そのいち
短編で入れるつもりが書いてるうちに長くなってしまいました。
「宗輔~一人やったらマリ〇しぬ~。」
「ちょっと待っとき。今手が放されへん。」
「何つくってんの?」
「……クッキー。」
「やった!宗輔のクッキー、めっちゃ好き!」
泡だて器でグラニュー糖とバターをホイップしながら少しづつ溶き卵を加える…シンプルなクッキーもここで手え抜いたらあかんと思ってる俺。一方うちのリビングのソファで寝ころびながらゲームのコントローラーを操作しているのは幼馴染の千晶。
「なあ。今日、ごはん食べてっていい?」
不意に立ち上がった千晶はトタトタ俺の隣にやってくる。
「?いいけど、千晶の母さん帰ってくるって言うとったやん。」
「……やっぱり無理になったんやって。」
「……そうか。」
千晶の頭を撫でてやる。なんで俺の家の台所に千晶が居るかと言うと、今日が試験明けの午後で千晶に彼氏が居ないからや。千晶は暇な時、大抵隣の俺の家に来る。家って言ってもマンションの同じ階やからすぐそこなんやけど。高校生になってからは一応部屋には上げないことにした。…なんでって千晶に責められたけど、男としてのケジメや。
「裕輔と琴ちゃんは何時に帰ってくるの?」
「さあ?小学校終わっても皆友達のとこ遊びに行くからなあ。」
「あ~あ。一緒にゲームしようと思ってたんやけどなぁ。」
裕輔と琴は俺の弟と妹や。親に言わせたら「そう、いう、こと」で名前をつけたらしい。ほんま、呆れるわ。うちは俺が中学のとき親父が交通事故で死んでからの母子家庭や。で、お母んは働かなあかんからほとんど俺が家事してる。千晶の家は複雑で親父さんは居るけど他に家庭があって、母親は「女優」。千晶は世間に公表されない「隠し子」として育った。仕事のこともあるから内緒やねんけど…。千晶が極端に寂しがりやなんはそのせいかもしれん。おんなじ母子家庭同士、女の結束は固く、母親同士はとても仲がいい。
クッキーの生地が出来たので丸めて冷蔵庫に入れた。2~3時間後に出して焼いたらちょうどお腹をすかした弟たちが帰ってくるやろう。あ、千晶、ご飯食べるっていったな。ご飯足りるかな?焼き魚にしようと思ってたけど頭数が足りへんからしょうが焼きでもするか……。
「お米くらいやったら研ぐで。」
夕飯の算段してたら千晶が隣で腕まくっとった。おったんかいな。ビックリするやないか。
「でたな米研ぎ名人。でもちょっとは料理も出来た方がええんちゃうか?」
「……から……ねん。」
「え?」
「なんや小さい声出して。聞こえへんやろ。」
「……お米炊けたら生きていけるってゆうたんや。」
「はあ。まあ、ええわ。6合な。」
なぜかふくれた千晶が米を洗い出す。料理を一向にしようとしない千晶が俺が唯一嫌いな家事だと知って米だけは研いでくれるんや。
「ご飯仕掛けたら一緒にゲームしてな?」
「俺ちょっと調べたいことあんねんけど……。」
「一人じゃ……つまらんもん。」
口を尖らせて何の攻撃や。ああ。相変わらずええ攻撃しよるなぁ。
「……。わかった。」
わかったから可愛い顔で笑いかけるな。
+++++
「宗輔!朗報や!」
「なんやねん。」
うららかな金曜の午後。家のソファーでごろりと横になって本を読んでいた俺に千晶が圧し掛かる。
「胸、当たってるっちゅうねん!気いつけや!俺も男なんやで!」
「男って……。宗輔は宗輔やん。なにゆうてんの。それより、いい話あんねん。ダブルデートや!今度の日曜、遊園地やで!」
「え……。」
お前はやっぱり悪魔や。あてがわされる女の子が俺やったらかわいそうやんけ。しかも、お前にアタックする男の必死な姿なんか見たくもないわ、胸糞悪い。
「予定空けとってや!…と、いっても決まってるけど。」
「なんやん……それ。」
いっつも勝手やねん。俺の気持ちも考えてくれや。はぁ、考えるくらいやったらこんな事言い出せへんか。千晶にとって俺はなんなんやろ。親友。ああ、下手せんでも「おかん」や「おかん」。
「遊園地行くから私の分もお弁当作ってくれる?」
「お前の分だけやったら他の二人はどうすんねん。」
「さあ?」
「……もう、ええわ。サンドイッチでよかったらみんなの分作るわ。」
「やった!皆にゆうとくわ。飲みもんはみんなでおごるから用意せんでええよ。」
「……で、今回の相手は誰や。」
一応聞いとくわ。心の準備に。
「ああ、兵頭君と宗輔のお相手は…ひ・み・つ。」
「兵頭くん?ってサッカー部のキャプテンやん。別れたんちゃうんか?」
「うん…まあ、そうなんやけど。」
千晶はゴニョゴニョいいながら下を向いた。アホらし。モトサヤか。
なんやかんやゆうても……兵頭くんとつきあうんか。千晶は。
……色々考えて落ち込んでしまった俺はそのショックでかその日のクッキーを焦げてしもた。