56◇情報共有
56◇情報共有
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先ほどは狭い地下室で4人がバンバン撃ちまくったので体中に硝煙の匂いが染みついてしまった。
夕方ダイニングに行くと叔母とその娘が俺と叔父が臭いと言う。
仕方が無いので先に風呂に入ってから夕食となった。
風呂と言っても時間をかけたくないからシャワーだな。
この世界にもシャワーはある。
水道は貴族と富裕層の各家に引かれており、受水槽に入ってからクリーン系の魔道具で濾過浄水され、各蛇口に配送される。
受水槽にはグラビティ系の魔道具が水面に自重を重くなる様にかけて擬似的に圧送としているので、各蛇口やシャワーからはある程度の勢いで水が出る。
勿論、温水蛇口も用意され、組み込み型のファイア系魔道具で瞬間湯沸かしの様に水温を上げる。
シャワーは混合水栓になっており、比率を調整して適温にする。
まるで現代日本の様な快適さで最初はびっくりしたものだ。
だが、さすがに温水洗浄便座は無かった。
今度作るかな。
夕食を無事に済ませ、食後に叔父の部屋に行く。
その時に俺専用馬車の床下収納庫から89式を出して9mm拳銃と共に持って行く。
叔父の部屋に入るとメイドはコーヒーを2杯入れて退出した。
「叔父上、今日の魔拳銃の撃ち応えはどうでした。」
「うん。自分が徐々に上達しているのは分かるが、マーティンのあの命中率はどういうことだ?学園に入学する前にかなり撃っていたとみえるが。」
「はい、父上の手紙に大枠は書いてあったと思いますが、私と護衛の魔法担当の3人とマーク隊長とハンスはちょっと他の人とは違う扱いをされてましてね。父上にかなり自由な裁量権を貰っているのです。主に魔道銃というランバート領だけで製作が可能な銃の開発をしていまして。それと同時に私の出す魔拳銃、魔長銃の訓練も日課として実施しています。今は私が入学する前に溜め込んだ弾薬を節約しつつ使っている様ですが。」
「そうだったんだ。まぁ君は自分で弾薬を出せるから練習量は違って当然か。魔拳銃の弾薬はランバート領や王都で作ることは出来ないのかい?」
「可能か不可能かで言えば可能です。但し、私が召喚した魔拳銃や魔長銃の弾薬はこの世界に無い物質で作られている様です。それで魔石でそれの代替が出来ないか考えたことがあるのですが、苦労の割りにはまともな性能が出ない可能性が大きいので中断しています。私自身も徐々に魔力量が増加しており、一日に出せる量が実用レベルになったことも大きいですね。」
「うん、なるほど。で、その魔長銃?というのはそれかい?魔拳銃よりずいぶん大きいな。撃つ弾も大きいのかな。」
「いえ、撃ち出す弾の大きさはこれを見て貰えば分かる様に魔長銃の方が小さいですが、発射薬を入れる部分が逆に大きくなっています。これで威力は弾が小さいにも関わらず魔長銃の方が数倍大きくなります。また、遠距離の的に当てることも容易になります。」
俺は9mm弾と5.56mm弾を並べて見せ、弾頭と薬莢の大きさを比べて説明した。
「うむ。何となく分かった。それは後で見せて貰うとして、魔道銃というのをランバート領で新に作るってことだよね。兄上から大雑把なことは聞いているんだけど、兄上の説明ではいまひとつ理解出来てないんだ。マーティン、君が総責任者だということは聞いている。君の口から魔道銃について説明してくれないかな。」
「分かりました。では魔道銃について。名前が一字しか違わないので紛らわしいですが、魔道銃は魔拳銃や魔長銃は全く違う物です。魔拳銃は先ほど撃った手に持って撃つ銃で9連発、魔長銃は両手で構えて肩に当てて撃つ長い銃で30連発になります。いずれも私のスキルで召喚し、こちらの世界ではほぼ作ることは出来ません。それに対して魔道銃は材料から加工技術から量産化まで、全てこちらで可能な物です。但し、性能はかなり異なり、この様な差があります。」
俺は紙にペンで線を引いて9mm拳銃、89式、魔道銃の性能一覧表を作った。
魔拳銃(9mm拳銃)
・マーティン召喚
・両手で持って発射(片手持ちでも発射可能)
・9連発(マガジンで一括交換可能)
・有効射程距離は100分の3キロム(30m)程度
・対人威力は頭と体の中心に当たれば死亡するが、その他では食い込むが死亡まで至らない
魔長銃(89式小銃)
・マーティン召喚
・両手で持って肩に当てて発射
・30連発(マガジンで一括交換可能)
・有効射程距離は10分の2キロム(200m)程度
・対人威力は頭と体の中心に当たれば死亡し、その他でも大きくえぐれて死亡する確率大
魔道銃(火縄銃もどき)
・ランバート領製作
・両手で持って肩には当てず発射
・単発(銃口から発射薬と弾丸を込める方式)
・有効射程距離は20分の1キロム(50m)程度
・対人威力は頭と体の中心に当たれば死亡し、その他では食い込んで押し倒す力あり
