53◇魔石専門職
53◇魔石専門職
=============================
学園の魔石専門職は魔石全般のエキスパートである。
高等部を卒業し、見込みのある者は20歳で専門職に就ける。
市井の同様の職より扱いは良く、研究室も与えられる。
同じ研究テーマの場合はグループを組み、役割を分担して効率を上げていた。
その中でも更に優秀な者は王都魔術団に入れる道もある。
「やぁ、エドモンド。今ちょっといいかい。」
「どうした、ショーン。お前がここに来るなんて珍しいな。」
「いや、ちょっと今年の生徒が優秀でね。見て欲しいものがあるんだよ。」
ショーンはそう言い、魔石専門リーダーのエドモンドに説明する。
「ランバート符号表」を見せ、信号伝達の概念を実演して見せる。
最初は懐疑的だったエドモンドも実際に文字を変換して紙に書くとすぐに理解した。
「これをお前のところの生徒が?」
「そうだ。マーティン・ランバートという1年生だ。入学してまだ一週間だぜ。」
「それは凄い。その年頃の生徒はまだ遊びたい盛りだろうが、とんでもないのが居るんだな。」
二人は感心しつつも符号表に夢中になっていった。
昨日ショーンの自室でやった光る魔石を使った伝送実験もする。
いつの間にか魔石専門室の8人居る全員が集まっていた。
「よし、4人づつに分かれて光る魔石でやるぞ。」
ショーンは見ているだけにし、魔石専門の8人が4人づつに分かれて魔石で伝送し合う。
1時間も経つと全員がこの符号表の重要性に納得した。
だが、その内の一人が疑問を投げかける。
「確かにダンジョンの中の説明には便利ですが、それ以外に使い道ありますか?」
「いや、そのダンジョンの中からの情報こそ大事だろう。遭難者の現在位置が詳しく分かれば救助隊の到着が劇的に早くなる。それは一刻を争う傷ついた遭難者の命を救うことに他ならない。」
「そうですね。他に使い道はあると思いますが、今はまずダンジョン専用としても良いかと。」
「賛成だ。まず、普及させないと誰も使わない。用途を限定することで命に関わる問題の解決が早まるのは誰にとっても利点しかない。覚えるのを強制しても受け入れやすいだろう。」
確かにダンジョンに侵攻する冒険者の死亡率はかなり高い。
特にランクの低い者が不相応の階層に降りた場合、救助が無いと簡単に死ぬ。
逆に救助の合図さえあれば高ランクの救助隊の働きによって助かる可能性がかなり上がる。
それでも階層が分からなかったり、隠れた場所に居た場合は救助隊が発見出来ずに死ぬ場合が多々ある。
それがこの符号表を強制してでも全員に覚えさせれば救助隊が間に合い、助かる率が格段に上がる。
これは初心者の死亡率の高さに毎年悩んでいる冒険者協会にとっては大いなる福音ではないのか。
全ては救えないにしろ、今まで死んでいた初心遭難者の半分でも救えたら冒険者協会の大きな利益になる。
死んでいたはずの初心者が将来高ランクになり、大いにダンジョン産物を持ち帰ってくれることになるのだ。
ショーンとエドモンドはそう話し合い、暫く研究して効果を確認しようということにした。
次の日、学園から帰ると王都城下の工房に依頼していたモールス打鍵器が届いていた。
夕食後、早速自室で開封してテーブルに並べる。
綺麗に塗装された箱の上に打鍵キーがあり、箱の手前の窓の中には光る魔石の発光面が見えた。
2つある内の片方を部屋の隅のテーブルに置いて発光面をこちらに向け、もう片方のキーを握った。
かつて友人と遊んだモールスごっこの様に打鍵していく。
勿論、こちらのランバート符号表でだ。
さすがにもう馴染んだ。
キーを押し下げて発光を断続させると、発光魔方陣の紙を持って光る魔石に触れさせるより格段に扱いが簡単だ。
力加減が不要で、離すのは板バネがやってくれるので押すことだけに集中出来る。
でも、これは固定局向けだな。
移動局であるダンジョン冒険者にはモービルタイプが要るか。
まぁそれは専門職の今後の課題としておこう。
光と音の変換もあるしな。
次の日の授業後、担任のショーンの個室を訪れた。
アポ無しで行ったが、ショーンは笑顔で迎え入れてくれた。
「これ、符号表の送る側に使いやすい様に工夫したものです。これは双方向に使える様にしているのでダンジョン探索には向きませんが、冒険者協会での訓練用にはぴったりだと思います。使ってみてくれませんでしょうか。」
俺はそう言い、昨日到着した打鍵器を見せた。
簡単に説明し、部屋の両隅に陣取って交互に符号を送り合う。
1時間もすると、ゆっくり会話するくらいになっていた。
ただ、やっぱり光りより音だな。
光はずっと見ていると目がぼやけてくる。
僅かでも目を瞑ったり逸らすと途端に会話が通じなくなる。
音ならそういうことが無いのだ。
「これくらいの訓練で十分に使えますね。」
「ああ、よっぽど物覚えの悪い者でない限りは使えるだろう。」
「そう言えばこれの名前が無かったですね。」
打鍵器ではちょっと味気ないな。
ランバート・キーとでもするか。
俺がそう言うと、ショーンは納得した。
「うん、名前もそれがいいと思うよ。これだけの物を考えついたのだから名前を付けて当然だね。」
その後、ショーンはランバート・キーを持ち、俺を連れて魔石専門棟に行った。
そこで魔石専門リーダーのエドモンドに紹介される。
「君が噂のマーティンかい?」
「噂、ですか?どういうことを言われているので?」
「いやいや、いい噂だよ。今年の1年に凄い奴が居るってね。」
「エドモンド、更に追加だ。これまたぶっ飛ぶぜ。」
ショーンがそう言い、ランバート・キーを2つ箱から出して見せる。
俺とショーンが部屋の両隅に陣取り、いきなり打鍵で会話をし始める。
交互にカタカタと音がしてそれが会話となっていることは説明されずともエドモンドにはすぐに分かった。
「昨日の今日でこれかい!確かにぶっ飛んだ。これならゆっくり会話しているのと何ら変わらないな。」
「そうなんだ。だがまだ完成形じゃない。これの光を音に変換してくれないか。」
「確かに。光ならちょっとでも目を逸らすと見逃すが、音なら目を瞑っていても分かるしな。」
「出来れば光って同時に音も出して欲しい。騒々しい中でもそれなら使えるだろ。」
「うむ。やってみよう。変換石というのが何種類かあって、確か光を音に変えるのがあったと思う。探すか作るかして、これに組み込んでみよう。」
やっぱりあるんだな。
さすがに専門家は違う。
俺が色々考えても無駄な気がしてきた。
だが、最初のアイデアは俺が出す必要があるな。
この世界の常識では出て来ない色々な役に立つ物を色々作ろう。




