38◇手持ち魔道銃
38◇手持ち魔道銃
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河原での据え置き型試作魔道銃の試射を終えた俺は早速父親に報告する。
俺が王都学園に入学するまにあまり時間が無い。
一刻も早く進めてハンスと魔法組に丸投げする必要がある。
「父上、お話しが。」
父親は午前中にガーソンが来て射場であれこれしていたのを知っているので、期待のこもった目で促す。
「据え置き型試作魔道銃を練兵場の向こうの河原に持ち出して威力と命中精度の確認をしてきました。距離は射場の5倍で撃って、射場の的に半分くらいは当たります。威力は的を貫通し、後ろの土板に私の指3本分の幅くらい食い込みます。」
「それは武器として威力はあるのか?」
「まだ十分とは言えないと思いますが、アースバレットよりはかなり威力はあるかと。ただ、これ以上発火魔石粉の威力を増すと銃が爆発する危険性があります。これはガーソンの作る銃の耐久性との兼ね合いなので今後の課題となります。」
俺は手持ち魔道銃の図面を取り出し、テーブルに置いた。
「今回作った試作魔道銃はあくまでも実験用で、必要以上に頑丈に重く作ってあります。大人が二人がかりでやっと持ち上がるくらいなので到底持ち歩ける様な物ではありません。今後武器として使える様に、大人が一人で持ち歩きと全操作が出来る様な銃の試作をしたいと思います。」
俺は火縄銃そっくりな外観の手持ち魔道銃の図面を見せ、各部に書いた部品名を説明する。
「この様に、今回使った試作魔道銃とは作り方を変え、軽量化と使い勝手を上げた物として5丁ほど試作し、私とハンスと魔法組の3人で実際に魔の森に入って威力を確かめたいと思います。」
これこそが俺の狙い目だ。
魔の森なら遠慮無くバンバン撃てる。
ウィンドエバキュレーター無しで耳栓だけして撃てるので、一般護衛や領兵でも使えるしな。
まぁ発射音で魔獣が来るか逃げるかはまだ分からないが。
そして、こちらのテクノロジーだけで作っているので他領や王家に露見しても問題無い。
むしろ当領の特産物として権利を確保した上で売り出してもいいくらいだ。
発火魔石もウチの特産物らしいし。
「うむ。お前の出す銃は非常に強力で魅力はあるが、お前に全面的に依存しているのは非常に危険なのは分かっている。お前もそれを理解した上でこの様にお前抜きでも我が領の為に出来ることをしてくれているのだから、私もそれに応えよう。今後マークを魔道銃の開発総責任者とし、ハンスを技術専任担当としよう。今後治療に影響が出そうだと判断したら魔術治療師を王都から招聘して補充することも考えよう。」
俺は少し驚いた。
こういう風に持って行ければいいなと思ったことがいきなり実現した。
そうなんだよ、これなんだよ、俺のしたかったことは。
「願ってもないことです。まさに私が思い描いていたことそのままです。私はあと何ヶ月かしたら王都学園にいくことになりますので、それまでに彼らが自分で動いて改良出来る様にしたいと思います。」
父親も深く頷き、今後の進行を紙に書き出した。
・手持ち魔道銃を当領の特産物とする。
・魔道銃全般の開発元として製造権の独占を出来る様に王都で申請する。
・発火魔石も当領の特産物として独占し、魔の森からの採掘を効率化する。
・他国に持ち出された場合は権利が及ばないが、魔道銃を作られても発火魔石の供給を制限することで普及を妨げられる。
うん、これなら王都の官僚や他領の貴族連中も納得はしないだろうが妥協はするだろう。
妥当な価格で手持ち魔道銃が使えれば国全体の兵力が向上し、周辺国からの侵攻を受けても跳ね返せるし。
ただ、国の上層部が暴走して魔道銃を使って他国に侵攻しない様にしないとならないが。
これは発火魔石の採掘量をかなり制限することで攻め込む戦争に使える程の備蓄量を持たせないことで何とかなるかな?
