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20◇魔の森再び

20◇魔の森再び

=============================


前回の魔の森ハンティングから1ヶ月が過ぎた。

朝食の後、父親が俺にハンティングに同行しろと言って来た。

3日後にマークとミラー、魔法の使える3人の護衛を連れて行くそうだ。

既に木の洞土板施工魔法と、ウィンドエバキュレーターは3人とも習得済みだ。

兄は既に休暇を終えて王都学園に戻っている。


「今回は土板による木の洞の性能評価と、魔拳銃の威力と使い勝手の確認だ。協力してくれ。」


もちろんですともお父様。

待ってましたとばかりに俺は返事を返す。


「はい、ぜひとも実際の現場で確認したいと思ってました。あれから更に威力の増した物を出せる様になりましたし。」


俺はここで89式を試すことにした。

公然とぶっ放せる絶好の機会だ。

これを見逃すわけにはいかない。

なにせ護衛詰所横の射場では距離が短すぎ、弾止めが脆すぎて89式を撃てないのだ。

発射音もウィンドエバキュレーターで押さえてもかなり響くだろうし。


「聞いていないぞ。今からそれを見せてくれ。」


「はい、すぐにお部屋に持って行きます。」


俺は急いで自室に帰り、部屋の隅に立てかけておいた89式を持って折り曲げ銃床を伸ばし、スリングを肩にかける。

次に5.56mm実包100発を召喚する。

89式5.56mm普通弾20発入り5箱をまとめて掴んで持って行く。


父親の書斎のドアは開いていたので失礼しますと言って入る。

メイドは既に退室していた。

ドアを閉めてテーブルに5.56m実包の紙箱をまとめて置く。

肩からスリングを外し、89式を横に抱えて椅子に座る。


「父上、これが新たに出せる様になった武器で、魔長銃と言います。」


「結構長いな。前のとどう違うのだ?」


「はい、前の魔拳銃は近接戦闘用の武器です。護衛詰所の射場の的までの距離程度を想定して作られています。それ以上の距離でも当たりさえすればかなりの威力はありますが、よっぽど熟練しないと魔獣の頭には命中しません。」


普通のあまり慣れていない人で、拳銃の有効射程は5mくらいだ。

下手をすると3m離れた人型標的当てるのも難しい。

まともなインストラクターに指導して貰って数を撃ち、ある程度適性があって20mで人型標的程度だな。

俺はグァムでインストラクターをがっちり雇い、友人と朝から晩まで撃ちまくるというのを何回もしている。

9mm系で30mヘッドショットは普通に撃てる様になっていた。


ライフル系は屋外射撃場のレンジが最長100メートル程度と短かかったので、本格的な遠距離射撃は未経験だ。

それでもアイアンサイトでのテーブルに肘を着いた状態の半分依託射撃で、100mで30cmくらいのグルーピングは出る。

光学サイトが使えれば10cmくらいにはなるな。

拳銃に比べてそんなに弾数は撃っていないし、100mを超える射撃はしたことがないのでこっちで練習したいところだ。


「なるほどな。大きさからしても、それは魔剣銃の3倍くらいはありそうだな。威力も3倍か?」


「はい、威力そのものは3倍以上あります。それと共に有効な射程距離も3倍以上になります。」


銃口エネルギーは約3.8倍、初速は約2.7倍、慣れれば有効射程距離も200m程度はあるな。


「ほう、それは凄い。ではレッサーベアーも一撃で仕留められるのかな。」


「頭に当たるか、心臓に当たれば数発で倒すことができると思います。但し、魔拳銃以上に腕前が左右します。正確に弱点に当たらないとダメージは伝わりませんし。」


俺は89式を持ってストックを肩に当てて頬付けし、少し背伸びしてグリップを握って構える。

銃口を部屋の端の花瓶に向け、アイアンサイトで狙いをつける。


「この様にして構えます。今、目で覗いているのが目標を捉える照準器です。手前の方の穴から覗き、左手の上辺りから出ている細い棒の先端を穴の中央に合わせて、その延長線上に的が来る様にすると狙ったところに当たります。」


「そんなに簡単なのか?誰でも撃てそうだな。」


「操作は簡単ですが、護衛射場の5倍くらいの距離になると持ち手の少しのぶれで全く当たらなくなります。立木などに寄りかかって姿勢を安定させ、呼吸を整えて狙う必要があります。」


