70◇伝令
70◇伝令
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やれやれ、人使いの荒いおっさん連中だぜ。
俺達は情報局に戻り、中将の指示により官舎内のゲストルームに宿泊した。
デビッドも護衛として同室だ。
さすがに重要任務を帯びた俺達を軍部外に出す気は無いらしい。
怪我でもさせられて飛べなくなったら一大事だしな。
夕食は将校用のちょっとだけ豪華なものを用意された。
まぁ将校って基本貴族だしな。
食後にお茶を出されて中将と明日の打ち合わせをする。
俺は国軍の小型の旗を要求した。
明日はいきなり知らない駐屯地に行く訳なので、敵認定されない為にも必要だ。
これを操縦席の前部に正面から見える様に貼り付けてもらう。
また、翼の左右両端にも下から見える様に貼り付けて欲しいと言った。
これで完全に軍用機だな。
更に情報局所属の身分証も発行して貰う。
身分は臨時的な物で良いのでこれがあった方が話が早い場合もあると説明する。
明日の朝までに2人分用意すると言われた。
また、中将に行き先への紹介文も書いて欲しいと言う。
いきなり元帥の指令書を現場の兵士に見せる訳にはいかないし。
中将は各駐屯地毎に書いてくれた。
これで行き先の間違いと元帥の指令書の渡し間違いをしなくても済む。
「この飛行装置は情報局の秘匿兵器である。乗員は王都学園の生徒とその護衛だが、情報局発行の身分証を携帯するので確認してそれ以上は疑問は抱かぬこと。国軍司令部の伝令として急遽派遣することになったので、到着後すぐに駐屯地司令官に取り次ぐべし。情報局 ロナルド・モーガン中将」
ついでに魔力補充用の魔石も要求する。
軍には魔法科連隊もあるので、そこから調達可能とのことだ。
大きさが拳大の物を10個要求した。
それだけあれば足りるだろう。
万一足りなくても俺の魔力を注入すれば低速なら飛べると思うし。
すぐに用意された魔石を持って機体のある練兵場に行き、魔力残量を調べると残り2割だった。
帰る時にぶっ飛ばしたので燃費は悪いな。
中将から提供された魔石で2基の魔石ジェットに魔力を補充し、ほぼ10割になったことを確認する。
その後は情報局で責任を持って与るというので任せ、俺達は休むことにする。
あてがわれたゲストルームに戻ると湯桶が用意されていたので体をぬぐい、兵士用の下着も出されていたので着替える。
デビッドと国境付近以外の駐屯所を新たに貰った地図に書き込む。
最短で巡回出来るルートを確認し、目印になる道や建物、川や池なども書き込んでいく。
国境近くの駐屯地はフェンスが延々とあるのですぐ分かるが、他の駐屯地は辺鄙な所にもあるので迷わない様にする為だ。
あと、離着陸に使えそうな空き地も確認する。
着陸は主翼の向きでフレアを効かせれば数mで済むが、離陸は最低でも20mは必要だ。
その為、一旦降りたが離陸出来ないということになりかねない。
幸い駐屯地には練兵場が併設されているので、よっぽどのことが無い限り離陸不可とはならないだろうが。
こりゃー帰ったら垂直離陸も考えないとならないな。
早く寝ないと翌朝起きれなくなるのでさっさと就寝する。
ベッドは少し固めであったが、すぐに熟睡した。
やっぱり疲れてたんだよなぁ。
次の日の早朝、まだ外は真っ暗な内にデビッドに起こされる。
疲れはまだ少し残っていたが、今日の任務を思ってすぐに起きる。
俺は軍人ではないんだけどなぁ。
まぁ自領であれだけやらかしているのでほぼ軍属と言ってもいいかもしれないが。
着替えてすぐに朝食を摂り、準備を始める。
機体は前日情報局の職員によって雨のかからない倉庫に移動され、一晩中歩哨が立っていたとのことだ。
万一侵入者やスパイに破壊されたら国の一大事になりかねないしな。
外に出るとまだ夜は明けきっておらず、薄暗いなかで装備を身に付ける。
デビッドに指令書を確認してもらい、防水の袋に入れて鞄に仕舞う。
途中でにわか雨にでも降られたらインクが滲んで指令が分からなくなるしな。
機体を見ると、操縦席の前面に国軍旗が貼られていた。
主翼の左右両端にも下側に同じ様な国軍旗が貼られているので、本当に軍用機みたいに見える。
これでいきなり矢を射かけられることも無いだろう。
俺は携帯食料と水筒と国軍に貰った予備の魔石を鞄に入れる。
常用しているポーチから学園から持って来た魔方陣を出して魔石ジェットエンジンの魔力残量を調べる。
どちらも昨晩補充した10割近くのままだったので安心する。
万一、スパイに何かやらかされていたらヤバいしな。
