表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

11◇ハンティング

11◇ハンティング

=============================


さて、今日はハンティングに同行する日だ。

朝早くから目覚めてしまって、アンナを呼んで早速皮鎧を着込んだ。


朝食に行くと、父親が呆れた様に言った。


「おいおい、そんなに気を張っていると途中でばてるぞ。出発はもう少し後だ。今は皮鎧は脱ぎなさい。」


父親にそう言われて、俺は少し恥ずかしくなってアンナともう一人のメイドに皮鎧を脱がせてもらった。


朝食を摂りながら俺は父親に訪ねてみる。


「父上、今日のハンティングは魔の森116番ゲートと聞いております。ゲートを越えてからどれくらいの日数、向こうに居るのでしょうか。」


「今日はまず魔の森116番ゲートまで行き、そこで一泊する。次の早朝から出発し、魔の森の定期巡回ルートを回って夕方までにはゲートまで帰って来る。魔の森の中での宿泊は基本的になしない。」


「そうなんですね。てっきり何日か魔の森の中を移動するのかと思いました。」


「魔の森から魔物が溢れそうになった時は中隊規模の討伐隊で何日もかけて魔の森を行軍する。その時は簡易結界魔道具を数セット持ち込んで宿泊地に結界を敷く。今回は比較的魔物の少ないゲートの定期巡回なので日帰りだな。魔物は遭遇したものは討伐するが、速度優先で死体はそこに放置する。冒険者みたいに獲物の換金が目的ではないからな。」


「わかりました。日帰りならそうきつくもないんですね。」


「おいおい、日帰りと言っても一日中歩くんだぞ。おまえにそんな体力があるのか?」


兄のマイケルにそうからかわれたが、俺はマークとの鍛錬で装備一式着けてマラソン並みの距離を何回も走っている。

歩くだけならそうきつくもないだろ。

俺が参加するって聞いてもマークも何も注意しなかったしな。


「たぶん大丈夫です。日頃マークに鍛えられてますので。」


俺は握り拳を胸に当ててそう答えた。



朝食が終わって自室に戻り、暫くするとアンナが出発の準備をしましょうと言って入って来る。

俺はアンナに手伝って貰って皮鎧を着て、マークに用意してもらった装備を背に担ぎ、護衛部隊備品のショートソードを佩いた。

アンナに最終確認をしてもらって玄関に行く。

外には馬車が待っており、その前に父親、兄、護衛5人が整列していた。

俺は急いでその列に加わると、父親が今回のハンティングの概要を話した。


「今回のハンティングは魔の森116番ゲートからの定期巡回とする。管理棟に到着した翌日早朝から夕方までの間に、以前より定められた巡回ルートを巡って魔の森に異常が無いか確認する。今回はマイケルとマーティンが参加するが、戦力とは考慮しない。」


