74◇量産機
74◇量産機
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次の日から複座3、4号機の組み立てが始まった。
格納庫から単座機、複座1号機、複座2号機改を出し、空いたスペースで2機同時に組み立て始める。
格納庫の隅では魔石部と工作部の一部が共同で魔石ジェットエンジン改を作っている。
モーリスとエドモンドが協力してガンガン組み立てているな。
その間、デビッドは複座2号機改で慣熟飛行を、俺は単座機でアクロバットをやっていた。
複座2号機の後席には土を詰めた麻袋を乗せて固定し、後席の搭乗者の代わりにしてある。
デビッドには是非飛行教官になって貰わないとならないしな。
俺は単座機で遊んでいる。
遊んでいるんだけど、飛びながら色々考えている。
俺がこの世界に人が空を飛ぶという革命をもたらした。
ならばどう進化させるか。
俺の前世の知識は現代寄りに偏っているので、初期の固定翼機の構造の知識はバルサ材で組み立てるラジコン飛行機と大差ない。
だが、こちらでは魔法による強化方法で前世のカーボンファイバー並みの強度が簡単に出る。
骨組みもミスリル添加の鋼材でチタンよりも軽くて強度があるくらいだ。
ならば少々無茶な構造でも飛ぶだろう。
動力も前世での知識はバイクや車のエンジン程度がせいぜいだな。
しかし、こちらには魔石ジェットエンジンという極めて軽量で効率の良い推進機がある。
これをそのまま大型化するか、多数搭載するだけで巨大機も作れる。
更に、こちらには重力に干渉出来るグラビティ系魔法というインチキに近いモノもある。
さすがにこれは高度な魔法なので俺もごく短時間で軽い物にしか使えないが、熟練者ならかなりの重量のある物体にかかる重力をプラスマイナス50%ほど加減出来るそうだ。
1000kgの物ならマイナスで500kgに、プラスで1500kgに出来るということだな。
但し、そこまでの重量の場合は使用する魔力が膨大なので熟練者でも30分も持たないということだ。
今のところこれを実現出来る魔道具は存在しないとのことなので、一般の航空機には利用出来ないな。
まぁ軍用機なら熟練者を乗せて離着陸する時だけに特化すれば使えるかもしれないが。
思索の海に沈んでいたらふと我にかえる。
まぁなんだ、俺一人の力で出来ることはたかが知れている。
現にあちこちからこれだけの協力者やスポンサーが現れたからそこここまで来れたのだ。
今はまだ俺が中心だが、近い内に他人任せにして静かにフェードアウトしよう。
あ、しまった。
魔道銃もあったな。
でもアレも他人任せにしているからまぁいいか。
俺は考えるのを止め、趣味の単座機として楽しむことにした。
この単座機の仕様は最初のままなので性能はイマイチだが、機体と俺の体重が軽いので結構な上昇率が出る。
今まで出来なかったことも色々やってみる。
一人なのでウィンド系魔法で大胆にサイドスラスターとして噴かしてサイドスリップをしてみたり、前方に流れる様に噴かして空気の層を作って空気抵抗を減らしてみたり、三角翼の前縁にスリット状にウィンド系魔法で吹き出して空気の層を作って高揚力装置の代用としてみたり、魔石ジェットエンジンの吸気口に漏斗状の空気層を作って疑似圧縮機としてみたり。
確か前世のバイクでもラムエア吸気とか言って多少の過給効果があったしな。
実際にやってみたが、僅かに体感出来る程度だった。
まぁもっとパワーが欲しければ複座機用の新型エンジンに換装すれば一発なので無駄なことは止めよう。
俺が遊んでデビッドが飛行訓練している間にも組み立て作業は行われている。
図面は複座2号機改を元に昨日の内に改良箇所を追加していたのでスムーズに組み立てが進む。
各部スタッフはそれぞれの部から熟練の助っ人を数人呼んでいるので作業効率は非常に高い。
その日の内にはあらかた形になっていた。
次の日にはエンジンを取り付け、前後の操縦席との分岐接続を行う。
コントロールバーも前後で扱える様にコの字に延長されている。
これは言わば軍用機なので複座機での前後操縦は必須だしな。
最後に三角翼に旗布を張って補強のベルトを格子状に縫い付け、ワイヤーを張って完成した。
左右の翼端とエンジン側面には数字が書いてある。
それぞれ3と4だな。
デビッドが訓練に使っていた機体には2と書いてあり、最初の複座機にも1と書いてあった。
ふと単座機を見ると0と書いてある。
うーん、誰かアニメでも見たのかな?