「ううむ、そう簡単にはゆかぬか。」


コッキングレバーを引いてボルトストップさせ、銃の中に実包が入っていないことを確認して立ち上がって父親に渡す。

父親も立ち上がって受け取るが、思ったよりも重量があった様で少しよろめく。


「あの花瓶に向かって構えてみてください。そう、左手はここをこう握って、右手でここを掴んでここを肩に当てます。頬をここに付けて、ここの穴から覗きます。左手の少し上の向こうあたりに下から出ている細い棒がありますので、手前の穴の中心と棒の先端を合わせます。そのまま延長上に花瓶が見える様にすると狙いがついたことになります。その状態で、右手の人差し指でこの輪っかの中の棒を引っ張れば発射します。」


父親はおっかなびっくりといった感じでピープサイトを覗きながら部屋のあちこちに振り回していた。

いきなり後ろに振り返ったので銃身が俺に当たりそうになり、素早く避けて声をかける。


「全体が少し長いですから、周囲を見ながら振り回さないと他人に当たったり木に引っかかったりします。その時に右手の人差し指をその位置に入れていると暴発して殺人になる場合があります。実戦で扱うときはそこから人差し指を出しておき、慎重に周囲を確認する必要があります。」


父親は少し気まずそうに89式を俺に返してきた。


「うむ。実際に発射しているのを見ないと分からないな。前の魔拳銃と共に両方持って行こう。」


「はい、そのつもりでいました。魔拳銃はあと2個召喚し、護衛の魔法担当3人に使わせてみる予定です。彼らはハンスの指導でウィンドエバキュレーターは使える様になっていますので、発射音の問題は無いと思います。」


そう言って、父親への89式の披露は終わった。



「ステータス」


俺は自室に戻ってステータスを表示した。


「ステータス表示」(12歳7ヵ月半)

