50◇可変長符号化
50◇可変長符号化
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城下町から叔父宅に戻り、夕食を食べた後に自室に篭もる。
さんざん写してきたインスタントカメラのフィルムを見ながら細部まで読み解く。
光る魔石の記述がある書籍には2つに割って合図として使う使い方がかなり詳しく書いてあった。
曰く、一方方向だけの合図で良い場合は3対1くらいの比率で割り、合図する方に3を使う。
お互いに合図したい場合は1対1で割る。
いずれも割った面は一切触れないこと。
少しでも削ったり磨いたりすると合図の伝達距離が低下する。
また、割るときに割った面の欠片が出ない様にするのが良い割り方で、複数に割れると合図の距離が短くなる、など。
知りたかった情報がだいたい網羅されていた。
だが、光る魔石に関しては「合図」以外の使い方は書いてなかった。
本当に無いんだろうか?
俺が思いつくくらいだから、この世界でもデジタル?通信に使おうと思った者がいてもおかしくは無いと思うんだけどな。
まぁ到達距離が微妙だからということもあるか。
俺はそれ以上気にしないことにして、自分の興味を満たす為にあれこれ考える。
まず、到達距離の限界はなぜあるのか。
同期魔方陣を改良すればもっと遠くまで届くのではないか。
もしくは発光魔方陣に込める魔力をぎりぎりまで大きくすれば魔石の消耗と引き換えに距離が伸びるのではないか、など。
逆の方向で考えよう。
受信側の光る面は距離を離すと本当に全く光らなくなるのか。
真っ暗な部屋で見ると僅かに光るのではないか。
真っ暗な箱の中で光るのを増幅すれば実質到達距離が伸びたのと同じにならないか。
うーん、高感度フォトトランジスタとオペアンプがあれば簡単なんだけどなー。
ん?
まてよ、以前本で読んだイメージ系の魔法で光増幅ってのはなかったかな。
うろ覚えなんで今度また図書館に行こう。
学園でもこれくらいなら魔法教師のサリナに聞いてもいいな。
担任のショーンや叔父もある程度魔法に詳しいんでこっちも聞いてみよう。
一巡り考察をした俺は、早速大きな光る石を慎重に真ん中から割った。
自衛隊魔法のランク2装備に本格工具類がある。
その中にタガネと鉄ハンマーがあったので、あっさりと綺麗に二つに割れた。
同期魔方陣を描いてそれぞれ下に敷いて、1mほど離して発光魔方陣を触れる。
かなり眩しい光が出て俺は目を細めた。
だが、発光魔方陣を当てたままにしておくと、3秒くらいですぅっと消えた。
なるほど。
だから光るのにも関わらず、照明に使われていないんだな。
しかも3秒で消えた後に発光魔方陣を離してまたすぐ当てても暗くしか光らない。
5秒ほど休んでから当てると最初の明るさで光った。
まるでコンデンサだな。
発光魔方陣の方も長い木の棒の先に付けて光る魔石に触れて光らない。
手で摘まんで触れると光る。
木の棒の先に発光魔方陣と共に魔石を付けると光る。
以前、魔石を付けて光量が増したことと合わせて考えると、発光魔方陣は持った人の魔力を少し吸って光る魔石に移しているのだろうな。
光る魔石はその魔力をエネルギー源に同期魔方陣に働きかけて対になる光る魔石を励起する。
ならば適度な魔石を抱かせたら発光時間が長くならないか。
試すと正にそのとおりで、ステータスを見ながら魔力を10ほど込めた魔石を付けて触れさせると20秒ほど光った。
ただ、燃費は悪いので照明として使いにくいな。
割と高価だし。
どうりで照明専用の魔道具があるはずだ。
次に発光魔方陣の接触をどれくらいの頻度で受け付けるかだ。
bpsだな。
ビット、パー、セカンド。
これでモールス符号的に使う以上のことが出来るのかが分かる。
送る方はどれくらい早くても受け付けるかは、発光魔方陣の紙を丸く切り抜き、中央に軸を刺して独楽の様に回せる様にする。
その周囲をギザギザに切れ目を入れる。
指で摘まんで回しながら光る魔石にギザギザを触れさせてみると、かなりの高速で点滅している。
部屋の隅に置いたもう一つの光る魔石も同じ様に点滅する。
見た感じ、遅延やロストは無い様だ。
これならデジタル通信に使えるな。
さて、送る方は巻紙をパンチカードの様にして使えば何とかなりそうだ。
重りで一定速度で引っ張る様にすれば速度も安定する。
深い桶を作り、それに水を入れてその中に浮力を調整した重りを紐を付けて入れて沈めればゆっくり紐が引かれる。
その紐にパンチカードの様にパターン化した穴を開けておき、それに連動して緩いバネで押された発光魔方陣が光る魔石に触れる様にすればデジタル送信になる。
問題は受信側だな。
人間がモールス信号を直接聞いて文字に変換するのは可能だが、ここを無人化したい。
ならば記録デバイスが必要だ。
インスタントカメラのフィルムを使えば簡単なんだけどな。
暗箱を作り、その中で露出面を出したフィルムに光る魔石からの発光を細いスリットを通して当てる。
この時、フィルムの入った暗箱を先ほどの重りを付けてゆっくり引っ張れば一直線のデジタル受信記録になる。
だが、このフィルムはこの世界では使えない。
そうなるとそれに代わる働きをする物が要る。
イメージ系の魔法で自分のイメージを魔法触媒が塗られた紙に定着させるのがあったが、あれは人がやるものだ。
それを魔方陣と魔石を使って光を受けて動く道具として作れれば出来るかもしれない。
うん。
何とかなりそうだ。
そしたらその次だな。
光る魔石は遠距離で伝えるのには難がある。
よっぽど高性能な光る魔石でも10キロムがせいぜいだったな。
ならば5キロム置きに中継所を作るのはどうだ?
