71◇集結
71◇集結
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俺達は東北部第二中隊の司令官から受領証を受け取り、すぐに出発する。
しかし、その前に先日見た国境向こうの谷間の確認が必要だ。
一日しか経っていないが、なにかしらの変化はあると思う。
駐屯所から国境までは20kmくらいなので高度を2000mまで上げて急行する。
この高度なら地上から発見はされまい。
全開にしたので10分ちょっとで着く。
デビッドが双眼鏡で先日発見した谷間の兵力を確認するが、特に動いた様子は無い。
人数も変わらず、前回は見なかった兵站用の大型テントが5枚ほど展開していた程度だ。
馬の数も変わらないのでここにずっと逗留している様だ。
目的が分からないので不気味だが、変化無しで報告しよう。
次は東北部第一中隊だ。
地図上では北に30kmほど行った場所になる。
高度を1500mに下げて20分ほどで着き、先ほどと同じ様な問答をして司令官に元帥の指令書を渡し、受領証を書いて貰う。
30kmの距離なら馬で2時間、歩兵は6時間程で着くな。
これで100名。
次の東部第一中隊までは最初に行った東北部第二中隊を飛び越して南下し、約60km離れている。
緩い三角形の位置関係なので直線で飛べば50kmくらいになるかな。
これも地図と眼下の風景を照合し、方位磁石で方向を確認して一直線で飛んだ。
途中に大きな川があり、その曲がり具合で迷うこともなく高度1500mで40分程度で着いた。
東部第一中隊の到着した俺達は既に顔なじみになっている司令官に直接元帥の指令書を渡す。
「昨日偵察したと思ったらもう王都司令部の指令書を持って来るとは、いやはやすごい速度だな。しかも既に北側の2拠点に既に指令書を渡しているとなるとここもゆっくりはしておれんな。すぐに出陣可能な兵力を確認して受領証を書こう。」
「ありがとうございます。私も色々事が早く進んで驚いているところです。次がありますのでちょっと準備をさせていただきますね。」
俺は早々に司令官室を退去し、複座機の魔石ジェットエンジンの魔力残量を確認する。
現在約3割の残量なので残りの2拠点を飛ぶには十分だな。
次の東部第二中隊まで20km、その次の東南部第一大隊まで50kmといったところだ。
機体をチェックしていると司令官が受領証を持って来たので礼を言って受け取る。
挨拶も早々に再び離陸した。
今度は東部第二中隊までの20kmなので15分程度で着く。
同じ様に急いで司令官に兵力の確認をして受領証を書いて貰い、すぐに離陸する。
次の最終目標である東南部第一大隊まで30km程度なので高度を2000m位まで上げ、全開にする。
空気密度が多少減るので空気抵抗は減るが、逆に魔石ジェットエンジンが吸気する効率も少し減少する様で結果的には1500mと大差無い到達時間の20分程度だった。
魔石ジェットエンジンは燃焼エンジンではなく、ダクテッドファンに近い原理なので空気密度が下がれば効率も落ちる。
機体の空気抵抗とのバランスなので一番速度が出る高度は今後の為に調べておこう。
あとはあちらのジェット戦闘機の様に噴射ノズルを可変口径にすることも合わせて考えてみよう。
絞れば対気速度は上がるしな。
最後の東南部第一大隊は人数に見合った大きな敷地と建物があるのですぐに分かった。
さすがに魔の森が近いので空を飛ぶ魔物に対する対空監視も充実している様で、監視塔には複数の監視員が望遠鏡を持って見ている様だ。
だいぶ手前で発見され、デビッドが警告を発する。
監視塔が慌ただしくなり、地上の兵舎から歩兵がわらわらと出て来る。
矢を持っている兵も居るのでうかつに近づけない。
魔法兵も居るが、アースバレットの射程は垂直方向は極端に短いので王都の魔法師団員くらいでないと脅威にはならない。
矢の垂直方向の射程は普通の弓でだいたい200mくらいだろう。
上昇末期になると速度も格段に落ちるし。
仕方が無いので高度を250mくらいまで落として魔石ジェットエンジンの推力を絞り、ゆっくり練兵場の上を旋回し始める。
デビッドには大声で王都軍部司令部からの伝令とくりかえし叫んで貰う。
監視塔の監視員に声を聞いて貰うためだ。
