67◇空中観測
67◇空中観測
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翌日、試験飛行による損傷や消耗は無しの報告が上がっていた。
まぁ可動部分が翼下の吊り下げ部分しか無いので、消耗って言ってもタイヤのフェルトくらいのもんだな。
魔石の保有魔力は3時間程度飛行して3割消費とのことだ。
最初の1時間の8割スロットルが大半だと思うが、思ったよりも消費が少ないな。
やはり双発のメリットが出ているか。
まぁ2人乗ったらどうなるかだが、それを今日試すのだ。
魔石の魔力は全回復させてくれているので、今日はデビッドを後ろに乗せて観測の訓練とする。
地上には10mと100mの間隔を空けて2組の黄色い円盤が置かれている。
直径は2mあるので1000m先からでも十分見える。
双眼鏡による高度観測用だな。
スタッフが機体を倉庫から出し、風上に機首を向けて置く。
デビッドに俺のと同じ様なヘルメットとグローブを着けさせ、双眼鏡を首から下げて脱落防止の紐をベルトに結ぶ。
記録用のメモ用紙を左腕の前腕に巻き付け、鉛筆は紐を付けて端を右手首に縛る。
右腕には王都学園の周辺詳細地図が巻き付けてあり、飛行ルートが赤いインクで書き込まれている。
円筒状に回る様に装着してあるので、結構広い範囲が分かるな。
後席の前には小さい風防も付けてもらった。
これで空中偵察に余分な労力を使わずに済むだろう。
また、後席の床には穴を開け、足を広げて乗る様に作ってある。
これは機体の直下を見る為だ。
これにより、観測員は横から身を乗り出して下を見る必要が無くなる。
まずデビッドを後席に乗せ、シートベルトでしっかり固定する。
外し方も教え、自分で脱着出来る様に練習させる。
俺も乗り込み、ベルトを締めてスタッフに発進の合図をしてスロットルを開ける。
今回は2人乗りで重いのでスロットルは最初から両方8割開ける。
昨日の1人乗りの時よりも明らかに機体が重い。
30mほど滑走してやっと浮上した。
これなら次回からは離陸時は全開でもいいかもな。
スロットル8割のままで固定し、裏山の周囲を中腹くらいの高度で周回する。
1時間経過後に着陸し、予めショーンに依頼していた周回数と目測の旋回直径から速度はおよそ時速140kmと出た。
重量が重くなった分、翼の仰角を大きく取らないと必要な浮力が出ず、その結果空気抵抗が増して速度が落ちたのだろう。
まぁ必要十分な速度なので実用上は問題無いと思う。
国境までの300kmにかかる時間が少し増すだけだ。
魔石の魔力消費も4割程度とそれなりに増えているが、国境の国軍基地で補充すれば良いので問題は無いだろう。
今度はもっと高度を上げ、約1000mからの観測訓練をする。
全開で離陸すると20mくらいで浮き上がったのでこれを常用としても良いな。
そのまま高度を上げ、裏山の3倍くらいの高度で減速して旋回し、デビッドに双眼鏡で地上のマーカーをチェックさせる。
何回か双眼鏡を覗いたりメモで筆算していたが、俺の耳元で「高度800サブキロム」と叫ぶ。
俺は右手を挙げて了解の返事とし、スロットルを少し開けて高度を上昇させる。
その間にもデビッドは双眼鏡測量をしていたみたいで、5分後くらいに「高度1キロム」と叫ぶ。
地上のマーカーをキリの良い間隔にしていたので、双眼鏡内のスケールの目盛数だけで判別出来る。
これなら常時高度を監視して貰ってもそう負担は無いな。
高度を1000mに保ったところで、偵察ルート予定に沿った飛行を始める。
デビッドは右腕に巻き付けた地図を見ながら俺に飛行方向の指示を出す。
後ろから俺の左右の肩を軽く叩くというものだが、繰り返し叩く速さによって舵を切る度合いを変えると、予め打ち合わせておいた。
地上の目標物に沿って、結構ジグザグに向きを変える。
デビッドは目視と双眼鏡を併用し、真下に見える地形で現在位置を把握している。
地図に現在地点をプロットしていき、予定ルートとの差異を記録する。
時折双眼鏡内の方位磁石も確認して進行方向を補正している。
肩を叩かれる速さがゆっくりと一定の間隔になったので、予定ルートに乗っているということだろう。
