5◇ステータス
5◇ステータス
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夕食を終え、入浴も済ませて後は寝るだけになったところで、娯楽デバイスの無いこの環境に打ちのめされそうになった。
まだ時間は寝るには早い。
前世ではスマホが当たり前にあったので、暇つぶしと言えば動画と電子書籍だった。
自室は魔道具の照明があるので、灯油ランプやろうそくの様な暗さはない。
だが、魔道ランプはそれなりに維持費がかかるので部屋全体が明るいという程でもない。
それでも天井に1個、机の上にスタンドとして1個あるので本を読むには十分だ。
しかし、自室にある本はとっくに読み尽くし、屋敷の図書室も子供向けの本は全部読んだ。
大人向けの本は閲覧許可が出ていないのでまだ読めない。
うーむ、こちらでも魔道具でスマホやタブレットみたいなのがあればいいな。
だけど原理を考えると魔法ではちょっと無理か。
魔道CPUなんて構造を考えただけでも恐ろしい。
だが、この世界の使える材料もちょっと調べてみたいな。
ファンタジー金属の代表ミスリルやアダマンタイト、オリハルコンやヒヒイロノカネなんか夢があるな。
それを使った高性能な魔道具にも興味があるし。
魔法も「はじめての魔法」に書かれている魔法は一通り出せる様になったが、繰り返しても威力が上がるわけでもなかったので早々に飽きてしまった。
本を読むのにも屋敷にある本は娯楽本が少ないので楽しめない。
「カルダナイト王国の歴史」や「ランバート領の主な産業」などを読んでも面白くはないしな。
小説や伝記、冒険譚などがあれば楽しめそうなんだけど。
セバスチャンに言って探してもらうか。
この屋敷には娯楽室という部屋があり、そこには何種類かのゲーム板の様な物が置かれてあった。
将棋やチェスに似たボードゲームに見えるが、大人向けということで触らせて貰えない。
カード系もトランプや花札もどきも娯楽室で見たことはある。
オセロは見たことがないが、似たゲームは市場にはあるだろう。
元日本人の俺としては何とかして日本の娯楽を持ち込みたい。
だが、電気が無いので昭和以前の娯楽になってしまう。
かるた、囲碁、コマ回し、メンコ、うーん俺の世代ではないな。
TRPGはやったことがないし、難しそうだ。
フィギュアなどを作るのもこちらの世界では専門の職人の分野で、貴族が自分でするものではないしな。
スマートボールくらいなら図面を書いて職人に投げれば出来るかな。
難しいのはスプリングくらいで、純粋にメカだし。
俺はセバスチャンを呼んで色々聞いてみる。
「私は娯楽になるものを知りたい。この屋敷にある物と、市場にある物の一覧を作ってくれないかな。」
「それはどういう物でしょう。娯楽と言っても色々な分野がありますが。」
「室内で楽しめて、一人でも複数人でも手軽に出来ればいいな。」
「分かりました。お屋敷にある物はすぐに一覧は出来ますが、市場にある物は少しお時間を頂けますでしょうか。」
「うん、分かった。急ぎはしないからゆっくり調べて。あと、娯楽になる本も少し欲しい。どんな本があるかのリストも作ってくれないだろうか。」
俺がそう言うとセバスチャンは了解し、軽く一礼して部屋を出て行こうとした。
「あ、待って。もうちょっと欲しい本があるんだ。」
そう言って、俺はファンタジー金属の特性とその利用法用、それを使った魔道具の情報が載った本も欲しいと伝えた。
さて、暇つぶしの準備はこれくらいにして、アイリスから聞いた「ステータス」を考察しよう。
そう言えば異世界ではおなじみの「アレ」を試してなかったな。
俺は自室に戻るとそう思い、「ステータス」とつぶやいた。
異世界でおなじみの状態表示コマンドだ。
ラノベやアニメでは口に出して言うと表示してたな。
しかし、何も起きない。
声の調子を変えたり、話すスピードを変えたりしても同じだった。
「やっぱりアイリスの言う様に、専用の魔道具が無いと分からないのかな。」
俺はそうつぶやきながら色々と姿勢を変えながら「ステータス」とつぶやき続けた。
ラノベなどでは色々な身振り手振りや表情、魔力のかけかたなどでステータスは表示されていた。
フィクションを信じる訳ではないが、この世界の魔法も俺にとってはフィクションもどきだ。
試してみる価値はあるかも。
30分くらい色々変顔やアクロバットな体勢をしながらステータスを出そうと頑張ってみた。
その結果、両目を寄り目にしながら鼻先を見つめ、5秒間保持後に「ステータス」とつぶやくと本当にステータス画面が出た。
何だこのパズルの様な仕様は。
ステータス画面は丁度VRゴーグルのメニューの様に、目の前の手を伸ばしたくらいの場所に50cm四方くらいの半透明の板が浮かぶ。
首を振ると、これまたVRゴーグルと同じ様に板は着いて来る。
「うーん、これぞ異世界。魔道具無しで見られるのはひょっとして転生者特典かな?」
俺は馬鹿みたいなことを考えながらステータス画面の内容を読む。
うん。なぜか日本語だ。
「ステータス表示」
「名前:マーティン・ランバート」,「年齢:12歳」,「性別:男」
「レベル:1」,「体力:80」,「魔力:290」,「精神力:340」
「攻撃力:60」,「防御力:70」,「素早さ:60」,「器用さ:120」,「賢さ:260」,「運の良さ:360」
「スキル:自衛隊魔法」
「スキル:粉砕魔法」
「うーん、RPGの定番みたいなメニューだな。ん?自衛隊魔法?」
俺は明らかに違和感のあるスキル名に気がついた。
おいおい、ここは異世界だぜ。
何で自衛隊が出てくる?
