12◇生還
12◇生還
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ミラーが先頭で歩き、魔の森116番ゲートに近づくと管理棟から何人かが飛び出してきた。
「旦那様!坊ちゃんとミラーが帰って来ました!」
管理官のハリーが大声で管理棟に向かって叫ぶ。
その声に答えるように歓声が上がり、昨日はぐれたハンティングメンバーが出てきた。
「マーティン!死んだかと思ったぞ!よくぞ無事に帰って来た!」
父親が歓声を上げて俺に抱き着いてくる。
兄のマイケルも安堵した様な表情を浮かべていた。
「怪我はなかったか?打ち身とかも無いな?」
「はい、ミラーのおかげで無事に帰って来れました。」
俺は予めミラーと打ち合わせしていた様に全面的にミラーの手柄とする。
「ミラー!無事だったか!どうしたんだ!」
今度は父親ががミラーに近寄って両肩を掴み、強く揺さぶる。
ミラーは利き腕の傷に響いた様で顔をしかめて答える。
「少し力をゆるめてくださいませんでしょうか。利き腕を負傷しているので。詳しいことは一息ついてから報告させてください。」
「おお、それはすまんかった。まずは食事を摂ってくれ。」
ミラーと俺はハリーに案内され、管理棟内の食堂に入る。
ジェイムスが急いで昼食の残りを温め直して出してくれた。
俺とミラーは何も言わずにそれを大急ぎで掻き込む。
やはり立ち食いしたレーションでは足りなかったな。
全部食べ終え、一息つくと父親が俺とミラーの前に座った。
その横には兄とハリーも座る。
後ろには他の護衛と職員も座っていた。
「まずは生還おめでとう。二人だけで魔の森で一晩無事に過ごしたのはすごいことだ。ミラー、私達からはぐれた後のことを話してくれないか。」
「はい、旦那様。私とマーティン様がはぐれたのはレッサーベアーの別の群れにつきまとわれたからです。奴らは体格の小さいマーティン様に狙いをつけ、しつこく追ってきました。私はマーティン様をかばいながら剣で戦い、何とか討伐しました。しかしその時に利き腕を負傷した様でまともに剣が振るえなくなっていました。もう一方の腕で剣を振るっても魔獣に対しては十分対抗できないと思ったので、しばらく周囲を探索して大木の根本に洞を発見し、そこで一夜を過ごすことにしました。」
「それはかなり危なかったな。木の洞があったのも幸運だったか。」
「はい、木の洞にマーティン様と共に隠れた後、入り口をマーティン様の土魔法で覆って外部からは見えない様にしていただきました。その後に私の傷の手当をしていただき、マーティン様が持っておられた予備の食料を分けていただいて一晩休息し、次の朝から再び帰る道筋の確認をしました。魔道コンパスが破損していたため、少し迷いましたが。」
「よく帰還経路が分かったな。」
「はい、以前に何回かこのハンティングルートは通ったことかあります。その時に少し迷ったことがあり、そこから本来のルートに戻るまでの間に特徴的な岩を何個か見て覚えておりました。その時の岩が今回はぐれた後にもあったので、それを思い出しながら何とか元の経路に戻ることができました。」
そうだったんだ。
俺はてっきりミラーが道をよく知っていて、俺を先導してくれていると思っていた。
もしミラーの土地勘が少しでも足りなかったら本当に遭難していた可能性もあるんだな。
うーん、これからもこんなことがあった時に困らない様に、何かナビ系の魔法でも探すか。
ラノベで定番のオートマッピングなんて無いだろうな。
今回はミラーの魔道コンパスが魔獣との戦闘で壊れたので苦労した様だが、魔道コンパスを自前の魔法で実現出来ればいいな。
たとえば、管理棟にある結界魔道具の同調パターンを調べて自分の魔法で認識出来る様にしておき、離れた場所からその同調パターンを感じられる様にしておけば頭を向けた方向で一番強く感じた方向が結界魔道具のある方向となる。
勿論、距離によっては感度に制限はあるだろうから、どこまで実用的になるかはやってみないと分からないかな。
うん?魔道コンパスがあるのなら磁気コンパスもあるのではないか?
