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4◇家庭教師

4◇家庭教師

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ショボいと思った魔法だが、繰り返し使っていると少し疲れてきた。

こんなんでも魔力を消耗するのだろう。


そうこうしているうちに10時になった様で、セバスチャンが呼びに来た。


「マーティン様、家庭教師のアイリスが来ましたのでご案内します。」


「うん。わかった。」


俺はそう言って、「はじめての魔法」を抱えたままセバスチャンの後を追って部屋から出た。


しばらく歩いて扉の上に小さく「談話室」と書かれた部屋の前に来た。


「こちらです。お入りください。」


セバスチャンの手引きで部屋に入ると二十歳後半くらいに見える女性が立っていた。


「マーティン様、こちらが家庭教師となるアイリスです。」


「アイリスと申します。マーティン様の学習のお手伝いをさせていただきます。」


アイリスが自己紹介したので俺もする。


「マーティンです。ちょっと記憶が怪しいのでお手柔らかにお願いします。」


「はい。分からないことはご遠慮なくお尋ねくださいね。」


アイリスはにっこり笑って答えた。


「では、私はこれで。何かありましたらお声をかけてくださいませ。」


セバスチャンはそう言って部屋から出て行った。

部屋にはメイドが一人残っており、部屋の隅で紅茶を入れて俺とアイリスに出してくれた。


「さて、まずは座ってください。私のことは幼児とでも思ってご遠慮なく教えてください。」


「まずは私の自己紹介からさせていただきますね。私は先ほどのセバスチャンの姪にあたります。縁あって、ランバート領の領内管理部で税収管理のお手伝いをさせて貰っています。今回マーティン様の学習のお手伝いをさせていただくということで叔父のセバスチャンから指示がありました。」


「そうなんですね。私の事はご存じだと思いますが確認を。今の私の状態は、先日馬車の事故で怪我をした時に一時昏睡したことが原因だと思いますが、記憶にかなりの欠落が出ています。会話は出来ますが、日常会話以外の記憶がごっそりと抜け落ちているみたいなのです。」


「それは聞き及んでおります。でしたら、まずこのランバート領の事から始めましょうか。」


アイリスはそう言ってA4くらいの紙にペンで書きながらランバート領のいろはを語りだした。

最初に母親から聞いた内容とだいたい同じだな。

まず魔法から聞きたかったが、今は我慢だ。


・ランバート家は5代前に隣国との戦争の武勲により、子爵から伯爵に昇爵した。

・その時に現在のランバート領を王より拝領した。(その前は王都に近い場所の小さな領主だった)

・現領主はジョージ・ランバート、前領主のジャクソン・ランバートは5年前に鬼籍に入った。(夫人は早逝)

・ジョージ・ランバートには弟が居り、王都で官僚をしている。(カイル・ランバート)

・ランバート領はカルダナイト王国の南東部の海岸を含む領土になる。

・ランバート領は東を魔の森に、西を隣のザルツ子爵領に、南を海に、北をローバー伯爵領に接している。

・ランバート領の人口は全部で約3万人居る。

・ランバート領の私兵は全部で約千人で、その内20人は領主護衛専門としてこの屋敷内の別棟に常駐している。

・北側のローバー伯爵領のさらにその北には王都直轄領が接し、その中央に王都がある。

・東側の魔の森の先は隣国であるサタナイト王国の領地となる。

・王都からの距離は馬車で一週間。

・王都学園は王国内の貴族なら12歳になったら次の1月の終わりに入学する義務がある。

・王都学園の初等部は3年で学習義務は終わり、15歳となるので就職が可能となる。冒険者になれるのもこの年齢から。

・初等部卒業者の中で、望む者は進級試験に合格すれば中等部の3年の授業を受けることが出来る。

・中等部を卒業した者は、大半は就職や自領の仕事に戻るが、さらに望めば進級試験の上、高等部に進学出来る。

・高等部は学習というよりは研究を主とする。指導者より課題を出され、分野毎に理論と実践を追求する。

・ランバート領の主な産業は農業と漁業と林業だが、収益としては魔物狩りと魔の森の鉱物資源からが大きい。

 (農魚林業と魔関係業で50:50の割合)

