良い別れ
文才なくても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:グッドバイ
良い別れ方って難しいものだと思うんだ。
そんな事を考えさせられたのは、辻先という表札の出てる明の家の玄関前でのことで、「グッバイ」なんて明に言ってしまったせいなんだが。
つまり、責任の一端は俺自身にあるんだろう。
けれど、
「良い別れ……とは、定型句とはわかっていても、口にするにはどこか寂しいな」
などと、明が儚げな笑顔で俺に言ってきてからがこの悪寒の本番だ。
明の素ボケっぷりを今更ながら計算に入れ忘れてた俺も阿呆の極みだが、何で明……男であるお前はそのセリフを他の二人の女子を無視して男であるこの俺……伊出修一に向かって言った? なあ、おかしいとは思わないのか? おかしいだろ。おかしいと思えよ。
ああ、俺は誤解しないさ。
明はこういうヤツだってことを、分析はできないが経験からは理解できてる。
隣の大杉さん宅の博美さんも、隣家の幼馴染というスタンスを生かして誤解はしないだろうさ。
蓑月の苗字の通りすっかり存在感を消してる勇次さんに至っては、誤解どころかスルーだろうさ。
でもお前、一応、その……俺の背中に鳥肌を立たせるもの静かでたおやかな風の優しげな相貌なのに眼光がどこかおかしいこの奥羽さん家の千翔子お嬢さんは、お前の彼女も同然だよな?
今年の春の花見の席で二人っきりにして夕暮れまで同じビニールシートに放置して、別れ際もいい雰囲気だったから告白できたかと聞いてみたら、見惚れていて忘れていたとかほざくありさまを今の今、この夏真っ盛りまで延々と続けてきていたとしても、お前……このおっかないお嬢さんはお前の彼女だよな?
よしんば違っても、そうありたいと思ってたよな? というか、もう面倒くさいからこっちもくっつける気満々だから、もうそれ扱いしてていいよな? というかお嬢さん本人から相談されている身としては、どうにかしてくっつけてしまいたいわけですが。
怖いんだよ。そういうアーッていう意味じゃなくて、ザシュッ的な意味で怖いんだよ。
よく考えろよ。
お前がどんなにトンチキな発想するヤツでも分るだろ。
男友達の別れの挨拶なんてそんなに引き摺らなくてもいいんだよ。流せよ、流せ。
ほら、お前の彼女(単独筆頭候補)がお前のその反応のせいで挨拶しづらくて困ってんじゃん。
お前のせいなのに、たぶんこの感じは睨まれてるのは俺なんだよ。
泣くぞ。
泣きたい気持ちもあるけど、何よりこの朴念仁からの告白を期待しているお嬢さんの憤怒から身の保身を図る為に、僕も困っているんですぅって感じで哀れまれる為に泣くって手段を考慮に入れるぞ。
彼女への挨拶すら怠る朴念仁に何を期待してんだと、軽くお嬢さん側からの告白を促したい気分だけど、無理なんだよ。
とても寂しげに深く暗く静寂な眼差しで「明君のこと……よく知っているんですね」とか言われるんだよ、俺が。
だからやめろよ。
まだ悩んでいるのかよ。悩むなよ。
明日もまた会えるからってんじゃないけど、惜しむような別れじゃないだろ。
まあ、明が別れを惜しむかどうかより、俺が自分の命を惜しむかどうかが目下の課題なわけで、
「なんだよ明。そんなにお嬢さんとお別れしたくないのか?」
とまあ、こういう風に明の考慮なんか無視して話を進めるけどな。
「したくないのはもちろんのことだ」
というドストレートの剛速球のお蔭で、やっと後ろからの目力らしきものが緩まったようで、俺はとても深く溜息をつくことができる。
安堵の産物だが、明にはどう伝わっただろうか。
非常識な発想には非常に知的好奇心がそそられるが、好奇心は猫を殺す。今このときは手出しを考えずに、呆れの溜息という風に常識的な考えをしているであろう皆のイメージに乗っかって、
「はいはい。おあついおあつい」
「……夏だからな」
「気温のことだけど気温のことじゃねーよ」
とか会話をしつつ、千翔子お嬢さんが明の正面に来るようにフェードアウトするが吉だな。
「ほら、明。あたしたちには?」
という博美の援護もあって、無事に安全圏に離脱完了。
そんな俺に比べて、既に数歩先の離れたところで微笑んで見守っている勇次さんとか、マジでぬらりひょんの域。あんたは無敵か。
とか何とか、やっとの平和を心の底から堪能しているところなんです。
「ああ、またな」
「やけにあっさりねえ……」
っていう感じに、先ほどの騒乱の火種に着荷しないでもらえますかね。ホントお願いします勘弁してください。
「とても騒がしい”良い朝”がまた来るのかと思ったら……な」
「そうか明。俺との再会はありがたいと感じてくれてたのか。じゃあ、そこのお嬢さんとはもっといい別れをしないとな」
さあ。さあ。さあ、早く。そこのお嬢さんの眼力が覚醒する前に早く。何でもいいからお前の視線で喰い止めろ。
「……なるほど」
という明の言葉を契機にして、見つめ合った二人は彼らだけの世界に……。
さあ、今の内にもう二三歩離れようか。
「なるほど」
そこの大正美男子さん、そういう一見無意味な発言での微笑みもお前がやると様になっていいですねえ。
「明日が確実に幸せになるのなら、今の別れを惜しむべきでもないか」
よし。
いいぞ。
そのまま刺激を与えずに離れろ。
いや、むしろそこで拉致ってお前の家に泊めてしまえ。
やんないと分ってる儚い願いだけどな。
「グッバイ」
という明の言に、お嬢さんはどこか舌打ちしそうな気配を漂わせつつメロメロのご機嫌で、声にならない返事をしてた。
というか、明が分ったようにウンと頷いていたから返事をしてたのが分ったんだが、何か伝わるテレパシーでもあったらしい。
「じゃ。また」
と最後に博美が〆てお別れ。
明もするり家の中に戻っていく。
よかったよかった。これで平穏無事にまた明日っと。
「男同士で見つめ合うから何事かと思ったわよ」
と、隣家に向かいながらの博美の言にも、
「そうは見えても別に大したことは考えてないだろ、どうせ」
なんて風にサラリと対処できる。
「ま、大体そうよね」
そういって博美が家の戸を開けた時、
「本当に、明君のこと……よく知っているんですね」
という千翔子お嬢さんの声が聞こえなければ良かったのに。
ああ、明日を迎えられるかどうかすら分らないことになるのなら、もう少し良い別れをして於けばよかった。
グッバイ、俺。
私用で時間が潰れても、どうにか処理してくれる修一君の一人語り。君に幸あれ。
メインで書いてる物語のバッドエンドは回避できないが、絶対にトゥルーエンドにはしてみせる。だから今は安らかに眠ってくれ。
できれば今後とも……。
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304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/11(日) 18:18:25.11 ID:8ZZaB25M0
お題下さい
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/11(日) 18:38:50.47 ID:VMBVgmEm0
>>304
グッドバイ
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/11(日) 18:41:26.77 ID:8ZZaB25M0
把握しました




