58◇冒険者協会
58◇冒険者協会
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さて、ランバート・キーの有用性が確認出来たことで冒険者協会に打診してみることにした。
魔石マニアのエドモンドの元同級生で、ジェイク・ハワードという人物が冒険者協会の技術部長とのことだ。
その人に会いに行こうということになり、まずはアポイントメントを取った。
具体的には学園の下部組織に郵便事業をしているグループがある。
そこに打診の手紙を渡し、速達扱いで定期便の連絡馬車に乗せる。
そうすると、学園と王都との距離なら朝出せばその日の内に返事が来るらしい。
この距離ならいきなり行っても良さそうに思うが、たとえ親しい者でも仕事中の技術部長ともなると空いていることは少なく、行っても会えないことが多いらしい。
たとえ会えても数分程度にされてしまう。
今回は少し時間をかけてじっくりと打ち合わせが必要な案件であるので、まずアポを取って空き時間を確保して貰うのだ。
これって、会社組織や公共団体組織の場合では普通だよな?
まぁ貴族連中はそんなことは気にせず横車を押して来るんだが。
俺?
俺も一応貴族の端くれだけど、礼儀は弁えてるよ。
翌日の夕方、また魔石部に顔を出す。
エドモンドは手紙を見せながら嬉しそうに俺に言う。
こんなに早く空きが取れることは珍しいそうだ。
「さて、早速ジェイクから返事が来たぞ。明日の夕方5時くらいなら30分くらい空いているそうだ。」
「それくらいの時間が私も都合が良いね。明日は5時間目が剣技の授業なんだけど、私は免除されているので午後2時半には自由になるんで、こちらを3時半くらいに出ましょうか。あ、足は私の馬車があるんで私はそれに乗って行くんだけど、リーダーはどうするの?」
「そうだな、行きだけ乗せて行ってくれないか。帰りは自分で何とかするから。」
「今住んでいる叔父の家が途中にあって王宮から30分くらいなんだけど、帰りもそこまで送るんで近くの馬車停留所があれば教えてください。」
「いや、打ち合わせが終わった後にたぶんジェイクと飲みに行くんでな。帰りの送りは不要だ。どこか泊まって次の日の朝に帰るさ。」
なるほど。大人の付き合いって奴ですな。
前世では俺も悪友連中と深夜まで飲んでカプセルホテルに泊まってたもんだ。
20年後にはこちらでもジャンやジャックとそうなるのかな?
次の日は担任のショーンの授業が2時間続いた。
まぁ小学校みたいなもんだから教師の負担はそう大きくないみたいだし、単純に人員が足りないというのもあるらしい。
4時間目が終わり、俺はさっさと帰り支度を始める。
「おいおい、最近は付き合いが悪いじゃないか。」
「そんなに急いでどこへ行くんだ?」
ジャンとジャックに絡まれる。
そういえば彼らに俺が何をしているか言ってなかったな。
次の時間は剣技なので彼らは中庭に移動しないとならないので、手短に説明して納得させる。
「僕が剣技訓練免除証を貰ったのは知ってるよな。だからその空いた時間を有効活用しようと思って魔石部の人達を紹介して貰ったんだ。そして今日はその担当の人と王宮近くの冒険者協会に行くんだよ。僕が新しく思いついた物が実際に使えるかどうかを確認したくてね。」
「なによ、冒険者協会と魔石部の組み合わせならお金の匂いがプンプンするじゃない!私にもちょっと噛ませなさいよ!」
スカーレットが商魂たくましく嚙みついて来る。
「スカーレット、それはちょっと図々しすぎるんじゃぁないの?まだ確認段階で使えるかどうかも分からないんでしょ?」
ジャネットが酷い。
そりゃぁまだ冒険者が面倒なコードを覚えてまで使ってくれるかどうかも分からないし、価格次第では本当に必要な下位ランクの冒険者に使われない可能性も高いんだが、それはそれで技術的にはいいものなんだよ。
そう、技術的にいいものは売れないってジンクスもあるしね。
「では時間ももう無いし、そういうことでお先に帰るよ。」
まだグチグチ言っているスカーレットをジャネットが引っ張って中庭に行く。
ジャンとジャックも俺に軽く手を振って中庭に走って行った。