3号機と4号機が完成したので俺がテスト飛行する。
2号機改と全く同じ仕様にしてあるとのことだ。
軍用に使うので3機の間に差は無い方が良い。
複数の人間が交互に操縦する場合もあるので、その時に差があると要らぬ事故の元だからだ。
まず3号機の前席に乗り、後席には土嚢の重しを積む。
全開にして離陸し、高度2000mまで一気に上昇して2号機改でやった様なスタントもどきをする。
問題無しとして一旦着陸し、今度は後席に座って前席に土嚢を積む。
再び同じ様に一気飛びして問題無しと判断した。
次に4号機に乗って飛ぶが、エンジンの推力が左右で少しバランスが悪い。
真っ直ぐ飛ばしているのに少しだけ右にずれて行く。
風向きのせいかと思って同じ直線を往復しても傾向が変わらないのでやはりエンジンだろう。
自分の魔力で補正出来ないこともないが、それに気を取られて結構煩わしい。
一旦降りてモーリスとエドモンドに調整を依頼する。
すると、モーリスが噴射ノズルの可変機構に左右差があることに気がついた。
なるほどエンジン自体の推力差ではなく、ノズル径の左右の差でバランス悪いと感じたのだな。
モーリスがすぐに直して地上で噴射テストをし、問題無しと言った。
早速乗り込んで3号機と同様のテストをすると、殆ど差が分からないくらいに仕上がっていた。
デビッドと共に乗って最終チェックをする。
3号機、4号機共に前後の席を交代しながら2号機改で一通りやった様な訓練をこなす。
それぞれ2時間飛んで問題無しとした。
「皆さん協力ありがとう。軍の無茶振りと思ったけど、あっさり出来ちゃったね。性能も3機とも揃って優秀だし、デビッドも操縦が出来る様になったので教官も出来るし、これで軍部のちょっかいから解放されるね!」
「やぁおめでとう。魔道エアクラフト開発部の顧問としては嬉しい限りだ。だけど軍との関わり合いはこれからじゃないのかな?3機だけで満足するとは思えないし、例えば10人乗りなんてのを要求されるかもしれないね。更に言えば、武装をして空中から敵を攻撃するなんてこともその内言い出すと思うよ。」
うーん、あえて思わない様に現実逃避していたんだけど、やっぱり要求はエスカレートするよね。
先ほど王都情報局の中将には完成の連絡を速達で送っておいたから明日にはパイロット候補生を送り込んで来るだろうし。
6人用意すると言ってたから俺とデビッドで3人づず教えることになるかな。
当然中将も一緒に来て更にあれこれ要求しだすだろう。
とりあえず国境の状況は一度見に行かないとならないだろうな。
次の日の早朝、中将と候補生6人と護衛の合計10人がスカンクワークスの部屋に陣取っていた。
俺は昨日一旦叔父宅に帰っていて、今日は普通に登校したので少し待たせることになっていた。
エドモンドは学園に泊まり込んでいるので彼が相手をしていてくれたが。
「おはようございます。お待たせした様で申しわけありません。」
「いやいや、昨晩完成したとの連絡があったので驚いていたところだ。こんなに早く3機揃えられるとは思わなかったのでね。操縦士の候補もとりあえず6人に絞り込めているが、実際に乗せてみないと適正などは分からないだろうしね。」
中将とその部下達10人が部屋に居るので窮屈だ。
俺とエドモンド、モーリス、ショーンも居るが、隅の方で小さくなっている感じだな。
「さて、早速ですが3機の状態をお伝えしたいと思います。まず全て2人乗りで、今回の物から前後両方の搭乗者から操縦出来る様に改良しました。これは前席の操縦者が何らかの不具合で操縦出来なくなった時に、後席からでも操縦出来れば飛行を続行出来る為です。これにより任務の失敗の可能性が減少します。また、この構造にすることにより、操縦者の飛行訓練で教官と同乗して全くの初心者でも訓練を開始出来るという利点があります。更に、1人のみで乗った時に前後のバランスを取る機構も追加しました。これで1人で出発し、遠くに居る人物を乗せて帰って来ることも容易に出来る様になります。」
「うむ。思った以上の出来だな。では早速この6人を操縦出来る様にしてくれないか。国境の方からの連絡はまだ無いが、早馬では時間がかかるので一刻も早くこの3機を使いたいのだ。」
「はい、分かりました。私とデビッドが操縦出来ますので、教官として同乗します。それでよろしいですか?」
「了解だ。お前達、この2人が先生だ。若いからと言って不遜な態度を取ったら容赦はせぬぞ。」
「「はい、承知しました。」」
6人が一斉に立ち上がって俺達に敬礼した。
さて、自己紹介でもして貰おうかね。
とりあえず名前は聞いたが、6人もいては一々名前で呼ぶのも面倒だ。そこで番号札を作って胸と背中側の首の後ろに付けさせた。
新兵はこれからは番号で呼ぶことにする。
実際には少尉クラスの魔法が使える中堅どころらしいが。
年齢もデビッドと同じくらいから40歳近いオッサンまで居るし。




