48◇中央図書館
48◇中央図書館
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授業が始まって5日が経ち、王都に来て初めての週末の休息日となった。
こちらの一週間は8日で、6日働いて2日休むのが貴族の習慣となっている。
勿論、軍関係は24時間待機なので交代制となって休みの日は不定期となる。
軍以外でも守衛や門衛、貴族施設内の厨房や洗濯掃除なども交代制で決まった休みの日は無い。
また、庶民は週の休みなど関係なく働き、大手商人でやっと一週間に一日休むといったところだ。
「さぁてマーティン様ぁ!朝ですよー!ぉお?」
俺の部屋にアンナが威勢良く入って来る。
俺は休息日にやろうと思っていたことがあり、早めに目覚めていた。
それまでの平日は起こされるまで寝ていたので、アンナは出鼻を挫かれた様に立ち止まる。
「やぁ、おはよう。今日もいい天気だね。そして君はいつも元気だね。」
俺は前世で見たラノベの定番の挨拶をしてみる。
やっぱり俺には似合わないな。
何故かアンナのそばかすが少しある頬に僅かに赤みが差す。
「なななに言ってるんですかマーティン様、寝ぼけてるんですか!」
おいおい、もう19歳だろ。
13歳のガキにからかわれて赤くなるなんてウブ過ぎるだろ。
王子様ならまだしも、こんなモブ顔の次男だぜ。
俺は面白くなって明日も別なラノベ定番をやってみようと思った。
アンナに着替えを手伝って貰い、寝間着から外出用の服に着替える。
今日は王都の中央図書館に行くのだ。
朝食を叔父カイルと叔母エメリー、その娘のオリビアと一緒に摂る。
オリビアはまだ8歳なので少し人見知りをしている様で、俺とは簡単な受け答えしかしてくれていない。
まぁ俺の妹のシンディーも今11歳で、その反応を見ているのでそんなものかと思う。
「叔父上、今日は中央図書館に行こうと思いますが、私でも高度な魔法の書籍を読める様な紹介文を書いて頂けないでしょうか。」
「それはどういう範囲だい?魔法と言っても様々な種類があるし。」
「調査系の魔法について調べたいと思いまして。あと認識系、表示系、判断系などの情報に関わる魔法ですね。出来るだけ高度なことが書いてある書籍を見たいです。」
「うむ、この後すぐに書こう。」
叔父はそう言って、朝食後に紹介文を書いて持たせてくれた。
13歳の王都学園に入学したばかりの生徒が希望するのだ。
普通に言っただけでは初心者向けの書架に案内されて放置されるしな。
外出する時は護衛の2人を必ず付ける様に父親から言われている。
ちょっと過保護過ぎるかと思うが、ランバート領の今後の不安点をなるべく減らしたいのだろう。
護衛の2人は帯剣しているが、上着の下の左脇にはショルダーホルスター入りの9mm拳銃も装備している。
叔父にも話したように、装填済みのマガジンは銃本体に装着していない。
マガジンは左右のポケットに1個づつ入れて銃とは分離している。
やはり感づかれた場合に撃てる状態にあると色々マズいと思うのでこうしている。
弾さえ無ければ殴打用の鋼鉄製の棍棒と言っても何とか通じるしな。
俺自身は9mm拳銃は装備していない。
さすがに13歳の体格では脇下の膨らみが目立つので、身長に合わせたショートソードだけを帯剣している。
俺は護衛のデビッドとザンドを伴い、中央図書館に馬車で行く。
俺専用の軽量馬車で、居室内の床の扉下には89式3丁と俺用の9mm拳銃が弾薬と共に格納されている。
御者はザンドがして、その間に魔法組のデビッドと車内で打ち合わせをする。
「デビッド、今日は中央図書館で魔法に関する情報を集めたい。目的はステータス魔法だけど、周囲にそれを悟れたくない。そこで叔父上に紹介状を書いて貰った。」
「なるほど、説明する手間が省けますな。」
「色々と秘密にしたいことが多すぎて面倒だけど、バレた時のことを思ったら気は抜けないしね。図書館にはデビッドも一緒に入って、中で探すのを手伝ってね。」
「はい、最初からそのつもりです。ザンド班長は馬車に残って床下の武装のお守りをするそうです。」
「あればっかしは盗まれるとやっかいだしね。今度叔父上の屋敷の地下に武器の保管庫を作って貰うから、魔長銃はそこに入れておこう。」
「そうですね。さすがに王都なのでこの脇下の分だけで十分と思います。剣もありますし。」
デビッドは左脇下に吊ったショルダーホルスターを撫でながら言った。
どうやらデビッドは9mm拳銃に愛着がある様で、暇があったら抜き撃ちの練習をしているらしい。
俺は見てはいないが、頬ずりしていたとかいないとか。
叔父の屋敷から馬車で東に30分ほど走ると王宮のある王都中心に着く。
中央図書館はその近くにあるので馬車をそこに進める。
図書館の入り口の横には馬車の駐車スペースがあり、門衛に申請して駐めるらしい。
御者席のザンドが利用料金を払って札の様な物を貰っていた。
札に書かれた番号の枠に馬車を駐め、ザンドを残してデビッドと降りる。
ザンドには馬車からあまり離れなければある程度は自由にしても良いと言ってある。
まぁ真面目なザンドのことだから買い食いなんかはしないと思うが。
俺はデビットを護衛という形で引き連れて図書館に入る。
入り口で利用料を払い、当日有効の入館証を受け取る。