・東側の魔の森とランバート領は境界を複数の結界魔道具で隔離しており、一定の間隔で設けられたゲートで許可を得ないと入れない。

・魔の森のこちら側の資源はランバート領が独占しているが、魔の森の反対側は東側隣国のサタナイト王国に接しているので関与していない。

・魔の森の中に国境は無いが、今まで踏破した者が居ないので実質それが国境代わりとなっている。


「ここまでの内容でよいでしょうか。何か質問があればおっしゃってください。」


「はい、分かりました。ランバート領はそうなっているんですね。魔の森の中はどれくらいの広さなんでしょう?それと、魔の森の中に生息する魔物とはどの様なものなのでしょう?」


「魔の森は東側隣国のサタナイト王国とランバート領の間に南北に横たわっています。幅は約50キロム、長さは約200キロムあります。」


キロムというのは距離の単位らしく、日の出から太陽が天頂になるまでの間にだいたい30キロム歩けるという。

その間を6時間とし、歩く速さを5km/hと仮定すると、1キロムは地球の1kmとほぼ同じくらいになるな。

これは分かりやすい。


「先生、魔の森は平地なのですか?」


「いえ、幅50キロムの中程に山脈があり、標高1000キロム前後の峰が連なっています。これを境に、東西で魔物の分布が異なる様です。」


「なるほど。では東西の魔物の種類を教えてもらえますか。」


「はい。まず東西共通の魔物は比較的弱い「グレイウルフ」、「レッサーベアー」、「キラーバード」の3種類です。これらの魔物はベテランの領都兵士が剣か槍を使って1対1で何とか倒せるレベルです。その他に東西それぞれの固有のもっと強い魔獣がいますが、山脈の中腹あたりが縄張りですのであまり裾野には降りて来ない様です。」


「それらの魔物は資源になるのですか?」


「はい、いずれも魔物特有の強度のある毛皮や牙、骨や羽が資源となるので、領内の冒険者が定期的にグループで討伐に行っています。肉も一応食べられますがあまりおいしくなく、平民用の食材としての需要しかないのであまり換金はされない様です。」


「冒険者!それについて詳しく教えて!」


俺の食いつきに驚くアイリスだが、異世界ラノベ好きとしては冒険者は外せない。

アイリスは別な紙にペンで書きながら教えてくれた。


「まず、領都には冒険者協会の支部があります。本部は王都にあり、各領都に支部がある大きな組織です。これらの支部には機能として以下のものがあります。」

・冒険者登録と抹消

・冒険者ランク管理

・冒険者用仕事受注

・冒険者仕事依頼

・冒険者獲物買い取り

・冒険者用資料図書館

・冒険者寮、冒険者食堂維持


「冒険者にはランクという制度があり、討伐結果や依頼達成度合いによってランクアップします。仕事依頼もランクで管理されており、冒険者のランクに応じた危険度の討伐対象を紹介します。」

・冒険者ランク

 木→石→銅→鉄→銀→金→ミスリル→アダマンタイト→オリハルコン(各級)

 上記ランクを上げるには冒険者協会の認定試験受験、または討伐達成結果が必要とのこと。


「だいたい分かったけど、ランバート領には何人くらいの冒険者が居るの?」

この頃には既に俺の口調はくだけたものになっていたが、興奮する俺はそれに気付かなかった。


「ランバート領内の冒険者数はだいたい2千人くらいですね。領都の支部の下部組織として、各村落単位に出張所があります。」


「それ、参加してみたい!」


「だめですよ。成人していない貴族は冒険者関係に関わることが一切出来ないのです。まず、記憶を学園に登校しても差し支えない程度まで回復させてからですね。そして、学園を卒業したら成人と見做されるので、冒険者はそれからです。」