聞こえなくても望遠鏡で監視しているので口の動きで察して貰うためにくりかえしはっきりとした口調で叫んで貰った。
最初はかなり飛んで来ていた矢も3週くらい監視塔を回る内に止まり、何やら連絡している様が見える。
伝令が何人か走っていた。
そのままの状態で更に5週くらい高度を保って周回していたところ、練兵場の兵士が建物の前に整列し、上官と覚しき人物が出て来てこちらに向かって敬礼をして何か叫んでいる。
デビッドがそれを見て、翼端の国軍旗を確認したので降りてくれと言っていると、叫んでいる人の口の動きを読んで俺に言った。
風向きを確認してゆっくり降下し、10mほど滑走して着陸した。
翼の仰角を少なめにしてゆっくり着陸すると安全だ。
仰角をきつめにしてフレアを効かせるともっと短距離で着陸出来るが、高度の判断を失敗すると数mからドスンと落ちたり、フレアを効かせる前に地面に衝突したりする。
まして今回は2人乗りで重量も重いので、最初の機体の様な無理は利かないので安全第一である。
「やぁ、ようこそ東南部第一大隊へ。私はここの司令官のラインハルト中佐だ。君たちは国軍旗を付けているので味方かね?」
「はい、私は情報局の伝令担当のデビットと申します。こちらはこの機体を開発したマーティン・ランバート様です。」
「伝令というからには指令書を持っているのだろう。見せて貰えないか。」
デビッドは鞄から中将からの紹介文を渡し、俺と共に情報局発行の身分証を見せる。
確認が済むと、次に元帥からの指令書を渡した。
読んだ後司令官は暫く黙って何か考えていたが、後ろに居た副官らしき人に指令書を渡して即座に準備をするように命令した。
司令官は俺達に建物の中に入るように促し、入り口の近くの応接室の様な部屋に通された。
そこで司令官と俺達はソファに座ると紅茶が出され、俺達は質問攻めに遭った。
まず、隣国に不穏な動きがあったので急遽指令書が出され、今回指令書を配達した各隊と招集人数を答え、ここが最後だと言う。
機体についてはある程度の構造と原理の説明をし、司令官が機体を見たいと言ったので再び外に出てあれこれ説明する。
30分くらい経った頃に副官が準備完了の報告と共に受領証を持って来た。
司令官がそれにサインし、デビッドに渡す。
「君たちご苦労だったね。国境沿いの動きはこちらにはあまり伝わって来ないんだよ。もっぱら魔の森の警戒が主任務だしね。だが、指令書があるならその通りに従おう。幸い、ここには輸送用の大型馬車が多数あるので歩兵をそれに乗せて行けば時間の短縮になる。指定された農場までここから120キロムくらいなので10時間もあれば着くな。我々が到着したらそこで全体に指揮をする様に書かれているので、それまでに敵が侵攻して来なければ良いのだが。」
司令官はそう言い、歩兵200名を大型馬車10台に乗せ、騎馬100名と共にすぐに出発すると言う。
指揮は副官が行い、現地で600名全体の指揮をするそうだ。
兵站部隊も同時に出発させるが、それは重量があるので速度が遅く、20時間くらいはかかるだろうということだった。
これで今回の伝令は完了だな。
俺達は伝令完了を王都国軍の元帥に報告する必要があると言い、すぐに出発した。
まだ日は高いので夕暮れまでには王都に着くだろう。
最後の駐屯地から10km程離れたところに一旦着陸し、魔石ジェットエンジンの魔量残量を調べる。
残りは2割を切っていたので情報局から貰った魔石で充填していく。
「なぜ最後の駐屯地で充填しなかったのですか?」
「あの司令官、あれこれ聞いて来てちょっと面倒だったろう?あそこで魔石から充填を始めたら更にあれこれ聞かれ、下手したら泊まっていけなんて言われかねないと思ったんで元帥に要報告にしてすぐに出発したんだよ。」
「なるほど、中将には日が沈むまでには帰還出来るとだけ言ってありますもんね。ここで周囲の視線が無く休憩出来るのも良いですね。」
俺は自衛隊魔法のスキルでランク2装備の缶コーヒーとカ○リーメイトを1人2個づつ出してデビッドと食べ、昼食代わりとした。
食後に板チョコも出して頬張る。
食べ終わってもデビッドは物欲しそうに包装紙を見ていたが、魔石への充填が終わった頃なので腰を上げて機体を見に行く。
魔石転送の魔方陣の紙に包まれた魔石を両方のエンジンから取り出し、残量確認の魔方陣を突っ込んで調べる。