父親はそう言って、馬車に乗り込んだ。

俺と兄も続けて馬車に乗り込み、護衛隊のミラーは御者席に乗り込んだ。

護衛隊の残りの4人はそれぞれ馬に乗り、馬車の周囲に囲う様な位置に着いた。


「では出発します。」


御者席のミラーがそう言うと手綱を引いて馬車を発進させた。

玄関の横には母親と妹、執事のセバスチャンも横に並んで見送っていた。



領主屋敷を出て城下町を抜けると田園風景が広がる。

数時間走って昼頃になると休憩と昼食を兼ねて道の横の空き地に簡易テントを設営する。

護衛の5人があっという間にテントと簡易調理器具をセットした。

護衛の中の2人が調理担当で、後の3人は周囲の警戒をしていた。

暫くして昼食が出来たと調理担当が言って来る。

肉の串焼きとスープとパンだ。

野営の定番らしい。

1時間もかからずに昼食を終え、撤収する。


午後もずっと田園風景の中を馬車は走り続け、少し日が落ちかけた頃に魔の森116番ゲートの管理棟に到着した。

馬車が到着すると、管理棟の管理人と思しき皮鎧を来た壮年の男が出迎えてくれた。


「旦那様。お疲れ様でございます。まずは軽い食事をご用意しますのでお寛ぎください。」


「ハリー、出迎えごくろう。皆も中の食堂に入ってくれ。」


父親がそう言って、俺と兄に促す。

護衛達はいつものことなので素早く馬を厩舎に入れて食堂に入って来る。

食堂ではもう一人の壮年の男が食事の準備をしていた。


「マイケルとマーティンはここは初めてなので説明しておこう。まず管理棟管理官のハリー。そして管理棟職員のジェイムスだ。この二人がここに常駐して管理棟の結界魔道具の管理と調整を行っている。ハリー、ジェイムス、こちらの2人が私の息子だ。兄のマイケルと弟のマーティンだ。」


「始めまして、マイケル様。マーティン様。今回のハンティングの間、お世話をさせていただきます。何かご要望がありましたら、私かジェイムスにお声をかけてください。」


「よろしく、ハリー、ジェイムス。」


「初めてなのでよろしくお願いします。」


兄と俺は答えて席に着いた。

兄は前回来ているはずだが、どうやらハリーとジェイムスとは初顔合わせの様だ。

管理官はローテーションしているのかもしれない。


ジェイムスが用意した食事を食べながらハリーが明日の予定を語る。

出発前に父親に聞いていた内容と同じなので安心する。

いや、現地の状況でやばい状態になってたらいやじゃないか。

まぁそうなったらのんきに食事なぞしていないだろうが。


夕食後、風呂は無いのでジェイムスの用意してくれた桶の湯でタオルを使って汗を拭う。

今日は一日馬車に乗っていたので思ったよりも疲れていた様で、管理棟の宿泊室のベッドに倒れ込むとそのまま熟睡した。


―――――――――――――――――――――――――――――


次の日の朝、まだ外が暗いうちからミラーに起こされた。


「マーティン様、起きてください。皆さんもう起きて準備をしていますよ。」


俺はあわてて飛び起き、ミラーに手伝ってもらいながら皮鎧を身に着けた。

食堂に行くと既に全員そろっており、ジェイムスが朝食をよそっているところだった。


「マーティン、寝坊か。やはり馬車とは言え、長時間の移動は疲れたのか。」


父親がそう言ってくるが、さすがに外が暗いうちから起きる習慣は無いので起きれなかったのは仕方ないというものだろう。


「父上、申し訳ありません。自分でも思った以上に疲れていたのかもしれません。でも、もう完全に起きました。」


俺はそう言って、両手で自分の頬を軽く叩く。


朝食の準備が出来た様で、父親の合図と共に皆黙々と食べ始める。

すぐに食べ終え、食後の紅茶をジェイムスが出してくれたので飲み、父親の掛け声と共に管理棟を出て整列した。


「今より、魔の森116番ゲートの定期巡回を行う。ミラーともう一人を先頭に、私とマイケルの後にマーティンを配置。その後ろに残りの護衛隊が着く様に。」


こういう並びだ。

ミラー、護衛1、父親、兄、俺、護衛2、護衛3、護衛4

ミラーを先導に魔の森を巡回する。

道順は簡易的な地図はあるが、現地の地形と太陽の位置、歩いた歩数で修正しながら行軍する。

それともうひとつ、魔道コンパスがある。

これは結界魔道具と魔力波長を同調させた針が振れる方位計で、予め同調させた結界魔道具に向かって針が常に指し示す。

今回の魔道コンパスの側面には「116」と刻まれていた。

ミラーに見せてもらったが、見た目は方位磁石の様で、赤い小さな結晶が中の針の片方に埋め込まれている。

この結晶が116番ゲートの結界魔道具と同調されているらしい。

魔道コンパスのケースを回してみても、針の結晶は常に隣室の方向を指していた。

そこに結界魔道具があるのだろう。

この魔道コンパスが開発されてから魔の森の巡回が飛躍的に楽になったらしい。

何しろ道なき道の行軍だ。

一旦迷うと本当に遭難しかねない。

常に帰る方角が分かるというのは何物にも代えがたい安心感がある。


ミラーを先頭に、行軍を開始した。

30分に一回程度、グレイウルフが数頭現れ、その都度護衛が3人がかりで討伐してゆく。

ミラーともう一人の護衛は我々3人の親子の両脇で守りに徹していた。


巡回する道順を地図で確認しながらミラーと父親が現在位置を記入していく。

複数人の歩数による距離測定と太陽の位置による方位の観測、魔道コンパスによる起点からの方角を総合的に考慮して現在位置を確認するので、かなり正確な行軍ルートとなるらしい。