「分かりました。貴族でも成人したら冒険者になる人もいるんですね。その場合、どういう風に魔の森に入って利益を上げるんでしょうか。」


「貴族で冒険者になる人は貴族家の次男か三男以降の男性が多いですね。実家に頼らず生活の糧を得るのが美徳とされているので、冒険者は長男以外の貴族にとって手っ取り早くお金になる職業です。但し、危険性もそれなりにあるので、ランクに応じた依頼を受けることが長く続けるこつみたいです。それでも貴族は実家から魔道具を借りることが出来ますので、それを使って自分のランク以上の魔物を効率よく狩って現金化するという人が多いですね。」


うーん、冒険者と聞いて気分が高揚したが、まずは学園を卒業してからだな。

俺はランバート領と冒険者関係についての話は一旦置いてもらい、気になっていた魔法について質問した。


「先生、記憶には無いのですが、以前私は簡単な魔法を使っていたらしいのです。それで自室にあった魔法書を読んでみたところ、ある程度使える様になっていました。それを確認してもらえないでしょうか。」


俺はそう言って、自室から持ってきた「はじめての魔法」をアイリスに渡す。


「あら、なつかしいですね。私も小さい頃は愛読していました。ただ、私が12歳の頃はまだ魔力が少なかったので、本当に基本的な魔法を2本しか使えませんでしたが。」


アイリスはそう言うと、本をめくりながら少し考えていた。


「では、こうしましょう。「はじめての魔法」の目次を見ながら、私が指し示す魔法を使ってみてください。」


「はい!先生。」


俺は目次欄の広げられた「はじめての魔法」を見ながら、アイリスが魔法の項目を指で指し示すと小さくつぶやいた。


「ファイア」

指先に小さくオレンジ色の炎がゆらめく。


「ウォーター」

飲み干したティーカップに向かってスプーン数杯分くらいの水が出る。


「アース」

角砂糖が少し変形する。


「ウィンド」

手の平から風が出てアイリスが書いていた紙がそよぐ。


「ライトニング」

人差し指と中指の爪の間に1cmくらいの火花が数回出る。


次々と指し示される魔法の目次を一通り出し終えると、アイリスは目を丸くして驚いていた。


「驚きました。12歳でこれだけの魔法が出せるなんて。しかも記憶も不確かということですのに。」


「そうなんですよ。私自身も不思議です。母が言うには私は魔術治療師のハンスと仲が良く、彼にちょくちょく指導して貰っていた様なので、それが容易に魔法が出せる下地になっているのかもと思います。」


俺は今日の朝食後に自室で一通りの魔法を使えていたこともアイリスに伝え、ハンスとの師弟関係も話した。


「そういうことでしたか。ハンスは私の幼なじみなのでよく知っています。彼からの指導があったのならこれくらいは出来て当然なのかもしれませんね。」


ハンスはどうやらアイリスの幼なじみで王都学園の同級生だったらしい。

彼も魔法が得意だったみたいだが、同級生の大けがを治療出来なかったのが悔しくてそれを原動力に勉学に励み、高等部に進学して治療魔法を中心に高度な魔法を習得したとのことだ。