今まで聞いたことはないが、似たような惑星ならたぶん地磁気はあるだろう。
後で聞いてみよう。
全く違う方法だが、ドローンの様なものを上空に飛ばして俯瞰の地形を知る様な何かはどうかな。
自衛隊にそういう装備ってあったっけ?
いっそのことキラーバードに憑依し、自分の目で上空から見たいものだ。
俺があさっての方向の考えにふけっていると父親が俺に訊ねてきた。
「マーティンは今回戦ってはいないだろうな。お前はある程度対人では戦えるだろうが、魔物相手には分が悪い。下手に手を出して大怪我でもされると足手まといになって全員の生存性に関わってくるしな。」
へ、へぇ、そうなんだ。
うっかり自衛隊魔法で魔物倒しちゃったけど今はノーカンだな。
これはしばらく父親にも話せないな。
俺は静かにうなづくのであった。
「だが、土魔法で木の洞を塞いで一晩過ごすのは名案だな。領都に帰還したらどうやったか実演して見せてくれ。」
「はい、分かりました。手ごろな木の洞があるかどうかセバスチャンに確認してもらいます。」
これでとりあえずは今回の尋問?は終わった。
俺はミラーと目を合わせて軽く頷き、静かに息を吐いた。
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その日の夜は管理棟に一晩宿泊し、次の日の朝食後に再び馬車に乗る。
父親と兄と俺、そして負傷したミラーだ。
御者席にはミラーの部下の一人が座って馬車を操っている。
ミラーの部下の馬は他の護衛の馬に繋がれて引かれている。
帰りは行き同様、何事も無く田園の風景の中を走る。
俺は前の世界であくせく働いていたことと、転生してからのことを思い出しながら妄想に浸っていた。
今回、魔獣に襲われて死んでいたらどうなっていたのだろう。
また転生か?
どうやら上位存在が居るようなので、その可能性は十分にある。
ならなぜ俺なんだ?
そしてマーティンなんだ?
自衛隊魔法?
それが一番分からない。
上位存在の趣味か、ジョークか、いやがらせか。
まぁ俺にとっては強力なデバイスが容易に手に入るということは万々歳なんだが。
それよりももうちょっと基礎体力を付けられる様にして欲しかった。
目覚めてからのこの半年、マークに厳しくトレーニングさせられたがちっとも筋肉が増えないんだよな。
まぁまだ12歳だからというのも理由かもしれないが。
太陽が天頂にさしかかった頃、昼休憩として行きにも利用した道横の空き地で簡易テントを設営する。
もうそれキャンプだろ。ちょっと道具は古臭いが。
食後の休憩時に俺は一人馬車の陰に行き、ステータスを表示させる。
「ステータス表示」(12歳6ヵ月半)
「名前:マーティン・ランバート」,「年齢:12歳」,「性別:男」
「レベル:10」,「体力:280」,「魔力:840」,「精神力:590」
「攻撃力:330」,「防御力:420」,「素早さ:310」,「器用さ:720」,「賢さ:840」,「運の良さ:660」
「スキル:自衛隊魔法」
「転生者特典:元の世界の自衛隊装備を召喚出来るスキル。」
「召喚可能品:レベルに応じて強力な武器や装備を召喚可能。」
「ランク1武器:9mm拳銃、9mm実包100発、9mm拳銃用スペアマガジン、ガンベルト(ホルスター、ポーチ付き)」
「ランク1装備:レーション、飲料水、医薬品キット、簡易工具類、戦闘服上下、ブーツ、ヘルメット、テント」
「消費魔力:ランク1を1式召喚で魔力を600消費。」
「ランク2武器:89式5.56mm小銃、5.56mm実包100発、89式用スペア30連マガジン、89式小銃用照準補助具、89式多用途銃剣」
「ランク2装備:板チョコレート、缶コーヒー、カ〇リーメイト、カッ〇ヌードル、本格工具類、双眼鏡、インスタントカメラ」
「消費魔力:ランク2を1式召喚で魔力を1200消費。」
「スキル:粉砕魔法」
「転生者特典:元の世界の産業廃棄物破砕機で砂粒程度の大きさまで破砕可能なスキル。」
「ランク1粉砕:片手で持てる程度の体積、重量の物体を砂粒レベルに破砕可能。」
「消費魔力:ランク1を最大体積・重量で実行すると魔力を200消費。」
「ランク2粉砕:両手で持てる程度の体積、重量の物体を砂粒レベルに破砕可能。」
「消費魔力:ランク2を最大体積・重量で実行すると魔力を400消費。」
をを!