太陽が真上に達した頃、少し開けた場所で昼食となった。

魔の森の中で火を使って調理の匂いを振り撒くことは無謀である。

すぐに匂いを嗅ぎつけた大量の魔物の襲撃を受ける。

従って、昼食はパンと干し肉とドライフルーツを水で流し込む。

食後は周囲を警戒しながら30分ほど休憩する。


午後は魔物と遭遇する度に、護衛が弱らせたグレイウルフを兄のマイケルと対峙させて討伐させる。

さすがに弱ったグレイウルフと1対1なら兄も負けはしない。

危なげなく倒していった。


何回かその様子を見ていた俺は、とうとう我慢ならず父親に声をかけた。


「父上!私も一頭くらいは討伐させてください!」


父親は呆れた様に、


「出発前に言ったではないか。今回はお前は見ているだけだ。決して手を出すなよ。」


そう言われて俺は肩を落とす。


「お前はまだ12歳だ。体も小さいし、訓練も足りていない。今回参加させたのは見て学ぶためだ。」


そう言われると返す言葉もない。

俺はしぶしぶ納得したという顔をしてうなずいた。


それから数時間巡回し、そろそろ引き返そうという時になって、レッサーベアーの群れと遭遇した。

レッサーベアーはグレイウルフより一回り大きく、かなり俊敏に動く。

今度は俺と兄以外の全員で討伐に当たっていた。


―――――――――――――――――――――――――――――


何回かの攻撃の波が収まった頃、俺とミラーは他の護衛や父親達とはぐれていた。

群れがいくつかのグループに分かれて我々を攻撃していたのが原因らしい。

しかもミラーが利き腕を負傷して、まともに剣を振れなくなっていた。

レッサーベアーの群れとは少し離れたみたいで、俺とミラーは大木の洞に隠れてやり過ごす。


「マーティン様、申し訳ありません。しばらくここに隠れていてください。同僚を探して戻って来ますので。」


「ミラー、ここで離れるのは悪手だ。私にまかせてもらえないだろうか。」


俺は置いていかれたらもっとやばいと思い、ここぞとばかりに自衛隊魔法を使う。


「自衛隊魔法、ランク1召喚」


俺はランク1武器の「9mm拳銃」をタッチで選択して召喚呪文を唱えた。

淡い光と共に目の前の地面に自衛隊仕様9mm拳銃が現れる。

続けて9mm実包100発とスペアマガジン5本、ガンベルトも召喚した。

今は魔力が580あるので、これだけ一気に召喚しても消費魔力は370だ。

まだ少しは余裕がある。


「少し待ってくれ。」


俺は紙箱に入った9mm実包をスペアマガジン5本と9mm拳銃から抜いた1本の合計6本に詰め、1本を9mm拳銃に叩き込んでパワーアシストと共に力をこめてスライドを引く。

