68◇国境
68◇国境
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高度1000mを維持して国境に向かう。
スロットルは6割くらいに絞っている。
その代わり翼の仰角が大きくなるので速度はかなり落ちた。
体感でスロットル8割の時の半分くらいに思える。
8割で時速140kmだったので、時速70km程度くらいかな。
前世のバイクでの一般道ツーリングくらいだ。
速度を落としたのはデビッドの観測時間を稼ぐ為と、少しでも魔石ジェットエンジンの噴射音を小さくしたかったからだ。
高度1000m程度なので速く飛ぶとあっという間に対象を通り過ぎてしまう。
まぁ何回か同じ所を飛べば良さそうだが、そうすると敵に見つかる率も高くなる。
一度不審に思うと、再度来るだろうと待ち構えてじっくり見られるだろうし。
今回の偵察に当たって、国軍は俺に「イメージショット」用の高価な魔石を渡してきた。
これはイメージ系魔法の一種で、専用の魔石2個を両手の薬指と小指で握ってそれぞれ保持し、両手の人差し指と親指で囲った四角の中に見える風景を魔石に記録するというものだ。
俺は少し練習したら出来たが、デビッドは中々出来ずに今回の偵察に間に合わなかった。
なので俺が操縦しながら撮る羽目になった。
だが学園で色々試してみたが、撮った情報が入った魔石を見る方法がお粗末だ。
専用の魔法触媒が塗られた紙に撮った魔石の「記憶」定着させるんだが、かなり丁寧にやっても少しボケた白黒写真もどきにしかならんし。
俺のスキルで出すインスタントカメラの方がよっぽど鮮明に写る。
しかも専用魔石1組で1枚しか撮れないので30組くらい渡されている。
うーん面倒だ。
まぁデビッドが撮るタイミングは指示してくれるんで頑張って撮ってみよう。
そうこうしているうちに国境の偵察ルートに乗った。
これは国境線の内側100mくらいをなぞる様に飛ぶルートだが、デビッドの作業はなかなかに忙しい。
俺に飛行ルートの指示を出し、高度を監視し、隣国の軍事状況を克明に記録し、ここぞという場所で俺に撮影の指示を出す。
まぁ学園上空で散々訓練はしたから本チャンでも割とスムーズにこなしているな。
上空から見た隣国側の地形や道、建物を逐次国境線とこちらの目印だけ書かれた白地図に書き込んでいる。
双眼鏡でも見ているので、見逃すことは無いだろう。
その為にゆっくり飛んでるのだしな。
1時間ちょっとかかって国境の北限まで飛び、何も異常は確認出来なかった。
だが、駐屯地は南北に伸びる国境の丁度中間辺りにあるので、以南も偵察する必要がある。
そこで、高度を1500mくらいまで上げて来たルートをそのまま引き返すことにする。
安全のため国境よりもだいぶ離れたルートで帰ることも考えたが、それではせっかくここまで来たのに勿体ない。
なので、より見つかりにくい様に1500mの高度に上げて同じルートを逆から見ようと言うわけだ。
デビットに大声で俺の考えを伝え、高度1500mを目指すから高度ナビを頼む。
少し国境から離れて大きく旋回を開始し、推力を7割くらいに上げて上昇を始める。
デビットの高度ナビを聴きながら5分くらいで1500mに達した後は水平飛行に移り、来たルートを引き返す。
高度が1.5倍になったのでかなり広い範囲が見える様になった。
デビットに国境ナビをしてもらいながら偵察を続ける。
すると、半分くらい戻ったところで隣国側に動きがあった。
行きには誰も居なかった谷間の少し開けた所に、今は数百人規模の騎馬や馬車を含む集団が見える。
あの規模は民間ではあり得ないので隣国軍だろう。
デビットがアレを撮れと大声で言うので連続で5枚撮った。
望遠レンズが欲しいところだな。
その他には異変は見当たらなかったのでとりあえず駐屯地に戻り、偵察機から降りて司令官に報告する。
行きに無くて帰りにあったと言うことは設営したばかりだろうと言う。
侵攻して来るにしてもやるなら早朝からだろうと言うことで、俺達は再度魔石に魔力を充填して駐屯地以南の国境に飛び立った。
北側だけでなく南側も同時に侵攻して来るかもだしな。
こちら側に少し入った場所で全開にして素早く1000mまで上昇し、駐屯地以南の国境線内側100mをなぞる。
ちょょっとだけ速度を上げ、体感で時速100kn程度にする。
デビットも慣れて来たのでこれくらいでも問題無いと言っている。
30分ちょいくらいで国境南端の魔の森との境界が見えて来た。
そこで引き返し、高度を1500mまで上げる。
こっちは往復共に隣国側に不審な動きは無かった。
そのまま高度1500mを保って駐屯地を飛び越し、北進する。
先程の隣国側の確認だな。
あと5kmといったところで速度を体感で50km程度まで下げ、高度も1000m程度まで落とす。
見つかるかもしれないが、正確な情報の方が優先する。
俺はイメージショットで10枚程撮り、デビットは双眼鏡を覗きながら熱心にスケッチしていた。
その時デビットが急に俺の耳元で声をかけて来た。
「すぐに高度を上げて通り過ぎてください。下の兵の一部がこちらを見上げて騒いでいる様です。」
「了解。でもこちらも急に動きを変えると余計に疑念を持たれるだろうから、このまま北上して谷の淵で見えなくなったら国境線より離れて全力で引き返そう。」
デビットは了解の合図の代わりに俺の背中の真ん中を軽く叩き、見えなくなるまでスケッチを続けていた。
それから5分後くらいに国境線を離れ、左旋回で引き返して高度1000mのままスロットルを全開にした。
30分足らずで駐屯地付近に到着し、高度を落して練兵場に着陸する。
急いで司令官に面会を求め、イメージショットの魔石とデビットのスケッチを渡す。
司令官と参謀はその情報を元に王都国軍司令部への報告書を作成する。
俺達はその報告書を託されたので、魔石の魔力補充後に空へ上がる。
俺達の情報が本当に敵侵攻なら駐屯地の兵力だけではどうしようもないからだ。
駐屯地には100名前後の兵しか居ないので、数百と思われる敵兵の侵攻があったら到底耐えられないのだ。