「名前:マーティン・ランバート」,「年齢:12歳」,「性別:男」

「レベル:12」,「体力:340」,「魔力:960」,「精神力:620」

「攻撃力:410」,「防御力:480」,「素早さ:380」,「器用さ:790」,「賢さ:920」,「運の良さ:690」


前回の魔の森ハンティングから色々自主練し、ステータスの数値は少し上がっていた。

ただ、スキルの内容はランク2のままで変わっていない。

やはり10単位で上がっていくのだろう。

今回の魔の森ハンティングで魔獣をガンガン倒し、ランク3になることを願おう。


―――――――――――――――――――――――――――――


3日後、再び魔の森116番ゲートを目指して出発した。

父親、俺、マーク、ミラー、そして魔法担当護衛のスティーブ、デビッド、ルークの3名だ。

ミラーが馬車の御者をし、他の護衛は乗馬して馬車の周囲を併走する。

マークが馬車の前を先導していた。


前回の様に昼は道横の空き地で昼休憩をする。

父親に今回はスープの代わりになる物を出してみたいと言う。

了解を得て、カッ○ヌードルを出した。

ステータスの自衛隊魔法ランク2装備からカ○ヌを選択し、人数分合計7個を呼び出した。


「自衛隊魔法、ランク2召喚」×7回。


ちょっと面倒だが、今のところまとめて召喚する方法が分からない。

出て来たのは超定番のシーフードヌードルだった。

うん、俺の一番好きな奴だ。


昼食の準備をしようとしていたルークに先に湯を沸かして欲しいと伝える。

折りたたみテーブルに置いた魔道コンロに鍋をかけ、水魔法で4リットル程度入れてもらう。

さすが魔法組、あっさりと鍋を満たした。

まぁ魔法で出した水は空気中の塵を含んでいるからちょっとまずいんだけどね。


カ○ヌのシュリンクを剥がし、蓋を半分めくって沸騰した湯を入れる。

蓋をして3分間待つ。

皆が興味深げに見ているが、待つ間に自分のフォークを出せと言っておく。

3分後、俺がまず見本を見せる。

蓋を9割めくって中の麺をフォークでほぐす。

ちょっとスープを啜った時に懐かしくて泣きそうになった。

フォークで麺を掬い、ずるずる食べると皆もそれに倣って食べ始めた。


「う、旨い!スープもパスタも食ったことのない極上の味だ!」


「こんなに旨いのは食べたことがないですよ!どこの料理です?」


「うむ。マーティンには最近驚かされてばっかりだな。確かに旨いな。」


大絶賛である。

そりゃー大阪の大メーカーが長年作り上げた世界に通ずる味である。

前世でも嫌いな人を見たことがなかったくらいだったし。

俺は先に麺を食い終わったのでテーブル上の紙袋に入っている固いパンを取ってちぎって入れる。

うん、パンに海鮮スープが染みてこれも旨いな。


「先に麺だけ食べて、残ったスープに固くなったパンをちぎって入れても旨いよ。」


俺が言うと、我先に紙袋から固くなったパンを取り出し、ちぎってはカップに入れ始めた。


「これがあのパンか!?」


皆これも気に入ったみたいだ。

一気に全員完食した。


「今回のこれはパスタの携行食だよ。ちょっと訳ありで、私にしか出せないから他の人には内緒にしてね。」


俺がそう言うと皆が頷いた。

父親まで頷いている。

空容器は広場の隅の焚き火の所に持って行って燃やす。

証拠隠滅だな。


その後、魔法組の二人がスープとパン以外の準備を始めた。

前回と同じ肉の串焼きだ。

これはこれで旨いんだよな。

余った食材は管理棟にそのまま持って行く。


昼食後に撤収し、再び管理棟を目指して出発する。

夕方くらいに到着し、今回もハリーとジェイムスが迎えてくれた。


―――――――――――――――――――――――――――――


管理棟で夕食を食べて一泊し、翌朝早くに出発する。

今回の目的は木の洞土板防御能力検証と、9mm拳銃、89式小銃の威力と使い勝手の確認だ。

9mm拳銃は実包をマガジンに装填して俺のガンベルトに、89式小銃はマガジンを未装着でミラーがスリングで担いでくれていた。

89式用の実包は20連マガジンに満装填して俺のベルトポーチに入れてある。

他の今まで召喚した実包は全て俺の背負った装備の中だ。


魔の森の中では魔獣に曲がり角でばったり遭遇する場合がある。

場合によっては待ち伏せされる場合もある。

先導はそうならない様に常に耳を澄ませ、匂いを嗅いでいるのだが自ずと限度はある。


前回は先頭のミラーが少しだけ魔力探知が使えたので出会い頭の遭遇は無かったが、探知距離が短いのでレッサーベアーの群れとの遭遇に気付くのが遅れて混戦になった。


今回は魔法組が3人も居るのでかなり長距離まで魔力探知が使えるらしい。

実は俺もハンスに教えて貰って少しは使える。

だいたい半径50mくらいかな。



まず、魔の森の入り口から1キロム程度の場所で少しルートを外れた所に大木を発見した。

根元に洞は無かったので、スティーブとデビッドが二人でカット系魔法のディギングで洞を彫った。

怪力の巨人が大きめのノミとハンマーで木彫りをする様に、あっという間に前回再現デモをしたのと同じくらいの洞を彫り上げた。

木のくずが大量に出たので皆で一斉にウィンドで吹き飛ばす。


その洞の上に前回デモを参考に、より練り上げられた構造の土板を魔法担当が三人がかりで積み上げた。

デビッドとルークが土板製造、スティーブが洞に施工だ。

さすがは大人の熟練魔術師、すんげぇ速さで土のドームが出来上がった。


「さすがだね。私の様な素人が工夫したのを一気に超えていく。」