もっとも魔石ジェットエンジンを見てもこれが何か分からないだろうが。
デビッドの準備も済んだのでずっと俺達を見つめていた中将に挨拶をする。
「では行ってまいります。恐らく日が沈むまでにはこちらに帰還出来ると思います。」
「うむ。十分注意して行ってくれ。ひょっとしたら今回のこの伝令が国の運命を左右するやもしれんしな。」
脅かすなよう。
まぁ最悪の事態はランバート領があることで防げよう。
護衛部隊20名の精鋭と領都近郊の200名の領兵の戦力は現在のどの国と戦っても確実に勝てるしな。
たとえ王都が墜ちても親父がその仇を取ってくれようぞ。
こりゃー帰ったら早速ランバート領に一度帰らんとならんな。
この複座の機体ならデビッドと乗っても5時間もあれば帰れるし。
俺とデビッドは機体に乗り込み、ベルトを締めてお互いに合図を交わす。
魔石ジェットエンジンのコントローラーに微量の魔力を流し、地上をタキシングする。
練兵場の端から風上に向かって魔石ジェットエンジンを全開にする。
15mくらいでコントロールバーを操作して離陸してみると何とか浮上した。
20m滑走した時に比べると少し不安定だが、かろうじて飛び立てる。
これなら狭い場所からでも離陸出来るな。
今回の伝令は5箇所の駐屯地だ。
昨日行った国境に近い駐屯地も含む。
東北部第一中隊。
東北部第二中隊。
東部第一中隊。
東部第二中隊。
東南部第一大隊。
大隊が600名前後、中隊が100名前後と中将から聞いた。
大隊から300名出し、中隊4箇所から50名づつ出して200名。
合計500名を隣国の兵力が集まっている所に当てる。
ちなみに国境間近の駐屯地は東部第一中隊だ。
敵集結地は東北部第二中隊が一番近い。
東南部第一大隊が大きいのはすぐ南に魔の森があり、その警戒も必要の為でいざという時は防波堤になるらしい。
まず、昨日隣国の谷間に見た敵兵力の大規模集団に一番近い東北部第二中隊に行く。
朝靄の中を全開にして高度1500mまで上がる。
その高度を維持してデビッドの双眼鏡内蔵の方位磁石でダイレクトに現在飛行している方向を確認し、最短距離で向かう。
山岳路に入るので、木が鬱蒼と茂って1500mの高度からでは道が殆ど見えないのだ。
ならば山と川を参照しつつ方位磁石で正確に方向を確認したら直線で飛ぶのが一番確実で速い。
2時間ほど飛ぶと東北部第二中隊に近づいた。
少しずれていたので高度を落としながら回り込む。
国境までは20km以上あるので隣国からは見られることはない。
数回旋回して駐屯地の練兵場が見えたので高度を20mくらいにして近づく。
朝練していた兵士がいたので騒ぎ出すが、デビッドが大声で「国軍司令部より伝令!」と叫ぶとその内の一人が兵舎に向かって走って行った。
練兵場の空いている場所に着陸し、デビッドが再度「国軍司令部より伝令!責任者に面会願う!」と叫ぶ。
朝練中の兵士のもう一人が兵舎に向かって走っていくと、すぐに将官らしき人物を連れてくる。
俺達はシートベルトを外して降り、デビッドが鞄の中から中将の書いた行き先への紹介文を渡す。
紹介文を読んだ将官は身分証の提示を要求して来たので俺とデビッドは情報局発行の身分証を見せる。
内容が合っていることを確認した将官は表情が緩み、握手を求めて来たので応じる。
休憩室に案内しようとしたが、ここの司令官に渡す指示書を持っていると伝え、官舎に案内して貰う。
その間、複座機は誰も触らぬ様に兵士に指示して貰った。
今日は風は穏やかなので煽られて飛ばされることもないだろう。
「君が情報局のモーガン中将から派遣されたというが、まだ子供ではないか。国軍からの指令書を持っているだと?本当か?」
「失礼します。私達はモーガン中将から直接指示を受けています。指示書はこれになります。ご確認いただけますでしょうか。」
デビッドが俺が絡まれるのを無視して元帥の書いた指示書を司令官に渡す。
司令官は指示書を見るなり顔色を変え、デビッドに謝罪した。
どうやら元帥の威光は国の隅々にまで届いている様だ。
「指示書を確認しました。受領証を書きますので少々お待ちを。」
司令官は俺達に椅子を勧め、紅茶を出してくれた。
その間に部下に出動可能な兵員の確認をさせる。
10分ほどして指令書どおりに50名の即応部隊を招集してすぐに出陣可能と言われた。
目的地はこの駐屯地と国境の中間地点の大規模農場だ。
最終的には東南部第一大隊の隊長が指揮をするからそれまでは待機と指示されている。
その間に司令官は指令書に対する受領証を書き、出動可能な人数も記載した。
すぐに準備を開始するという答えを聞いた俺達は次の駐屯地に向かった。




