18◇魔法訓練
18◇魔法訓練
=============================
さて、一通り俺のやりたいことが出来る様になったので、後はアイリスの返事を待つだけだ。
俺は自分の魔法の能力を更に向上させるべく、ハンスに助言を求めに行った。
護衛詰所に隣接する治療棟に行くとハンスが出迎えてくれた。
「魔法をもう少し使える様にしたいんだ。手伝ってくれる?」
俺が言うとハンスは少し考え、俺に尋ねる。
「坊ちゃんに少し前に今使える魔法の一覧を書いてもらいましたよね。」
ハンスはそう言うと本棚の紙綴じから一枚の紙を抜き出した。
紙には以下の様に書かれている。
マーティン・ランバート使用魔法一覧
ファイア系
・ファイア:指先や手の平に込めた魔力に従った大きさでオレンジ色の炎が吹き出す。最大1mくらい伸びる。
・ファイアボール:両手の平から同時に霧の様なものが噴出し、交点で混ざりあって点火して爆発する。威力はグレイウルフの顔面に撃つと目と耳が同時に損傷して気絶するくらい。最大5mくらいまで。
・ファイアブレード:両手の平から円弧を描くように火のアーチが出て、両手を閉じると火のアーチがリング状になって飛んでいく。威力はあまり無く、威嚇目的に使用する。
ウォーター系
・ウォーター:エールのジョッキを5杯満たす程度の水が出せる。
・ウォーターカッター:強力な水鉄砲で、接触寸前で放つと薄い銅板なら切断可能。鉄板はまだ無理。
・ウォーターボルト:強力な水砲弾で、5mくらい離れた場所のグレイウルフを昏倒させるくらい。
アース系
・アース:土の地面に直系1m、深さ1mの穴を数秒以内に掘れる。土は消滅せず、周囲に盛られる。
・アースシールド:土の地面から土砂をかき集めて前方に幅1m、高さ1m、厚さ30cmの壁を数秒以内に作れる。
・アースバレット:土の砲弾で、10mくらい離れた場所のグレイウルフを昏倒させるくらい。
ウィンド系
・ウィンド:3mくらい離れた場所にいる人をよろめかせる程度の風を出せる。
・ウィンドブレード:3mくらい離れた場所にある布の服を切れる程度の風の刃が出せる。
・ウィンドエバキュレーター:3m以内くらいの場所に真空の直径1m程度の球を作り出せる。
ライトニング系
・ライトニング:親指と人差し指との爪の間に5cmくらいのアーク放電を出せ、人に触れると気絶させられる。
・ライトニングフラッシュ:両手の人差指を向かい合わせて発動するとごく短時間アーク放電し、5m離れた場所の生物を一時的に目くらませ出来る。
・ライトニングショット:人差指を頭上に掲げて空気中の雷雲要素を呼び寄せて10m以内の目標物に軽度の落雷をさせる。
アシスト系
・パワーアシスト :筋力を補助し、平均で1.5倍、数秒以内なら2倍の力を出せる。
・スピードアシスト:筋速度を補助し、平均で1.5倍、数秒以内なら2倍の速度が出せる。
・センスアシスト :視力、聴力、触覚力を補助し、それぞれ2倍程度の能力が出せる。
ライト系
・ライト:身体の任意の位置から少し離れた場所に任意の光量の照明球を出せる。
・フラッシュ:手の平から強力な閃光を発せられる。1秒間に最大4回発光可能。
・レーザー:指先から指向性のある細い光を発せられる。色は任意に変更可能。魔力を込めれば紙に火が点く程度。
1mとか30cmとあるのは俺の元の世界での感覚だ。
こちらの単位は別に書いてあるが、インチっぽい面倒な単位系で感覚的に使いにくので俺自身が書く資料には併記してある。
「坊ちゃんは12歳でまだ王都学園入学前ですよね。」
「うん。一年延期になったしね。」
「入学前で既にこれだけの魔法が使えていれば必要十分だと思いますがいかがなものでしょう?」
「うん。私もそう思うんだけど、アイリスの授業ももう終わったし、マークの剣術指導も一区切りついたんで、何か覚えたいと思って。王都学園の入学まであと半年あるんでその間暇なんだよ。」
「うーん、確かにあと半年も無為に過ごすのはもったいないですね。分かりました。何か希望はありますか?」
「まず、魔の森から帰って来た時にハンスが木の洞と大木を魔法で表現した奴をやりたいな。」
「それは来週からの開始を予定しています。これは少し時間がかかりそうなので他の魔法との順番はどうしましょう?」
「うーん、そうだね。ハンスの時間を大きく奪うと他の業務に差し障りが出そうだから、まず先日の大木表現の魔法は概略だけ教えて欲しいな。私が習得しなくてもいいから。」