「いえ、マーティン様の元のアイデアがあったればこそです。我々はこれで飯を食ってますから利用させてもらっているだけですよ。」


魔法組のリーダーのスティーブは謙遜するが、その見事なまでの速さと正確さは熟練の職人である。

もちろん永久建築ではないので、表面の仕上げはしていないので荒っぽく見えるが。


完全に密閉したドームを作った後に、強力な土魔法で強度を落とさずに上下に通気口と中央に大きめの覗き穴を開けていく。

最後に厚み方向に圧縮する魔法をかけ、完成した。


「旦那様、土板覆い、完成しました。」


「よし、中に生肉を入れて魔獣の動きを観察するぞ。あの穴から投げ込んでくれ。」


スティーブが父親に報告し、デビッドがストレージから1kgくらいの生肉の固まりを3個取り出した。

油紙の包装を外すと、常温保存で二日経っているのでほんのり臭う。

それを木の棒で突き刺して、土板の大きめの覗き穴から中に投げ込んでいく。


「すぐに退避だ。先ほど決めた場所まで下がるぞ。」


父親がそう言い、40mほど離れた大岩の陰に全員で移動した。

念のため、魔獣除けの薬草を石で潰して周囲の岩に塗りたくっておく。

待つこと1時間、その間に木の洞や大岩にグレイウルフの小規模な群れが何度か接近して来たが、魔法組がアースバレットを飛ばして手早く追い払っていた。

さすが専門家、俺が10m程度の射程距離なところ、彼らは軽く50mは飛ばしていた。

威力も結構ある。

当たるとグレイウルフは骨折などして足を引きずりながら退散していく。

だが、命中精度はちょっと甘いな。

こればっかりは生身の人間の目分量で飛ばすのだから狙いはそんなに正確ではない。


そして、待望のレッサーベアーが登場した。

奴は生肉の匂いに惹かれてのしのしと木の洞に近づき、地面に近い通気口から中の匂いを嗅いでいる。

やがて奴はひと吠えして上体を振りかぶり、鋭い爪を土板に振り下ろした。

魔法組の強化した土板はそれに耐え、僅かに土煙が上がる程度で大きく削れはしない。

だが、生肉の匂いに狂ったレッサーベアーはそれから1時間の間、繰り返し爪を振り下ろしてついには爪が折れた。

根元から折れた爪は神経に触った様で、レッサーベアーはうなり声を上げて木の洞から去って行った。


「よし、確認するそ。」


父親がそう言い、マークが先頭になって木の洞に全員で近づく。

魔法組が作った土板のドームは、三重になっている一番外の土板が多い所で厚みの半分くらい削れていた。

レッサーベアーの鋭い爪で1時間攻撃され続けたにしては損傷が少ない。

まぁ魔獣なので一箇所に集中攻撃せず、あちこちに分散して爪を振るっていたのも損傷が浅い理由かな。


「うむ、これで一応緊急避難場所として使えることが分かった。木の洞も天然の物が無くとも魔法で削れば作れるのが分かったのも収穫だな。」


「今回は魔法担当が3人がかりで一気に作りましたが、今後は一人で作ることも訓練に入れようと思います。」


魔法組リーダーのスティーブがそう提案し、父親とマークが頷いた。

まぁ俺も一人で作ったのだから魔法組には容易なことだろう。


「さて、今度はマーティンの番だな。まず魔拳銃でグレイウルフを倒してみてくれ。」


父親がそう言うと俺は9mm拳銃を抜いてスライドを引いて初弾装填し、両手でグリップを握って銃口を下向きにし、いつでも撃てる様に準備する。

一応安全のためハンマーはデコッキングして落とし、トリガーガードにも人差し指は入れていない。

念のため2本の予備マガジンは革鎧のポケットの中だ。


マークとミラーを先頭とし、その後に俺が続く。

父親はすぐ後ろに位置し、その左右と後ろを魔法組が固める。

そのポジションで暫く魔の森の巡回ルートを歩くと、50mくらい先にグレイウルフの5頭くらいの群れが見えた。

少し前から魔法組のスティーブに「あと少しでグレイウルフの群れに遭遇しますよ」と言われており、わざと遭遇するルートで歩いていたので驚きは無い。

俺も薄く水平に展開していた魔力探知に引っかかったので、目視と共に確認した。


「マーク、ミラー、立ち止まって私の左右の少し後ろに下がってくれない?」


俺が小声で言うと、二人は黙って下がる。

グレイウルフの群れはこちらをまだ発見していない様で、俺たちは少し身をかがめて下草に隠れながら接近して来るのを待つ。

群れが30m程まで近づいた時、俺はウィンドエバキュレーターを銃口に発動しながら、群れのリーダーらしき一番体格の大きい個体の頭部に連射を始めた。

3発目でリーダーが倒れ、戸惑う残りの4頭にも続けて撃ち込んでいく。

素早くマガジンを交換して全弾撃ち尽くした時には群れは全滅していた。

18発で5頭なのでちょっと効率は悪いな。

ふと周囲を見ると、皆変な顔をしていた。

いや、よく見ると恐怖が浮かんでいる。


「マーティンよ、慣れた者が撃つとこれほど凄いものなのだな。」


「マーティン様、それだけの魔拳銃の取り扱い、どこで学ばれたのですか?」


「いやーマジぱねぇっすわ。」


父親とマークとルークの言だ。

俺は切らさずに続けていた魔力探知に他の魔獣が引っかかっていないことを確認した後、9mm拳銃の空マガジンを抜き、ポーチから装填済みのマガジンと交換した。

別の装填済みの1本も革鎧のポケットに移す。


「今回は護衛の皆さんに囲まれていたので落ち着いて攻撃出来ました。私は何故かこの魔拳銃の扱いに熟練している様です。今私がやった様なことも練習次第では出来る様になりますので、帰ったら一緒にやりましょうね。」