用心のためデコッキングしてハンマーを安全に落とし、腰に回して装着したガンベルトのホルスターに収めた。

5本のスペアマガジンの内1本は革鎧のポケットに、残りの4本と余った9mm実包はガンベルトに付属のポーチに入れた。


「マーティン様、それは?」


疑問に思って当然だろう。

俺がいきなり見慣れない物体を召喚し、慣れた手つきで扱ったのだ。

不安そうな目で俺を見て来る。


「ミラー、いままで黙っていたけど、私には特殊なスキルがある。召喚したこれは武器だ。魔道具で、離れた所に致死的な石礫を投げつける機能がある。」


俺は物理的な9mm拳銃の動作原理の代わりに、「魔道具」という便利な言葉で説明を省略する。

ミラーはあまり信じていない面持ちで「魔道具」を見ていた。


さて、以前から考えていたことを試してみよう。

俺はウィンド系の魔法、「ウィンドエバキュレーター」を発動し、9mm拳銃の銃口より先に展開した。

丁度、銃口に直径1m程度の真空の風船が付いているイメージだな。

もちろん、目には見えないが。

9mm拳銃使用時に、サイレンサー代わりになることを期待して予め予習しておいた。

ウィンドエバキュレーターの直径は最大1m程度で一旦作ると大きさは一定だが、内部気圧は任意に変化させられる。

内部気圧を下げれば下げるほど魔力消費量は増えるので、最初は0.5気圧程度で作って銃口に座標固定して保持しておく。

これなら索敵中にずっと展開しておけ、間違って同僚に向けて巻き込んでも少し苦しくなる程度で被害は少ない。

圧力変化はトリガーを引く動作と連携するように条件付け、右手の人差し指の引く意思に連動してほぼ真空になる様に設定した。

これで半分無意識で使える様になる。


そのまましばらく木の洞に隠れていたが、低木をかき分けて小枝を折る音が聞こえるのでそっと覗いてみると、50mくらい離れたところにレッサーベアーが一頭こちらに向かって歩いていた。

俺はミラーに動かない様に身振りで示し、レッサーベアーの頭に向かって狙いをつけた。

30mくらいまで近寄った時に両手にパワーアシストを掛けながらグリップをがっちり握ってホールドし、静かにトリガーを引いた。

ハンマーが落ちた瞬間、目の前に発射の閃光が迸り、強い反動と共に鈍いバスっという音がした。

俺はマガジン内の9発が尽きるまでレッサーベアーの頭部に向けて撃ち続け、素早くマガジンチェンジをしてスライドストップを下げて初弾を送り込み、再度照準を向ける。

レッサーベアーはその場に倒れて痙攣していた。


発射音はウィンドエバキュレーターの真空玉でかなり吸収したのでそう大したことはない音量だった。

9mm弾の発射音はまともに近くで聞いたら耳鳴りと共に難聴になるくらいなのでその対策である。

もちろん、他の魔物の注意を引かないという意味も大きい。

ただ9mm弾は音速を超えるので、弾頭が空気を引き裂くパシーンという衝撃波音はどうしても残ってしまうが。


「マーティン様!それはいかなる魔道具ですか!しかもその威力は!?」


ミラーは見たこともない武器とその威力に半ば腰を抜かしていた。

俺はしばらくは質問しないでくれと言って黙らせ、9mm拳銃をデコッキングしてホルスターに戻し、5分ほど周囲の様子を伺う。

他の魔獣が近づいて来る気配が無いことを確認した後、ミラーの負傷した利き腕を調べる。

ミラーの持っていた救急セットの中に傷に効く薬草を湿らせた束と包帯があったので、傷口を水筒の水で消毒した後に薬草を当てて包帯を巻く。


「ありがとうございます。今はもう質問はしません。二人で生き残ることに専念しましょう。」


「まかせてくれ。」


俺はそう言うと、ミラーを大木の洞の中に座らせた。

一旦洞の外に出て、アース系の魔法のアースシールドを繰り返し使って大木の洞を覆う様に土の壁を作ってゆく。

具体的には40cm四方で厚さ20cmくらいの土のブロックを次々と作り、それを半分づつ重ね代が出来る様にして洞の入口をゆるいドーム状に三重に覆い、強度を確保する。

石作りのドーム状天井の一部を切り出した様な構造だ。

土板同士の接合面はアース系魔法を細かく使い、お互いに一体化する様なイメージでくっつける。

何か所か小さな通気口と覗き穴も作っておいた。

最後に俺自身が中に入る為の最小限の穴をアース系魔法の応用で開け、頭からもぐりこんでその後再度アース系魔法で塞ぐ。

最後に、土板製ドーム全体に強化魔法をかける。

イメージとしては分子間力が強力になる様な状態を想像し、材質自体が厚み方向に収縮して固く頑丈になる様に強く念じる。

ついでに、土板の両端と木の洞との間をお互いに凹凸が噛み合う様な構造に変形させ、同時に互いの材質の表面が少し溶けて混じり合い、その後硬化して一体化する状態をイメージする。

