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第1回:代わりにおやじがやってきた

あてんしょんぷりーず。

これは可愛らしい少女のオトボケ魔法とかで「モエモエ〜」とか言ったりする小説でもなければ、王道的な魔法少女の活躍を描いたものでもありません。

サブ主人公はおやじです。

そういう期待感は持たずにお読みください。

 杉で作られた安っぽい扉を開くと中にはおやじがいた。

 バーコード頭とは言わないまでもかなり頭頂部の髪がさびしくなっていて、微妙に整ったちょび髭を生やている。まだ冬ともいえる時節なのにベージュ色のステテコとドクダミ茶みたいな色の腹巻き以外には靴下も履いておらず、これで黒ぶちの丸眼鏡でもつければまるで昔のコメディアンのふん装そのままの姿だ。街角で百人に聞けば九割方「おやじっぽい」と答えるだろう。

 そんなイメージが凝縮したようなおやじが俺の部屋で茶をすすっていた。

 言っておくが、俺のおやじではない。俺の実のおやじはもっと弱弱しく、なんていうか「柔和なおじさん」って感じだ。そもそも俺にこのおやじの顔に見覚えがなかった。

「よぉ、遅かったな」

 面識がないというのに、そのおやじは気安く声をかけてきた。1回外に出て号を確かめるが間違いなく俺の借りているワンルームだ。

「なんだ、暖気が逃げるからそんな開け閉めすんなよ」

 まるで部屋の主人であるかのように振舞うおやじ。俺はつい「あ、すいません」と謝りそうになって気を取り直した。

「いや、ていうかあなた誰なんです?」

「ああん? なんだお前アレか。なんにもわかってないのか。んじゃ頭の悪いお前にもわかるように簡単に教えてやるよ」

 おやじの言葉選びには腹が立たないでもなかったが、ここは素直にうなづいてみる。

「つまりな、おれはアレだ。こことは違う魔法の世界クリーミィランドからやってきた激烈魔法少女ルンルン・チャーミィ……の代理だ」

「は?」

「正確にはチャーミィのおやじだ。娘が風邪ひいちまったんでな。ま、マジカルフリフリパワーでなんでも願いはかなえてやっから安心しとけ、な」

 そう言って、おやじは小さな女の子向けの魔法少女変身グッズだかなんだかに入っていそうな星と赤い宝石のついた安っぽいデザインのピンクのステッキを取り出すと、それでまごの手のように肩をたたく。

 俺はおやじがそんな頭のわいたとしか思えないおやじの姿をぼんやり眺めながら理解した。

 ああ、これは夢だ、と。

 なんて、悪趣味な、早く目を覚まさないと。

 そう思った俺は拳を堅く握り、力の限りにそのおやじをぶん殴った。

 おやじは「ぼへらっ」とか変な叫び声を上げて畳の上にたたき伏せられた。

 なんてこった。

 手ごたえがある!

 ということはこれは夢ではないのか!

 ぴくぴく痙攣しながら口からはカニのようにあぶくを吐き続けるおやじを見つめながら、俺は言い知れない不安を感じ取っていた。

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