そのさん
「これ、行きたい。」
「辞めとけ。」
「絶対行く。」
千晶を嗜めるように言うが今日の千晶は俺の言うことまったく聞かへん。なんやねん、反抗期かいな。琴でももう終わったで。
「行きたい言ってんねんからええやん。はいろ、宗輔くん。」
木下が軽く俺の背中を押して誘導する。どこに行くんやて?目の前はお化け屋敷なんやけどな。
「千晶は兵頭くんがおるやろ?」
止めとばかり木下がそう言って俺の隣に並んだ。なんや、千晶が俺のことを恨めしそうに見てるけど。……だから入らんかったらええって言ってんのに。
「ちょっと、まって。木下。千晶は暗いところ……。」
「もう、大人なんやから大丈夫やもん!宗輔、うるさいわ!」
「ホンマか?兵頭くん、悪いけど千晶がちょっとでも変な感じになったら外に出したってな。」
「?……うん。わかった。」
何をそんなに意地張ってんのかなあ、千晶は大丈夫かいな。
俺は少し不安に思いつつも兵頭くんと一緒やから大丈夫やと高をくくってしまった。
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「ここのお化け屋敷って毎年凝ってるやんねえ。」
「俺、あんまり入れへんからわからんけど毎年えらい宣伝してるんは確かやな。」
木下が言うようにここに入るのもこうやって列で並ぶくらいや。本物の役者さんが幽霊役で出てくるとあってリアルで怖いと人気があるらしい。今年は「皿屋敷」。あの有名な皿を数えるお菊さんや。
「私、姫路城行ったとき井戸見てきたで。」
「へえ。なんか、皿屋敷の話しっていろんなとこであるみたいやで。兵庫のは「播州皿屋敷」やし、東京やったら「番町皿屋敷」なんやて。」
「宗輔くんって物知りやね!」
「そんなこと、ないない。たまたまテレビで見ただけや。」
「何?どうしたの?」
「それがさあ……。」
自然と入ってきた兵頭くんと今度は三人でしゃべる。なんか、千晶のテンションさがっとんなあ。やっぱり辞めとけばええのに。
「千晶、まだ間に合うで。辞めとき。」
後ろにぽつんとしていた千晶に声をかける。だが、そう言われたのが千晶の気に障ったらしく
「ほっといて!」
と怒られてしまった。
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いよいよ俺たちの順番になって俺と木下が先にお化け屋敷に入っていった。ちょっと心配で振り返ると千晶は兵頭くんと手えつないどった。心配して損したわ。なんかその光景に胸が痛くて、木下とどんどん進んでいった。
「なんかよう出来てるわ。ほら、障子の血しぶきとか細かいやん。」
木下はキャーキャー言うわけでもなく淡々とお化け屋敷のつくり自体を観察していた。
「木下は怖くないんか?」
「宗輔くんも平気そうやん。私、これでも舞台装置とかに興味あるからよく見ときたいねん。」
「へえ。結構裏方志望なんや。」
「うん!そうやねん。私、千晶と一緒で派手に見られるやろ?でも、ほんとは人前嫌いやし。細かい作業とか大好きや。……宗輔くんって不思議やね。なんか、話してると安心するわ。」
「長男やからかな。兄弟の面倒見て来てるし。」
「なんか思ってたイメージとちゃうわ。もっと冷めてる感じに見え取ったし……。」
「オタクでキモそうやったろ?」
「え……。そ、そんなことないよ!確かに影薄い感じやけど。でも、千晶がなんであんなに懐いてるか分かった気がするわ。」
「千晶も兄弟みたいなもんやからな。」
「……ぷっ。私らお化け屋敷に入ったら嫌がられる客とちゃう?」
「確かに、もうちょっと怖がらんと幽霊さんたちが気の毒やわ。木下、ほら、かわいく叫ばな。」
「え~。宗輔くんが私のシャツの袖持って震えてや。」
「あほな。」
そんな他愛もない話をしていたら後ろから叫び声が聞こえた。