これは父親と叔父の政治力で何とかしてもらおう。
手持ち魔道銃の販売先も当分は国軍、各領兵、護衛部隊に限定し、冒険者を含む民間には販売禁止にしよう。
短筒なんか作られたら荒野の決闘なんかしでかしそうだしな。
強盗、山賊、犯罪組織に渡っても非常に危険だ。
西部開拓時代のアメリカみたいに無法者が強力な武器で武装して闊歩しない様にしないとな。
そして、万が一にもの事を想定し、護衛部隊全員と領兵の一部を近代化しておこう。
具体的には89式の限定装備だな。
護衛部隊員には全員に行き渡る様に89式を装備させ、十分な訓練をさせる。
また、最終的には一人当たり1000発の5.56mm弾の備蓄をさせる。
領兵の中からは忠誠心と射撃センスのある者を30人選抜し、周囲の領兵から一階級上げて89式の射撃要員とする。
89式と弾薬の管理は護衛隊と領兵でそれぞれ行う。
領兵用の89式には一人当たり200発の5.56mm弾を備蓄させる。
領兵の備蓄弾薬数が少ないのは、万が一領兵に反乱された場合の護衛部隊での制圧のし易さだ。
備蓄弾数に5倍もの差があれば撃ち負けることはまずあるまい。
護衛部隊の方が訓練量も多くするので命中率も高いだろうし。
上記想定で魔力80100かぁ...
今の魔力は1640なのでその中から無理なく使える魔力を1200とし、毎日召喚するとして67日だ。
それに加えて訓練用の弾薬もあるしな。
うん、領兵は後回しだ。
時間も無いし、まず護衛の20人を完全に使える様に鍛える。
護衛20人分・弾各500発
89式5.56mm小銃20丁:魔力500×20=10000
5.56mm実包各500発:魔力160×20×5=16000
89式用スペア30連マガジン各4本:魔力30×20×4=2400
89式小銃用照準補助具:魔力150x20=3000
合計魔力:31400
31400÷1200=27日
うん、一ヶ月で何とか揃うな。
それまでに魔道銃を大っぴらに撃てる様にし、89式の護衛部隊への訓練はそれに紛れ込ませよう。
89式は光学サイトもあるし、各人200発程度も撃たせれば何とか100mで当たる様になるだろう。
こんだけ用意しておけば、領外がどう騒ごうが攻めてこようが対抗出来る。
なにせ最大200mも先から音速を超えて死が来訪するのだ。
どんな大魔術師でも対抗出来るものではない。
完全な物理攻撃なので魔力障壁なぞ全くの無意味だし。
その上、魔法組3人とハンスのバレットM95もあるのだ。
アレの本当の有効射程距離は2000mだ。
あの4人も慣れれば500mくらいなら十分当てられそうだし。
俺は父親から魔道銃開発に関する全権を貰い、マークを開発総責任者として前面に立てて俺は裏で暗躍することにする。
予算もよっぽどの無茶をしない限り好きに使って良いと言われた。
父親に、魔道銃開発に関する指示書として俺とマークとハンスを管理メンバーに、魔法組の3人を実働メンバーとすることを記載した書面を書いて貰った。
主導権は俺、表に出る総括はマーク、技術的な責任者はハンスとなる。
俺の存在はなるべく表には出さない様にするが、ガーソンとの打ち合わせなどでは直接交渉可とする。
更に、手持ち魔道銃の外販をする場合の権利関係の整備と調整が必要だと提言する。
開発元として権利をしっかり握り、売り先も厳重に調べて悪用を防止する。
他国と戦争になった場合のみ、軍隊での使用を許可する。
魔獣の対応にも使用可能とするが、王国内での対人使用は許可しない。
販売時に契約で縛り、違反すれば発火魔石の供給を絶つ。
「父上、これらの権利を守るには圧倒的な武力が必要になります。手持ち魔道銃を販売するといずれ当領以上の武力を持つ組織が現れ、私たちに武力交渉をして権利をかすめ取ろうとして来るでしょう。その時、優位に反撃出来る武力を揃えたいと思います。」
俺はそう言い、魔長銃を護衛の20人と領兵の選抜30人に一丁づつ持たせる案を言う。
但し、これは俺しか弾薬が補充出来ないので対外的には秘匿する必要があると強調する。
その上で、領兵の一般魔道銃に紛れ込ませて反撃させれば圧倒できると説明する。