これにより、土板は高密度セメントブロック並みの強度が出て、木の洞にがっちり接合された状態となる。


先ほど倒したレッサーベアーの死体が30mほど離れた場所にあるので、その臭いが囮になってこの洞が見つかることはあるまい。

俺は「ライト」を使い、暗い洞の中で元の世界の豆電球ほどの灯りを点ける。


その様子をミラーは黙って見ていたが、魔物との戦闘でかなり疲れていた様でしばらくすると目を瞑ってうつらうつらしていた。

俺は自衛隊魔法で医薬品キットを召喚し、鎮痛剤と抗生物質を規定量取り出してミラーを起こして飲ませる。

これでこれ以上悪化することはあるまい。


続いて自衛隊魔法でレーションと飲料水を召喚する。

レーションは運よく加熱しないでも食べられる缶詰が出て来たので、簡易工具類も召喚して缶切りで開ける。

飲料水も召喚してミラーの横に置いた。


「ミラー、眠いだろうけど、これを食べるんだ。」


俺はミラーを揺すってむりやり起こし、護衛隊装備のフォークとスプーンを使ってレーションの缶詰を食べさせる。

ミラーは半目になりながらもなんとか咀嚼して飲み込んでいた。

時々飲料水も飲ませ、ついでに俺も食事を済ませた。

済んだ後は証拠隠滅で粉砕しておく。


ミラーのリュックサックの中には魔獣よけの薬草が入っていたので、石ですり潰して土板の空気抜きの穴に塗っておく。

これで魔獣が近寄って来ても俺やミラーの匂いでこの洞を襲撃することはないだろう。


季節がら、気温はさほど低くはないのでそのまま寝ても凍死することはない。

ミラーの様子を確認して俺も眠りについた。


―――――――――――――――――――――――――――――


次の日の朝、アースシールドで作った壁の通気口から差し込んで来た朝日で目覚める。

夜間に魔獣が土板を引っ掻く様な音はしなかったので、魔獣除けの薬草は効いたみたいだ。

ミラーを見てみるとまだ眠っていたが、呼吸は規則的で安心した。


自衛隊魔法でレーションと飲料水を召喚し、加熱無しで食べられる缶詰のみを缶切りで開けて用意する。

ミラーの肩を揺すって起こし、レーションを食べる様にフォークを手渡した。


「マーティン様、これは何でしょう?」


「食べ物だよ。私も食べるから今は何も聞かないで食べてくれ。」


俺がそう言うとミラーは若干戸惑いながら食べてくれた。


「美味い!これなんて食べ物なんですか!」


ミラーがちょっと大きな声を出したので、シーと言って黙らせる。

レーションのウインナーソーセージ缶と味付ハンバーグ缶がヒットした様である。

昨日も食べているはずだが、疲れて味が分からなかったのかもしれない。


俺も同じ種類の缶詰を食べて、食後に飲料水のペットボトルを開けて少し飲み、ミラーに渡す。

ミラーは戸惑っていたが、俺が飲んだので同じ様に水を飲んだ。


「なんて綺麗な容器なんですか!しかも軽い!」


ミラーがまた小さい声で騒ぎ出すのでまたもやシーをやって黙らせる。

説明が色々面倒な時はこれに限るな。


食事が済んで、空容器をミラーに見えない様に後ろ向きで粉砕処理する。

振り返って、ミラーと今後の行動について話す。


「父上達とはぐれてしまったのが最大の失態だけど、状況からして今回は仕方が無かったと思う。」


