第30話
さて、スノウが長年組んできた蒼穹の探索者のメンバーとは、いったいどんな人物だったのだろうか?
由紀恵の兄、哲也がメインでGMをしていたアールシア戦記TRPGに参加していたメンバーは由紀恵を含めて七人。
内、プレイヤーは六人だった。
そのため、蒼穹の探索者のメンバーも六人であった。
まず、由紀恵のプレイヤーキャラクターである戦将/幻術師で二刀流女剣士のエルフであるフレニの森のメルスノウリーファ。
そして、由紀恵の兄である哲也の同級生で、由紀恵にとって姉貴分であり、小野兄妹の幼馴染みでもある立花 静香のプレイヤーキャラクター、聖騎士/武芸者で人間族の女盾使い、サーシャ・レクツァーノ。
哲也の友人の弟であり、由紀恵達の同級生である戸塚 剛。そのプレイヤーキャラクターである探索者/舞闘家でニクシー族の女拳闘家、パルサ。
剛の幼馴染みで親友でもある水原 真司。そのプレイヤーキャラクターで妖術師/錬金学士で人間族の男性錬金学者、シグナ・グランスト。
由紀恵の親友である倉持 節子のキャラクター、司祭/巫女でセレスティア族の巫女レーズン・ミルティス。
兄哲也の後輩で、由紀恵達からすれば先輩に当たる沢木 勝のプレイヤーキャラクター、戦鬼/騎士でドラグーン族の竜騎士レオンハルト・グランツ。
最後にGMである小野 哲也の合計七人だ。
ただし、今回のキャンペーンを始めるにあたり、沢木が新たにGMをすることになっていた。
そのためレオンハルトは不参加で、兄の哲也が新たなキャラクターを作成して参加する段取りになっていた。
だが、由紀恵は兄のキャラクターがどんなキャラクターか知らなかった。
哲也は変わったデータ構成のキャラクターを作成するのが好きで、プレイ当日に披露するのを好むからだ。
だから由紀恵はおろか、哲也の彼女のような立場の静香ですらどんなキャラクターか知らないはずだった。
スノウはそれらを思い返しながら口を開いていく。
むろんプレイヤーの事には触れず、ゲーム上の設定やデータ。ロールプレイの内容を簡単にまとめて各キャラクターの人となりを話していく。
「うち《蒼穹の探索者》のメンバーはあたしを入れて六人。あたしのことは省いて説明するね?」
そう前置きをして、スノウが語りだした。
「リーダーはレオン。フルネームはレオンハルト・グランツ。西にあるソーダリア王国貴族の三男坊で、ドラグーン族の竜騎士だよ」
レオンハルトの種族はドラグーン。クラスは戦鬼/騎士だ。
ドラグーン族は烈火の女神絵フレアによって産み出された種族で、皮膜の翼と尻尾、竜の角を持つ人間型種族だ。
身体能力に優れ、生来戦闘能力が高い傾向がある。
戦鬼はスノウの戦将と同じくウォーリア系上位クラスで、単独戦闘を得意とする武器攻撃タイプのクラスだ。
戦闘時におけるダメージの高さは攻撃型魔法系上位クラスの魔導師に匹敵するほどになる。
サブクラスにしている騎士は、騎乗戦闘と物理防御系能力に秀でたクラスであり、最強の騎乗生物であるドラゴンに騎乗することで単純な攻撃力、防御力、機動力が高いレベルで成立していると言う一対一での戦いに強いキャラクター構成だ。 沢木の設定やロールプレイは三男坊で出奔した放蕩者でありながら、義に篤く正義感の強いキャラクターだ。だが、権威を毛嫌いしているため王族や貴族に対しては態度が固くなる傾向が強かった。
「けど、決断力もあって頼れるリーダーだったよ。つぎは、聖騎士サーシャ」
「ん? 俺と同じ職能だな?」
スノウが告げた二人目にガラムが反応した。職能というのは対外的に告げるクラス名みたいなものである。
「そうだね。けど、傾向は全然違うかな? サーシャ姐さんは盾使いだし」
静香のキャラクター、サーシャ・レクツァーノは人間族の聖騎士/武芸者だ。
聖騎士は神官系上位クラスで、物理戦闘能力に秀でるクラスだ。
ウォーリア系の戦鬼や戦将には劣るが、遜色無い重装備も可能だし、攻撃も強力だ。
その上で回復魔法や防御魔法等が使えるため、立ち回り方次第では戦鬼に勝つこともある。
サブクラスの武芸者は、特定の武器の扱いに通じるクラスで、サーシャは特に盾の扱いに注力していた。 ゆえに、蒼穹の探索者に置いては敵の攻撃を一身に引き受けて微動だにしない鉄壁の前衛として信頼されていた。