具体的には有効射程距離が2倍以上で、魔長銃一丁で手持ち魔道銃20丁分の働きをすると言った。
父親はちょっと信じられないと言った顔をしたが、ブラックタイガー討伐の実績があるので納得してくれた。
これで魔道銃外販時の権利関係の行使と、自領自衛用の秘匿兵器としての89式配備に同意する文書も手に入った。
うん、早速組織として稼働させ、ちゃっちゃと魔道銃を実用化しよう。
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「マーク、居るー?」
俺は自室から89式一式を持ち出し、護衛詰所に行ってマークに声をかける。
ハンスと魔道組も呼んで来て貰い、一緒に父親に書いて貰った魔道銃開発に関する指示書を見せた。
これではっきりと組織化して開発を進めることになる。
「私はあと3ヶ月足らずで王都学園に入学する必要がある。なのでそれまでに君たち5人だけで魔道銃関連の開発と改良を進め、量産にまで漕ぎ着けられる様になってもらいたいんだ。」
「分かりました。出来るだけ開発を早める様にします。」
「そして、一旦量産化が始まって領内での領兵による射撃訓練が始まるともう領外に秘密にしておけないと思うんだ。その時、王都の商業組合で製品開発権利を取得し、製造販売の独占権を取って欲しい。認可が下りて20年間は王国法で独占権が保証されたはずだし。」
「そうですね。私も簡単な魔道具を作って申請し、認可されたことがありますので方法は分かります。」
ハンスが答える。
薬草の成分抽出に使う魔道具を作って権利を得たらしい。
いくら儲かったかは聞かないが。
「それと、魔道銃が領外に広がると理不尽な外圧がかかることが予想されるんだ。政治でやられるとどうしようもないんだけど、武力で攻め込まれて略奪されることは何としても防ぎたい。」
俺はスリングで担いでいた89式をテーブルの上に置き、皆に説明する。
マークと魔法組の3人はバレットM95試射の時に89式の試射も見ているので知っている。
「ハンスと魔法組の3人はこれより大きな魔強銃の訓練をしてもらったよね。あれは非常に強力なんだけど、多数の略奪者に対抗するには不向きなんだ。威力が強いのはいいんだけど、連射が出来ない、重すぎて移動が困難、乱戦になると壊れやすいという弱点がある。そこで、この魔長銃を護衛全員が使える様になってもらおうと思うんだ。」
89式の機能はまるで説明していなかったので、全員にメリットとデメリットを解説していく。
・重量は片手で掴んで持てる程度。(実際に持たせて確認させる)
・主に対人用の銃で、弾の直径が小さいので魔獣にはあまり効き目が無い。(頭を正確に撃ち抜けば効果はある)
・弾が30発入るマガジンを付けられ、予備を持っていればそれごと交換出来る。
・トリガーを引くだけで連射出来る。
・射程距離は先日訓練をした魔強銃とほぼ同等。(射場の10倍程度まで)
・これを出す目的は、自領の対外勢力からの自己防衛。
・弾の生産は不可能で、私の召喚能力に依存するのでなるべく使用は避けて温存する。
・魔道銃の量産が始まって領兵の射撃訓練が始まると発射音はそれに紛れるので、魔強銃の訓練も可能になる。
「私たちは魔拳銃も訓練して貰いましたが、それとは違うんでしょうか。」
ハンスが質問し、魔法組の3人も頷いている。
マークは一人蚊帳の外だが仕方がない。
「魔拳銃ももしもの時は装備して貰うよ。但し、あれは最後の護身用だ。敵勢力の攻撃に使う物ではないんだよ。」
俺は9mm拳銃がいかに頼りないかを説明する。
・弾の直径は89式より大きいが、弾の速さが半分以下で少し離れると威力が落ちる。
・銃の長さが短いので狙いが付けにくく、手だけで持つので安定しない。
・マガジンに弾が9発しか入らないので多人数相手には厳しい。(予備を持つことは可能)
・不慣れだと自分の足を撃ち抜く場合がある。
メリットも一応説明。
・隠し持てる。
・室内の超接近戦では有効。
「マークも魔拳銃は持って貰うからね。ここに居る6人だけの装備としたいんだ。小さいから隠し持てるし、格闘戦になった場合の
使い方もあるんでそのうち説明するよ。」
俺はCQBみたいなこともやってみようと思う。