両方ともほぼ10割になっていたので出発準備をし、機体に乗り込んで離陸する。
一旦高度1000mまで上昇して現在位置と方位をデビッドが確認し、俺に目標物を伝えてくる。
懐中時計を見るとまだ午後3時だったのでゆっくりと帰ることにする。
スロットルを7割程度に開けると体感で時速100km程度になり、のんびりツーリング気分だ。
まぁ3時間もかからずに王都に着くだろう。
今回は空中で他の大型の鳥や空飛ぶ魔物には遭遇しなかったが、今後のことを考えるとバードストライクも考慮した方が良いだろうな。
例えば操縦者の俺にコンドルくらいの大型の鳥が直撃したら気絶する自信がある。
そうしたら後ろのデビッドは何も出来ずに俺と一緒に墜落だ。
そうならない様にカウリング、フェアリングの類いが欲しいな。
まず搭乗する箇所を流線型化しよう。
空気抵抗が減れば速度も燃費も上がるしな。
翼の桁に使った軽量パイプで円筒形の形状を作り、それに外皮を貼り付けていく。
外皮は超大型カブト虫の甲部分がいいだろう。
かなり軽い割りには強く、盾にも使われているくらいだしな。
それに乗り込んで上半身が出るくらいにする必要がある。
なにせハンググライダーなもんで、三角形のコントロールバーの操作が必須だし。
そのコントロールバーを目の前で前後左右に動かす必要があるので搭乗する部分に風防は付けられない。
ならばコントロールバーの前に搭乗部を吊り下げる柱があるので、これに透明な風防を付ければ直撃は避けられるな。
透明は風防は異世界のポリカーボネート樹脂の様な強度の高い透明で軽量な物質がこちらには無いのでどうするかだが。
ヘルメットのシールドくらいのサイズなら巨大トンボの羽を整形することで出来るんだが、さすがに機体の前面を覆うサイズは作れない。
仕方が無いので目の粗い金網を装着するのが一番か。
風圧は通り抜けるが、それはヘルメットで防げるしな。
バイクと思えば良い。
魔石ジェットエンジンの吸気口にも何か必要だな。
今は吸気口の大きさが直径20cmくらいで搭載位置も操縦席の後ろにあるから正面からの異物はまず入らないが、この先大型化していくと鳩やカラスなどなら吸い込むこともあるだろう。
内部の構造はそんなに柔なものではないので鳥を吸い込んだくらいでは壊れないが、噴射口を少し絞ってあるので詰まったら終わりだ。
とりあえずはドーム状に整形した目の粗い金網を張るか。
保護用に金網の前に十字になる様に鉄の棒でも配置すれば衝突されても大丈夫だろう。
そもそも前席だけで操縦するのは要改善だろう。
後席からでもコントロールバーを操作出来る様に両サイドに後席に向かってコの字の延長棒を付けるのも良いかもしれないな。
前後はまだしも横に振るにはかなりの腕力が要るだろうが、何も出来ずに墜落するよりマシだ。
何より交互に操縦出来るので長距離飛行の時に操縦者の負担が減る。
飛びながらこんなことを考えていると後ろのデビッドにあと30分くらいと言われる。
懐中時計を見るとまだ5時半くらいだ。
太陽は地平線から少し上にある。
日没はあと1時間くらい後だろう。
俺は高度を下げ、300mくらいを保って飛ぶ。
1000mくらいから降りるとだいぶ気温も高くなり、ほっとする。
暫くすると遠くに王城と国軍本部の建物が見えて来た。
風向きに注意し、少し回り込む様にして国軍本部の練兵場を目指す。
近寄ると既に発見されていた様で、10人くらいの兵士と指揮官の様な人が見えて来た。
速度をさらに落とし、ゆっくりと練兵場に着陸する。
魔石ジェットエンジンを停止させ、機体が停止したところで何人かの兵士が機体を支えてくれる。
俺とデビッドは機体から降りて待ち構えていた中将に挨拶する。
「モーガン中将、無事5箇所の駐屯地に指令書を配布し終わりました。それぞれの受領証を受け取っていますので提出致します。また、本日も隣国軍の集積場所の谷間を確認したところ、昨日と変化無しでした。」
俺が挨拶し、隣でデビッドが敬礼している。
デビッドが鞄から5枚の受領証の入った防水袋を取り出し、袋の口を開けて5通の受領証と取り出して中将に渡す。
「ごくろうであったね。本当に1日でやってのけるとは大したものだ。早速元帥閣下に報告に行こう。付いてきたまえ。」
中将は俺達を労うのもそこそこにさっさと国軍本部に歩き出した。




