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その3

「うん、体調に問題は無いようだね」


翌朝、目を覚ましたときにいた看護師さんがそういった


私もいつの間にか用意されていた服に着替えている


「じゃあ、これで退院というところだけれど・・・」


と口ごもる看護師


「・・・あてはあるのかい?」


私は首を振った・・・勿論横に


「そうか、困ったな

当てがないんじゃ退院出来ないし、かといって病院に泊まらせたままという訳にもいかないし・・・」


「では、私が面倒を見ましょうか」


看護師さんが何やら唸っていると、その背後から声がかかった

昨日僅かな間だけ病室に来た看護婦さんだ


「いいんですか?」


「ええ、そのくらいの歳なら身の回りのことは自分でできるでしょうし」


「その前に家広くないでしょうが

前に行ったときは散らかってたし」


・・・大丈夫なのだろうか


「そ・・・そんなものすぐに片づければ」


「それに、留守番させるのも問題でしょう」



「なら、私に面倒見させてくれないかしら」


「八意様まで・・・」


「貴女の所で預かっても仕事が出来ないでしょう?

なら、弓術か銃器の扱いを覚えさせれば街の警備隊に配属させられるでしょうし、あそこなら寮もあるから問題ないでしょう」


「・・・はあ、もう好きにして下さい」


うなだれる看護師さん・・・あれ?


「というわけで、この子に教えなきゃならないからもう上がらせて貰うわ」


「・・・つくづく権力って怖いですねぇ」


・・・どうやら逆らえない流れが出来上がってしまったようだ


「もしもし?

すぐに迎えに来て頂戴」


永琳が電話で誰かを呼びだしたようだ


運転手付きの家なのかな



暫くすると黒塗りのどう見ても高級車だと分かる車が横付けされた


すると運転席から人が降りてきて扉を開け


「どうぞ」


と乗車を促される


車の後部座席に二人で乗り込むと扉が閉められ、運転手が運転席に戻り、車が走り出した


道中、特に会話はなく、カーステレオもないようで、かなり静かなままである


かといって自ら話しかける気にもならない、というか気まずい


外を見ようにも、どうやら専用道路のような道に入ったらしく、景色の変化がなくなった


丁度諦めて眠ろうとしたときに車が止まり


「お嬢様、お客様、到着致しました」


と運転手が言うのとほぼ同時に扉が開けられる


車から降りると扉が閉まり、車は走り去っていった


「どうぞこちらへ」


と、運転手とは違う人が先導し、家の中に入る


車から降りたときにも思ったのだが、かなり広い


少なくとも私には一生縁のなさそうな家だ


「お嬢様、応接間にてお客様がお待ちです」


「分かったわ

貴女もついてきて頂戴」


そう言われ、先導する侍女さんについて行くと、やはり無駄に広い応接間に通される


中央にある応接セットの奥の椅子には見たことのない男性が腰掛けていた


明らかに3~4人はゆったり座れるほどの幅の椅子の中央に座っている男性は特に気取った様子もなく、出されていたお茶に口を付けていた


ノックも無しに部屋に入ったのだが、特に気にもせずカップを置き、こちらを見る


妙に美形なのが気にはなったが、それよりも落ち着いた身なりでありながら高貴な雰囲気を漂わせていた


「また来ていたのね、月夜見(ツクヨミ)


永琳が軽口を叩きながら椅子に腰掛ける


流石に勝手に座るわけにはいかないので斜め後ろに立ったまま居ることにする


「『また』なんて大層な

前に来たのは一月も前だよ」


「冗談よ

それより何の用?」


「ああ、これの事なんだが」


「ちょっと待って」

と永琳が止め、呼び鈴を鳴らす


すると

「失礼します」

と言って先程の侍女さんが入ってきた


「この子に客間を割り当てて頂戴

多分二月ほど預かることになるから」


明らかに無茶な要望だとは思ったが、侍女さんは

「畏まりました」

とだけ返し


「どうぞこちらに」

と案内する


案内された客間は準備する時間など無かったにも関わらず手入れが行き届いており、大柄な人の宿泊にも備えてか、やや大きめのベッドが隅に配置され、中央には大きめのテーブルが置かれ、テレビや冷蔵庫、エアコンなどが用意されていた


「お客様の部屋はこちらになります

どうぞ、ごゆっくり」

と言って扉が閉められた


先程の感じから話は長くなるだろうし、それに二月も置いて貰えるのなら今すぐ何かをする必要も無いのだろう


テレビやラジオはあるが、特に興味のない私はベッドに寝ころぶ、というより倒れ込んだ


明らかに自分の部屋のベッドよりも質がいい


客間の隅々にも金を掛けるとは、流石金持ちは違うなどと俗っぽい考えをしているうちに柔らかいベッドが眠気を誘ったのか、気がつけば私は眠っていた


どれくらい時間が経ったのか、私は扉をノックする音で目を覚ました


「詞さん?」


扉越しに名前を呼ばれている


扉を開けると、永琳が立っていた


「ごめんなさい、話が長引いてしまって

本当は今日のうちに訓練所に顔を出しておきたかったのだけれど」


「いいえ、問題ありません」


「そう、ではお夕飯にしましょう」


それから私は食堂のような部屋に通された


食堂のような、と言ったのは広い部屋の中央に豪華な長テーブルが配されており、どう見ても食堂、というどこか大衆的な響きの言葉とは無縁な感じが部屋全体からしていたからだ


「特に席は決まってないから、好きなところに座って」


と促されたので、永琳の向かいの席に座った


すると次々料理が運ばれてくる


凝った模様の皿に少量だが、綺麗に盛りつけられた料理が載っている


これをレストランで頼んだら幾らになるか、など考えたくもない


落ち着かないまま食事を終え、用意された客間に戻る


勿論永琳も一緒だ


「では貴女は明日、訓練所に行って貰います

初日は付き添えるけど、以降は別の付き添いと送迎の車を用意させるわ」


見ず知らずの人間に金掛けすぎだろうと心の中で突っ込む


尤も、そういう自分も既にこの環境に慣れてしまったのか、どう見ても高そうな椅子に普通に座っている


「一応、訓練所にも単身者のための寮はあるけど、狭い割には高いからここで寝起きしてもらってもいいわ」


・・・この人の感覚で狭いって、どの程度なのか疑いたくなってきた


以降、どうでもいい注意を言ってから永琳は部屋を出ていった


因みにどうでもいいという事に対して言い訳、というか理由を言っておくと、永琳自信が『どうでもいい』などと言ったのだ


・・・時々重要な事柄も混ざってはいたのだが


とりあえず、どうなるかも分からない明日のことを考えても仕方がないからまた寝よう


明日のことを言うと鬼が笑う、とも言うし


・・・それは来年だって?

さて、何の事かしら

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