剣のつばぜり合いやナイフで戦うことになったら迷わず9mm拳銃で片を付けさせよう。
ホルスターからのクイックドローみたいなことも練習させるか。
馬鹿正直に相手の武器で戦うことはない。
イ○ディージョーンズだな。
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それからは手持ち魔道銃の開発をガーソンを巻き込んでどんどん進めた。
銃身を鋳造で作るのは重量の面で持ち歩くのは無理とし、俺が最初に見せた図の鍛造で作ることにする。
魔道銃を一人で運用するには銃身だけで重量が5kg以内に収まる様にする必要がある為だ。
ガーソンは鍛造方式の面倒さに最初渋っていたが、鋳造ではどうしても実用的な魔道銃が作れないことを理屈で理解するとやる気になってくれた。
俺が元の世界でもっと原始的な鍛冶道具で火縄銃を鍛造で作り上げたことを言い、全ての銃器はそこから発達したと伝えると俄然やる気になった。
いわばこの世界で作られる銃器の始祖を担当する話だからだ。
まぁ種子島と違って自分で解析しなくとも俺の図面があるし、魔法も併用出来るので敷居はかなり低いが。
ハンスに魔道金属で発火魔方陣と発火魔石粉との信号伝達が出来る物を調べてもらう。
アイリスにも協力してもらい、王都学園の知り合いに連絡して情報を得た。
ついでにその魔道金属も王都で購入して送ってもらう。
連絡は王都と当領との間の伝書鳩による定期連絡便を利用した。
父親に重要性を説き、割り込ませてもらった。
不確実性があるので複数羽同時に同じ内容で飛ばすので非常にコストがかかるが、最優先ということで指示してもらう。
それで王都に居る叔父のカイル宛に父親が親書を送り、最優先で動いてもらう。
もちろん、親書は暗号文書だ。
魔道金属も10gもあれば試験には十分なので鳩に運んでもらった。
さすが伝書鳩、片道9時間足らずで王都とランバート領都との500キロムを飛ぶ。
数日かけてやりとりし、あっけなく魔道金属が手に入った。
「ハンス、これが王都で入手してもらった魔道金属らしいよ。」
俺は鳩の足に付けていた5円玉3枚分くらいの板をハンスに手渡す。
ハンスは治療棟にある魔道材質測定器という名称の箱にその板を入れ、書物を開いて書いてある呪文を順番に唱え始めた。
途中で何をやっているのか聞くと、
「材質を調べています。この測定器の箱は特定の物質に反応するしかけがしてあります。そして、その特定の物質は魔力と共に与える呪文によって変えることが出来るのです。まず、大雑把に材質の傾向を調べ、それから徐々に絞り込んでいく様に呪文を変化させて最後は反応点が一番高くなる組み合わせで材質を特定します。」
うーん、前世の共振分析器みたいなもんかな。
スウィープ出来れば簡単なんだけど、魔法じゃそうはいかないよなぁ。
「なんとなく分かったよ。邪魔してごめん。」
ハンスは頷いて呪文サーチを再開した。
それから30分後、材質が特定出来たとの報告があった。
純粋なミスリルらしい。
これに銅と錫を一定の割合で入れて合金化すると、発火魔方陣の信号伝達に使えるとのことだ。
早速ミスリル板を持ってハンスとガーソンの所に行く。
「ガーソン、いるかな?」
休憩していたらしいガーソンはカウンターの後ろから顔を出した。
「いらっしゃい。まだ完成していませんが、だいたいのコツは分かってきました。」
「うん。進んでいる様でなによりだよ。今日は火口に入れる魔道金属を持って来たんだ。」
そう言ってミスリル板を見せる。
「これは高純度のミスリル板だよ。これに銅と錫をこの割合で混ぜて均一にして欲しいんだ。」
俺はハンスの書いた分析結果と発火魔方陣に適用させる為の合金比を書いた紙を見せた。
「とりあえず半分に割って、この比率で合金にして図面に書いた釘にして欲しいんだよ。」
俺は鍛造魔道銃の図面の火口の所に書き加えてある釘状の部品を示す。
直径2mm、長さ3cm程度で頭も直径3mmくらいなので合金の使用量もしれている。
5本程度は作れるんじゃぁないかな。
「はい、分かりました。ご指示のとおりにやってみます。」
ガーソンは答え、鍛冶場に戻って行った。




