64◇学園の話題
64◇学園の話題
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次の日学園に行くと、俺の飛行が物凄い話題になっていた。
まぁあんだけの高度で2日間も飛び回ったのだ。
学生寮から丸見えだし、学園の近隣の商店や冒険者協会支部からも見えていたらしい。
中には新手の飛行魔物と勘違いして討伐依頼を出した者までいるとか。
学園への休日使用許可を取る時にエドモンドがしっかり説明しておいてくれていたので、学園へ問い合わせればアレが魔物ではないことはすぐに分かるんだが。
その日の最初の授業で担任のショーンから詳しい説明を求められた。
これについてはやましいことも秘密もないので正直に説明する。
教壇に出て黒板に図を描き、まず魔道エアクラフトの説明をする。
動力無しでも少し高い所から飛び出すと飛べることを凧や紙飛行4機を例に出して説明すると割と素直に分かってくれた。
実際にノートのページを切り取って紙飛行機を折り、飛ばしてみると教室は歓声に包まれた。
次に魔石ジェットエンジンの説明をするが、これはちょっと説明に難儀した。
扱う魔力が膨大なので本当に実用になるのか多くの生徒が疑問視する。
そこで魔石部のエドモンドの協力を得て多量の魔石を使っていることを説明してやっと納得してくれた。
だが、まだチャチな遊びと思っている人が実用性が無いと批判して来たので、昨日テストした結果を数値で示してやるとやっと黙った。
まぁこれ以上は本当の理由なんて知らせる必要も無いので、武装や魔力スラスターについては黙っていたが。
次に自分も乗せろと言う人が何人も来たが、あれは一人乗りで俺自身の魔力制御で飛んでいることを説明し、ごく僅かな操縦ミスで簡単に墜落すると言うと皆尻込みしてそれ以上の要求は無くなった。
授業の合間の休憩時間や昼休みにもひっきりなしに俺の所に来る。
煩わしくなった俺は空いている教室の黒板を使う許可を担任に貰い、そこに先ほど説明した事を図入りで懇切丁寧に書いた。
これで解放されると思ったら、今度は授業後に学長から呼び出しを喰らった。
行ってみると、学長、教頭を始めとした教師と研究職らしき人が10人ほど待ち構えていた。
エドモンドの姿も見える。
壁には俺の書いた黒板が空き教室から移動されて掛かっていた。
まぁそんな事だろうと思っていたが。
「ようこそ。私は学長のジェンキンスと言う。こっちは教頭のワルターだ。君を呼んだのはここ数日に君が自由に飛んでいるアレだな。アレについて学園で全面的に協力させて欲しいと思ってね。なに、詮索するつもりは無い。ただ、協力させて貰い、私たちにも作らせて欲しいんだよ。どうかな。」
うん。
言われると思った。
だけど想定していたよりもだいぶ下手に出て来たな。
もっと上から目線でがっつり要求されると思ってたんだが。
まぁ航空産業の萌芽なので、これを起点に地球で興った様な歴史が始まるだろう。
飛ぶ実物を大勢が見ている訳なので、俺が一切協力しなくてもその内誰かが作るだろう。
「分かりました。協力させていただきます。ただ、アレは非常に危険を伴う乗り物です。ほんの少しのミスで死亡事故は容易に起きます。その点を理解していただき、私が納得しない物には人を乗せないということを徹底させて貰えませんでしょうか。」
学長室がちょっとざわつく。
俺が権威に怯んで素直にYesと言うと思ってたんだろうな。
だけど本当の俺は35歳の前世の荒波で揉まれたサラリーマンだ。
無理難題を吹っかけてくる上司や客先の対応には慣れたもんだ。
魔法が使えるとはいえ、産業革命前の学園の上層部程度には何も臆することはない。
「君の言う危険性について少し説明してくれないかな。ここ数日、実に気持ち良さそうに君が飛んでいるのを皆不思議がっているのだよ。」