「それなら2日くらいで終わりそうですね。」
「うん。ではそれが終わって、今の私が半年で覚えられそうな魔法はどんなのがある?」
「そうですね、これらはいかがでしょう?」
ハンスはそう言って紙に魔法名を書き出した。
イメージ系
・イメージ:白紙などに自分の記憶している映像を投影する。止めると消える。
・イメージショット:指で囲った四角形の中の対象物を精密に記憶する。(記憶媒体の魔石が必要)
・イメージスタンプ:イメージショットで記憶した対象物を専用の魔法触媒が塗られた紙に映像として定着させる。
グラビティ系
・グラビティ:指定した物にかかる重力をプラスマイナス50%増減出来る。
・アンチグラビティ:自分自身と加えて同じ体重程度の重量を相殺して浮遊出来る。(自分にかけると浮遊可能。推進はウィンド系を使用して飛行。)
・フロート:魔石を組み込んだ運搬用カーゴを任意の高さに浮かせる。(重量により制限あり)
アルケミー系
・インスペクション:物質の状態を調べる。材質、相変化状態、結晶状態など。
・ピュリティー:多種混ざり合った物質から特定物質を指定して分離する。純度向上に使用。
・リアクション:複数の物質を反応させて均質な状態にする。
サモン系
・フェアリー:魔素で構成される浮遊生物。自分の魔力を注ぎ込むことである程度の知能を得て従う。
・レイス:空中に漂う死者の霊。人間と動物があり、力でねじ伏せると知能を得て従う。
スペース系
・ストレージ:縦横高さ1mくらいの簡易空間バッグ。時間経過あり。
・ガレージ:縦横高さ5mくらの中間空間倉庫。時間経過遅延あり(1/100)。
・ストアハウス:縦横高さ20mくらいの大型空間倉庫。時間経過遅延あり(1/10000)
(※単位は前世相当で表現。)
「とりあえずこんなものでしょうか。」
ハンスはペンを置くと紙を俺に渡してきた。
「これ、スペース系、これを最優先にやりたい!申しわけないけど、さっきの大木表現は後回しにして。」
「承知しました。実を言うと、あの魔法はちょっと面倒だったんですよ。」
「うん。それは習う私も思ってた。実は言ってちょっとしまったと思ってたんだ。」
「それはお互いに丁度良かったですね。ではスペース系のまずストレージから始めましょうか。」
ハンスはそう言うと、もう一枚紙を出してきて「スペース系」と書き始めた。
―――――――――――――――――――――――――――――
「まず、スペース系の概念から説明しますね。」
ハンスは出した紙に図を書き始めた。
立方体を斜投影図の様に書き、一辺の長さを書き込む。
前世の単位で1m程度だ。
「ストレージ」と図の上に書く。
「スペース系の中で一番習得し易いのがこのストレージです。縦横高さがこの図の寸法くらいまでの物が収納出来ます。ストレージ領域はこの世界と重なった一つ上の階層に置かれ、作った本人の位置に同期して一緒に移動します。」
「ひとつ上の階層とはどういうもの?」
「それは目にも見えず魔力探知でも分からないので概念上の存在として扱っていますが、実際にスペース系魔法で物が置けるのでそれ以上の探求はされていません。」
「そうなんだ。実際にはどうやって作るの?」
「まず、ミスリルを溶かし込んだ魔力インクを用い、自分の体のどこかにストレージ魔法の原点座標となる魔方陣を描きます。自分の体ではなくても幅広の腕輪などに描いて身に付けていても同様の効果があります。その魔方陣に対してストレージの魔法を唱え、魔力を注ぎ込むとその量に応じた寸法のストレージが一つ上の階層に出来、魔法陣とパスが繋がります。」
「ストレージの寸法って変わるの?」
「そうですね。最小だと先ほどの1/10くらいの小さいストレージも作れます。但し、大きい方は先ほどの1.2倍くらいまでが限界です。これはストレージ魔法の術式の制限によるもので、使用者に対する安全機能の様なものです。」
「安全機能とは?」
「ストレージ魔法は一旦発動すると使用者の魔力を常に消費します。先ほどの寸法の物で一日あたり30くらいの魔力量ですね。一般的な魔法を使える者なら一晩寝れば余裕で回復出来る量なので、ずっと使い続けていても特に害はありません。」
「うっかり大きなストレージが作れちゃうと魔力が枯渇する場合もあるんだ。」
「そうなると気絶したり体調を崩したりしますので、それを保護する為の制限機能ですね。」
魔法って、どこかファンタジーなもので、ふわっとした呪文でパパッと出来ちゃうんだと思っていたら、物によってはガチガチのテクノロジーなんだな。そりゃー魔法を専攻する学科があるはずだ。
