く、奥へと視線をやっている。
「……私はギルドの使いの者ですが、店主はおられますか?」
「ギルドの? マスター!」
男の言葉に少女は少し首をかしげたが、すぐに奥へと大きな声を掛けた。
「……どうしたんだい? レム……?」
奥の厨房から赤毛の女性が顔を出した。
大柄で皮膜の翼と角があるドラグーンの女性だ。
しかし、その翼も角も片方しかない。また、額から斜めに右下へ右目を潰しながら走る、顔の刀傷が特徴的だ。
ニクシー少女は男をカウンターまで案内し、ドラグーンの女性に話しかけた。
「マスター、ギルドの方だそうです」
「……冒険者ギルドの?」
残った左目で見下ろすように鋭く男を検分する女性。なにしろドラグーン族は女性でも一アルク(約二メートル)弱の身長になり、筋量も多いのが特徴だ。その迫力はかなりのものである。
だが、男は気にした様子も無く、女性を見上げていた。
「……書面じゃなくて、使いを寄越すなんて珍しいじゃないか。なんの用だい?」
女性はニヤリと笑いながら訊ねた。男は軽く頷いた。
「はい、緊急の案件ですので、手間ばかりかかる書面ではなく、こうして私がやってきました」
「……緊急の案件ね。奥で聞こう。レム、店の方は任せたよ?」
「わかりました」
女性の言葉にニクシーの少女レムはしっかり頷いた。
そうして女性と男は奥へと入っていく。
その様子を、スノウ達三人は話をいったん止めてずっと眺めていた。
「……ギルドか」
言わずもがな冒険者ギルドであろう。呟いたガラムは奥の部屋を気にしているようだ。
「緊急の案件って言っていたけど、なにがあったのかな?」
気になってスノウはカレンに聞いてみるが、彼女にわかる訳も無く肩をすくめた。
「……わたくしは巫女ではありませんしね。わかりませんよ」
カレンの言葉にスノウは、だよね。と返した。彼女はバカなことを聞いたと苦笑いする。が、そこへレムが近づいてきた。
「けど、みなさん関わるかもしれませんよ?」
レムの言葉に三人が首をかしげた。まさかこんな予言めいた事を言われるとは思っていなかったからだ。
レムはそんな三人を見て笑う。
「だって今、内の店に居るのは皆さんだけですから」
そう言われて、はたと気付いた。
冒険者の店だというのに、スノウ達三人以外に客は居なかった。
「……他の冒険者は?」
「今日はみんな出てます。大きな騒ぎもありましたしね」
訊ねたスノウにレムが答える。
どうやら、スキュラクラーケンの一件に駆り出された冒険者達はまだ帰ってこないらしい。
聞けば、避難してきた村人を護衛した後、そのままとって返して名も無き漁村へ調査に向かったらしい。
また、そっちに関わっていない連中も、様々な依頼を受けて出ているそうだ。
「というわけで、本日の赤い鱗亭の冒険者さんは皆さんだけって訳です♪」
にっこり笑ったレムの姿に、三人は顔を見合わせた。
厄介事の予感に、思わず腰を浮かせる。
が、遅かった。
『おい、そこの三人!』
奥から出てきたドラグーン女性に大きな声で呼ばれ動きを止めるスノウ、ガラム、カレン。
「ね?」
手招きする彼女に諦め半分に立ち上がると、レムがニコニコしながらそう言ってきた。
そんな彼女を見て、三人はため息を吐いた。
『ぐずぐずするな、はやくこっちに来い!』
ふたたび大きな声で呼ばれ、スノウ達は観念してカウンターへと向かった。




