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アムルディアの戦将《ウォーロード》 ~アールシア戦記TRPG異譚~  作者: GAU
第一章 “戦将”メルスノウリーファ
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第20話


 炎熱と氷結によって刻まれた×印から、マグマと吹雪が溢れ出し、溶岩の魔剣に焼き切られ、氷雪の魔剣に凍り砕かれたスキュラクラーケンの身体が、ぐらりと傾いた。

 獣魔の巨大な眼とスノウの眼が合う。そして、獣魔の目からは生気が抜け始めていた。

 決着である。

 が、次の瞬間。


ヴォア゛ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛ヴア゛ア゛ォ゛オ゛ゥッ!!


 スキュラクラーケンが断末魔の悲鳴を挙げた。

「……来たっ!」

 スノウは降下しながら身構える。

 そこへ、スキュラクラーケンの断末魔の叫びが真っ黒な靄に変じ、スノウへと襲いかかった。

 これが、獣魔が他の魔物と別格とされ恐れられる最大の理由。

 【断末魔の呪】だ。

 この特殊能力は、獣魔が必ず保持している特殊能力で、自身にトドメを刺した相手に呪いを掛けるという特殊能力だ。

 その内容は多岐に渡り、獣魔のレベルが高ければ高いほど、凶悪でえげつない呪いが掛かる。しかも、この呪いへの対抗手段はキャラクターの幸運による対抗判定で、獣魔のレベルが高いほど判定の目標となる数値が高くなる。

 スキュラクラーケンのような65レベルの獣魔の【断末魔の呪】ともなれば、普通に判定したのではまるで届かない目標値になる。

 より具体的に言えば、サイコロ二個を振って出た目の合計に3(最初期値の平均幸運値)を加算し、目標値65を越えろと言われるほどの難易度になる。

 ぶっちゃけ無理である。

 しかしながら、アールシア戦記譚TRPGでは、判定した際に振ったサイコロが六のゾロ目を出すと結果の如何に問わず成功となるルールが存在する。

 ちなみに、一のゾロ目が出た場合、確実に成功する判定でも失敗となる。

 したがって、スキュラクラーケンの【断末魔の呪】を回避するには、基本的に六のゾロ目を狙うくらいしかない。

「……くっ」

 呪いの靄がスノウの身体を包み込み、彼女の身体に染み込もうとした。

 呪いの回避に失敗したのだ。

 スキュラクラーケンの呪いが、スノウの身体を蝕む。発揮される呪いの内容は千差万別ではあるが、高レベルのものとなれば、かなり凶悪になる。

 例を挙げよう。

 その昔、魔族の置き土産として残された獣魔達には、七体の王が存在した。

 その力は、神にも匹敵するほどであり、人間達は長らく獣魔とその王に苦しめられた。

 だが五十年前、大陸中央に存在した大帝国、ガルーザ帝国の女帝エルサ・ブリュンヒルデ・ガルーザが、全軍を挙げて獣魔の王の内、一体を討ち取った。

 獣魔の王といえど人の手で倒せぬ存在ではないと、彼女は世界に示したのだ。

 その功績を以て、世界共通金貨に美貌の女帝エルサの横顔が彫られ、金貨はエルサ金貨と呼ばれるようになったほどだ。

 だが、その後の彼女と帝国の運命が、獣魔の王の呪いの凶悪さを物語っていた。

 獣魔の王を倒し、トドメを刺した女帝エルサは、呪われたのだ。

 獣魔の王を倒して三日とせずにその呪いは女帝を蝕んだ。

 全身に正体不明の瘤がいくつも出来、身体が腐っていった。帝国一の宝石とまで言われた美貌が醜く腫れ上がり、腐汁を滴らせる肉塊と成り果て女帝は命を落とした。

 名君であった女帝を失った帝国は、さらに飢饉や疫病が流行り、瞬く間に崩壊した。

 どこまでが、呪いの効果かは不明だが、少なくとも女帝エルサが死んだのは、呪いのせいで間違いないだろう。

 なにしろ、どんな薬も、治癒の奇跡すらも効果が無かったのだ。

 恐るべき死の呪いだ。

 無論、スキュラクラーケンの【断末魔の呪】がそこまでのものとは限らない。だが、65レベルの獣魔の呪いが、軽いはずは無い。

 それが、スノウを呪殺せんと彼女を襲ったのだ。

「スノウっ?!」

 カレンが思わず声を挙げた。

 が、そのとき。

 スノウの身体に電子回路のような幾何学模様が浮かび上がり、神々しい光を放って呪いの靄を掻き消し始めた。

 まるで、呪いを消ゴムを掛けるかのごとく消し去っていくその光は、やがて靄をすべて消滅させてしまった。

 獣魔が世界に解き放たれてから数千年は経つ。

 その間、ヒト族がなんの手も打たない訳は無かった。

 解呪こそ出来ないものの、呪いがかかる瞬間に相殺する術だけは、なんとか作り上げていたのだ。

 それが、スノウの装備魔術“カースディストラクション”である。

 獣魔が倒された瞬間に発動する【断末魔の呪】は、獣魔の断末魔の声と恨みの念を瘴気と変え、対象に掛ける魔法のようなものだ。

 一度掛かってしまうと解除は難しいが、かかる直前にこの瘴気を強い聖なる力で浄化、相殺することは不可能ではなかった。

 とはいえ、有る意味獣魔がその命を対価に掛ける呪いだ。

 低位の獣魔でも瘴気の濃度の高さは尋常ではない。

 半端な浄化では相殺どころか、一方的に打ち消されてしまうだろう。

 そのため、“カースディストラクション”はかなり強力な聖力によって作られる。

 そのため、かなり高額な上、使い捨て扱いだ。

 しかし、スノウの持つそれは、前回のロングキャンペーン終盤、吸血竜ブレウザッハとの決戦に際し、これに挑む前に数々の試練を潜り抜け、乗り越え、真竜と神々の祝福を受けた各プレイヤーキャラクター専用のものに強化されたものだ。

 どれだけ強大な……獣魔の王の呪いですら、一シナリオに一回だけ完全相殺してくれるという強力なものとなっている。

 しかも専用の装備魔術だけあって、使い捨てでは無く、シナリオ制限アイテムと化しているスペシャルアイテムだ。

 この効果により、呪いの回避に失敗したスノウは、呪われずに済んだのだ。

 最後の一撃を躱され、今度こそスキュラクラーケンの命の灯火は消えていった。

 そして、その命の残滓が集束し、どす黒い魔石に変じた。

 そう、スノウ達は勝ったのだ。

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