「なるほど、なんとなく分かった。その収納ってのはどこから入れるの?」
「普通の箱の様に、蓋を開けて入れるというのとは違います。入れる物をまず魔力で包み、自分で作ったストレージ領域と座標を重ねます。これは概念的な作業になりますので、慣れないとはみ出して弾かれたりします。」
「その座標っていうのはどういうものなの?」
「厳密に言えば数値で縛られますが、実際に使う時は感覚的に大雑把に目分量で決めますね。ストレージよりも小さい寸法で、尚且つ先に入れた物と干渉しないことが重要になります。現在入っている物は補助魔法のサーチで目で見ている様に確認可能です。」
「ということは、普通の箱の中に物を入れるのと同じことをするということかな?」
「そうですね。ただ普通の箱と違って、適当に投げ込むということが出来ません。必ず重なり合いを事前に調べ、互いに干渉しないことを確認してからでないと収納出来ないのです。」
うーん、ちょっと面倒だな。
ラノベでよく出てくるストレージは仮想的な袋に何でも投げ込めるイメージだったけど。
「そうなんだ。便利な袋かと思ったらちょっと面倒なんだね。」
「その代わり、かなりの重量物でも重さを気にせず入れられます。入れた物の重量は一つ上の階層が受け持ちますので、ストレージ魔法を使用した本人には一切重量負担がありません。」
「それはいいな。かなりの重量ってどれくらい?」
「これは個人差が大きいですね。同じ大きさでも重量が増えれば増えるほど一日辺りの魔力消費量が増えます。先ほどの一日30というのは重量にして100kg程度ですね。これを1000kgにすると一日辺り300近く消費します。」
(※ここで言う「kg」は前世の単位相当。)
「まぁ自分で荷物を担ぐことを思ったら100kgで魔力30は妥当なんだな。」
「そうですね。更に上位魔法になるともっと魔力消費は大きくなりますから、魔石を利用しないと個人の魔力では保持出来なくなります。そうなると消耗品である魔石の費用も嵩んで来ますので、商売や物流などに利用する場合が殆どですね。」
やっぱりそうなるか。
前世のトラックみたいなもんだな。
ストレージ魔法は自家用軽トラか。
それより大きい魔法は維持費の高いリースの大型トラックか。
荷物を積んで自分で運転すればどこにでも一緒に移動するところも同じだ。
「では、ストレージの魔方陣を描く練習をしましょう。」
ハンスはそう言うと、戸棚からインク瓶を持ってきて机の上に置いた。
とりあえず手の甲に参考書を見ながらストレージの魔方陣を書いて練習してみる。
何回か書き直して魔方陣がやっと起動した。
手の甲に何か繋がっているかの様な感触があり、そこに向かってストレージの呪文を唱えると中の空間がなんとなく認識できる。
そこに机の上に置いてあるティーカップを掴んで入れる様にイメージすると目の前からカップが消えてストレージに入った感触が分かる。
これは面白い。
何回か出し入れしている最中にうっかり魔方陣を描いた手の甲を擦って一部が消えてしまった。
途端に、中に入れていた物が一斉に出て来た。
「これ、手の甲に書くと危険じゃない?」
「そうですね。今は練習なので感覚が分かりやすい様に手の甲に描きましたが、実用にする場合はそれ様に作られた腕輪を使います。二重構造になっていて、内側に魔方陣を描くので腕輪自体を壊さない限りストレージが消えることはありません。」
なるほど。
そりゃそーだよな。
手を洗っただけで中身が放り出されては実用にならない。
ハンスの魔法訓練は「ストレージ」から始まり、今では一つ上の「ガレージ」も使える様になった。
但し、ガレージは標準サイズを作って何も入れていない状態でも一日辺り魔力を200消費する。
俺の魔力量は800を超えているので、一応ずっと保持は可能だ。
寸法がストレージより縦横高さで5倍大きくなることは大きなメリットだが、それに加えて時間経過が遅くなるのが良いな。
ストレージでは内部の時間経過は通常時間と同じだが、ガレージでは内部の時間経過が通常時間の1/100になる。
これは腐りやすい生鮮食料を長期間保持出来るということになるな。
生肉や野菜、卵などの食材は常温保存限度を2日とすると、200日近くは食べられる。
また、調理済みの料理で食べられる限度が作った次の日で1日程度なら、100日近くも美味しく食べられることになる。
これは食の革命だ!