「うーむ、こうやって表にして見ると、魔道銃は性能でかなり劣るんだな。それに比べて魔長銃の性能は凄いな。」
「魔道銃の性能改善は今後の課題ですね。まず、今のランバート領の持つ技術と材料で作れる最良の物がこれです。私の構想の中では既に大幅な改良と構造の飛躍的進歩の案がありますが、今はまだ作るのは無理です。」
「この魔道銃はどうやって使うんだい?銃口から詰めるとは?」
俺はポケットから9mm弾を出して見せながら説明する。
「魔拳銃の弾薬はこの様に発射薬と弾頭がひとつにまとまっており、これを銃身の後ろから込めることで連射速度を上げています。しかし、この構造は今のランバート領では作ることは非常に困難で、たとえ作っても性能が安定しませんし、危険性すらあります。それならば今のランバート領の持てる技術で無理なく作れ、尚且つ他では真似のし辛い構造にした方が数を揃えられて有利になります。魔道銃は撃つ度に銃口から発射薬と弾丸を込める必要がある為発射速度はかなり遅くなりますが、具体的な製造方法を指示すれば製造そのものは難しくありません。1本1本は弾を込めるのに時間はかかりますが、数を揃えることでその欠点をカバーして使えば非常に強力な武器になります。」
これは日本の戦国時代に散々実証済みである。
織田信長を初め、戦国武将の火縄銃を使った戦術がいかに有効であったかは歴史が証明している。
まぁこの世界でそれを言う訳にはいかないのでどう説明したものか。
量産性についても種子島をあっというまに日本中の鍛冶屋がコピーしたことを考えると、習熟は要るが難易度そのものはそう高くはないと言えるな。
他領はこれを入手したらリバースエンジニアリングして複製しょうとするだろうが、具体的な製造方法の手順が分からなければ昔の日本人みたいにすぐに大量コピーすることは難しいだろう。
まぁ時間の問題でいずれコピーはされるだろうが、そこは発火魔石粉の供給を制御することで押さえ込む。
「まず、領都近くの練兵場の領兵200名にはこの魔道銃を装備させます。しかし、父上直下の20名の護衛にはこの魔長銃を装備させます。同時に魔拳銃も。これにより父上直下の武力を最大とし、魔道銃の性能不足を補います。その内魔道銃の性能が向上して来れば全員同じ装備にしようとは思います。私に依存せずに済みますし。」
「それは頼もしいね。ランバート領は魔の森が隣接しているし、東のサタナイト王国からも過去にちょっかいを出されたこともある。備えるに超したことはないね。王都まで距離があるんで援護なんて期待するだけ無駄だし。」
「これも父上からの書状でお聞きかもしれませんが、私が居る時に一度魔の森から上位魔獣のブラックタイガーが一匹、魔の森213番ゲートの魔力障壁を越えて農地に出て来たことがあります。通常なら甚大な被害になるところでしたが、私と護衛の魔法組の3人の合計4人で魔強銃という更に威力の強い銃で距離を空けて集中攻撃することで退治出来ました。」
「それ、気になってたんだよ。兄上の説明ではいまひとつ理解出来なかったんだ。」
「はい、これは王都には持って来ていないんですが、領都では魔法組の2人とハンスがこれを使える様にしています。こちらに同行しているデビッドも使えます。勿論私も。」
「兄上の説明では上位魔獣の頭が一瞬で吹き飛んだとか、領兵の損失がゼロだとか、夢物語の様なことを言っていたが。ランバート領で以前に上位魔獣が出た時の記録では数百人単位で領兵に損害が出て、物理結界で押さえ込んでウィンドエバキュレーターで窒息死させてやっと退治出来たとかだったな。」
「父上の説明は事実です。以前の時は領兵の武器は槍と魔法だけでしたのでどうしても接近しないと攻撃にならず、それが動きの速い上位魔獣相手だと被害を増す原因になっていた様ですね。弓もあった様ですが、上位魔獣相手では全く効果が無いということで。今回私たちは6分の1キロムほど離れた安全な位置から4人で魔強銃を一一斉に使い、上位魔獣に集中攻撃しました。ちょっと説明が難しいのですが、魔強銃の威力は単純計算で魔長銃の10倍に達します。魔拳銃だと30倍以上という強烈な威力で、有効射程距離も1キロムほどになります。」
「にわかには信じられないな。だが上位魔獣がこちらの損失無しで討伐出来たのは事実だ。その魔強銃というのは護衛や領兵には装備しないのかい?」
「はい、しません。護衛の魔法組の3人とハンスと私の合計5人だけです。理由は対人には強すぎて逆に数で攻められると不利になるからです。魔強銃は威力は強いのですが、5発づつしか連発出来ないですし、次弾装填も手動なので遅いのです。敵の一人を撃破出来てもその間に多数で攻められると負けてしまいます。これが魔長銃なら威力は対人で必要十分ながらかなり高速に連射出来ますので、多人数相手でも容易に制圧出来ます。そして、魔道銃は領兵の数で押し切る戦法で敵の射程外から圧倒します。」
「うん。完全ではないが理解した。色々難しいもんだな。」
叔父は何とか理解してくれた様で安心した。




