そのに
その日曜日はすんなりと快晴やった。
一週間前からてるてる坊主を裏返しにぶら下げてたのにあかんわ。
しょうがないから4人分のサンドイッチを抱えて千晶と待ち合わせ場所に行った。
「え、あれ、木下やんか。」
「うん。比奈ちゃん。実は宗輔のこと気になっとってんて。」
木下比奈とは千晶の友達で、少々キツイ感じがする美少女や。な~んか嫌な予感するなあ。「気になる」と「好き」とは違うニュアンスなんやで千晶よ。ああ。兵藤君の爽やかな笑顔が俺を刺してるし。
「おはよ、宗輔くん。前から君に逢いたかったんだ。」
さいでっか。兵藤くんの唯一嫌なところは「関東弁」なとこやな。今気付いたわ。
なんやねん。俺に用なんかないやろ。俺の目の前で千晶とイチャつくなよ。
……そんな俺の熱い視線をかわす所も爽やかな男前でいやになるわ。
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「うそ、これ、全部、宗輔くんがつくったん!?」
「あ、まあ……。」
「私も手伝ってんで!カラシバター塗ったりとか、塗ったりとか。」
「それって誰でもできるやん。塗ってばっかりやし。千晶はどうでもいいねん。男の子で料理できるってなんか、素敵やん。」
園内を一回りしただけでお腹がすいたと言い出した千晶にみんなが同調して早めのお昼となった。俺が弁当を広げるとまじまじと木下が感心しながらサンドイッチをつまみ上げた。褒めてもらうのは素直に嬉しいわ。
「これって、照り焼き入ってんの?このオニオンスライスのシャキシャキ感とかすごい!めちゃくちゃおいしいよ!」
興奮気味の兵頭くんはあっという間にサンドイッチを胃袋に収めて行った。お~。なんか男前に褒められるのも変な感じやけどまあ、ええわ。今日は鳥の照り焼きとタラコポテトサラダ&定番タマゴサンドの3種類や。
「そんなにガッつかんでも沢山作ってきたからゆっくり食べや。」
「ゆっくり食べてたら後の二人に負けたちゃうよ!」
兵頭くんの言葉で千晶と木下をみると、こちらもガッついていた。
「皆、朝ごはんちゃんと食べてきたんかいな……。」
もはや誰も俺の言うことなんてきいちゃいなかった。凄い勢いで無くなっていくサンドイッチを奢ってもらったココアを飲みながら俺はちょっと得意げに眺めていた。なんや、弟たちみたいや。
食事が終わるころに果物のシロップ漬けをだしたらこちらも感嘆の声が上がった。
「なにこれ!?めっちゃ、おいしい!この黒いの黒砂糖?」
木下が俺にキラキラした目で近づいてくる。ちょっと、近いで。
「メープルシロップに漬けてるだけや。大袈裟な。」
「宗輔くんって、なんか、めちゃお得男子やん。こんな料理上手いなんて羨ましいわ!」
「木下、ほめ過ぎや。けど、なんやねん、お得男子って……。」
「俺、宗輔くんが女の子やったらお嫁に欲しいかも。」
兵頭くん、真顔で言わんとってくれ、なんか怖いやろ。
「料理できる男の子なんてどこにでも居るやん!ちょっと美味しかったからって皆ほめ過ぎやわ。」
後ろから千晶の不満げな声が聞こえる。ホンマのことでもそんな風に言うことないやろ。お前やって今朝サイコーやって味見しとったくせに。
「ちょっと、千晶、一番ほうばってるくせにあんた、よく言うわ。」
「ふん、宗輔なんか、鼻の下伸ばして嬉しそうにしとったらええねん。」
「千晶!」
尚も言い募る千晶に木下が喝を入れた。まあ、言い過ぎかもしれんけど怒ってくれんでもええよ。あれでいて気にしいやから後できっと謝ってくるわ。
「木下、ええよ。デザートも済んだし、なんか乗りにいこうや。」
空になったタッパーが俺に対する一番のご褒美や。文句言うてても千晶のやつ一番食べとったしな。
「宗輔くんて、優しいね。」
なんて兵頭くんがぽつりと言ってレジャーシートを一緒に畳んでくれた。……さりげない気遣いが女の子にウケるのも頷けるわ。話ししててもええ奴過ぎて悔しくも感じへんし。今まで千晶が選んできたんとは明らかに違う。見た目だけじゃなくて性格もええわ。
……これで俺も千晶のことすっぱり諦めれるかな。
ふう、と俺は小さく息を吐いた。