「それだけじゃあなくて、人の気持ちを敏感に察してくれる人で、優しいけど厳しいあたし達みんなのおか……姉って感じだね」
本人がいなくともオカンとはちょっと言えなかった。
「三人目はパルサ。ニクシー族の拳闘家だよ」
由紀恵の同級生、戸塚剛のキャラクター、パルサはニクシー族の探索者/舞闘家だ。
探索者は盗賊系上位クラス。行動速度や回避能力に優れたクラスで、遺跡などの探索に力を発揮する罠や仕掛けの探知と解除にも通じている。
戦闘能力はそこそこで、遊撃的な立ち位置が普通だ。
サブクラスの舞闘家は、ダンスによる味方や自分の強化を行って戦うクラスだ。
強化支援とも呼ばれる支援職としても、優れた能力を発揮する。
「でね、パルサは……残念なんだよね……」
『残念?』
ガラムとカレンが異口同音に聞き返した。スノウは苦笑しながらうなずく。
「美人だし、明るい性格だからムードメーカーなんだけど……小さい女の子が好きでねー」
『……』
スノウの言葉にガラムとカレンの顔がなんともいえないものになっていく。
しかし、これに関してはロールプレイというよりは、プレイヤーである剛の趣味が丸出しになった結果だ。
剛自身は顔立ちは悪くないし性格も明るくクラスを引っ張っていくような人物だが、「女子は十四才が至高」と喧伝してしまう残念な人間だった。
そのため、パルサの性格もそうなってしまったのだ。
「それは……」
「なんというか……」
「……うん、言わなくて良いよ。まあ頼りになるのは確かなんだけど」
微妙そうな顔になったふたりに、スノウは一応のフォローを入れていた。
「……こほん。気を取り直して。四人目はレーズン・ミルティス。セレスティア族の司祭で、あたしの一番の親友」
スノウは笑いながら告げた。
由紀恵の親友である倉持節子のキャラクター、レーズン・ミルティスはセレスティア族の司祭/巫女だ。
セレスティア族は、光明神アルス・ゼオスによって産み出された種族で、その背に純白の翼を持つ天使のような外見の種族だ。
そして司祭は聖騎士と同じく神官系上位クラスで、より治癒魔法の使用に特化したクラスだ。
その治癒魔法の数々は、あらゆる傷を癒し、傷ついて倒れた者を即座に戦えるようにしてくれる。また、バッファーとしても優秀なクラスで司祭が一人居れば百人の軍隊で千人の敵を相手にできると言われるほどだ。
そしてサブクラスの巫女は、神託を受けとるなどするクラスだ。ゲーム的にはGMに疑問点を挙げて質問し、答えを得たりする。
また、サイコロの目を操作するスキルが豊富で、サイコロを振り直させたり、達成値を増減させたりするのが得意なくらすでもある。
「……まあ、セレスティア族では珍しいヘスペリア信仰なんだけどね。いたずら好きでお祭り好きな、面白い娘だよ」
その紹介に、ふたりはうなずいた。
と、スノウが軽く居住まいをただした。
「五人目は、シグナ。シグナ・グランスト。人間族の錬金学者で、とっても優しい人だよ」
スノウの顔がこれまでに無いくらい優しいものになっていた。それに気付いたカレンは小さく眉を跳ねさせた。
剛の親友であり、由紀恵のクラスメイトである水原真司のキャラクターは、妖術師/錬金学士だ。
妖術師は、魔導師と同じく魔法使い系上位クラスだ。
魔導師と違い、攻撃魔法よりは弱体化をはじめとした応用性の高い魔法を得意とするクラスである。
錬金学士は、様々なアイテムを自己生産可能で、さらに地形に干渉したりして味方を優位に導くクラスだ。
真司はこれらのスキルを駆使して戦場を制御するのを得意としており、味方に百の力を百二十にも、百三十にも引き出すことが出来るのだ。
「それで、とっても優しくて理知的で、紳士的で、でもちょっとおっちょこちょいなところもあるんだけど、それがまた良くて。けどしっかり先を読みきった時の格好良さが素敵で、それも良いけどはにかむように笑ったときは最高で……」
少し頬を染め、テーブルに指を滑らすように円を描きながら尖り耳をぴこぴこ動かしながら、延々とシグナの魅力を語り続けるエルフ少女の姿に、ガラムとカレンが生暖かい笑みを浮かべた。