「はい、まず私が飛んでいる時にやっている操作を説明します。まず、凧の様な大きな三角形の船の帆の様な部分ですが、実はこれだけで飛行出来ます。と言っても高い所から低い所に向かって、手足の間に膜があって木々の間を飛ぶ動物の様にですが。ただ、この部分は中央にぶら下がった人の体重移動だけで操作しているので慣れるまでにかなりの時間がかかります。ここだけでもちょっとした操作ミスで落ちて死ぬ場合がありますし。次に魔石ジェットエンジンという空気を吹き出す動力について、あれは制御リングを腕に嵌め、そこに流す魔力量で吹き出す力を制御します。吹き出す風は私を2人分持ち上げるだけの力があります。これを凧の様な機体の動きに合わせて適切に制御しないと、失速と言って空中でどうすることも出来なくなって落ちます。お互いに微妙なバランスの上に飛行は成立していますので、吹く力は弱すぎても駄目、強すぎても駄目で、常に適切な範囲で吹いてそれに見合った操作が必要になります。これは言葉では説明し辛いので、安全な低い高度で何回も試行錯誤をして身に付ける必要があります。」
俺がそこまで説明すると静まりかえっていた。
たぶんもっと簡単に誰でもふわっと飛べるとでも思っていたんだろうな。
俺自身は完全に慣れていたので、今現在は目を瞑っていても離陸と水平飛行程度は出来る。
前世の高性能リッターバイクにまるっきり乗ったことが無い人をいきなり乗せて、さぁ運転してみろと言う様なもんだな。
例えば自信過剰で俺は何でも出来るんだと吠えている17歳くらいの体格の良い不良に、簡単な説明だけして大型バイクを与えてみたとする。
10人中9人くらいは初日で死ぬな。
たまに天性の才を持っている奴が出てくるので話は面倒になるんだが。
「君の言うとおりだとすると、君が数日であれほど乗りこなしているのと矛盾するのだが、君はどうやってごく短時間であれほどまでの動きを出来るようになったのだい?」
そうなんだよな。
俺自身不思議に思っているくらいだ。
だが、前世でのリッターバイクを自在に扱っていた経験と、その前のオフロードバイクでジャンプやドリフト?をしていた感覚は確実に役に立っていると思うんだよな。
要はバランス感覚なんだが、動力付きの扱いにくい乗り物と言う面では一致しているな。
「それは私自身も説明出来ません。夢中で扱っている内に自然と出来る様になったとしか。あ、でも予め安全を余分に確保した上で危険な動きに挑戦したことは、結果的により安全に扱える様な余裕を私にもたらしたとは思いますが。乗馬でも障害物を置いて訓練したりしますよね。それと似た様な事だと思います。」
「なるほど。乗馬も初めて乗ってすぐに障害物超えは無理だな。それと同じ様に考えれば良いのか。なるほど理解しました。では安全面については君の意見を最優先とする前提で、改めてお願い出来ないだろうか。勿論、新案という面での権利関係も学園で全面的に君に有利な様に進めさせて貰うよ。」
そうなんだよな。
権利関係。
自分で商業者協会に書類を書いて申請しようかと思っていたくらいだ。
学園が代行してくれるのなら大助かりだな。
「ご配慮ありがとうございます。新案の権利関係というのは失念していました。ぜひお願いしたいと思います。」
「では、学園に君を頂点とする開発部を新設しよう。あれの名前はもうあるのかい?」
「はい、魔道エアクラフトと名付けています。そちらのエドモンドさんと魔石に関する部分は共同開発していますので、私の顧問扱いで同席をお願い出来ませんでしょうか。あと、魔石も大量に使うのでエドモンドさんの所属する魔石を扱う部署の全面的な協力もあるとありがたいのですが。」
「了解だよ。エドモンド君を含めて魔石部門を全面的に協力させよう。魔石の仕入れに関しても学園の資材調達部に便宜を図る様に指示しよう。それと、君の担任のショーン君も同席させよう。彼の授業時間を減らして君の補助に充てる様に言っておこう。」