貴族の場合は貴族の人数分だけ払い、護衛やメイドなどは料金不要だ。
その代わり貴族一人当たり1000シエク(1万円相当)とかなり高い。
ただ、平民に比べて司書からの扱いが非常に丁寧になるのはメリットだな。
俺は図書館の中に入り、突き当たりにあるカウンターの様な受付で叔父の紹介文を見せる。
受付の担当者は内容を読み、すぐ後ろの部屋に入って行った。
暫くすると20代半ばくらいの女性司書を伴って来て紹介された。
「いらっしゃいませ。私は司書のジュリアと申します。マーティン・ランバート様のお手伝いをさせていただきます。」
「マーティン・ランバートだ。よろしく頼む。そこに書かれている種類の書架に案内してくれるかな。」
「はい、早速ですが、この種類の書籍にどの様なご興味があるのでしょうか。」
「情報を扱える魔法を知りたいんだ。色々考えてることがあって、ここでは言えないんだけど。」
「分かりました。詳しくはお聞きしません。ではご案内します。」
そう言って、ジュリアは俺とデビッドを伴いながら図書館の中を進んだ。
階段を二つ上がって3階に着き、奥の方の書架に案内された。
書架の案内が書かれた案内図を渡され、現在位置はここだと示される。
「ありがとう。暫く自分で自由に見たいから今はもういいよ。」
「では、何かお手伝いすることが出来ましたらお声がけください。」
俺はそう言ってジュリアを追い払った。
下手に手伝われてこちらの意図を知られたくない。
デビッドに声をかけて書架の端から端まで見ていく。
気になった本は目印にその場で少し抜き出しておく。
デビッドも同じ様に抜き出しているが、俺とは少し傾向が違う。
暫くしてその中から特に気になるタイトルの10冊を取って、書架の端にある閲覧机に置く。
俺とデビッドは手分けして内容を読んで気になる箇所には予め作っておいた付箋を挟む。
調査系、認識系、表示系、判断系と大雑把に分類し、教会での神像がステータス表示をする為に必要と思われる魔法を書き出していく。
同時に魔道具ではなく、純粋な魔法でのステータス表示も探す。
朝から始めて3時間ほど経ち、昼になった。
ある程度の傾向は分かったが、肝心の魔方陣や実行する時の呪文が書かれた書籍は無かった。
やはり教会勢に秘匿されている様だ。
俺は一旦図書館を出て、デビッドとザンドを伴って町中のレストランに行く。
庶民向けの中では割と上等な雰囲気の店だったので客層も静かだった。
二人にも好きな物を食べるように言い、俺はあえて昼定食を頼む。
まぁ護衛の二人も同じ物にしていたが。
食後に紅茶とデザートを3人分頼み、まったりとする。
ザンドにも今やっていることを大雑把に説明する。
ある程度の情報共有はしといた方がお互いにやりやすい。
昼からは再び図書館に戻り、入館証を見せてデビッドと再び先ほどの書架に行く。
閲覧机は司書に言って書籍を出したままにしていたので午前中の続きをする。
ステータス系以外にも利用出来そうな魔法があったのでそれを書き写す。
なんと、離れた2点間の光る魔石を同期させる魔法があった。
魔石の大きさにもよるが、10キロム離れていても同期動作するらしい。
一つの光る魔石を中央で割り、それを対とする。
その組み合わせ以外には反応しないので、複数の組み合わせで同時に使える。
そういう使い方なので盗聴も無理そうだ。
具体的には同期魔方陣の上に載せた光る魔石に対して別な発光魔方陣を書いた紙を触れさせるというものだ。
発光魔方陣が触れている間、光る魔石が双方で光る。
発光魔方陣を離すと双方とも消える。
これはダンジョンや洞窟などの探検時に、奥で救助が必要になった時に使うものらしい。
「これって、モールス信号的に使えばデータ通信に使えるな。」
「もーるす、ですか?でーたとは?」
俺がつぶやいた独り言にデビッドが反応する。
やはり気になるのだろう。
「いや、その単語は特に意味は無いんだ。昔の人名とでも思ってくれ。で、この一対の光る魔石の組み合わせだけど、本当にダンジョンなどからの救助要請くらいにしか使われていないのかな。」
「そうですね、他にはお屋敷の玄関と執事の部屋を繋いで呼び鈴代わりにするとか、戦場で攻撃を同時にする場合の合図などにも使いますが、そういう何かの合図程度にしか使い道は無い様ですね。」
勿体無い。
これ、どれくらい高速で光の明滅が出来るのか分からないけど、並列に同時動作させることでも速度は上げられるな。
そう、無線データ通信だ。
モールス符号的な文字数字との対比表を作っておき、それを光の明滅で向こうに伝え、それを見て紙に書き取る。
データ処理の魔方陣を組んで、文字と符号の自動変換をさせれば電報と同じシステムになる。
双方でドラムを同期して回して、送り側のドラム上の模様の有る無しをイメージ系の魔法で読んで光る魔石の発光トリガとし、受け側のドラム上の用紙に光る魔石の明滅状態をイメージ系の魔法で増幅して焼き付ければ原始的なファックスの出来上がりだ。
空想は膨らむが、まぁその前に手動でモールス信号的に使うだけでも大進歩なんだけどな。
光る魔石間の同期は双方向なので、お互いに交互に送信する半二重通信になる。
今まで誰もこれに気がついていないのが信じられないな。
とりあえず今日の収穫として魔方陣を書き写し、城下の市場で光る魔石を買っておこう。