うん、これならもう実用レベルと言っても良いかな。
2時間ほど飛行して満足の行く飛行ルートを辿れる様になったので、ひとまず実用可能な偵察機が完成したと学長に言いに行く。
スタッフ全員引き連れて行ったもんだから、学長は驚いていたな。
しかも指示を受けて約一週間で仕上げたのでその速さにも驚いていた。
「すごいね君。正に有言実行だ。これならもう国境は丸裸になるな。」
「そうですね。ただ、私以外はまだ操縦が出来ません。とりあえず私とデビッドで国境まで飛んでみようと思います。その前に国境に駐屯している国軍に伝書鳩を飛ばして貰い、私が飛んできて近くに着陸しても攻撃しない様に指示を出して貰えませんでしょうか。」
「なるほど。魔物と勘違いされて矢でも射かけられたらたまったものではないな。教頭、軍部に連絡して至急偵察機の飛来予告を国境軍にして貰えないだろうか。」
「学長、了解しました。早馬を王都の国軍本部に送り、今回の担当者に連絡文を送らせます。」
「この文面でお願い出来ますでしょうか。」
・近日中に三角形をした白い飛行物がそちらに降りる。味方の偵察員なので攻撃しない様に。便宜も図ってやって欲しい。
・偵察員は2名で、マーティン・ランバートとデビッド。王都学園発行の身分証を携帯するので確認されたし。
「なるほど、これなら疑いようもなく本人と確認出来ますね。国境の軍ですから、異物には非常に敏感になっていると思います。早速これに対応する身分証を発行しますね。」
学長は教頭に指示した後、俺とデビッドの部署名を入れた身分証を作る様に事務員に指示をする。
学長には部署名のスカンクワークスの下に小さく魔道エアクラフト開発部と入れて貰う様に頼んだ。
さすがにスカンクだけでは分からないだろうし。
それから2日後、国境の軍から返答が来たとの連絡があった。
デビッドと共に学長のところに行くと、国軍のお偉いさんの様な風貌の軍人も居た。
「マーティン君。紹介しよう、今回君の魔道エアクラフトに全面的に支援すると言っていただいた国軍情報局のロナルド・モーガン中将だ。」
「ロナルド・モーガンだ。今回の君の功績は非常に評価している。是非、国境の状況を調べて来て欲しい。我が国には危機感が足らず、国軍に指示する貴族連中もまだ早いと言うばかりだ。敵の動きを捉えて奴らの鼻をあかせればそれで良し、敵の動きが無ければそれも良しだな。」
「分かりました。私の護衛のデビッドと一緒に偵察訓練はしています。ご期待に添える様努力します。」
「こんなに若いのに中々言うではないか。是非国境の状況を無事に持ち帰って欲しいぞ。」
「ありがとうございます。数日中には出発出来ると思います。」
まぁ身分証さえあればいつでも出れるんだけどね。
片道2時間強、偵察に1時間としても何とか日帰り出来るし。
次の日の朝にもう身分証は出来ていた。
希望どおり、スカンクワークスの下には魔道エアクラフト開発部と入っている。
名前と生年月日、身分も書かれているな。
俺はランバート領領主次男、デビッドはランバート領護衛部所属になっている。
さてと、引っ張っても意味ないのでさっさと行きましょうか。
スタッフに声をかけ、格納庫に行く。
もう倉庫ではなく格納庫と言う様にしていた。
俺自身にそちらの方が馴染みがあるしな。
ちなみに発音は日本語とは全く違うが。
俺とデビッドは装備を身に付け、地図と飲料水、携帯食料を入れたザックを体の前に着ける。
薄いので操縦の邪魔にはならない。
予備の大きめの魔石と必要な魔法陣を入れたポーチもベルトに固定する。
デビッドは国境駐屯地までの地図を両腕に巻き、目立つ街道沿いの道にルートの印が付けられている。
道さえ確認出来ればその間は直線で飛ぶ様なルートだ。
迷子にならない様に、出来るだけ目印になる物を探しながら飛ぶことになる。
目立つ建物は国軍の資料にある外観図も記入されているので、必要に応じて高度を下げたり双眼鏡で見れば問題無いだろう。
最悪、降りて村人にでも聞けば地名は分かるので地図上の現在位置は分かる。
後は双眼鏡の方位磁石で向きは分かるから、迷ってもさほどのロスは無いだろう。
