第28話
「無事に合流できてよかった」
「助かります」
次の日、午前中のうちにスノウ達は救援部隊と合流できた。
ギルドの依頼を受けてやってきたのは四から六人構成の冒険者パーティ六つの混合チームだ。
合流した時点で神官と治癒師が重傷者の治療にあたったが、すでにガラムが治癒の奇跡であらかた治してしまっていたため、さほどやることはなかった。
現在は周囲を警戒しながら休憩中だ。
救援部隊の冒険者達の強さはそれほど高くはない。
一番強い者でもスノウの半分のレベルほどか。
とは言っても、荒事に慣れてるいる人間が三十人近く合流してくれたのはありがたかった。
ガラムはともかく、スノウとカレンの疲労は限界に近かったからだ。
ガラムも疲れてはいたが、カレンにもレベルは劣るとはいえ頑健さではヒト族でもトップクラスのドワーフ族。
体力はあり余っているのだ。
その後の行程はなんの問題もなく進んだ。時おり襲ってくる魔物たちは救援部隊の冒険者が対処し、スノウ達は少し休むことが出来た。そしてさらに四日後、避難民の一団はクラレスの町に到着したのだった。
「おねえちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして」
町に到着し、スノウは避難民たちと別れることになった。
漁村での襲撃でスノウがギルマンから間一髪で救えた女の子、メアリーは目を赤くしながらもはっきりとお礼を言った。
スノウはしゃがみこんで目線を合わせ、微笑みながら応える。
避難行の最中に、メアリーはスノウにすっかりなついていてつい先ほどまで離れたくないと泣いていたのだ。
それをスノウはメアリーの母親とふたりでなだめ、やっとこのシーンになったのだ。
そんなメアリーを見てスノウ《由紀恵》は少し涙腺を緩ませてしまう。と同時に、メアリー達が命と心を持った“人間”であると、改めて感じた。
そう。
今はこのアールシア界が由紀恵にとっての現実の世界であることを。
「……すっかりなつかれましたね?」
立ち上がってメアリーを見送るスノウに女性の声が掛かった。
カレンだ。
「カレン? うん、まあね」
スノウはそう答えてメアリーを見る目を細めた。
小さな女の子は何度も振り返りながら精一杯腕を伸ばして振っていた。
スノウも応えるように降り返す。
そしてそれは、メアリーの姿が見えなくなるまで続いた。
「行ってしまいましたね」
「ん。ちょっとしんみりしちゃうね」
すでにメアリーの姿は見えないが、スノウは母娘が去った方を見つめ続けていた。
「……これからどうなさるんですか?」
不意に、カレンに問いかけられた。
スノウは少し不思議そうにカレンへと視線を移した。
カレンは柔らかく微笑みながら返事を待っている。
「……みんなを……探そうと思ってるんだ。蒼穹の探索者のみんなを」
「蒼穹の探索者……」
カレンがおうむ返しに呟くと、スノウはしっかり頷いた。
由紀恵がスノウに頼まれたこの世界を救うという目的もある。あのときのスノウの言葉からみんなもこちらに来ていると由紀恵は考えていた。
そして、それぞれのPCになっているであろうと、由紀恵は考える。
安直かもしれないが、そう的はずれでもないだろう。
ともあれ、同じ境遇に陥っているであろうみんなと合流できれば、どんな困難にも打ち勝てると由紀恵は信じていた。
どこか遠くを見るような目になったスノウに、カレンはわずかに躊躇してから決意した。
「……お手伝いさせていただけませんか?」
「え?」
カレンの言葉に、スノウは驚いて彼女を見た。
カレンはまっすぐにスノウを見やる。
その真剣な様子に、スノウは迷った。
カレンはさらに言葉を続けた。
「察するに事情があってお一人のようですし、困ってらっしゃるならお手伝いさせていただけませんか?」
「……すごく危ないかもしれないよ? あたし達でも命の危険があるくらい」
「……それでも、お手伝いしたいのです。大した見返りもなく、あの村を護ってくれたあなたの」
スノウが警告するも、カレンの決意は固いようだった。
そんな彼女の姿に、結局スノウは折れた。
「…………はあ。わかったよカレンさん。こちらからもお願いさせてもらいます。……それから……ありがとう。実はひとりで心細かったんだよね」
苦笑しながら手を差し出すスノウ。
カレンも笑みをこぼすとその手を握った。
「ふふ、わたくしも隠遁生活に飽きてきましたしね。よろしくお願いしますメルスノウ……」
「スノウで良いよ? これから一緒に旅をするんだから」
「……ではスノウ。わたくしの事もカレンと呼び捨ててくださいませ」
そう言って笑い合う。
そんな二人の手に、ごつごつした手のひらが重ねられた。
「俺も手伝うぜ」
ドワーフの少年聖騎士ガラムだ。
スノウが半眼になって彼を見る。が、ガラムは気にした様子も無く笑っている。
そんな彼に、スノウは盛大にため息を吐いた。
するとガラムは表情を引き締め、手を退けて一歩下がると頭を下げた。
「俺はお前の事が気に入ったんだ。頼む、手伝わせてくれ」
そんなガラムの姿に、スノウは息を飲んだ。
如何に気に入られているとはいえドワーフがエルフに頭を下げるなどあり得ない事態だ。
「……スノウ、彼は聖騎士です。仲間に加わってくれれば心強いと思いますよ?」
さらにカレンがガラムを援護する。
確かに、神官系クラスがいるのといないのでは生存性が格段に変わる。
特にガラムは前衛もこなせる聖騎士である。
戦線を支え、後衛が余裕を持って攻撃するには安定した前衛が必要だ。
また、ガラムはカレンにも劣るとはいえレベルは高めのようだ。
仲間にしない手は無かった。
「…………ん、わかったよ」
「ほんとかっ?!」
スノウが承諾を口にすると、ガラムは顔を跳ね上げた。
「ただしっ! セクハラ禁止だからね?!」
喜ぶガラムにスノウは釘を刺した。
ガラムは笑いながらわかったわかったとうなずき、カレンははじめて聞いた言葉に首をかしげていた。




