57◇ランバート・キーの音
57◇ランバート・キーの音
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俺の学園生活は順調と言えるだろう。
初っ端から4人も友人が出来、担任のショーンとは光る魔石で共通の目標が見つかり、思いもかけず剣技訓練免除まで手に入った。
これで通常の授業も免除してくれたら嬉しいんだけど、そうはいかない。
まぁ友人と一緒に受ける授業は楽しいからいいんだけどね。
授業は国語、算数、理科、社会、剣術、魔法の6分野があるが、剣術訓練が免除された俺は週5時間が自由時間になる。
剣術訓練はその日最後の5時限目なので、俺は4時限目が終わったらフリーだ。
帰宅時間まで3時間くらい自由時間が出来るので、俺は魔石専門室に入り浸った。
リーダーのエドモンドとは親子ほども年の差があるが、もはやツーカーの仲だ。
やはり専門知識があると話が早い。
少し前に預けたランバート・キーの光→音変換はもう実現していた。
「リーダー、もう出来ちゃったの。」
「マーティン、君の意欲に我々も触発されちゃってね。音の魔石に伝達魔法の一種のトークを使って、魔方陣を少し改変したら割と簡単に出来たよ。光の点滅をトークの魔方陣で拾い、光っている時に音の魔石に対して魔力伝送を行う。消えている時は魔力伝送は行わない。音の魔石に一定の周波数で音を出す様に魔方陣を刻んでおくと、魔力が伝わって来た時だけピーという音がするんだ。」
なるほど。
フォトトランジスタに光が当たってベースが叩かれてエミッタに電流が流れ出て、それの先に圧電ブザーが付いている様なもんか。
シンプルでいいな。
「すごいね。こんなに簡単に解決してしまうとは。詳しく教えて貰えませんか。」
俺がリクエストするとエドモンドは嬉々として説明し始めた。
音の魔石というのは初見だったが、特性の記載されている資料を見せて貰ったら刻む魔方陣で共振周波数が決まるみたいで、そこに駆動力である魔力を接続するとその周波数で振動して鳴動し続けるということだ。
音の魔石単体では表面積が小さいので音も小さい。
そこは前世のスピーカーと同じで、ドライバーである石に振動板である紙コーンを付けてある。
これで音がかなり大きくなる。
見た目もまるで古いラジオのスピーカーだった。
音量は魔方陣のパラメータを変えることで調整出来るらしい。
これ、蓄音機の外部スピーカーに使えないか?
魔方陣の入力を2つにし、片方は光を高速に断続して音変換、もう片方は印加魔力量で音量が変化する。
1bitDACであるPWM変調と出力ドライバの利得変化みたいなもんか。
いや、その前に蓄音機その物だな。
これは原理だけエドモンドに言って、勝手に作って貰おう。
もうあちこちに手を広げすぎていて自分でやる暇が無いしな。
「リーダー、ちょっと話を変えてもいいかな。思いついたことがあって。」
「マーティン、いくらでもいいぞ。バッチ来い。」
「実は音を記録したいと思って。たとえば家族のだれかの声や歌を記録して、後でいつでも聞けたら素敵と思わない?」
「うーん、それに近い魔法ならあるぞ。但し記録出来る時間が短くて、出て来る音も酷く割れているが。」
「それって音の魔石に何か魔方陣を付けるの?」
「そうだ。音の魔石の種類によっても出て来る音は変わるんだが、一番良くても時間は10秒、音も唇に紙を当てて喋っているようにしか聞こえない。とても歌なんて聴けるものではないな。」
確かにそれでは音楽プレーヤーとしては使えないな。
やはり蝋管蓄音機のアイデアを出すしかないか。
エジソンのパクリだけどな。
円盤式はちょっとだけ敷居が高いので蝋管式が成功してからだな。
「ねぇ、太い蝋燭を横にして真ん中に棒を刺し、ゆっくり回すとどうなると思う?」
「蝋燭?あの古くさい火を点けて明かりにする棒みたいな奴か?」
そうなんだよね。
この世界でも照明はLEDみたいな照明魔道具にどんどん置き換わっていて、燃焼系の照明は殆ど全滅なんだ。
「そう、あの蝋燭。教会とかで儀式の時に使っているからまだ入手は出来るよ。あの蝋燭の円筒の表面って柔らかいから軸を回しながら針の先を押し当てると浅い溝が出来るよね。少しづつ針を横にずらして行くと一筆書きみたいに一定の間隔の溝になるんだ。この時に針に薄くて丈夫な紙をピンと張って押し当てると紙の振動が針に伝わるよね。すると針が蝋燭の表面に溝を付けるのに強弱が出来ると思うんだ。これって、紙に口を近づけて喋ると紙が振動し、それが針に伝わって声が蝋燭の表面に強弱になって記録出来たことにならないかな。」
まぁもうちょっと工夫しないとちゃんと鳴らないと思うけど、原理はこんなもんだろ。
「うーん、理屈は分かるけどやってみないと何とも言えないな。記録しても再度音にするにはどうするんだ?」
「そのまま逆をやるんだよ。蝋燭の溝に針を触れさせて回転すると溝の強弱によって針が振動する。その針の振動はそれに繋がった薄い紙の膜を振動させてある程度大きな音にならないかな。」
「うん。原理は理解した。魔法を使わずに全て物理でやっているところが気に入った。だけど魔法を併用してもいいんだよな?」
「勿論!魔法の併用で劇的に効果や効率が上がるなら使わないって法は無いよ。」
「よし、今すぐには出来ないが、もう少ししたら空いた時間に少しづつやってみようではないか。」
よし、丸投げしたぞ。
あとは寝て果報を待つだけだ。
さて、話をランバート・キーに戻さねば。
「リーダー、ごめん。せっかく出来たランバート・キーの説明の腰を折っちゃって。これ、もう試してみたの?」
「いや、動作の確認はしたが、実際に言葉を伝えるのはまだやっていない。今やるか?」
「やろうやろう。是非にもお願い。」
俺がそう言い、2台のランバート・キーの片方を持って隣の部屋に行き、ドアを閉める。
エドモンドは残った方をテーブルの上に置いて打鍵を握る。
隣の部屋で俺がランバート符号で語りかける。
両方のランバード・キーが同時にピー音の断続を奏で始めだした。
「ほんじつはせいてんなりなれどあすはこうてんなり」
暫くすると全く同じ符号が帰って来た。
「ほんじつはせいてんなりなれどあすはこうてんなり」
はっきり聞こえる。
目を瞑っていてもちゃんと言葉が分かる。
これなら実用になるな。
ランバート・キーを抱えてエドモンドの元に戻る。
「やったね。これで十分実用だよ。とりあえず、ランバート符号と共に公的な所に登録出来ないかな。」
「うん、それはもう申請しているよ。王都の商業者協会本部の「商業者新規商品保護登録」ってのがあってね、そこに君の名前で登録申請しておいた。」
「え、学園や魔石専門の名前で登録しないの?」
「登録は個人名でないと受け付けてくれないんだ。なら、発想の大元である君の名前しかあるまい。ランバート符号だし。」
「いいの?権利が僕になっちゃうよ。」
「いいさ。元々このアイデアを君が持って来なかったらゼロなんだから。俺たちはそれにちょっと手助けしただけさ。」
太っ腹~。
まぁ俺自身も魔道銃なんかで権利はあまり主張していないから一緒か。