俺は魔石部に行き、エドモンドに声を掛ける。
「リーダー、今日の授業は終わったよ。持って行く物はランバート・キーを2個とランバート表、それ以外に何かあったっけ?」
「マーティン、早いな。まぁ剣技授業免除は学生にとっては嬉しいよな。それまでの剣技の修練の苦労を考えたらどっちが楽か分からんが。」
「ははは、そうだね。僕も領都で護衛隊長に鍛えられた日々を思うと、あの時遊んでいて今剣技の授業を受けた方がよっぽど楽だなとは思うよ。平日は午後から毎日だしね。」
たぶん剣技担当教師がサイモンからカークに代わったので授業はだいぶまともになったと思う。
本当にサイモンは教師に向いていない。
あんな旧態依然としたやり方が通ると思ってたら大間違いだ。
まぁその結果強豪が多い3年担当に飛ばされたんだから自業自得だが。
さて、2時半になったのでそろそろ行く準備をする。
俺は部屋の外で待機していたデビッドを呼び、ランバート・キーを1個持ってもらう。
もう1個は俺が持ち、エドモンドは書類入れと光る魔石のサンプルの入った箱を持った。
馬車停めの所まで行き、待機所に居たザンドに声をかけて馬車の用意をしてもらう。
俺専用の馬車が来たのでエドモンドとデビッドと共に乗り込む。
ランバート・キーは床に置き、転がらない様に足首で挟んだ。
「王都の冒険者協会本部ですね。」
御者席からザンドが声をかける。
俺はそうだと言うと、馬車は軽やかに走り出した。
馬車は1時間近く走り、王宮近くの冒険者協会本部の馬車停めに入る。
やはりここでも馬車を停めるには料金が要るみたいだ。
まぁ馬の世話も要るし、馬糞の処理もあるしな。
ザンドを馬車に残して俺とエドモンドとデビッドは本部の建物に入る。
受け付けでアポの手紙を見せ、案内してもらう。
3階の技術部長室の控室に案内され、紅茶を出される。
まだ4時半くらいなのであと30分はあるな。
「いやー悪い悪い、先客が面倒な奴でな。ちょっと手間取ってしまった。」
5時5分過ぎくらいに隣の扉が開いて、技術部長のジェイク・ハワードが入って来た。
エドモンドの肩を叩いて軽く再会を喜び、俺たちを部長室に導いた。
「さて、エドモンド。お前が急に手紙を寄こして生徒の発明品を使ってくれと言って来た時は驚いたぞ。5年も音沙汰が無かったのにいきなり発明だなんて、もっと研究オンリーで学園の研究室に籠っているのだとばかり思っていたぞ。」
「ジェイク、俺もこのマーティンから焚き付けられなかったらここまで出て来なかったさ。まぁちょっと難点もある話だからすぐにとは言わないが、とりあえず話を聞いて貰えないか。マーティン、いいかな。」
「はい、私は王都学園1年のマーティン・ランバートといいます。王都の中央図書館で調べものをしていましたら、光る魔石を使った遠距離連絡の方法を書いた書籍がありました。それに興味がそそられて調べていく内に、これで有意の情報を伝えられるのではと思い、エドモンドさんに相談して意味のある文章を送信出来る実験用器材を作りました。」
「ちょっと補足説明をするぞ。まずマーティンが考えついたのは光る魔石の発光パターンを工夫して文字に当てはめるということだ。これがその表なんだが、大文字21文字、数字10文字、記号8文字、制御コード6個だな。これで合計45個になる。これは光る長さを2種類作り、その組み合わせで効率的に伝えられる様に工夫してある。だから一旦この45個さえ覚えれば、光る魔石を使って意味のある文章を送れるんだ。」
「なるほど、それは分かる。だがその45個を覚えるのは大変なんじゃないのか?冒険者に使わそうと思っている様だが、奴らはロクに学んで来なかった連中だから頭は悪いぞ。義務教育があるから文字こそ読み書きは出来るが、計算はまるっきりダメだし、協会のルールについて繰り返し教えてるんだが、一向に覚えようとせずに違反ばっかりしているぞ。」
この世界、というかこのカルダナイト王国には義務教育というものがある。
貴族は12歳までは各自家庭教師から学び、12歳からは王都学園に入学することが必須なので問題ない。
