66◇複座
66◇複座
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次の日には工作部から3人の助っ人が来ていた。
いずれも工作部リーダーのモーリスのお墨付きとのことだ。
早速昨日描いた図面を見せる。
今飛んでいる単座機の図面と、これから作る複座機の図面だ。
図面を持って一緒に魔石部の倉庫に行って、単座機の実物を見せる。
3人がかりであれこれ見ていじって持ち上げて30分くらいで納得した。
まぁ単純なモーターハングだしな。
部室に戻り、複座機の図面を見ながら工作部の3人であーだこーだ相談している。
時々聞かれる質問に答え、1時間程度でゴーサインが出た。
そこでエドモンドが魔石部のホープと言っていた2人を連れて来る。
ここぞとばかりに、魔石ジェットエンジンを新たに2本作る話をする。
前回と全く同じ仕様の物を作り、横に並べてシートの後ろに固定する。
魔石制御ベルトは2本個別に出し、左右の腕にそれぞれ巻いて個別制御出来る様にする。
これは左右のバランスをわざと崩してベクタリング制御をしたいからだ。
機体重量が大幅に増すので、俺自身が打ち出すウィンド系スラスターでは制御が難しくなるであろうことの対策だ。
あっという間に準備が完了してしまった。
予算は学長に申請するだけでほぼ無限に出してくれるらしいので、納期優先で材料発注をかけて貰う。
工作部は独自の仕入れ先があるとのことで、大型テント用のポールよりももっと軽量で強度の高い棒を用意すると言う。
聞いてみると、何とミスリルを鉄に配合した薄肉パイプだそうだ。
帆船やヨットの帆のブームに使うらしい。
継ぎ無しで9mの物もあるのでそれにするとのことだ。
魔石ジェットエンジンも工作部が独自に魔石部と打ち合わせて、推力をそのままに重量を半分に出来ると言う。
いかに俺の素人設計に無駄が多かったかを実感させられた。
俺が少し落ち込んでいると、スタッフ全員が囲んで来て慰めてくれる。
やれ最初の発想が凄いだの、最初に飛ぶ勇気は誰も真似出来ないだの、国から任されるだけのことはあるだのと、聞いているこちらが赤面しそうなくらい持ち上げてくれた。
おかげですっかり立ち直った俺はスタッフに礼を言い、懸案の複座の観測手の要件を詰めていった。
観測手はとりあえず護衛のデビッドとし、戦略的な観点での観測方法を相談する。
学園に軍用レベルの王都から国境付近の地図を要求するとすぐに出てきた。
どんだけ隣国にビビってるんだよ。
それを見ながらデビッドと偵察飛行ルートを決めていく。
学園から東方向の国境までの距離は約300キロム。
時速150キロムで飛んでたったの2時間だ。
これなら毎日偵察することも可能だな。
国境付近に常駐している国軍基地からならもっと簡単だ。
だが、やはり偵察結果を即座に王都にもたらす為には毎日往復する必要はありそうだ。
俺が観測手の観測方法を練っている間にもスタッフ達はガンガン進めている。
工作部の連中は自前の大型馬車を駆って王都まで自ら買い出しに行き、魔石部の連中もそれに負けじと郊外の鉱山に直接魔石を買い付けに行っていた。
そのおかげか、2日後には全ての部材が揃い、裏山近くの大型倉庫に搬入して組み立てを開始した。
倉庫は裏山麓の平地に接して建てられてあり、そのまま航空機を出し入れ可能というこれ以上ない立地だ。
正に「ハンガー」だな。
組み立ては材料が進化したので魔法による補強は最小限で済む様になり、工作部自慢の接着剤による接合で強固に一体化された。
車輪も軽量な小型荷車の物を改良して接地面にフェルトの様なクッション材が貼り付けられている。
スタッフの大奮闘の間に俺とデビッドは地図の国境部分を紙に書き写して何通りかのルートを書き込んでいく。
偵察で大事なのは相手に気付かれないことだ。
幸い、魔石ジェットエンジンは比較的動作音が静かなので、500mも離れれば殆ど聞こえなくなる。
とりあえず偵察高度は1000mとしたが、その高度をどうやって確かめるかの問題にぶち当たった。
そこで俺は自衛隊装備の双眼鏡を思い出す。
アレには測距目盛があったので、自国領側に基準となるマーカーを2個置いてもらえれば、予め分かっているその間の距離を基にして高度は割り出せる。
どうせ飛ぶのは自国領側だけなので、飛行ルートに所々マーカーを置いて貰えれば解決だな。
トイレに行くふりをして、建物の影でこっそり双眼鏡を召喚して部室に戻る。
デビッドにそれを見せてももうかなりの俺の秘密を知っているのであえて質問はしてこない。
そこで、デビッドにこの双眼鏡の使い方を教える。
測距目盛のスケールをどうやって距離に換算するかを紙に図を描いて丁寧に説明する。
以前、自領の河原で射撃訓練した時にも使ったと言うと納得していた。
実地に試す為にデビッドと外出し、裏山の麓の平地に行くと少し離れた所に大きな木が2本並んでいた。
その木の間隔をデビッドが歩測で確認し、紙に記入する。
少し木から離れて2本の木が等距離に見える位置まで下がる。