うん。
担任のショーンも俺の使う魔法に興味を持っていたので話は早い。
何もかもがまるで俺のご機嫌取りをするかの如く動いてちょっと気味が悪いが、そこまでするのなら何か裏があるのだろうと思って聞いてみる。
「色々私一人の為にしていただいて恐縮なのですが、何か外部からの圧力などはあるのでしょうか。」
俺の疑念をずばり切り込んでみる。
学長や教頭は目を瞑り、他の教師や専門職はお互いの顔を見合わせている。
あ、これヤヴァい奴だ。
暫く沈黙が続いたが、やがて学長が話しだす。
「実は軍部からの要請があってね。王家の承認も得ているので逆らえないんだよ。軍部はこれを偵察や攻撃に使えないかと言って来ているんだ。理由を聞くと、東のサタナイト王国の王の代替わりが最近あった様で、こちらとの国境に軍隊を集結させているらしいんだ。国境付近には入り組んだ谷があって軍隊を容易に隠せて、こちらの偵察部隊でははっきりと数までは分らないとのことなんだよ。そこで君の新発明で空から確認したいとのことだ。」
まんま前世と同じだな。
まず偵察。
次に攻撃。
まぁいきなり攻め込まれて王都が火に包まれても嫌なので協力はしよう。
「そんなことになっているのなら時間的な余裕は無いのではないですか?これ、悠長に研究開発している場合じゃないですよね。さっさと偵察部隊を作らないと。これ、私が全部主導してやっちゃてもいいですかね?学園の授業も休学扱いにしてもらい、大至急偵察に使える2人乗りの魔道エアクラフトを作らないと。」
俺が噛み付くと学長以下全員が驚いた様な顔をする。
おいおい、なに平和ボケしてるんだよ。
偵察は全ての軍事活動の起点だろう。
偵察=情報だぜ。
情報が得られないといきなり負けるなんてのもあり得るし。
「そこまでかね?軍部の言い方も穏やかだったのであまり逼迫していないと思ったのだが。」
「それこそ敵の欺瞞工作でしょう。こちらの偵察部隊にそう思わせる様に演技している可能性すら考えられますね。敵意が無い様に見せかけてこっそり相手の間近に兵力を集結しておき、相手の隙を突いて一気に攻め滅ぼす。その可能性が全く無いとでも?」
俺が焚き付けると皆不安そうな顔になる。
どこか心の底では思ってたんだろうな。
今まで平和な時代だったので今後もそういう事は起きないと根拠のない自己欺瞞をしていたのだろう。
そうなると、ランバート領の兵力をどうするかの問題もあるな。
これは一度実家に帰って父親に相談する必要があるな。
「そこはある程度防げると思う。こちらも国境にはある程度の規模の軍隊が常駐しているし、王都に至る道筋にも軍部の支部が点在している。いきなり攻め込まれて負け続けるとは思えないんだが。」
教頭がそう説明する。
教頭は軍部出身とのことなので、そこら辺の情報には詳しい様だ。
まぁそれもそうか。
俺が考えつく程度の事は本職の軍部も想定はしているか。
だが、偵察がろくに出来ていない事は事実らしいので、改めて空中偵察部隊の早期実現を提案する。
「分かりました。私の早とちりだった様ですね。ただ、少数でも良いので空中偵察部隊の新設はどうしても早急に実現したいと思います。まず、私が操縦して後ろに観測員を乗せることが出来る少し大型の機体を作ります。それで学園の周囲を飛んで飛行訓練と観測訓練を同時に行います。ある程度偵察飛行の条件が決まったら今度は国境沿いをこちらの領土内の上空を飛びます。これなら隣国の領土に入っていないので文句も付けられず、同時に空から敵の国境沿いの状況も丸分かりになります。」
「それなら誰にも文句を言われず、どこにも迷惑をかけないので非常に良いですね。それで行きましょう。マーティン・ランバート君、君に一任しますので、よろしくお願いしますね。」
学長は同意してくれ、他の面々もこれならばと頷いていた。




