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アムルディアの戦将《ウォーロード》 ~アールシア戦記TRPG異譚~  作者: GAU
第一章 “戦将”メルスノウリーファ
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第22話


 さて、アールシア界での冒険に足を踏み出したスノウであったが、まずは名も無き漁村の村人たちを護衛することにした。

 町まで避難と口で言うには容易いが、唯一の街道を行くとはいえその行程は決して楽ではない。

 周囲を山に囲まれた人口百人ほどの小さな村。されど百人である。さらには女子供に老人と怪我人まで抱えた集団だ。

 それがある程度整備された街道とは言っても、山林を行く以上は、魔物や凶暴な動物などの脅威が全く無いわけではないのだ。

 町までの護衛役は必須と言っても良いだろう。

 住み慣れた村を離れたくないという老齢の者達をなだめつつ進む一団の足は遅い。

 遅々として進まぬ移動は魔物達の格好の獲物と言えるだろう事は想像に難くない。


 村との別れを惜しむ老人らをなだめつつ出発したスノウ達であったが、幸いにも道中に出会う魔物は少なかった。

 弱い魔物は集団が相手となれば様子を見るだけで近づいては来ない。

 危険に敏感な用心深い魔物は、飛び抜けた力を持つスノウの存在を恐れて出ては来ない。

 それでも、百人もの集団を見つけて襲いかかってくるような凶暴な魔物もいることはいる。が、大抵は単独なためスノウ一人で簡単に対処できた。

 森に住む凶暴な魔物の代表格であるブレードベアでもレベルは13程度。スノウならば片手間に倒せる強さだ。

 厄介なのは集団で襲ってくる狼だが、これはカレンが魔法で殲滅していた。

 彼女も隠遁していた住居を引き払って同行してくれていたのだ。

 魔導師の広域攻撃魔法は集団戦でも十全に力を発揮する。

 カレンほどの実力者ならば、十匹の狼のそれぞれに正確に攻撃魔法を誘導できる。

 周りに被害を出さずに狼だけを仕留めるのは簡単なことだった。

 それだけでは無く、近辺に危険な魔物が少ないのは、カレンが普段から山中で薬品の材料を採取しながら狩っていたせいもあった。

 まさかこんな形で役に立つとは思わなかったと苦笑していたが、百人を護衛するのがたったふたりとなれば、その影響は大きい。

 なのでスノウとカレンだけではなく、村人でも戦える男衆も頑張っていた。

 移動が遅いことを除けば、行程は順調だと言って良いだろう。

「……って言っても、山を抜けるのは大変だね」

「……曲がりなりにも街道がありますからまだ助かってますけどね」

 スノウに答えながらも苦笑するカレンは、【サーチエネミー】の魔法スキルでの警戒を怠らない。

 戦闘力の高さのみならず、カレンの探知系魔法や、スノウの幻覚系魔法も非常に役に立っていた。

 もっとも近いクラレスという町に着くにも五日の行程であるが、村人らの移動の遅さを考えれば十日は必要だろう。

 体力的に厳しい者も少なくない。

 カレンの医学と薬学の知識はここでも役に立った。

 本格的な治療は難しいが、それでもまったく診ることが出来ないよりははるかに良いと言える。また、スノウの魔剣で綺麗な水が用意したり、洗浄が用意であったことも幸いした。

 汚れ物を処理するのにも風や火、土に干渉できる魔剣達が活躍していた。

 剣本来の用途とは異なるものの、妖精達の魂を宿すこととなったこの魔剣達は、むしろ喜んでいるようだった。

 そうして、クラレスへの避難は順調に進んだ。




「……クラレスの冒険者ギルドへ飛ばした使い魔も到着しているでしょうし、救援チームも編成が済み次第出発するでしょう」

「……じゃあ、町に着くより前に人手が増えるね」

 焚き火を前に、カレンとスノウは地図を見ながら話し合っていた。

 高レベルの魔導師であるカレンの使い魔は、半独立状態で長期間行動させられる。

 それを利用してクラレスの冒険者ギルドへとギルマンとスキュラクラーケン来襲と討伐の報告と名も無き村の避難民への救援要請の手紙を持たせて飛ばしたのだ。

 手紙を見たギルドは大騒ぎとなっているだろうが、報告しないわけにもいかない。

「……恐らくですが、救援チームはもう出発しているでしょうね」

「なら、二、三日中には合流できるかな?」

 スノウの予想にカレンは、恐らく。と頷いた。

 救援チームがどんな編成になっているかは分からないが、手が増えるのは素直にありがたい。

 なにせ百人の避難民を実質二人で護っているのだから。

 その苦労は並大抵ではないだろう。

 現にスノウもカレンもあまり休めていない。夜はどちらかが必ず見張りに立っているし、常に気を張っていて疲労が回復していないのだ。かと言って、戦力的にもふたりが同時に寝てしまう訳にもいかない。

 高レベル冒険者とはいえ、そんな状態が長く続けば疲労は溜まる一方になるのは当然だ。

 無論うら若き乙女ばかりが交代で夜番を務めている訳ではなく、男衆も番に立ってくれてはいるものの戦う技術に通じていない彼らに任せきりには出来ない。

 一人二人が強いだけでは限界があるのが自明の理である。

 とはいえ、援軍の予想が立ったので、これを希望にスノウは自分を奮い立たせた。

「よっし! …………」

「……どうしました?」

 気合いを入れたスノウがわずかに震えて停まったことにカレンが首をかしげた。

 スノウは軽く頬を朱に染めると苦笑いを浮かべた。

「……ちょっと、お花を摘みに……」

「ああ、行ってらっしゃいませ」

 スノウの告げた理由にカレンも苦笑してエルフ少女を送り出した。

 スノウが少しモジモジしながら繁みの方に入っていくのを確認し、カレンは再び地図へと視線を落とした。

 そして、その少し後。

 繁みの向こうから、甲高い悲鳴が上がった。

「な、何事ですかっ?!」

 尋常ではない声に、カレンは慌てて立ち上がり、繁みに分け入った。

 そしてそこで見たものは、下帯を膝まで下ろしたまま中腰でスカートの端を押さえて真っ赤になったエルフ娘と、無数の剣で大地に縫い付けられた小柄な黒髪の少年の姿だった。

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