俺がそう言うと、魔法組の3人はちょっと引きつった様な笑いを浮かべて頷いた。


俺は続けて89式の試し撃ちをすべく、担いでいたミラーから受け取った。

スリングを肩にかけて斜めに持ち、ポーチから装填済み20連マガジンを取り出して装着する。

コッキングレバーを引いて離し、初弾をチャンバーに送り込む。

セレクタレバーを「ア」の位置にしてトリガーをロックし、銃口を下向きにして持つ。


「次はこちらの魔長銃を試します。しばらくこの場所で待っていて、魔力探知で見つけたら撃ちます。」


父親にそう言い、マークも頷く。

魔拳銃に対して魔長銃だな。

俺は半目になりながら神経を集中し、魔力探知の範囲を薄く広げて暫く待った。

俺の魔力探知は歩きながらだと50mくらいだが、立ち止まって集中すると最大200mくらいまで広がる。


10分ほど経過したところ、右後ろに少し大きめの魔力を探知した。

距離にして150m前後か。

同時にスティーブも小さく声をかけて来る。

俺は小さく頷き、


「父上、あちらの向きの少し離れた所に少し大きめの魔獣の気配を感じます。恐らくレッサーベアーかと。」


魔法組も一斉に頷く。


「もう少し近づいて目視出来たら撃ちます。」


俺は宣言し、近くにあった立ち木に89式を押しつけて安定させ、およその狙いを付けて待った。

この89式はアイアンサイトのままで、俺自身はまだサイトインしていない。

しかし、少し使い込んでいる様なスレ傷があったので、訓練で使われていた物だろう。

それならば100m程度なら狙えば当たる様にサイトは調整済みだろうと思い、ぶっつけ本番で撃つことにした。

まぁ撃ち漏らしてもこんだけ狩人が居るんだ。

たとえ襲って来ても返り討ちにしてくれよう。


それから5分くらい経った時、下草の向こうに一頭のレッサーベアーの頭が見えた。

距離にしてだいたい100m弱といったところか。

俺は89式のピープサイトを覗き、フロントサイトの上端とレッサーベアーの頭部を重ねる。

ウィンドエバキュレーターを少し強めに発動し、89式の銃口を覆う。

セレクタレバーを「タ」の位置に回し、息をゆっくり吐きながらトリガーを引いた。


ズバンっという9mm拳銃よりはだいぶ大きい音と共に、弾頭が音速を超える衝撃波のパシーンという音も響く。

サイトの先のレッサーベアーは肩に弾丸が当たった様で、肩口を咥えて唸りながらその場をぐるぐる回っていた。

俺はレッサーベアーの動きが少し落ち着くのを待ち、着弾位置を目測で修正しながら第二弾を撃った。

今度は頭部に当たった様で、レッサーベアーはその場に崩れ落ちる。

用心のため、草の間に僅かに見える部分にあと3発撃ち込んでおく。


「父上、魔長銃の試し撃ちを終わりました。照準を少し修正する必要はありますが、精度と威力の確認は出来ました。」


「うむ。よくやった。これなら相手に気付かれる前に対処出来るな。」


「すごい威力と到達距離ですね。魔法でやろうと思ったらとんでもない修行が要りますよ。」


「そもそもこんなの魔道具でも無理ですね。聞いたこともありません。」


スティーブとデビットも驚いた様に言った。


その後、仕留めたレッサーベアーの所に行く。

眉間に弾痕があったので即死だろう。

自衛隊用5.56mm弾は弾芯が鉄なので貫通力が大きい。

レッサーベアーの頭蓋骨程度は抜けるみたいだ。

俺は構えていた89式のセレクタレバーを「ア」に戻してトリガーをロックし、銃口を下に向けて斜めにスリングで背負った。


その後も何回かレッサーベアーとグレイウルフを取り混ぜて撃ち、89式の威力を十分に堪能した。

5.56mm弾でも頭部にセミオートで数を打ち込めば大概は倒せる。

中には両目を先に潰されて、そのまま無茶苦茶に暴れながらあらぬ方向に逃走していった個体もいたが。

9mm拳銃ではこうはいかない。

マガジンも9発しか入らないし、威力も格段に落ちる。


小休憩時に89式用30連マガジンを5個と5.56mm弾200発を召喚し、魔法組に手伝ってもらって5個とも満タンにした。

ちょっと重いので分けて持って貰う。

途中でキラーバードの襲撃もあったので、30連マガジンに交換しておいた89式のセレクタレバーを「レ」の位置にし、5.56mm弾をフルオートでバラ撒いて追い払ったりもした。