まずモールス信号的に使うとして、中継所に受信した内容を書き取り、それを次の中継所に送信する人材が要る。
王都とランバート領の間の500キロムだったら中継所は100箇所要るのか。
100人の中継要員を維持しないとならないので膨大な費用が要るな。
光る魔石の効率を考えると片方向伝達になるので、必然的に3対1で割って使うことになる。
そうなると双方向にするには各中継所に2セットと2人要るので、倍の200人が要ることになる。
また、途中のどこか1箇所でも人がサボったり間違えたりするとそこで通信は途絶する。
再送信するにしても2人の連携がまずいとまたもや途絶する。
ちょっと現実的ではないな。
それにそれだけの人数でやると絶対に情報が漏洩する。
文章を暗号化すれば良いが、無意味な文言の聞き取りは間違いだらけになりそうだしな。
だが、中継所を有人ではなく無人にすればどうだ。
インフラという面では維持費が激減するのでやる意味は出て来そうだ。
1組目の光る魔石の受信側の発光を受けて2組目の光る魔石の送信側に伝達する。
イメージ系魔法の光増幅?みたいなのがあれば出来るか。
いや、物理的に発光魔方陣を触れさせないと光らないのでそこにアクチュエータが要るな。
うーん。
モールスの場合は距離を稼ぐ為に電磁リレーを使って中継させていたので、魔法でそれをしないとならない。
待てよ、光る魔石の同期距離を上げるには送信側の出力を上げ、受信側の感度を上げれば良い訳だ。
今の光る魔石同士は無指向性アンテナみたいなもんだ。
石を中心に360度全ての方向に伝達する。
これに指向性を持たせれば良いのでは?
指向性と言えばパラボラアンテナだな。
放物面鏡を2組向き合わせ、各焦点に送信石と受信石を置く。
直径にもよるが、これで格段に距離が稼げそうだ。
これには同期魔法を反射する魔法か魔道具が必要だ。
光魔石を細かく砕いて砂状にし、放物面の内側に均一に塗布すれば出来ないかな?
逆に吸収しそうでもある。
これも調べてみよう。
試すのはちょっと難しいので後回しだな。
そして、最後に「符号化」だ。
今まで考えない様にしていたが、実験するにしても符号化は必要だ。
要は、「トン・ツー」をどうこの世界の文字に割り当てるかだ。
当然、モールス符号は使えない。
だが、似たようなルールで作れるだろう。
俺は紙にこの世界の文字を全部書き出した。
アルファベットに相当する文字、数字、よく使う記号。
全部で60文字で、大文字21文字、小文字21文字、数字10文字、記号8文字くらいだな。
モールス符号ではアルファベットは大文字だけだったので、こちらも大文字だけとする。
これで39文字まで減らせる。
英語の大文字26+数字10+記号20=56文字よりだいぶ少ないな。
これならうろ覚えの英語モールスを思い出しながら割り当てられるな。
俺は文字の出現頻度を考慮しながらこちらの文字に割り当てていった。
英文モールス符号は英数だけで記号を除外すれば最大5bitの可変長だ。
トン・ツーの組み合わせで最大5個で一文字に割り当てる。
少ない場合は1個になる場合もある。
制御コードは別に6個に固定にしておこう。
制御コードとは文字数字記号以外の意味を持たせたものだ。
例えば「通信開始」「通信終了」「再送信せよ」「訂正」「了解」など。
これ1個で上記の意味が伝わるので非常に効率が良くなる。
俺は何度も書き換えながら深夜になってやっとこの世界の「モールス符号」を作り上げた。
いや、「ランバート符号」だ。
サミュエル・モールスが作ったから「モールス符号」になったなら、やはりマーティン・ランバートが作ったら「ランバート符号」だな。
まぁ明日また見直して練習もしてみよう。