だが、庶民は放っておくと全く知識レベルが向上しないので、庶民は8歳から12歳までの4年間は国民の義務として各城下町や領都や町村に設置されている基礎教育学校に通うことが強制させられている。
まぁ江戸時代の寺子屋みたいなもんだな。
学習は基本無料で、王国の税金で運営は賄われている。
昼食を無料で出すことにより、貧困層まで通わせることに成功している。
逆に貴族は基礎教育基金に寄付することがステータスとなっており、今では運営費の半分が寄付で賄われて国庫の負担を軽減している。
この様な仕組みにより、国民は王国で使われている文字数字記号は読み書き出来る様に徹底的に叩き込まれる。
まぁ文字数は少ないので文字を覚えるのは簡単だが、文法を覚えないと手紙も書けない読めないのでそこは厳しく指導される。
また、読み書き以外にも算数と産業の仕組み、農業や漁業、建築や鉱業の基礎的な知識も学ぶ。
加減算くらいは最低でも出来ないと給金や報酬について雇う方から騙され放題になるしな。
勿論成績の優劣は出るが、あくまで楽しんで学習出来る様に工夫されている為、王国の識字率は8割を超える。
これは近隣諸国にはあまり無いカルダナイト王国の美点だと言われている。
これがあるから俺のランバート符合は実用になると踏んだ訳だ。
「まぁ単に覚えるだけなら目的が無いからやる気も起きないだろ。だが、これは命を救う切り札になると言ったらどうする?」
「なぜ切り札に?単に文字を送るだけだろ?たすけてくれーが切り札になるのか?」
「何を言っているんだ。現在位置だよ。伝えるのは。遭難する冒険者の殆どは浅い層で怪我や体力切れ、食料切れで止まるだろ。そこの位置の情報を伝えさせるんだよ。何階層のおよその位置さえ分かれば無駄な捜索をせずに上位ランク救援隊が到達するだろ。」
「確かに。だが、階層は分かっても広いエリアなら現在位置なんてベテランでもそうそう分かるもんじゃないぞ。」
「そこは最後の工夫だ。低層ならベテランは全て把握しているだろ。予め階層毎に作った場所を示す札を要所要所に打ち付けておくんだ。これでその階層の地図と照合するとずばり位置が分かる。札は単に数字の連番でもいい。とにかく、動けなくなった初心者を救助するのが目的だ。」
「なるほどな。移動中に数字さえ覚えておく様にしておけば、動けなくなった時にその番号を階層と共にその方法で伝えるだけで最短で救助が来るという訳か。」
「まぁ冒険者に覚えさせるのは後にして、まず実際の機材で伝えるところを見てくれないか。」
エドモンドと俺は目配せし、包んでおいた布を取ってランバート・キーを2個それぞれ持ってへやの隅に移動した。
まず俺が予め決めておいた例文を送信する。
「たすけて 3かい 46」
エドモンドが受信になっているランバート・キーから聞こえる断続音を紙に書きとり、終わったら声に出して読む。
今度はエドモンドが「了解」の制御コードを送り返す。
俺の方でそれを聞き、声に出して読む。
「実際には魔石の大きさの比率から一方方向の通信になるだろうが、繰り返し送ることで受信側の聞き取りミスも防げる。」
「なるほどな。送る方は最悪送信例文を紙に書いておけば何とかなるか。」
「今、冒険者協会で使っているその呼び出し道具を何セットか貸してくれないか。それの受信側が光だけでなく音でも受信していることが分かる補助具を取り付けよう。」
「「安心君」だな。冒険者協会で貸し出している奴だ。後で部下に言って渡すよ。」
「そこでだ、試験的にこのランバート符合表を使って、簡単な位置情報を送るための例文を作ってくれないか。出来るだけ短い文章で意味が伝わればそれでいいし、より詳しい情報を送る為に長くしてもいい。フロアの位置を特定するため番号札とそれを書き込んだ地図も同時にあったらいいな。」
「分かった。後日部下をそちらに送るからお前の所で決めてくれ。部下はダンジョンに詳しいんで、それの意見を聞けば実用に足る物が出来ると思う。「安信君」もその時に持って行かせよう。」
技術部長、あれこれ一気に言われて面倒になったな。
まぁ部下の人を派遣してくれるんならこっちで出来るから往復する手間が省けていいな。