スキルのレベルが上がってる!
やはりレッサーベアーとグレイウルフを一人で倒したのが効いているのか?
レベル以外も全体的にアップしてるな。
しかし、レベルが10になったからキリが良いからスキルが上がったのか?
次のランク3はどうなんだろ?
召喚出来るモノは追加されるんだな。
これなら今後も低いレベルの装備も使えるな。
ランク2装備がちょっと冗談じみているが、これは自衛隊内のPXの商品だな。
PXというか、最近ではコンビニだな。
ニュースで3大コンビニは既に駐屯地内に店を構えていると見たことがある。
この世界の甘味はまだまだ未成熟で味気ない。
独り占めするのはちょっと心苦しいが、時々は利用して息抜きをしよう。
カ〇ヌは元日本人には涙が出るほど嬉しいな。
本格工具はまぁいいだろう。
双眼鏡はこの世界にもあるのかな?
さすがにインスタントカメラは無いだろう。
いや、イメージを扱う魔法があれば出来ないこともないだろうからひょっとするかも。
そして、ランク2の武器だ。
89式が入っている。
これなら魔獣に遠距離からある程度の打撃を与えられる。
さすがに100mも先から攻撃されてすぐさま反撃されることはないだろ。
9mm拳銃では有効射程が30mも無かったのでこれはかなりのアドバンテージだ。
ひとつ心配なのは弾薬が5.56mmなことだな。
前世でも猛獣相手に5.56mmは辛かった様だし。
まぁ連射できるから何とかなるとは思うが。
ここは64式7.62mm小銃が欲しかったところだ。
ちょっと古いから標準装備からはもう外されているだろうが、まだ残っている部隊もあるらしい。
次のランクアップ時には是非入れてほしいものだ。
そんな考えと妄想に一人で浸っていた俺は後ろからミラーに声をかけられて跳びあがった。
「驚かせてすみません。出発の準備がもうすぐできるとのことです。」
「や、やぁ、ちょっと人には言えないことを考えていたんで驚いたよ。ところで、ここに何か見える?」
「いえ、何も。何かあるんですか?」
「いや、見えないんならいいんだ。」
「昨日のアレ関連ですか。慎重になることは良いことです。知られなければ干渉されることもないですし。」
やっぱりアイリスの言うとおり、自分のステータスは他人には見えないみたいだな。
ミラーは少し誤解した様だが、これはそのままにしておこう。
「うん。それは分かってる。ミラーもしばらくは協力してね。」
俺がそう言うとミラーは肯定して父親の方に歩いて行った。
護衛達が簡易テントと調理器具を撤収し、馬車に積み込んで準備完了の報告を父親にする。
「さて、出発しよう。」
父親がそう言って俺たちは馬車に乗り、護衛は馬に跨った。
午後もずっと田園風景の中を馬車は走り続け、少し日が落ちかけた頃に領都の城下町が見えてきた。
やっと帰って来たという安心感で俺は馬車の中で眠り込んでしまっていた。
ミラーに揺すられてはっとして起きる。
馬車はちょうと領都屋敷の門に入るところだった。
屋敷の前には執事とメイドが並んで出迎えている。
父親と兄と俺は馬車から降りて屋敷に入り、中で待っていた母親と妹に挨拶を交わす。
妹もさすがにこの頃になると、俺ともそっけない会話程度はしてくれる様になっていた。
「おかえりなさい、あなた。」
「おかえりなさいませ、お父様、お兄様」
お兄様は二人居るんだが、どっちだ。
まとめちゃったのね。
「うむ。今回はちょっと大事になりかけた。だが一人も欠けることなく帰ってこれた。」
「まぁ、それは大変でしたね。さぁゆっくりとくつろいでからお話を聴かせてくださいな。」
