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9◇兄弟

9◇兄弟

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この世界の暦は俺の元の世界とほぼ同じだ。

一週間は8日であり、一ヵ月は4週間、一年は12カ月になる。

年間384日は固定であり、閏年の様なものは無い。

元の世界の365日より年あたり19日多いだけなので、年齢の考え方もほぼ同じになる。

こちらでの50歳が元の世界では53歳弱相当といった程度の違いだ。


年行事として、1月と7月に長期休暇の習慣がある。

それぞれ一ヵ月程の休みだが、この世界の長期休暇は王都学園の学生と貴族だけに許された特権である。

庶民は週の休みすら無い場合が多い。

大手商人で一週間に一回程度、定期的に休みを取るくらいである。



俺がこちらの世界で目覚めたのは1月であった。

王都学園は1月の終わりに入学で3年後の12月半ばに卒業だ。

それに合わせて12月中旬から1月中旬、7月中旬から8月中旬までのそれぞれ一ヵ月丸ごと長期休暇となり、

学生寮に住んでいる学生達の多くは帰省する。

ここから学園のある王都までは馬車で一週間かかるので、帰省するとしたら往復2週間を差し引いてこちらに居れるのは実質2週間だけだな。


兄のマイケルも7月末には帰省して来た。


「おかえりなさいませ、マイケル様」


執事とメイドが玄関の前に並んで兄を出迎える。


「おかえり、マイケル。」


屋敷内に入ると父と母も出迎える。


「お兄様、お帰りなさいませ。」


妹のシンディーも出迎える。


「兄上、お帰りなさいませ。」


俺も出迎える。


「ただいま。父上、母上、シンディー。マーティン、母上からの手紙で大変だったと知ったが、元気そうで何よりだ。」


マイケルがそう言って俺を観察する様な目つきで見る。

12歳の年齢そぐわぬ何かを感じ取った様だ。


「少し記憶が怪しくなっていますが、皆の手助けで日常生活は不自由なく暮らしています。」


「そうか。それは良かった。後で剣技の手合わせをしてやろう。鍛錬はしているんだろう?」


マイケルは少しからかう様な表情をして俺に言って来た。


「ぜひお願いします。」


俺はそう言って、にやりと笑った。

マイケルはそれを見て少し顔をしかめた。


その後、マイケル帰省の晩餐となり、学園での土産話をしながらの家族団らんとなった。

その中で俺の話も出て、少しぎこちないもののマイケルとは打ち解けていった。


―――――――――――――――――――――――――――――


次の日の朝、朝食が終わった少し後に皮鎧を着たマイケルが俺の部屋に木剣を持ってきた。


「マーティン、早速だがお前の腕を試させてくれ。」


マイケルはそう言って木剣を手渡して来た。


「わかりました。ではマークの所に行って、立ち会ってもらいましょう。」


俺はそう言って、アンナに手伝って貰いながら皮鎧に着替えて庭の訓練場所に行った。

訓練所ではマークを始め、ミラーとザンドも揃って訓練の準備をしていた。

マイケルがマークに審判を依頼する。


「では、木剣による模擬試合を行います。マイケル様、マーティン様、試合の配置に着いてください。」


「マーティン。記憶がどう剣技に影響したか見せてもらうぞ。」


「兄上。私もさぼっていた訳ではありません。一からマークに鍛えて貰いましたのでそれなりには打てるかと。」


「では、双方構えて。始め!」


マークの掛け声と共にマイケルが上段から打ち込んで来た。

俺は剣の腹でマイケルの剣筋を逸らし、鍔で弾いた。

直後にマイケルが腰を屈めて横なぎに剣を振って来たのでバックステップで距離を取る。

更にマイケルは斜め上から袈裟懸けに切り付けて来たので、今度はまともに打ち合って鍔迫り合いに持ち込む。

剣を合わせたままマイケルは押し込もうとするが、俺も負けてはいない。

年齢差による体力差はあるが、それを覆すマークとの厳しい鍛錬の成果が出ていた。

それに加え、魔法によって筋力の増強が出来る様になっていたので、ここぞという時に瞬間的にだが2倍近い力を出すことが出来る俺はマイケルを押し返した。


「なんだその力は?!」


マイケルは驚いた様に叫んだ。


「言ったではないですか。マークに鍛えて貰ったと。」


俺は不敵な笑みを浮かべてマイケルの次の手を待つ。

マイケルはしかめっ面をしながら今度は正面から突きを仕掛けて来た。

俺は瞬間的に魔力を高め、横方向に素早く動いて突きを躱す。

攻撃だけでなく、回避や防御でも魔力サポートは有効だな。


「隙あり!」


俺はそう小さく叫ぶと、マイケルのがら空きとなった横っ腹に木剣の腹を思いっきり叩きつけた。

マイケルは1mほど飛ばされたが、何とか踏み止まって顔をしかめていた。

それなりに痛かったみたいだ。


そこでマークが「一本あり」と言い、模擬試合は終わった。


「驚いたぞ。とても記憶を無くして一から鍛錬し直したとは思えないな。」


「兄上、なぜか以前よりも剣技の上達が早いみたいなのです。以前に変なクセが付いていたのが修正されたのかも。」


「そうか、そういうこともあるのだな。マーク、マーティンの剣技はどうなんだ?」


「はい、マイケル様。マーティン様の剣技の訓練は非常に早い速度で進んでおります。既に学園での剣技訓練免除は確実と思われ、我ら護衛部隊との連携戦闘もこなせるくらいになっております。」


「それは驚きだ。そこまで進んでいるのならもう私とは試合をする必要は無いな。」


マイケルは少しくやしそうな面持ちで木剣を収めた。


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