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第3回:そしておやじはここにいる

 栗色の髪はつややかにセミロング。すっと線を描いた眉の下の瞳は大きくまん丸でルビーのよう。筋の通った鼻梁。半円を3つ組み合わせたような唇はぷっくらとして愛らしく、頬も桃のように幼い。輪郭は程よく肉の付いた丸顔で、全体的に幼く見えるが、歳相応の落ち着きも身についた魅力的な女性。

 の、写真を見ながらおやじは言った。

「へー、ほーん。で、このむすめっこか?」

「……ああ、釘谷さんていうんだ」

 俺は妙に気恥ずかしくてそっぽを向いて答えた。おやじがにやにや笑っているのがわかる。

「な、なんだよ……」

「うちの娘の足元にも及ばねえが、なかなかかわいいじゃねえか」

「ど、どうでもいいだろ、そんなこと」

「で、この子をどうする? どうしたい? 言っとくが、おれに任せてもらえりゃ結構なんでもありだぞ」

「どうしたいって、その……」

 おやじは18歳以上って言ってたよな……。

 ってことは、その……キス……とか、じゃなく、それ以上の、あんなことやこんなこともできてしまうのだろうか! つまり、その、手を握るとか、腕を組むとか、背中から抱きしめてみたりするとか、それどころじゃなくて、その、髪を撫でたり……とか。

 あー、ダメだダメだ。それだけでもドキドキもんなのに、あまつさえ耳に息をかけたりとかしてもいいのか……!

「で、なんだ。○○○すんのか?」

「だぁーーーー!?」

 俺はおやじのとんでもない発言をかき消すように大声を張り上げた。

「つはー、てめ、うるせえな、なんだってんだ、いきなり」

「それはこっちのせりふだよ! なんだって、いきなりそんな……とか」

「あーん? ○○○のこと?」

「だーっ! だから言わないの」

「はっはーん」

 おやじはしたり顔でうなづく。

「あーはいはい、お前、あれか。まだ童貞か。ガキだなぁ〜」

「大きなお世話だ!」

「んじゃ、尚更だな。ちょうどいい機会じゃねえか。ここらで一発。おとこになろうぜ」

 妙に下世話ににやにやするおやじ。

 俺は反論する元気もなくなってきて、

「違うの。俺は釘谷さんに彼女になってくれるだけでいいの」

 そうさ。あくまでプラトニックだ。彼女の笑顔がもっとそばで見れるなら、それだけでいい。別に一緒にベッドとか……ベッド!? いやいやいや、ベッドとか関係ないよそんなのー!

「ともかくお前とっとと帰れー!」

 なんかよくわからなくなって、気づいたときには下卑た笑いを浮かべるおやじを怒鳴りつけていた。 

「なんだってんだ。まぁ、そんな神経質にならんでも、契約の完了手続きが済めばこんな小汚ねえ部屋すぐに帰るぞ」

「く。なんだ、じゃさっさと手続きしちまおうぜ。どうすればいいんだよ?」

「おれとお前がキス」

「どうぞこの部屋にいてください」

「うわー、あきらめるの早っ!」

「だって、お前! なんでキスなんだよ! そんなのが手続きっておかしいぞ!」

「だって魔法少女だもん」

「何の説明にもなってねえし!」

「いや、だからな。おれはチャーミングな魔法少女」

「だから、あんた男だろうが」

「……の代理だ。いいから、話は最後まで聞けよ」

「妙な区切り方するからいけないんだよ」

「なんで、そんなことまで難癖つけられなけりゃならんのだ。いいか、だからな、魔法界においては異性同士のキスは至上の誓いとして認識されているのだ。契約遂行の際にはキス。これは常識とともに、ルールとして定まっているのだ。で、俺は魔法少女の代理としてきているわけで、契約上は俺の性別は娘と一緒の女性ということになるのだ。つまり、そういうことなのだ」

「な、バカな……」

 俺は絶望的な気持ちになった。

 魔法によって願いをかなえてもらえるという絶好のチャンスを得ながら、それにはもれなくおやじとのキスがついてくるなんて。

 彼女は欲しいがおやじとのキスはきしょい。

 なんなんだこのジレンマ。

 釘谷さんを恋人にしたい気持ちがおやじとのキスを忌避したい気持ちを上回らない限り、決行はない。

 くそうぅ……。


 と、思ったとき、目に入ってきたのは、先月の休みに仲の良いグループで行った旅行での写真。

 どうでもいい友人連中有象無象に囲まれて、俺と、ちょっと離れたところに釘谷さん。

 やっぱ、かわいいなぁ。釘谷さん。優しいし、おしとやかなだし。

 この距離をもっともっと縮められるならば!


 男同士のキスも、一時の恥。

 その後の花園を思えばおやじと軽くキスするくらい……。

「あ、ちなみにディープキスな。5分以上」

「絶対ありえねえ!!」


 結局。

 その後どうなったのかというと。

「おい、茶ーわかしてくれや」

「はいはい、少々お待ちを……って、茶くらい自分でわかせっての! 俺はお前の女房か!」

「失礼な。おれのかあちゃんはお前みてーな、ひょーろくだまじゃねーっての」

 おやじは今も俺の部屋にいる。

 なんでも女神によって派遣された魔法少女(代理でも)は願いを叶えるまで帰ることが許されないらしい。そして一度仕事が始動した以上は、キャンセルなんかもできないのだそうだ。

 つまり、俺がキスをしない限り、このおやじはここに居座り続けるということなのである。

 なんだこの状況。

「なぁなぁ」

「なんだよ、おっさん」

「いい加減、腹くくってキスしちめーよ。男だろ!?」

「男だから嫌だって言ってんだよ!」

 アパートの一室に怒号が響く。

 降って湧いた変なおっさんとの共同生活は当分続くようである。


「俺、なんにも得してねー!!」

2ヶ月の間が空いたけどようやく完結。本当、どうでもいい話ですがお暇つぶしにでも。

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