「はい、私もそう思います。無理にでも付き従っていたらもっと損害が大きくなったかと。」


「そこで私の家族にも秘密にしていた能力で魔獣を退け、ここに安全地帯を設けてミラーの回復を図ることにした。」


「はい。それは感謝しています。ただ、マーティン様の能力が少し怖く感じます。」


「うん。そう言われると予想していた。知られると利用しようと思う悪い人間も近寄って来るだろうしね。」


俺は昨日は胡麻化したが、今同行しているミラーにはある程度話しておいた方が良いと判断し、説明しだした。


「しばらくは秘密にしておこうと思ったんだけども、今は緊急時なので私のスキルについて説明しておくね。」


俺はそう言うとホルスターから9mm拳銃を引き抜いた。


「これは魔道具の一種で、魔弾を連続して撃ち出せる魔拳銃という物だよ。」


俺はそう言って、マガジンを抜いて9mm実包を抜き出して見せる。

マガジンには9発入るので、連続して9回魔弾が発射出来る。

マガジンは予備を用意しているので、魔弾が装填されたマガジンを交換することで次々に9連射が出来る。

という様なこじつけの説明をする。


そのまま魔拳銃を撃つと雷が落ちた時の様な轟音がするが、俺のウィンド系魔法で轟音を打ち消して少し離れると殆ど聞こえない程度の音に下げているとも説明する。


「一発の威力はそれほど大きくはないけれど、連射することで昨日やった様にレッサーベアーくらいなら倒せるな。」


実はヒヤヒヤものだった。

9mm拳銃弾、しかもフルメタルジャケット弾で熊を撃ったのだ。

元の世界での対熊猟で拳銃弾がいかに心もとないのは知っていたので、頭部に連射して目と鼻と脳を潰すことを最優先とした。

運良く9連射で熊が倒れてくれたおかげで生き延びたという訳だ。

元の世界でピストルの実弾射撃を散々やったのが役に立ったな。

30mくらいまでならヘッドショットは確実に決められる。


俺はふと思いついて、9mm実包の銅色の弾頭の先端を簡易工具のヤスリで削って鉛の弾芯を少し出すということをやりだした。

ミラーが興味をそそられた様でじっと見ている。

俺は簡易工具をもう一本出してミラーに渡し、ヤスリで9mm実包の弾頭を削ってくれと要望した。

削る量はこれくらいという見本も渡した。

ただ、思う様に力が入らないのか、時々9mm実包を落としてしまう。


「ゆっくりでいいから。」


俺がそう言うとミラーは申し訳なさそうな顔をして9mm実包を拾ってゆっくり削りだす。

二人で一心不乱に60発ほど削って、当面使う分は用意できた。

弾頭の鉛が剥き出しになった中央には簡易工具のキリで3mmほどの穴を開ける。

これは動物相手に有効なホローポイント弾という奴だ。

相手に喰い込んだら中で広がって威力が格段に増す。

それを6本のマガジンに詰め直し、4本と余った実包はガンベルトのポーチに収めた。

1本を革鎧のポケットに、残りの1本を9mm拳銃に装着してスライドを引いて初弾装填し、デコッキングしておく。

ホルスターに収め、今の状況を確認する。


「ミラー、腕の傷の具合はどうかな。」


「はい、だいぶ痛みは引いています。ただ、思うように力が入らないので剣を十分に振るえません。しかし、もう一方の腕でもある程度は剣を振るえますので、魔の森からの脱出には十分かと。」