俺達はヘルメットとグローブをし、冬用のジャケットとズボンを着て高高度用の防寒としている。
まぁ1000m程度なんでさほど気温は変わらないと思うが。
格納庫からスタッフが押し出した機体に乗り込み、シートベルトを締めて魔石コントローラーのベルトを両腕に巻く。
魔石部のスタッフが魔石ジェットエンジンの吸気側から魔法陣を書いた紙を突っ込み、魔力残量ほぼ10割と言う。
工作部のスタッフが2人搭乗状態で各ワイヤーの張り具合と翼面の損傷を確認し、オールクリア的なことを言う。
俺とデビッドはお互いに意思の疎通を身振りと肩叩きで確認し合い、スタッフに発進の合図をする。
スタッフ全員が機体から離れたことを確認し、スロットルを全開にした。
20mくらいでふわりと離陸する。
そのまま高度を上げ、前日のままになっていた地上のマーカーを双眼鏡で見ながら高度1000mに合わせる。
今回はずっとこの高度で飛ぶ予定だ。
地上からは豆粒の様にしか見えないし、噴射音もほぼ聞こえないので地上の人の注意を惹くこともない。
今回は学長に頼んで懐中時計を2人とも持っている。
軍部で将校が使っている物を融通して貰った。
小型の目覚まし時計くらいあるので少々邪魔だが。
早く腕時計サイズになって欲しいものだ。
高度を維持するのは動力機なのでさほど難しいことではない。
地上の人間や馬の見かけ上の大きさを覚えておけば、それが一定になる様に推力を調整して高度を保つだけだ。
ほぼ推力調整だけで高度は保てる。
デビッドにも馬のサイズを基準に時々双眼鏡で確認して貰っているのでそう大きくはずれないだろう。
約2時間半飛び、目的地の国境駐屯地に着いた。
道を目印に飛ぶと直線距離より少し長くなるので妥当なところだ。
予め伝書鳩で情報は伝わっているので攻撃されることもなく、身分証を見せるだけで歓迎された。
「さて、30分ほど休憩して軽く食料も食べたし、気力も戻ったから魔石でエンジンの魔力を補充して偵察に行こうか。」
「そうですね、早いとこ行かないと日が暮れそうですしね。」
俺とデビッドは駐屯地の兵士達の物珍しげな視線を浴びながら2基の魔石ジェットエンジンに魔力残量を調べる魔法陣を描いた紙を突っ込む。
10秒ほど待って取り出すと、魔力残量は両方とも3割くらいであった。
結構喰ってるな。
やはりスロットル8割では燃費が悪いんだろう。
とりあえず今は魔石で満タンにしよう。
ポーチから拳大の魔石を2個取り出し、魔力転送陣を刻んだ紙で包んでエンジンの吸気口から突っ込む。
待ち時間に機体の点検をするが、特に破損や劣化したところは見られない。
10分後に魔石を取り出し、残量を量ると両方とも9割まで充填されていた。
偵察は1時間程度の飛行距離なのでこれで良しとする。
駐屯地の責任者に挨拶をし、俺とデビッドは機体に乗り込む。
駐屯地の国境とは反対側にある練兵場に着陸したので、滑走距離は十分にある。
実は練兵場に到着する5kmくらい前から高度を30m程度に下げて道の上を飛んでいた。
これは国境越しに隣国の兵士に見られない様にする為だ。
当面、秘匿兵器にしておいた方が良いのは言われるまでもない。
もし上空から見られているのがバレると、それに対して対策をして来るだろうし。
そうなると、正確な敵勢力が分からなくなる。
俺はデビッドに発信の合図をしてスロットルを全開にし、練兵場を滑走して離陸した。
またもや高度を30mくらいに保持して来た道の上を帰る様に飛ぶ。
5kmくらい練兵場から離れたところで高度を上げていく。
ゆるく旋回しながら高度1000mになったところでデビッドが後ろから大声で報告する。
眼下に農家の馬の群れがいるので、それを基準に双眼鏡のスケールの目盛で確認出来るのだ。
ここまで飛んで来るまでに、高度保持にはある程度慣れた。
風向きをある程度考慮しながら遠くの地平線や山脈が翼の先端から1m程度下に見える状態になる様にし、スロットルを微調整して保持するとかなり長い間デビッドの補正指示が入らない。
時々突風が吹くと乱されるが、リカバリは容易だ。
高度が1000mになったところで、旋回止め、国境に向かう。