母親はそう言って、俺たち家族と共にダイニングに移動した。
ダイニングでは料理長のジョセフが夕食を用意していた。
「お帰りなさいませ、旦那様。お疲れでしょうから少し濃い味付けにしております。」
ジョセフはそう言ってメイドに指示し、配膳が始まった。
「さて、今回無事に帰って来れたことに乾杯しよう。」
父親がそう言って、ワインのグラスを掲げる。
もちろん、俺と妹はぶどうジュースだ。
兄は14歳なのでかろうじて成人と見做されてワイングラスを掲げている。
「乾杯!」
皆で声を合わせて飲み干す。
その後は腹の減った父親、兄、俺が料理をがっついて食べ、その間母親と妹は話しかけずに大人しく食事をしていた。
食事が終わって食後の紅茶を飲んでいると母親が今回の顛末を聞きたいと催促した。
「うむ。今回はマーティンが大変だったのだ。ハンティングの行程で昼までは順調だったのだが、その後レッサーベアーの集団に遭遇してしまってな、そこでマーティンとミラーがはぐれてしまったのだ。」
「まぁそれは大変。魔の森で二人だけになったらどれだけ危険なんでしょう。」
「そうだ。その状況になったら普通は生還も危ぶまれる。だが、ミラーとマーティンは帰って来た。勇気と工夫と幸運が重なったことによる奇跡とも言える。」
父親はそう言って俺の土魔法での木の洞の利用方法を説明しだした。
だが、詳しい方法を俺から聞いていなかったので途中で俺にパスしてきた。
「では、私が行った土魔法の使い方を説明します。私の土魔法はアース系と言い、今回使用したのはアースシールドという魔法です。これは土の地面から土砂をかき集めて自分の前方に固めた土の板を作ることが出来ます。」
そう言って、俺は両手を広げて縦横40cmくらいで厚みが20cmくらいの板を表現する。
「この板を何枚も作り、ミラーが入った大木の洞の入口を塞いでいきます。今回は三重に重ねて強度を出しました。これくらい重ねるとレッサーベアーでも容易に崩せないと思われます。」
たぶんね。
実際にレッサーベアーが穴掘りしているところを見たことが無いのでなんとも言えないが。
「重ねる時に空気穴と監視用の穴を同時に作り、外敵の有無を確認出来る様にもしました。その後私が入れるだけの細い穴をくり抜き、中に入って塞ぎました。後はミラーの怪我を手当し、私の持っていた予備の食料を二人で分け合って飢えをしのぎました。」
実際には鎮痛剤やら抗生物質やらレーションやらでチートをしてたんだけど。
おまけに9mm拳銃の試し撃ちまで出来ちゃったし。
「そうやってミラーと一晩洞で過し、翌朝少し回復したミラーと共に魔の森から脱出したということです。」
俺が簡潔にまとめると父親は少し不満げに問うてきた。
「その土魔法だが、もう少し詳しく説明できないか。」
うーん、これは実演してみないと言葉だけではどれだけ言っても伝わらないだろ。
「父上、管理棟でも話しましたが、実際に木の洞をアースシールドで覆うところを実演しないと分からないと思います。」
「うむ。そうだったな。明日セバスチャンに適当な木の洞を用意させておこう。その時にまた声をかける。」
父親はそう言ってこの話はこれで終わりとなった。
俺は疲れていたが、アンナに手伝ってもらって入浴して着替え、ベッドに倒れ込んだ。
やっぱり12歳の体力はこんなもんなんだ。
だけど精神的な疲れも大きいんだろうな。
フルマラソンよりは体力的には楽なはずなんだけど。
俺は屁理屈をこねながら眠りに落ちた。