羽根が散っていたので数発当たっているはずだが、キラーバードは何事も無かった様に飛び去って行った。


多少日が暮れ始めたころ、200mくらい離れた所に岩山が見えたので俺は父親に89式の照準器の調整をしたいと言う。

そこで小休憩とし、俺は89式用照準補助具を召喚した。

これは陸自正式採用品で、等倍のスコープ形状の中に赤い点が浮かぶドットサイトだ。

何故かコイン型リチウム電池が5個も付いてきている。

1個取り出してドットサイトの側面のキャップを開けて入れる。

レンズのキャップを開け、側面のダイヤルを回して覗くと中央に小さな赤い点が見える。

うん。電気の光だ。

設定無茶苦茶やん。


気を取り直して、まずアイアンサイトで遠くの岩山を狙う。

近くの立ち木に寄りかかりながら、とりあえず一発撃ってみる。

勿論、ウィンドエバキュレーターは発動済みだ。

着弾の岩が削れた白い破片が舞うのが微かに見える。

さすが12歳。視力はいいな。

でも着弾点は見えないので双眼鏡も召喚した。

7倍なのでそんなに大きく見えるわけでもなく、5.56mm弾の小さい着弾点は分からなかった。

右目でドットサイトを、左目で双眼鏡を同時に見ようと試みたが、ちょっと難しい。

仕方が無いので、リアサイトの横方向ダイヤルを少しづつ回しながら何発か撃ち、着弾で舞う破片でだいたい横方向は合わせた。

縦方向もリアサイトのダイヤルを回して同じ様に合わせる。

岩の飛び散る破片で見ているのでこれが限度だな。


次に89式の機関部上部の出っ張りにドットサイトを取り付ける。

固定ネジを手で締めて、最後に簡易工具で増し締めする。

ドットを点灯させ、89式を構えて覗いてみる。

中央に赤い点が小さく点灯し、その下にレンズ越しにフロントサイトが見える。

リアサイトを覗いてみると、ドットサイトの等倍レンズの下半分越しにアイアンサイトも使えた。

バッテリーが切れてもとりあえずは狙えるな。


立ち木に寄りかかり、ドットサイトも合わせていく。

10発くらい撃ってだいたい合った。

今回合わせた照準はおおよそ200mだが、それ以下の距離でも目分量で狙いを補正すれば当たるだろう。

100mくらいの的になる物が見当たらないので今回はこれで良しとする。

確か200mサイトインで100mでは5cmくらい弾道が上がった様な記憶があるな。


俺は父親に照準器の調整が終わったと報告する。

見渡すと、全員が俺の様子をじっと見ていた。


「マーティン様、今なされたのはどういうものなのですか?」


そうか、照準器というものがこの世界には無いのだな。


「これは魔長銃の狙いを定める機能の調整だよ。目で見て正確に狙いを合わせられる様にしないと、せっかく遠くの物を狙えるのに当たらないしね。」


「どれくらいの大きさに命中するものですか?」


スティーブに聞かれて少し考える。

確か89式のWikiにあった情報では300mで散布界が30cmくらいだったかな。

なら100mなら10cmくらいか。


「最初に撃ったレッサーベアーくらいの距離ならこれくらいかな。」


俺はそう言って、100mくらいの距離の場合を握りこぶしで示して見せる。


「すごいですね。そんなに小さな的に当たるのですか。」


「簡単に当たるわけではないよ。立ったまま狙ってもまず当たらないし、動きながらならもっと当たらない。立ち木や岩に体を預けて安定させ、魔長銃がぶれない様にし、さらに狙いを付けるやり方を知らないとまともに当たらないな。」


そう言うと、皆うーんと言いながら難しい顔をした。


「とりあえず、魔法組には魔拳銃とともに魔長銃も覚えて貰うから。」


俺がそう言うと、魔法組の3人は頷いた。


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