ハンスがランバート領の専属魔術治療師をしているのは王都での生活があまり合わず、生まれ故郷での就職を希望していた為らしい。

担当指導者が叔父のカイルと知り合いで、その伝手で今の立場を得たとのことだった。

参考までに、アイリスもハンスも騎士爵家の子供らしい。

一応貴族だが領地を持たず、伯爵以上の貴族家の領内に文官や武官として所属している者が多いそうだ。



その後、アイリスは貴族階級で言われる魔法の名称と、庶民で俗称として言われる魔法名の対比も教えてくれた。

それぞれの階級での言い回しは厳密に分けられているのではないが、違う階級同士の会話をスムーズにするためには覚えておく方が良いとも言われた。

アイリスに先ほど発動した範囲の対比を紙に書いてもらい、その他の魔法を覚えたらその都度追加しますねと言われた。


「ファイア」→「火魔法」

「ウォーター」→「水魔法」

「アース」→「土魔法」

「ウィンド」→「風魔法」

「ライトニング」→「雷魔法」


日本語で書くと上記の様な感じだな。

元の世界の英語カタカナ表記と日本語漢字表記みたいなもんか。

同じ意味だけど日本人ならどちらで言われても理解出来る様なものだな。



続けてアイリスの授業は魔法の管理についての内容に移った。


「魔法は大昔に自然発生的に発展してきました。生活の中で便利になったり、敵を打ち倒したり、生き残るのに必要だったりと、色々な魔法が生み出されました。」


「魔法の種類はどれくらいあるのですか?」


「同じ魔法でも発展した経緯によって違う名前が付けられることがあります。約5百年前に、当時の王都学園の魔法部門の研究グループがそれらを調べ、体系立てて整理して本にまとめました。それを基に「はじめての魔法」も書かれています。魔法の種類は研究部門ベースでは膨大な数がありますが、一般によく使われるのは20種類くらいですね。」


「そうなんですね。研究グループのその本に書いてある内容は貴族階級の魔法名と思いますが、庶民版の本もあるのですか?」


「あります。冒険者協会の図書室にはそちらの版が蔵書されていますね。ただ、庶民版はあまり高度な魔法は書かれていません。冒険者教会の本部の意向で、庶民向けの魔法はレベルが制限されています。」


「やはり犯罪や攻撃に使われるのを心配してのことですか?」


「そうですね。それが一番大きいですが、高度な魔法はそれなりに努力と才能と教育が必要ですので、庶民には望んでも手には入らないというのもあります。それならば、最初から情報を制限するという意味もありますね。」


なるほど。

教育に多大な手間暇がかかるから庶民には最初から知らない方が幸せなんだな。

高望みをしない様にすれば不平不満も発生しないと。


「魔法とは別になりますが、この世界にはステータスというものがあります。」


「ステータス!」


俺は思わず叫んだ。

この世界に来て初めて聞いた単語だ。

勿論、元の世界ではラノベでお馴染みのパワーワードだ。


「ステータスはそれぞれの個人で確認するものです。貴族は12歳で王都学園に入学時、園内の教会でまずステータスを確認します。」


「それまではステータスは確認出来ないのですか?」


「教会の方針で、12歳より前にステータスを見るのは禁止されています。貴族以外もお金を払えば教会でステータスを確認出来ますが、必ず年齢確認があるそうです。理由は不明ですが、過去に何らかの争い事があったのかもしれません。」


「なるほど。」


「さて、教会の神殿には神の像があり、その前で司祭の祝福を受けながら自分の名前と年齢を言うと目の前に表示されます。ステータスは本人にしか見えないので、自分で持参した紙に書き写して持ち帰ります。」


「神のお告げという訳ですか?」


「教会はそう言ってますが、実際には神の像が魔道具になっています。司祭の祝福はその魔道具を起動する為のキーワードであり、受ける本人が言う名前と年齢は魔道具にその個人を認識させる為の接続キーワードです。」


「なんでそんなに詳しいんですか?」


俺は思わず突っ込みを入れた。

アイリスは、あっヤバっという様な表情を浮かべ、


「こ、これは内緒ですよ!マーティン様が優秀なので思わず言ってしまいましたが、これは世間一般には知られていない教会の秘密です。私は王都学園在学時に選択科目で魔法を専攻しており、たまたま専門書に神の像の記述があったので知っているだけです。自分で神の像を扱える訳ではありませんよ。」


アイリスは大慌てで言い訳を始めた。

まぁそんなことだろうとは思ったが、それ以上追及はしない様にしよう。


「分かりました。神の像は司祭のお願いを聞いて神に上申し、神託であるステータスをそれを願う人に示すのですね。」


「そうです、そうです!そのとおりです!」


アイリスは安堵して息を吐いた。

なるほど、神像は神の形をした魔道具で対象の人をスキャンし、DNA的魔法情報を読みだして仮想空間投影するコンピュータか。

司祭はそのオペレータで、教会は非破壊検査機関か。


魔道具も元は魔法を誰にでも使える様にする便利道具だ、

ならば、同じ魔法を魔道具無しで使うことも可能かもしれない。

俺はちょっとわくわくしてきた。


それからはちょっと慌てたアイリスの指示で、各魔法の反復練習と魔法強度の制御の練習でその日の学習は終わった。


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