「私も剣はある程度振るえるが、先ほど見せた魔拳銃の方が威力が大きい。今回脱出まではこちらを使うよ。」


俺は12歳という体格から来る不利を十分に理解している。

圧倒的にリーチが足りないのだ。

絶対的な筋力もまだ少ない。

魔法で補ってもやはり大人には敵わない。


そんな不利を覆すために、せっかく異世界転生特典で貰った?自衛隊魔法を十分に活かすべく、ずいぶん前からイメトレを繰り返して来た。

今回それが図らずとも役に立ったかたちだな。


さて、出発したいがこの木の洞の周辺状況が分からない。

だが、精神を集中して意識を水平方向に薄く伸ばしていく様にイメージすると、なんとなく周囲の魔獣の存在が分かる。

俺が集中しているのでミラーは黙っている。

時々周囲をレッサーベアーやグレイウルフらしき魔力の塊が通り過ぎる。

しばらくして周囲に魔獣の気配が消えたのを確認して、俺はアースシールドを制御に使い、洞を覆う土の壁を徐々に崩していった。

俺の上半身が入るくらいの穴を開け、穴から頭を出して周囲を伺う。

少し離れた所に倒れた熊はかなり食い荒らされていた。

たぶんグレイウルフだろう。

魔物は付近にはもう居ない様だ。

一旦木の洞の奥に行き、ミラーもこちらに来る様に合図する。


俺は9mm拳銃を抜いて両手で構えてミラーに合図し、ミラーが利き腕とは反対の腕で剣を握って構えたところでアースシールドの応用で物質間の結合を引き剥がし、ゆっくりと土の壁を崩した。

ミラーと背中を合わせてそっと木の洞から出てゆく。

周囲に魔獣の影が無いことを確認してほっとする。


「ミラー、現在位置は分かるかな。」


「太陽の位置と地図である程度は分かります。魔道コンパスが壊れているので周囲の地形を確認して判断します。」


ミラーはそう言って、少し離れた所にある大きな岩の上に上がった。

その時だった。

空から急降下してくる魔物があった。

キラーバードだ。

大きさは翼を広げて5mはある。


俺はミラーに「伏せろ!」と声をかけると共に9m拳銃を引き抜き、銃口にウィンドエバキュレーターを発動してサイレンサーを作る。

キラーバードの飛行軌跡を予想しながら9mm拳銃を続けざまに発砲していく。

数発がキラーバードに当たった様で、急に方向を変えて飛び去って行った。


「危なかった!ありがとうございます。私も用心が足りていませんでした。」


ミラーはそう言いながら急いで俺の元に戻って来た。


「先ほど岩の上から見たところ、ここは以前一度通ったルートの途中の様に思えます。その時のルートはだいたい覚えていますので、私が先導します。」


ミラーはそう言うと、剣を構えながら俺の前を歩きだした。

途中で何回か止まって現在位置を再確認し、太陽が頭上にさしかかる頃にやっと本来のルートに戻った。


昼食としてレーションを出してミラーと分け合い、立ったまま食べる。

それから数度のグレイウルフの襲撃があり、ミラーの後ろから忍び寄って来た個体は俺が9mm拳銃で始末した。

体感で3時間ほど経過した頃にやっと魔の森116番ゲートが遠くに見えてきた。


「ミラー、もう一回確認するけど、今回私が出した魔道具や食料についてはしばらく誰にも言わないでほしい。もちろん父上にもマーク隊長にもだ。」


「それはずっとですか?」


「いや、私もいつまでも隠し通せるとは思ってはいない。頃合いを見計らって、私からまず父上に打ち明ける。」


「分かりました。では今回の生還した過程の報告を少し変える必要がありますね。」


「うん。私はまだ戦えないということになっているから、ミラーが剣を振るって魔獣を牽制して私と共に大木の洞に避難し、入口を偽装して一晩を何とか無事に切り抜けた、という方向で報告をお願い。」


「承知しました。食料と水も一晩くらいなら人間は何とかなるで押し通しましょう。私の怪我も思ったより軽かったということで。」


「それと、今回私が使った魔道具はここで一旦消滅させる。そのまま持って帰るわけにはいかないしね。」


俺はそう言うと土魔法で少し地面を掘り下げ、ガンベルトごと9mm拳銃を中に落として粉砕魔法をかける。

しばらくすると砂粒くらいまで粉砕され、土と見分けがつかなくなった。

その上から掘り起こした土を被せて平らに均しておく。


俺がちょっともったいなかったかなと思ったのが顔に出たらしい。

ミラーがそれを指摘すると俺は苦笑いをしながら魔の森116番ゲートに向かって歩きだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