その6
目を開けると、最初にゴツゴツとした岩が目に入った
薄暗い中、体を起こそうとしたが、途端に激痛が走り小さく呻き声を上げる
すると「気が付いたか」と声が掛かり、足音が近付いてくる
そして私の顔をのぞき込んだのは、誰がどう見ても狼
・・・それも2本脚で立ち、ご丁寧なまでに服まで身につけていた
「・・・まあ、この形じゃ驚くだろうな
今は『青葉』とだけ名乗っておこう」
そして私が微かに震えているのを見て取ったのか
「別に取って喰おうなどとは思ってないから安心しろ
尤も、食料に関しての問題は山積みだがな」
と言いながら、私の上体を抱えて外が見えるような体勢にしてくれた
「外の状況は見ての通り、天に逃げてった奴らが置いてったとんでもない物のお陰でこの辺りはほぼ不毛の地
俺らを指揮してた鬼達も殆ど跡形もなく吹き飛ばされた」
・・・と、外からもう一匹(?)2本脚で歩く狼が入ってきた
「駄目だ、ここらじゃ虫一匹見つからねェ
丁度そこの嬢ちゃんも目ェ覚ましたことだし、余所行くか」
「とはいえ、余り長い時間外には出られんぞ
まだ毒が漂ってるはずだ」
と、青葉と名乗った狼は言いながら私の耳元で
「外は致死量レベルの放射線だらけだ
ここから出られるのは長くて30分と言ったところだ」
と、もう片方の狼にすら聞こえないような声で囁いた
何故この時代の狼がそんなことを知っているのか、という表情で固まった私を気にしなかったように青葉は
「まあ、ここらには鬼が住処にしていた洞穴が幾つもある
殆どは戦いに出る前に入り口を岩で塞いでいったから中にある食料は食べても問題はない
それで食いつなぎながら離れていくしかないだろうな」
と言って4つ脚の状態に戻り、丸まって眠り始めた
「そいつ嬢ちゃんが目覚ますまでずっと側にいたんだが・・・知り合いかなんかか?」
ともう一匹の狼が訊ねてきたが、私は横に首を振った
「まァ、あんたらがどういう関係でも俺には関係ないんだがよォ」
と言いながらその狼も青葉と同じように眠り始めた
私は青葉の背を撫でながら
「私は貴方のことを知らないはずなのに、貴方は私のことを知っている
貴方は一体誰なの?」
と呟いた
やがて暗くなり、完全な静寂が訪れる
どれほどの時間が経ったのか、詞も眠りについた
これで実質的な第1章は終わりになります
作者のサボり癖(若しくは怠け癖とも言う)のお陰で1章完結させるのに2ヶ月掛かるという始末
本話で登場したオリキャラをば
名前:青葉
種族:狼(妖獣)
能力:未発現
その他:全身がほぼグレー一色の毛に覆われており、やや暗い青の眼をしている
青葉という名前は自ら考えたもので、ロシアンブルーのような色の体毛から
名前:羽黒 元就(通称:クロ)
種族:狼(妖獣)
能力:遠吠えで仲間を呼ぶことが出来る程度の能力
その他:青葉と共に行動しているもう一匹の狼
通称通り全身真っ黒であり、眼も黒い
ただし口調に反して根は真っ直ぐであり、少なくとも腹黒さは全くない