第6話 いらない子【SIDE:麒麟峰ライカ】
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※この話はライカ視点で描かれます
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(さて……彼女は如何ほどの実力を持っているのかしら)
ライカは二種類の異能を所持している。
『雷』と『光』
その複合的な干渉により、機械系モンスターであるジェノサイドマシンをハッキングし、強制制御下に置くことが可能だった
ジェノサイドマシンはライカの異能によって操り人形と化し、全ての出力を限界を超えたレベルまで引き上げられている。
獣のような駆動音を上げながら、ジェノサイドマシンはサテンに向かって突進していく。
筒状デバイスから放出される光の刃が振り上げられ、サテンへと斬りかかる。
直後だった。
ジェノサイドマシンは、サテンの正面から消失。
そして激しい衝突音がする。
音の発生源の方をライカが向くと、ダンジョンの岩盤に衝突してめり込んでいるジェノサイドマシンがいた。
(今のは……転移? それとも――)
ライカは思考を光速で巡らせ、考察しながら、サテンの方を見た。
思わず――ライカは、戦闘態勢を取ってしまう。
本能が、警告を発する。
――アレは人間ではない。
生物としての嫌悪感。いや、それ以上に、捕食者を前にした被食者の恐怖。
周囲を圧する殺気と悪意が、空気そのものを重くしている。
サテンの姿が、変貌していく。
最初に額が割れ、そこから無数の瞳が蠢く複眼の第三眼が開いた。
(――サード。しかも、かなり魔物寄りの……!)
次に、頭部の左右から赤黒く捻じくれた角が、音を立てて突き出る。
背中の皮膚が裂け、光を吸い込む漆黒の翼が二対、広がった。
尻尾は蛇のように床を這い、周囲を威嚇する。
(これは――人間、なの?)
サテンの周囲に浮かび上がる赤黒い球体。
それは重油のように不気味に脈打つ魔力の塊だ。
球体は脈打ち、形を変え始めた。
丸から、細く、鋭く。
まるで意志を持つかのように、槍へと変貌していく。
サテンは冷たい瞳でジェノサイドマシンを一瞥。
赤黒い槍は一斉にジェノサイドマシンの方へ飛来していき、鋼鉄の身体を貫いた。
一本……二本……三本……。
鳴り響いていた駆動音は少しずつ小さくなっていく。
サテンは購入した片手剣に赤黒い球体を侵食させていく。
銀色だった刀身は、赤黒く変化して行き、まるで魔剣のような禍々しさを醸し出す。
そしてサテンはジェノサイドマシンの近くまで近寄ると、ダンジョンの岩盤ごとジェノサイドマシンを切り裂いた。
爆発する寸前に、サテンはジェノサイドマシンからコアである魔石を抜き出し、ジェノサイドマシンを消した。
「――ッ」
ライカの肌を、微かな空間の歪みが撫でる。
直後、死の間際に追い詰められた鋼鉄の残骸が、彼女の鼻先に『転移』してきた――。
火柱があがるほどの爆発。
「やって……くれましたわねッ」
爆発地点から離れた場所に、ライカはいた。
ジェノサイドマシンが爆発する寸前に、雷霆を身に纏うことで移動して、爆発に巻き込まれる事を回避した。
もしも一瞬でも判断が遅れていたら、爆発に巻き込まれて、怪我を負っていた。
「私に言った『常在戦場の心得』とやらが出来ているか試してあげたの」
それはサテンが黒慟に連れられてきた時に、実力を見る為にサテンを襲った際にライカ自らが言った言葉だった。
「――随分と生意気なことを言いますわね。
文字通り、人間の化けの皮が剥がれて、化け物としての本性が出たのかしら?」
「私はっ。私はバケモノじゃない!」
「――っ!」
怒りと、恐怖と、そして何よりも深い悲しみが、サテンの表情を歪める。
それは、ライカが見てきた「化け物」の顔ではなく――傷ついた少女の顔だった。
その瞬間、サテンの第三の目にある複眼が、ライカの奥底を覗き込んだ。
そして視る。
ライカの深層にある、最も深い傷を。
「うるさい! うるさいうるさいうるさい!!
お前こそっ、最後はその父親に売られた――「いらない子」の癖に!!」
――その瞬間、世界が静止した。
「あ゛?」
ライカの声が、低く、ドスの効いたものに変わる。
周囲で雷が猛り、大気の温度が急上昇する。
殺意が、形を持って空間を歪める。
「どうやら人の過去に土足に踏み込むバケモノには――躾が必要のようですわね」
「やってみろよ、いらない子!」
その言葉が、最後の導火線だった。
空気が――爆ぜる。
雷霆がライカの身体を包み込み、床の岩盤が焼け焦げる。
雷の速度で縦横無尽に駆け巡りながら、ライカは昔の記憶が蘇ってくる。
――忘れたはずの、忘れられるはずの記憶が。
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麒麟嶺ライカは、麒麟嶺グループの令嬢だった。
肩書は大層ではあるが、実態は麒麟嶺コウリュウが使用人との間に産まれた子供だったこともあり、屋敷の中で、ライカは常に端に追いやられていた。
その実態は、父コウリュウが使用人に産ませた「余計な子供」だった。
囁かれる陰口。
視線を逸らされる食卓。
ライカは、父に見てほしくて、認めてほしくて、必死で努力した。
学校では常にトップを取り続けた。
礼儀作法も完璧に身に着けた。
発現していた異能も十全使用できるようにした。
だが、コウリュウは、ライカを見ることなく、返ってくるのは冷淡な反応だけ。
『忙しい』
『そんな当たり前のことを一々言いに来るな』
だが、コウリュウが地面師詐欺にあったことで崩壊した。
多額の負債を作り出したコウリュウは、補填をするために先物取引に手を出すも悉く失敗。
背任横領に問われ、会長の座を追われた。
コウリュウは、自分の妻にも、周りにいた者たちにも見限られた。
ただ、ライカだけがそんなコウリュウを見捨てる事はなく、一緒に堕ちる道を選んだ。
ボロアパートに移住したコウリュウは、麒麟嶺グループの会長をしていたときとは比べ物にならないほど落ちぶれた。
酒と女に溺れ、ギャンブルに嵌った。
悪冥会の賭場で借金を重ねた末に、悪冥会の二次組織・蛇噛組若頭の黒慟マダラがやって来た。
マダラはライカを観察すると、コウリュウに提案する。
『お前の娘をオレに人権を含めて全て売れ。
そうすれば借金の利子はチャラにしてやるよ』
ライカは期待した。
娘だから、父はそんなことしないと期待をした。
だが、現実は無情である。
コウリュウは、迷うことなく書類にサインをしてライカをマダラへ売り渡した。
『……分かった。売る』
ライカは、父の唇の動きを見た。
一瞬の躊躇もなかった。
まるで、不要な家具を処分するような、淡々とした口調。
書類にサインする音。
ペンが紙を走る音が、やけに大きく聞こえた。
その瞬間、ライカの中で何かが壊れた。
いや、最初から無かったものが、ようやく「無い」と認識されただけだった。
父の愛。
それは、最初から存在しなかった。
コウリュウにとって麒麟嶺ライカは、最後まで「いらない子」だった。
――そして今、その言葉を、他人の口から聞かされた。
ライカの中で、何かが弾けた。
もう、言葉はいらない。
この化け物を、完膚なきまでに叩きのめすことにした。
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