演習問題として、双眼鏡で木を観測して木までの距離を出させると、割とあっさり正解を出してくれた。
これを縦にすると自分の高度が分かると言うと納得してくれた。
次に双眼鏡に内蔵されている方位磁石について説明する。
地図には太陽の出没する方向を東西とする方位は一応書いてある。
以前、実家で入手した地図に書いてあった方位を参考に、双眼鏡内蔵の方位磁石との差を確かめたことがあったが、東西の向きは完全に一致していた。
前世の地球の磁極の様なずれはあると思うが、自領では一致していたということだろう。
これが東に数百キロ移動するとどう影響するかは国境の国軍基地で確認する必要があるな。
観測方法については一応目処が付いたので、複座の量産機の設計に入る。
やっぱり固定翼機だ。
翼断面がしっかりしていないと性能向上は見込めないしな。
最初は複葉機から入ろう。
上下の翼間にワイヤーを張ることで強度を出しやすい。
全木造の羽布張りで作っても実用に耐えることは前世の歴史から分かっているので、まず敷居の低いコレからだ。
俺が複葉機の設計にあーでもないこーでもないと悩んでいる間に複座機はどんどん組み上がり、3日後には完成してしまった。
大型倉庫から連絡が来たので、装備を持ってデビッドと向かう。
まずは俺一人でのテスト飛行だ。
機体の要所要所を質問しながら触ったり揺すってみたりする。
俺の作った機体より洗練されていることに軽く凹みながらもヘルメットとグローブを着け、前席に乗り込む。
希望して付けてあったシートベルトを締め、体をシートに固定する。
魔石コントロールのベルトを個別に左右の腕に巻き、機体を前から5人がかりで押さえてもらいながら噴射テストをする。
片方ずつ噴射し、差異が殆ど無いことを確認した後、両方同時に徐々に出力を上げていく。
6割くらい上げたところで押さえが効かなくなってズルズル動き出す。
推力も十分な様だ。
乗ったまま大型倉庫から出してもらい、平地に出たところで試験飛行を開始する。
自力でタキシングしながら滑走距離と風向きの良い場所まで移動する。
前輪には両足で踏んで操作出来る操舵機能を付けてあるので、地上での向きも自在に変えられる。
風下を確認したので両手を上げて大声で飛行開始を宣言する。
スタッフを信用はしているが、自分が組み立てたのではない機体に不安がよぎる。
まぁあの仕上がりとスタッフの満足げな顔を見れば文句の付けようもない。
俺は両腕の魔石コントローラーに魔力を流して6割推力とする。
地面は土なので若干の凸凹に車輪を取られるが順調に加速し、20m進んだところで浮上した。
やはりエンジンが2基あると余裕が全然違うな。
これなら2人乗っても全開までせずとも離陸するだろう。
俺は高度が5mくらいになったところで水平飛行に戻し、平地の縁に沿う様にグルグル周回し始めた。
そこでエンジン推力に気をつけながら主翼の仰角や偏角の操作で機体の運動性を確認する。
仰角を付けすぎて失速気味になった時に推力を少し増すことで回復するのも確認した。
なかなか素直な特性だと感心する。
やはり高級素材による軽量化と高剛性化の効果が大きい様だ。
これなら俺以外が操縦しても割と容易に飛べるんじゃないかと思えてきた。
20周くらい周回して一旦着陸する。
着陸も風向きにさえ注意すれば特に難しいこともない。
車輪に巻いたフェルトも着地の衝撃をよく和らげてくれている。
板ばねが2人乗り用にはちょっと柔らか過ぎる様な気がしたので要望するとその場で資材を持ってきて修正してくれた。
うん、これなら2人乗りでハードランディングしても負けることはないだろう。
調整後に再度離陸し、今度は高度を上げる。
裏山の山頂と同じくらいの高度まで上げがり、最高速度を試してみる。
地上のデビッドには前回同様、飛行直径の目測と周回数のカウントを依頼してある。
学園の時計台を目安に1時間程飛び、着陸する。
計算すると、8割スロットルで時速170kmくらいだった。
エンジン2基の割には上昇分が少ないが、これは大型化による空気抵抗と、魔石ジェットエンジンそのものの特性もあるかもしれない。
今度地上ベンチテストで排気速度の測定をやってみよう。
排気速度以上にはどうやっても加速しないしな。
その後、裏山の2倍くらいの高度まで上がって失速系のテストを繰り返す。
やはり大型化しているだけあって、反応は少し鈍い。
だが過渡特性は穏やかで、これなら他人が乗ってもパニックになることは少ないだろう。
左右のエンジン推力の差によるベクタリング機動もやってみたが、エンジンの取り付け間隔が狭いのであまり効果は無かった。
まぁ冗長性という意味では左右独立制御のままの方が良いだろうな。
2時間ほどあれこれ試して疲れてきたので着陸する。
スタッフは飽きもせずずっと見守ってくれていた様で、俺が試験飛行終了と言うと歓声を上げて手を叩き合っていた。
ふぅ、これでひと段落だな。
タンデム飛行は翌日ということで、スタッフは点検の為に機体を倉庫に押して行った。