俺は混乱しながらスキル欄を注視すると、プルダウンメニューの様に「スキル:自衛隊魔法」の詳細が表示された。
「スキル:自衛隊魔法」
「転生者特典:元の世界の自衛隊装備を召喚出来るスキル。」
「召喚可能品:レベルに応じて強力な武器や装備を召喚可能。」
「ランク1武器:9mm拳銃、9mm実包100発、9mm拳銃用スペアマガジン、ガンベルト(ホルスター、ポーチ付き)」
「ランク1装備:レーション、飲料水、医薬品キット、簡易工具類、戦闘服上下、ブーツ、ヘルメット、テント」
「消費魔力:ランク1を一式召喚で魔力を600消費。」
出た!転生者特典!
やっぱり何者かの干渉でこの世界に転生した様だ。
スキル内容を読むと、これはこの世にあらざる兵器と装備と思う。
他人に知られるとやばいことになるかも。
だけど何かあった時のために一応試しておかなければな。
俺はそうつぶやくと、
「スキル、自衛隊魔法、ランク1武器、召喚」
と唱えるが、何も起きない。
色々試してみると、具体的にステータス画面に表示されている物品を指定しないと召喚出来ないらしい。
指をステータスの板に近づけたり離したりすると、一定の場所でヘルプが現れた。
操作としては、召喚前にステータス画面のスキル表示中の召喚可能品をタッチするとその欄が反転表示し、その後に「自衛隊魔法、ランク1召喚」と唱えるとタッチで指定された物品が淡い光と共に目の前の床に現れる様だ。
どこのハイテク自販機だよ。
俺はまずは無難なところでランク1装備の飲料水を召喚してみた。
召喚された物は500mlペットボトル入りの保存水だった。
キャップを開けて飲んでみる。
うん、普通の水だ。
但し、この世界では容易に入手出来ない清浄な水であり、容器だ。
無菌に近い水は傷洗い液にもなるし、容器は壊れなくて軽い水筒代わりにもなる。
これだけでも強力なアドバンテージになるが、見せる相手によっては危険だな。
ステータスを見ると、飲料水1本召喚で魔力消費は5だった。
魔力290が285になっている。
これなら俺の魔力だけで当分は水補給は可能だな。
水魔法でちょろちょろ出すよりよっぽど効率が良い。
俺はスキル欄にあるもう一つの「粉砕魔法」を試してみることにした。
「スキル:粉砕魔法」
「転生者特典:元の世界の産業廃棄物破砕機相当で物品を破砕可能なスキル。」
「ランク1粉砕:片手で持てる程度の体積、重量の物体を砂粒レベルに破砕可能。」
「消費魔力:ランク1を最大体積・重量で実行すると魔力を200消費。」
飲み干した飲料水のペットボトルを手の平の上に置き、「粉砕魔法、ランク1実行」と唱える。
何も起きない。
いや、これは安全処置だろう。
対象物を具体的に指定して実行しないと危険だ。
俺は「粉砕魔法」のスキル欄を注視するとステータス画面の下にターゲットウィンドウの様な枠が開いた。
頭を色々振ってみると、ターゲットウィンドウの中に入った物品がハイライトされる。
途中でヘルプが出て来たのでそれに従う。
ペットボトルを床に置き、ハイライトさせた後にタッチすると反転表示するので、その状態で「粉砕魔法、ランク1実行」と唱える。
うん。
今度は無事粉砕されて荒い砂粒くらいの粒子になった。
PET樹脂なので半透明の粒だな。
床の上でやったので絨毯の上に粒子がばら撒かれている。
俺は急いで手でかき集め、窓を開けて外にばら撒いた。
ステータスを見ると、魔力1だけ消費していた。
中身は飲んだのでその分消費が少ないのかな。
「これで自衛隊魔法でこの世に無いやばい物を召喚しても後で粉砕すれば証拠隠滅できるな。」
俺はそうつぶやきながら今後武器についてどう扱おうかと悩むのであった。




